Fujitsu 202406
独断時評


暖冬でドイツのガス不足 回避の可能性高まる

ロシアのウクライナ侵攻以来、ドイツ経済と市民生活に垂れこめていた暗雲に、一筋の光が見えてきた。ドイツのエネルギー供給を監督・監視する連邦系統規制庁(BNetzA)のクラウス・ミュラー長官は、1月8日に「この冬にドイツでガスが不足して、緊急事態の宣言に追い込まれる危険は、ほぼ遠のいた」と語った。

1月3日、ドイツ北部ヴィルヘルムスハーフェンの浮体式LNG陸揚げ設備に最初のLNG船が到着した1月3日、ドイツ北部ヴィルヘルムスハーフェンの浮体式LNG陸揚げ設備に最初のLNG船が到着した

真冬に90%を超える備蓄率

ミュラー長官によると、ドイツのガス貯蔵設備の充填(じゅうてん)率は1月8日の時点で91.2%だった。1月の充填率としては、異例の高さである。しかも充填率は、昨年12月20日の87.2%以来徐々に増え始めている。

ドイツ政府は、「今年2月1日の時点で充填率が40%を割ると、危険な状態になる」と警告していた。しかしミュラー長官は、突発事態が起こらなければ、2月1日に充填率が40%を上回ることはほぼ確実と考えている。このため彼は、「この冬にガス不足が起きる可能性は薄らいだ」と発言したのである。

なぜドイツの充填率はこれほど高いのだろうか。その理由はいくつかある。一つは、異常な暖冬によって、市民のガス消費量が減ったことである。

昨年12月中旬にドイツは寒波に襲われた。第50週(12月12日~18日)の気温の中間値はマイナス5.2度だった。ところがこの週以降、気温が上昇し始め、第51週の気温の中間値は6度になった。昨年12月31日には、ドイツの一部の地域で20度という春のような気温が観測された。これは、大みそかの気温としては、1881年にドイツで気温の観測が始まって以来最も高い気温である。バイエルン州の海抜1100メートルのブラウネックでは、雪不足のためにスキー場の大半が草地となり、1月に営業を取りやめた。人工雪も溶けるほどだった。

しかもこの温暖な天候は、約2週間続いた。私が住むミュンヘンでは、暖房が全く必要なかった。地球温暖化による気候変動が原因とみられるが、最も寒さが厳しくなる12月から1月に記録的な暖冬となったことは、この国のガス消費量を減らすことに役立った。

企業・市民のガス消費量が減った

第2の理由は、企業と市民が政府の呼びかけに応えて、ガスの消費量を節約したことである。ドイツで最も多くガスを消費するのは製造業界で、ガス消費量の約37%が産業ガスとして使われている。

BNetzAによると、ドイツの産業界の昨年11月のガス消費量は、過去4年間(2018~2021年)の平均消費量に比べて、27.1%も少なかった。12月の消費量も過去4年間の平均に比べて15.4%少なかった。ガス料金が高騰したために、メーカーが熱源をほかのエネルギーに切り替えたり、生産活動を減らしたりしたせいもある。

市民も暖房の室温を低く設定したり、温水シャワーの回数を減らしたりした。BNetzAによると、昨年11月の家庭と中小企業のガス消費量は、過去4年間の平均に比べて27.3%、12月の消費量も4.4%少なかった。年金生活者のあるドイツ人夫婦は、「シャワーは3日に1回しか浴びないようにしている」と語った。

もう一つの理由は、ノルウェー、オランダ、ベルギーなどがパイプラインで着実にガスをドイツに送ってくれたことである。ロシアからのガスは昨年8月31日から止まっているが、これらの友好国から届けられたガスによって、今のところは代替されている。ドイツはチェコやスイス、オーストリアにもガスを融通しているが、暖冬でこれらの国でも消費量が減ったため、ドイツからのガス輸出量も減った。

