ジャパンダイジェスト
独断時評


メルケル首相が前代未聞の謝罪会見

ドイツ政府のコロナ対策が迷走し、アンゲラ・メルケル首相の指導力が低下している。ワクチン投与の遅れなどについて市民の不満が高まり、メルケル首相が属する保守党の支持率が激減している。

3月24日、特別休日の取り消しを発表したメルケル首相3月24日、特別休日の取り消しを発表したメルケル首相

復活祭・特別休日をめぐる混乱

3月24日にメルケル首相が行った臨時記者会見は、政府の危機管理機能の低下を浮き彫りにした。首相は憔悴(しょうすい)した表情で「昨日われわれは、ウイルスの感染拡大に歯止めをかけるために、4月1日と3日を特別休日にすると発表した。しかし短い準備期間で新しい休日を導入することは不可能であり、さまざまな悪影響が出ると分かったため、決定を撤回する」と述べた。

なぜこのような事態が起きたのか。メルケル首相は22日午後2時に州首相たちとオンライン会議を始めた。首相は、約11時間に及ぶ議論の末、23日午前3時頃に、「4月の第1週に、2日間の特別休日を設定する」という施策を発表した。復活祭の祝日は毎年変わるが、今年は週末を挟む4月2日(金)と5日(月)が祝日だった。このためメルケル政権は1日(木)と3日(土)を特別休日にすることで、5日間にわたり市民の外出、他人との接触を大幅に減らそうとしたのだ。

しかし新たな休日の設定には、法律の改正が必要だ。メルケル首相たちは、10日足らずで法律を改正するのは不可能であることを見逃していた。彼らは深夜まで議論していたために、官僚たちと細部を詰めないまま、特別休日の導入を発表してしまった。

休日の導入は経済活動に大きな影響を及ぼす。企業経営者たちからは、強い反対の声が上がった。彼らは「休日を増やすと、売上高や収益が減る。4月1日を休日にすると、スーパーマーケットなどへの食料品の運送ができなくなる」と批判。ドイツの企業では休日労働は原則として禁止されている。社員を休日に働かせる場合、企業は特別手当を払わなくてはならない。

こうした批判を受けて、メルケル首相は前日の決定を急遽取り消した。首相は、「われわれは、休日導入がどのような影響を与えるかを十分に考えないまま、決定を行ってしまった。失敗の責任は、私1人だけにある。市民を困惑させたことについて、私は心から謝罪する」と述べた。ドイツが1949年に建国されて以来、連邦政府の首相が政策ミスを理由に謝罪したのは初めてだ。さらにメルケル政権は3月23日にカトリック教会・プロテスタント教会の指導者に対して、感染のリスクを減らすために、信者が教会に集まる形式での復活祭のミサを行わないよう要請していたが、教会から強い反発を受けたため、これも撤回した。

予防接種・簡易検査・休業補償支払いも遅れ

この失態が起きる前にも、すでに国民のメルケル政権への不満は高まっていた。ドイツのコロナワクチンの投与率は米国、英国、イスラエルなどに比べて大幅に低く、3月末の時点でも家庭医(ハウスアルツト)による予防接種が始まっていない。2月16日にイェンツ・シュパーン連邦保健相は、「3月1日以降全ての国民に無料で簡易抗原検査を実施する」という方針を発表したが、3月7日に「簡易検査を全国至る所で実施はできない」と述べ、発言を事実上撤回した。政府は昨年11月以降ロックダウンによって営業を禁止されているレストランや劇場などの経営者に休業補償を支払う方針を明らかにしたが、12月分の支払いが始まったのは、今年2月になってからだった。

さらに今年2月には、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の4人の議員が、民間企業のマスクを官庁に斡旋する見返りに多額の手数料を受け取っていた疑いが浮上し、検察庁が捜査を開始した。一部の議員たちがパンデミックを利用して私腹を肥やしていたことについて、市民の怒りが強まっている。

CDU・CSUの支持率が10ポイント減少

このため市民のCDU・CSUに対する見方は厳しさを増している。世論調査機関インフラテスト・ディマップの政党支持率調査によると、CDU・CSUへの支持率は、2015年にメルケル首相がシリアから多数の難民を受け入れて以来、20%台後半に落ち込んでいたが、昨年3月のコロナ・パンデミック第1波以降は、支持率が39%に急上昇した。ところが国民の間でコロナ対策への不満が強まり、CDU・CSUへの支持率は今年3月には29%に急落。昨年5月に比べると10ポイントもの減少だ。