これらの好条件が重なったため、ドイツでは真冬であるにもかかわらず、貯蔵設備の充填率が約90%という高い水準にある。このため、昨年8月には1メガワット時当たり300ユーロを超えたガスの卸売価格も、今ではロシアのウクライナ侵攻直前の水準まで下がっている(1月11日の時点で約70ユーロ)。

最大の懸念はパイプラインへのテロ

だが油断はできない。問題は2023~2024年の冬である。昨年ロシアは、1月1日~8月30日まで3138億1037万キロワット時の天然ガスを供給した。だが今年ドイツは、ロシアのガスなしに、秋には再びガス貯蔵設備をほぼ満タンにしなくてはならない。充填率が100%でも、安心はできない。現在北米を襲っているような寒波が長期間にわたり欧州に襲来した場合、タンクは約2カ月で空になるからだ。

昨年12月には、ドイツで最初の浮体式・液化天然ガス(LNG)陸揚げ設備が完成し、輸入が始まった。政府は固定式・浮体式を含めて9カ所にLNG陸揚げ設備を建設するが、全てが稼働するのは2026年になる。これらの設備が完成しても、ドイツのガス需要のほぼ3分の1しかカバーできない。

ミュラー長官が最も心配しているのは、ノルウェーからの海底パイプラインに対する破壊工作だ。昨年ノルウェーは、ドイツが輸入したガスの約33%を供給した。今年はその比率がさらに増える。昨年9月には、何者かがロシアからドイツへガスを送る海底パイプライン・ノルドストリーム1と2を爆破。犯人はまだ分かっていないが、北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアによる破壊工作の可能性もあるとみている。NATOはノルウェーのパイプライン海域でパトロールを強化しているが、テロを完全に防ぐのは至難の業だ。

ウクライナ戦争で座標軸が変わってしまった今日の欧州では、一寸先は闇である。今後も気を緩めずに、ガスや温水の節約に努める必要がありそうだ。

最終更新 Donnerstag, 19 Januar 2023 18:13
 

2023年のドイツを展望する

新しい年が明けた。誰もが、今年は流血と破壊がない年であってほしいと願っているのではないか。だが、2023年も欧州の政治・経済問題の中心はロシアのウクライナ侵略戦争になるだろう。

昨年12月にショルツ政権発足から1年を迎えたが、支持率は低迷したまま昨年12月にショルツ政権発足から1年を迎えたが、支持率は低迷したまま

ウクライナがロシアの飛行場を攻撃

戦争が収束する兆候は、全く見えない。ロシアは昨年9月にドンバス地方の「ドネツク人民共和国」、へルソンなど四つの地域の併合を宣言した。しかし、ウクライナ軍は欧米の強力な武器供与を受けて、へルソン市やハルキウ地区をロシア軍から奪回。プーチン大統領は、巡航ミサイルでウクライナの発電所、変電所、暖房設備などを破壊し、市民から電気や暖房、水の供給を奪う作戦に切り替えた。

ウクライナも沈黙してはいない。ウクライナ軍は昨年12月に、国境から約600キロメートル離れたロシア空軍の飛行場3カ所をドローンで攻撃し、軍用機や燃料施設に大きな被害を与えた。ウクライナ軍はロシア本土を攻撃する能力を蓄えたことを全世界に示した。

戦争の長期化は不可避か

読者の中には、「戦争はいつまで続くのか」と思っている人も多いだろう。ゼレンスキー大統領は、ドンバス地区、クリミア半島を含めてウクライナの領土から全てのロシア軍を撤退させるまでは、停戦交渉のテーブルには着かない」と語っている。

ウクライナは、ロシアを挑発していないのに一方的に攻め込まれている被害者だ。このため、欧米諸国もウクライナの頭ごなしに、ロシアを停戦条件について交渉することはできない。一方プーチン大統領は、「ウクライナの政府を占拠しているネオナチ勢力を排斥し、同国を武装解除するまで、戦いは止めない。欧米諸国は、ロシアの安全を保障するべきだ」と語り、ゼレンスキー政権転覆の野望を捨てていない。

プーチン大統領は、昨年10月27日のバルダイ会議で、「欧米が世界を支配する時代は、終わった。これから、第二次世界大戦後、最も危険で困難な10年間が訪れる」と語った。「10年間」という言葉から、プーチン大統領が長期戦を想定していることが分かる。次の節目は、今年4月の雪解けの時期が過ぎて、地面が固まる時だ。西側の軍事専門家の間では、春にウクライナ軍が大攻勢を開始するという見方も出ている。

興味深いのは、昨年12月初旬に有力紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)が、「米国政府はドイツがウクライナにレオパルド2型戦車の供与することに同意した」というリーク情報を伝えたことだ。ウクライナ政府はロシア軍を駆逐するために、レオパルド2型の供与を求めているが、ドイツのショルツ首相は反対。だが「米国政府には異論はない」とリークされ、ショルツ首相へのプレッシャーは強まる。慎重派のショルツ氏が清水の舞台から飛び降りる可能性もゼロではない。ドイツがウクライナにレオパルド2型を供与した場合、戦争に大きな転機が訪れるかもしれない。

ガス不足は回避できるか

2023年のもう一つの焦点は、エネルギー危機の行方だ。昨年の秋以来、ガスや電力料金の大幅な値上げが相次いでいる。私が住むミュンヘンでは、地元の電力会社SWMが今年1月から電力料金を約123%、ガス料金を93%引き上げた。私は33年前からドイツ在住だが、これほど急激な電気代やガス代の上昇は一度も経験したことがない。ロシアのガス供給停止の影響が、われわれの足下にも押し寄せたのだ。

幸い、政府は昨年12月の市民や中小企業のガス料金・地域暖房料金を全額負担したほか、今年1月からは電力・ガス・地域暖房の料金に、部分的に上限を設定した。それでも、市民の負担がウクライナ戦争勃発前に比べると増えることは確実なので、政府は低所得層に対する緊急援助金も準備している。政府がこれらの支援措置に投じる費用は、約1440億ユーロ(約20兆1600億円・1ユーロ=140円換算)に達する。

また、ロシアのガスが完全に止まっているにもかかわらず、今のところガス不足は避けられている。製造業界などがガス消費量を減らしたことや、ノルウェーやオランダが着実にガスを供給してくれているからだ。

連邦系統規制庁(BNetzA)によると、ドイツのガス貯蔵設備の充じゅうてん填率は、昨年12月7日の時点で約96%だった。BNetzAは、「2023年2月1日の時点で充填率が55%前後であれば、産業界や市民生活に大きな悪影響を与えずに冬を乗り切れる」と説明する。万一、寒さが例年よりも強まってガス消費量が増えたり、ノルウェーからの供給に支障が生じたりして、2月1日の充填率が40%を割った場合、政府が緊急事態を宣言し、ガスを多く消費するメーカーに対して配給制を導入する可能性もある。だが現在の状態が続けば、ドイツは最悪のシナリオを回避できるかもしれない。

ただしエネルギー業界の関係者の間では、エネルギー危機は2024年夏まで続くという意見が有力だ。ドイツ政府は今年からFSRUと呼ばれる浮体式のドックを使って、液化天然ガスの陸揚げを本格化させる。しかしヴィルヘルムスハーフェンなど3カ所に陸揚げターミナルが完成するのは、2024~2026年になる。エネルギー危機の暗雲がわれわれの頭上から完全に去るまでには、まだ時間がかかりそうだ。

筆者より読者の皆様へ

いつも独断時評をお読みくださり、誠にありがとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

最終更新 Donnerstag, 05 Januar 2023 12:03
 

ウクライナ支援の手を緩めないドイツ

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、約10カ月になるが、戦火が止む気配はない。ドイツなど周辺諸国は、ウクライナに武器を供与するだけではなく経済的、人道的な支援をさらに強化する方針だ。