アレンスバッハ研究所の世論調査結果によると、昨年4月に「政府のコロナ対策に満足している」と答えた市民の比率は75%だったが、今年3月には30%に激減した。「政府のロックダウンに伴う制限措置にはいらいらさせられる」と答えた人の比率は、41%から57%に増加している。こうした世論の動きを反映し、今年3月14日にバーデン=ヴュルテンベルク州とラインラント=プファルツ州で行われた州議会選挙では、CDUの得票率が過去最低の水準に落ち込んだ。

メルケル政権は、国民に対し予防接種と検査拡充がコロナ禍克服の決定打になるという希望を与えたが、今のところ、この約束を果たしていない。市民の間では、「他国に比べてドイツのコロナ対策は順調に行われている」という確信が日一日と薄れている。メルケル政権の政策が行き当たりばったりで整合性が取れていないことから、CDU・CSUは市民の信頼感を失った。この失望感は、今年秋の連邦議会選挙の結果にも影響を与えるだろう。われわれは、約16年間続いたメルケル時代の「落日」を目撃しつつある。

最終更新 Donnerstag, 08 April 2021 12:18
 

脱原子力決定から10年 日独の政策に大きな違い

メルケル政権が、日本の原子力災害を機にエネルギー政策を大転換して10年になる。ドイツ人たちは電力料金の上昇に頭を痛めながらもエネルギー転換を粛々と進め、来年末に最後の原発のスイッチを切る。

2011年3月26日にハンブルクの反原発デモの様子。事故直後、脱原発を求めるデモがドイツ各地で行われた2011年3月26日にハンブルクの反原発デモの様子。事故直後、脱原発を求めるデモがドイツ各地で行われた

メルケル首相が原子力批判派に「転向」

メルケル首相はもともと原子力推進派で、2010年10月には、電力業界や産業界の意向を受け入れて、原子炉の稼働年数を延長していた。だが翌年3月11日に東日本大震災が発生し、想定を上回る高さの津波が東京電力福島第一原発を襲った。炉心溶融、建屋の水素爆発によって放射性物質が外部に放出されるという、最悪レベルの原子炉事故となった。

メルケル首相は強い衝撃を受け、態度を180度変えて原子力批判派に転向した。首相は31年以上運転されていた7基の原子炉を直ちに停止させ、原子炉安全委員会に対し、国内の原子炉の緊急検査を命じた。同時に社会学者や哲学者から成る倫理委員会に対し、将来のエネルギー政策に関する提言を作成させた。

原子力発電の専門家たちは、「国内の発電所には十分な安全措置が講じられており、廃止の必要はない」と首相に報告した。これに対し倫理委員会は、「ドイツで万一原子炉の事故が起きた時の人的・物的損害は計り知れないので、原発を廃止して、再生可能エネルギーによって代替するべきだ」と提言した。

メルケル首相は原子力の専門家の意見ではなく倫理委員会の提言を尊重し、連邦議会に「2022年末までに原子力発電所を廃止する」という内容の法案を提出。連邦議会は2011年6月30日に、連邦参議院も7月8日に法案を可決した。つまりドイツ人たちは、福島の事故から4カ月足らずでエネルギー政策を転換し、原子力時代に終止符を打つことを決めたのだ。

「日本も原子炉事故を防げなかった」

メルケル首相は、2011年6月9日の演説で、原子力に対する自分の考え方は楽観的過ぎたと告白した。
「福島の事故は、全世界にとって強烈な一撃でした。この事故は私個人にとっても、強い衝撃を与えました。大災害に襲われた福島第一原発で、人々は事態がさらに悪化するのを防ぐために、海水を注入して原子炉を冷却しようとしていると聞いて、私は『日本ほど技術水準が高い国も、原子力のリスクを安全に制御することはできない』ということを理解しました」
「日本で起きたような大地震や巨大津波は、ドイツでは起こらないでしょう。しかしそのことは、問題の核心ではありません。福島の事故がわれわれに突きつけている最も重要な問題は、リスクの想定と、事故の確率分析をどの程度信頼できるのかという点です。なぜならば、これらの分析は、われわれ政治家がドイツにとってどのエネルギー源が安全で、価格が高すぎず、環境に対する悪影響が少ないかを判断するための基礎となるからです。私があえて強調したいことがあります。私は昨年(2010年)秋に発表した長期エネルギー戦略のなかで、原子炉の稼動年数を延長させました。しかし私は今日はっきりと申し上げます。福島の事故は原子力についての私の態度を変えたのです」