11月23日、街一体が停電となったウクライナの首都キーウ11月23日、街一体が停電となったウクライナの首都キーウ

1000万人が電気のない生活

ウクライナの気温が0度を割るなか、ロシア軍は発電所、変電所、暖房設備など生活に不可欠なインフラを巡航ミサイルで破壊するという戦術を取っている。5日にもキーウなどで空襲警報が鳴り響き、人々は地下鉄駅やアパートの地下室への避難を余儀なくされた。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、11月18日、「キーウやオデッサなどで1000万人を超える市民が電力を奪われている」と語った。キーウだけでも、約150万人が電気のない暮らしを送っている。人々は極寒の中、水道施設の前で、水をくむために順番を待っている。ロシアから奪回したへルソンなどでは、市当局が暖房装置のある避難所を設置し、市民が暖を取ったり、携帯電話に充電したりできるようにしている。

11月25日にドイツの報道機関のウェブサイトに、夜の欧州を上空から撮影した衛星写真が掲載された。ルーマニア、ポーランド、ベラルーシなどでは暗闇の中に街のともしびが見えるが、ウクライナは真っ暗だ。市民たちは、この暗闇の中でじっと寒さに耐えている。

多数の発電機を寄付

このためドイツなどでは、ウクライナに発電機を送る動きが進んでいる。災害時の復興を支援するドイツの「技術援助機関」(THW)は、150台の発電機をウクライナの電力会社ウクレネゴに送ったが、近くさらに320台を送るための準備を進めている。THWがウクライナに送る発電機の総額は、195万ユーロ(27億3000万円・1ユーロ=140円換算)となる。

ドイツ対外経済援助省は、ウクライナ戦争勃発以来、同国に2430台の発電機を送ったが、さらに1200万ユーロ(16億8000万円)相当の発電機をウクライナに送る方針。またドイツ内務省は、蓄電装置を20台、灯油を使う暖房装置を15台、居住用コンテナを38棟ウクライナに送る準備を行っている。

地方自治体による支援活動も進んでいる。ケルン市役所は11月25日、「姉妹都市ドニプロへ、発電機118台、防寒具、車椅子、マットレスなどを送るためのトラックが出発した」と発表。同市は今年7月と8月にも、医薬品と医療器具をドニプロに送っている。

11月29日から2日間にわたりブカレストで開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相会議でも、加盟国はウクライナへの武器援助だけではなく、ロシア軍が破壊したインフラストラクチャーの再建についても支援することを明らかにした。

寒さを武器に使うロシア

ロシア軍の狙いの一つは、電気、暖房、水道をカットすることで、ウクライナから東欧、西欧へ逃げる市民の数を増やし、新たな「難民危機」を引き起こすことだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年2月24日以来、ウクライナを出国し、東欧・西欧の国に避難民として登録された数は、約478万人。隣接する東欧諸国は、今後寒さが厳しくなるとともに、避難する人の数が増えるとみている。

民間人を苦しめるためにインフラを破壊する行為は、戦争犯罪の一種だ。ドイツ政府のベアボック外務大臣は、11月29日「プーチン大統領は、冬の寒さを武器として使おうとしている。これは国際法に違反するだけではなく、文明からの離反だ。ロシアは、インフラを意図的に破壊することで、『ウクライナで子どもや高齢者らが寒さ、空腹、喉の渇きで死んでもかまわない』という態度を取っている」と非難した。

ベアボック大臣が使った「文明からの離反」(Zivilisationsbruch)という言葉は、注目を集めた。この言葉は通常ドイツの政治家や歴史学者たちが、ナチスのユダヤ人虐殺を非難するときに使う表現だからである。「人間の文明に属さない」という発言は、ドイツが他国を非難するときに使う言葉としては、最も強い表現だ。ベアボック氏はロシアとナチスドイツを同列に並べようとしているわけではないが、この言葉によりプーチン大統領への強い怒りを表現したのだ。

ウクライナに多額の軍事援助

一方、ドイツは軍事支援も強めている。同国はウクライナ戦争の勃発後、「紛争地域に武器を輸出しない」という伝統的な政策を変更。これまでウクライナに19億3346万ユーロ(2706億円)相当の武器、弾薬などを送った。例えばゲパルト型対空戦車を30両、自走りゅう弾砲PzH 2000型を14両、多連装ロケット砲マースIIを5門など多数の兵器を供与した。