2022年末に原発全廃へ

ドイツはエネルギー転換を着実に進めている。この国では、福島の事故が起きる直前に17基の原子炉が使われていた。このうち11基がすでに廃止されており、残りの6基も来年末までに廃止される。メルケル政権は福島原発事故以降、再生可能エネルギーを振興する政策を加速した。2010年には同国の発電量に原子力が占める比率は22.4%、再生可能エネルギーは16.8%だったが、2020年には原子力の比率が11.3%とほぼ半減し、逆に再生可能エネルギーの比率が44.9%と大幅に増えた。

メルケル政権は、「2030年までにドイツで消費される電力の65%を再生可能エネルギーでカバーする」という目標を打ち出している。ドイツはエネルギーの非炭素化政策も並行して進めており、2038年までに褐炭・火力発電所も全廃する方針だ。

われわれ消費者は、毎年多額の再生可能エネルギー賦課金を払う。ドイツの電力料金は、欧州で最も高い部類に属する。だが脱原子力政策は、国民に強く支持されている。一昨年9月の世論調査によると、回答者の60%が「原子力発電所を予定通り2022年末までに全廃するべきだ」と答えた。「原子力の使用を続けるべきだ」と答えた人の比率(17%)を大幅に上回る。

日本政府は原子力を不可欠と判断

もちろん2023年1月1日以降、ドイツで使われる電力から、原発による電力が一掃されるわけではない。フランスでは電力の約70%を原発で作っているが、ドイツはフランスから電力を輸入しているからだ。欧州では毎日電力の輸出入が行われており、原発由来の電力を国境でストップさせることは不可能である。しかしフランス政府も、徐々に原発依存度を減らす方針だ。

日本政府は中長期的に、再生可能エネルギーだけではなく、原子力と高効率の石炭を使用する方針を変えていない。他国と陸続きのドイツとは異なり、日本は外国から電力を輸入することが難しいからだ。菅政権は、「原子力は温室効果ガス削減にも貢献する」と主張している。国民の健康と安全を重視して脱原子力に踏み切ったドイツ。エネルギー自給と経済性を重視する日本。大きく異なる日独のエネルギー政策は、今後両国にどのような未来をもたらすのだろうか。

最終更新 Donnerstag, 18 März 2021 10:19
 

ワクチンとロックダウンをめぐる激論

2月としては異様な暖かさとともに、コロナ禍の長いトンネルに微かな光明が見えてきた。ワクチンの有効性についての報道が目立ち始めた。

コロナワクチンを2回接種したことを証明する予防接種手帳コロナワクチンを2回接種したことを証明する予防接種手帳

他者への感染防止にも有効?

ハイテク大国イスラエルでは、ワクチンを2回受けた人の比率が2月24日の時点で35.5%と世界で最も高い。接種データを分析しているイスラエル保健省とファイザー・ビオンテック(FB)社は、「このワクチンはCovid-19による死亡を防ぐ上で99%有効であるほか、第3者への感染を防ぐ上でも89.4%の有効性がある模様だ」とする研究報告書を作成している。イスラエルの人口は約900万人と少ないので、データの収集・分析には適した国なのだ。

オックスフォード大学のデータバンク「Our World in Data」によると、ドイツでは2月24日までに181万人が2回予防接種を受けた。人口に対する比率は2.2%で、イスラエルや米国(5.8%)には及ばない。

一部の社のワクチンを「忌避」

その原因はメーカーの生産が間に合わないためだけではなく、国民の「好き嫌い」もある。ドイツでは誰でも無料でコロナワクチンの予防接種を受けられる。ただし、ワクチンの「銘柄」を選ぶことはできない。

この国で最も人気があるのは、FB社のワクチン。治験によると、感染防止効果は95%。次に人気なのが、米国モデルナ社のワクチンで有効性は94%。これに対しアストラゼネカ(AZ)社のワクチンは有効性が70%。欧州医薬品局は18歳以上に使用できるという条件で認可したが、ドイツ政府の常設予防接種委員会は、「治験が55歳までの市民にしか行われなかったので、データが十分ではない。このため接種対象は18〜64歳まで」という但し書きをつけて認可した。

2月23日までにドイツには3社から750万本のワクチンが供給された。このうちFB社の製品はほぼ全て投与され、モデルナ社の製品は約3分の1が使用された。これに対しAZ社のワクチンは、これまでに約140万本供給されたが、まだ約21万本(15%)しか使われておらず、85%が貯蔵されたままだ。

一つの理由は、AZ社のワクチンの副反応だ。ブラウンシュヴァイク市のエリザベート病院のカール・ディーター・ヘラー医長は、「2月18日、医師や看護師88人にAZ社のワクチンを投与したところ、37人が41度の発熱、悪寒、下痢、筋肉痛などを訴えて、翌日病院を休んだ。だが、翌週の月曜日には全員が回復して出勤した。後遺症が残った人はいない」と語っている。同病院では、多数の医療従事者が一度に休むと業務に支障が出るので、AZ社のワクチンを一度に多くの医師や看護師に打たないようにする方針だ。

一方、せっかく予防接種のアポイントメントが取れても、自分に投与される製品がAZ社製と分かるとキャンセルする人が多い。常設予防接種委員会のトーマス・メアテンス委員長は、「AZ社のワクチンの有効性が70%だからといって、役に立たないわけではない。このワクチンを打てば、万一新型コロナウイルスに感染しても、重症化したり死亡したりする危険は大幅に減る」と擁護している。

世界には、ワクチンが全く届いていない国が100カ国以上ある。そうしたなか、ドイツで約120万本のワクチンが使われずに余っているのは贅沢な話だ。ドイツ政府では、「イースター(4月上旬)が過ぎれば、この国ではワクチン不足は緩和されるだろう」と説明しているが、一部の市民の間に残るAZ社のワクチンに対する忌避は頭痛の種だろう。

イスラエル、予防接種証明書でロックダウンを部分緩和

予防接種が進むとともに、ロックダウンで疲弊する経済界からは「一刻も早い緩和を」という声が強まっている。ここでもベンチマーク(模範)になっているのが、イスラエルだ。同国は2回ワクチンを受けた人には、「グリーンパス」と呼ばれるデジタル予防接種証明書を交付し、レストランやフィットネスジム、劇場などへ行くことやホテルでの宿泊などを許可した。さらにギリシャとキプロスと協定を結び、予防接種証明書を持つ市民は、3月に空港が再開されれば旅行できるようにする。

連邦憲法裁判所の所長だったハンス・ユルゲン・パピーア氏も「2回予防接種を受けた人からの感染のリスクが極めて低いことが証明されれば、そうした人の権利を政令などで制限する法的根拠はなくなる。これはワクチンを受けた人に特権を与えることではなく、制限されていた市民権の回復だ」と語っている。

ホテル飲食業連合会のイングリット・ハルティゲス会長は、検査数の増加と組み合わせれば、予防接種はパンデミックとの闘いのなかで有効な手段になる。予防接種証明書が発行されれば、われわれはホテルや飲食店で客の証明書をチェックできる」と述べた。2回の予防接種後に旅行をしたり映画館、コンサートなどに行けるとすれば、特定の社のワクチンを忌避する人の数も減るかもしれない。

欧州連合(EU)加盟国の中ではギリシャが欧州委員会に対し、市民の旅行を可能にするために、予防接種証明書の発行を求めている。ドイツ政府はこれまでワクチンを受けた人に特権を与えることに慎重だったが、市民のロックダウンへの不満が高まるなか、春から夏にかけてこのテーマについての議論が進むかもしれない。

最終更新 Donnerstag, 04 März 2021 09:54
 

ドイツにEV時代は到来するか?

最近ドイツでは、電気自動車が歩道の充電スタンドにコードで繋がれて充電されているのをよく見かける。そうしたなか、今年1月にドイツ連邦自動車庁(KBA)が発表した統計は、政界・経済界を驚かせた。

街中に設置された充電スタンドを利用する電気自動車(撮影:熊谷徹)街中に設置された充電スタンドを利用する電気自動車(撮影:熊谷徹)

•EVとPHVの販売台数が急増

2020年に電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド(PHV)の新車の販売台数が、前年比で3倍ないし4倍に増えたからだ。同国でEVとPHVの販売が始まって以来、これほど急激に販売台数が伸びたことは、一度もなかった。

KBAによると、EVの新車販売台数は、2019年には6万3281台だったが、2020年には約207%増えて、19万4163台となった。またPHVの新車は、2019年には4万5348台売れたが、昨年は342%増えて20万469台売れた。

2019年に売れた新車のうち、EVとPHVの比率は3.1%だったが、2020年にはその比率は13.6%に増えた。逆にガソリンエンジンかディーゼルエンジンを使う車の比率は、91.2%から74.8%に著しく減った。