キール世界経済研究所によると、ドイツが12月1日までにウクライナに対して行った軍事、経済、人道援助の総額は54億4500万ユーロ(7623億円)に上る。米国(478億1900万ユーロ)と英国(70億8200万ユーロ)に次いで世界で3番目に多い。

ウクライナは一方的に攻め込まれて市民が殺害され、街が破壊されている。同国は「ロシア兵をクリミア半島やドンバス地域を含むウクライナ領土から完全に駆逐するまで、停戦交渉には応じない」としている。ロシアも「ウクライナを非武装化し、欧米がわが国の安全を保障するまで戦う」と主張。つまりこの戦争は長期化する可能性が強い。ウクライナを支援する欧米とプーチン大統領の間の「持久戦」は当分続くだろう。

最終更新 Donnerstag, 15 Dezember 2022 11:59
 

国連気候保護会議 COP27に失望の声

エジプトのシャルム・エル・シェイクで11月6日から約2週間にわたり、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開かれた。参加国は地球温暖化の被害を受けている国々への援助について初めて合意したが、肝心の温室効果ガス(GHG)削減のための措置については前進できなかった。

11月17日、COP27で発言するベアボック外相11月17日、COP27で発言するベアボック外相

被害国向けの補償基金で初合意

COP27での唯一の前進は、気候変動による洪水や干ばつで苦しむ発展途上国などのために、補償基金を創設することで加盟国が初の合意にこぎ着けた点だ。発展途上国からは、「産業革命以来、主に先進国が排出してきたGHGのために地球温暖化が起き、われわれが最も被害を受けている。しかもわれわれは、先進国ほど大量のGHGを排出していない。したがって、豊かな国々はわれわれが受けている被害について、支援金を払う義務がある」という声が高まっていた。

これまで先進国は気候変動による被害の補償金について、COPで交渉することに消極的だった。この点が最終合意文書に明記されたことは、画期的だ。

しかし、予算規模や誰が金を払い込むのかなどは決まっておらず、来年11月にドバイで開かれるCOP28で協議される。米国や欧州連合(EU)加盟国、日本などが将来多額の資金の払い込みを求められることは必至だ。EUは、現在GHGの排出量が世界で最も多い中国や、国民1人当たりのGHG排出量が多い中東の産油国に対しても、資金拠出を求めている。しかし、これらの国々は今のところ支払いを拒否している。

GHG削減では前進なし

ただしこの基金は、気候変動による経済的損害の緩和には役立つが、地球温暖化に歯止めをかけるという、最も重要な目的には貢献しない。COP27の最終合意文書は、この点について全く前進できなかった。

例えば前回のCOP26で、参加国は初めて最終合意文書の中に「GHG削減措置を施していない石炭火力発電所を減らし、非効率な化石燃料に対する補助金を段階的に停止する」という一文を盛り込んだ。今回のCOP27で、EUとドイツ代表団は米国、インドと共に「天然ガスと石油の使用の段階的な削減」という一文を盛り込もうとした。しかし中国と中東の産油国が頑強に抵抗したため、最終合意文書は、脱ガス・石油という方向性に言及しなかった。

COP27の参加国は、「産業革命前の時代に比べて、地球の平均気温の上昇幅を1.5度以下に抑えるために、2030年までにGHG排出量を2019年比で43%減らす必要がある」という点では合意した。しかし最終合意文書は、どのようにしてGHG削減を実現するかについて、具体的な内容を欠いている。世界には、さらなる経済成長のために、今後も大量の化石燃料を使うことを計画している国々、さらに大量の化石燃料を売ろうとしている国々がある。彼らは国益を優先させて、COP26よりも踏み込んだ脱炭素措置が最終合意文書に盛り込まれることを阻止した。

ドイツ政府が不満を表明

このためドイツでは、COP27の結果について不満の声が圧倒的に強い。ドイツ政府の代表団を率いたアンナレーナ・ベアボック外務大臣は、「今回の会議の結果は、将来への希望だけではなく不満を抱かせるものだ。交渉は極めて難航した」と語った。

ロベルト・ハーベック経済・気候保護大臣は、「EUとドイツの代表団の努力によって、最終合意文書が2015年のパリ合意や2021年のグラスゴーでのCOP26の内容よりも後退することは防げた。さらに、気候変動の脅威にさらされている国への資金援助が会議の中心の一つになったことも評価するべきだ」と述べる一方で、「われわれは今回の結果に、本当に満足することはできない」と批判した。大臣は、「各国はこれまでに約束した具体的な対策を一つひとつ地道に実行するしかない。世界全体がエネルギー転換と産業界の非炭素化によって、石炭、石油、ガスから脱却しなければ、1.5度目標を達成できない」と指摘した。

環境保護団体フライデーズ・フォー・フューチャーのドイツ支部長のルイーザ・ノイバウアー氏は、「COP27の参加国は、化石燃料が引き起こしている損害について協議する一方で、化石燃料の使用停止を決めなかった。これは大きな矛盾だ。参加国は、発展途上国に気候変動の被害緩和のための救援措置を決める一方で、将来気候変動によりさらに大きな被害が起きることを傍観している」と厳しい言葉で批判した。

ブレーメンのアルフレート・ヴェーゲナー極地海洋研究所で、気候変動が海の生物などに及ぼす影響を研究するペルトナー教授は、気候変動に関する政府間パネルの第2作業部会の共同座長の1人。同氏はCOP27での合意内容について、「科学者の一人として失望した。政治家たちは、科学者の提言をきちんと実行していない。合意文書の内容には、曖昧な点が多い。脱石炭だけでは不十分であり、石油と天然ガスも含めたあらゆる化石燃料からの脱却が必要なのに、参加国は具体的な措置を明記しなかった」と述べている。

国連政府間パネルは昨年発表した報告書で、「2011~2020年の平均気温は、1850~1900年に比べて1.1度高くなっている。今後30年間に二酸化炭素(CO2)排出量を現在に比べて少なくとも半分に減らさない限り、2040年以降、上昇幅が2度を超えることは避けられない」と述べている。われわれは将来の世代に、住みやすい地球を引き継げるのだろうか?

最終更新 Donnerstag, 01 Dezember 2022 13:02
 

ショルツ訪中に高まる批判 対中戦略見直しも激論

ドイツのオーラフ・ショルツ首相は11月4日、中国を訪問して習近平国家主席と会談した。2年前のコロナ・パンデミック勃発後、G7加盟国の首脳が訪中したのは初めてだ。フォルクスワーゲン、BMW、シーメンスなどの社長ら約10人も同行した。

4日、北京で会談したショルツ首相と中国の習近平国家主席4日、北京で会談したショルツ首相と中国の習近平国家主席

中国の人権問題にも言及

わずか11時間の北京滞在だったが、いくつかの「前進」があった。一つは、プーチン大統領へのけん制球だ。ショルツ首相と習近平国家主席は、「核兵器の使用に反対する。核による威嚇は無責任かつ危険だ」という点で合意した。

ロシア政府は、最近「ウクライナ軍が通常の爆弾を使って放射性物質をまき散らす『ダーティー・ボム』(汚い爆弾)を準備している」と主張している。西側諸国は、「ロシアがこの偽情報を口実に、戦術核兵器を使用する危険がある」という懸念を強めている。中国首脳がロシアの核兵器使用に反対する姿勢を明確に打ち出したのは、今回が初めて。これはショルツ首相にとって一つの成果だ。

もう一つの成果は、中国政府がコロナワクチンについて譲歩したことだ。同国は、ドイツのビオンテックなどのワクチンを、中国に住む外国人に接種することを初めて許可した。中国では、外国製のコロナワクチンの接種は禁止されている。外国製ワクチンを受けられるのは、中国に住んでいる外交官だけだった。

中国はドイツにとって世界で最も重要な貿易相手国だ。このため会談の中心的なテーマは経済関係だったが、ショルツ首相は中国にとって不快なテーマにも言及した。首相は「新疆ウイグル自治区などの人権問題について話すことは、内政干渉ではない。全ての国連加盟国は、人権擁護と少数民族の保護を義務付けられている。このことは中国にも当てはまる」と指摘。さらに同氏は「人権問題については、ドイツと中国の間に著しい見解の相違がある。新疆ウイグル自治区の問題については、引き続き協議していく」と述べた。

さらに首相は、ドイツは「一つの中国」の原則を尊重するが、台湾問題を武力によって解決することには断固反対するという姿勢を打ち出した。彼は「習主席に対し、この点をはっきり伝えた」と述べている。これに対し中国側は「両国は見解が一致している点についてのみ話し合い、意見が異なる点については触れないようにするべきだ」という従来の姿勢を繰り返した。

党大会直後の訪中に批判の声

ショルツ首相の訪中については、批判の声が上がっていた。野党キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は、「習主席が党大会で権力基盤を固めた直後に、ドイツの首相が訪問するというタイミングは最悪だ。中国は、この訪中を『われわれの路線が正しいことを西側が認めた』というプロパガンダの材料に使うだろう」と批判した。人権保護団体「脅かされている民族を守るための組織」のシェドラー会長は、「貿易によって相手国を民主化しようという政策が機能しないことは、ロシア政策の失敗で明らかになっている。中国に対しては欧州連合(EU)が一丸となって対処しないと効果がない。ショルツ首相は、ほかの欧州諸国と歩調をそろえるべきだ」と批判した。当初フランスのマクロン大統領も、ショルツ首相と一緒に訪中することを希望していたが、ドイツ側は拒否した。

これに対しショルツ首相は、「中国に一方的に依存しないように、ほかの国からの輸入を増やすなどして天然資源調達を多角化することは重要だ。しかし中国との関係を断ち切ることはできない」と主張した。

首相は緑の党のベアボック外相などに比べると、中国との経済関係を重視している。その一例が、ハンブルク港のコンテナ・ターミナルをめぐる議論だ。

中国の国営船会社である中国遠洋海運集団公司(COSCO)は、ハンブルク港のコンテナ・ターミナル運営会社HHLAの権益35%の買収を計画した。ドイツ外務省、経済気候保護省、連邦情報局など六つの省庁は「港湾という重要なインフラに中国の国営企業を参加させることは、危険が大きい」と反対。欧州委員会も、買収に批判的だった。しかしショルツ首相だけはCOSCOの資本参加に賛成し、所有比率を24.9%に下げるという条件で、訪中直前に同社の申請を許可した。ショルツ氏は、中国の「一帯一路」計画の一部を間接的に支持したことになる。この議論は、政権内にも対中姿勢に温度差があることを明らかにした。

新しい対中戦略を公表へ

現在ドイツ外務省は、ロシア政策の失敗を教訓として、新たな外交戦略を策定している。来春に公表される戦略文書では、「中国経済への依存度をいかにして減らすか」が重要なポイントになる。だがドイツの製造業界は、中国事業の大幅な縮小に反対している。特に、国外で販売する車の10台のうち3台を中国で売っている自動車メーカーは、「中国事業を減らしたら、ドイツの雇用や経済成長率に深刻な悪影響が出る」として、「脱中国は論外」という姿勢を打ち出している。

しかしアジアや米国では、中国の台湾への武力行使への懸念が強まっている。習主席も、党大会での演説で、「台湾との再統一に関しては、武力行使というオプションを除外しない」と明言した。台湾有事が起きた場合、EUは厳しい経済制裁を中国に対して発動せざるを得ない。ドイツ政府と産業界は、その際にどう対応するのだろうか。今後この国で、中国戦略をめぐって激しい議論が行われることは間違いない。

最終更新 Mittwoch, 16 November 2022 16:41
 

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