•政府が購入補助金を倍額に

昨年EVとPHVがドイツで爆発的に売れた最大の原因は、政府がこの2種類の車について、新車購入補助金を増やしたからだ。

メルケル政権は、昨年6月にコロナ不況に対抗するために、さまざまな景気刺激策を発表した。そのなかで政府は、「2020年7月8日から2021年末まで、EV(燃料電池車を含む)かPHVを買う市民への購入補助金(環境ボーナス)のうち、政府負担額を2倍に増やす」という方針を打ち出した。政府はこの政府補助金を技術革新ボーナスと呼んでいる。補助金の残りの部分は、自動車メーカーが負担する。

これにより価格が4万ユーロ(504万円・1ユーロ=126円換算)までのEVを購入する際に、市民が受け取れる補助金の総額は、最高9000ユーロ(113万4000円)になった。新車を買う際に、政府とメーカーの支援措置によって価格が113万円も安くなるというのは、大きな魅力である。価格が4万ユーロを超える車の場合、政府とメーカーからの購入補助金の総額は7500ユーロ(94万5000円)になる。

政府はこれらの支援措置のために、22億ユーロ(2772億円)の予算を投じた。ただしPHVではないハイブリッド車と内燃機関の車には、購入補助金は出ない。これには、EVとPHVをモビリティーの中心に据えることで、運輸部門からの二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に減らそうというメルケル政権の意図が含まれている。

•ユーザーの間で大反響

この政策は、市民の間でメルケル政権の予想を上回る反響を生んだ。2020年7月の補助金申請件数は1万9993件だったが、同年8月には2万7436件に増えた。2016年に新車購入補助金制度が導入されて以来、これほど申請件数が多かったことは一度もない。

メルケル政権は、コロナ禍の対策を発表した昨年6月には、技術革新ボーナスによる補助金倍額措置を、2021年末までに限っていた。しかしこの政策が市民の間で非常に好評だったために、連邦経済エネルギー省は2020年11月に、この措置を2025年末まで延長することを発表した。

ただし2022年以降に補助金倍額措置の適用を受けられるPHVは、バッテリー機構による最低走行距離が60キロメートルの車に限られる。2025年には、補助金の対象は最低走行距離が80キロメートルのPHVに限られる。

•充電インフラの拡大が必須

メルケル政権は、2030年までに運輸部門からのCO2排出量を、1990年比で40~42%減らすことを目指している。このため政府は、2030年までに700万~1000万台のEVを普及させることを目標にしている。ドイツの自動車税は、もともと排出する有害物質が少ないほど税率が低くなる。連邦財務省はEV普及目標を達成するために、2020〜2025年までに新車登録されたBEVは、自動車税を免除している。

だが最大のネックは、充電スタンドの不足だ。今年1月現在のドイツの公共充電端末数は、3万4056個にすぎない。モビリティーの電化を実現するには、連邦政府は民間企業や地方自治体を支援して、充電インフラを迅速に整備する必要がある。

「将来コロナパンデミックが終息した時にイタリアやクロアチアに車で旅行したいが、ドイツで電力会社などと契約すれば、外国でも充電できるのか」という疑問を持っている人も多いだろう。昨年のPHVの販売台数がEVよりもやや多い背景には、そうした懸念もある。PHVならば、万一充電スタンドが見つからなくても、しばらく内燃機関を使って走ることができる。充電インフラの拡充は欧州全体で行う必要がある。

ただし、ドイツの自動車業界のEVシフトの流れは加速するだろう。ドイツ自動車工業会(VDA)は昨年秋に「2050年までにモビリティーのカーボンニュートラルを達成する」と宣言している。フォルクスワーゲンをはじめ、各メーカーも今後はEV・PHVの車種を大幅に増やす。米国テスラはブランデンブルク州に大規模なEV製造工場を建設している。

10年後のドイツの街角では、今よりもEVやPHVを見かける頻度が増えているに違いない。

最終更新 Donnerstag, 18 Februar 2021 09:53
 

CDU党首にラシェット氏 連邦首相候補決定は春に

キリスト教民主同盟(CDU)は、1月16日のオンライン党大会で、ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州のアルミン・ラシェット首相(59歳)を新党首に選んだ。

1月16日のオンライン党大会で演説するラシェット氏1月16日のオンライン党大会で演説するラシェット氏

党首選では辛勝

CDUはメルケル路線の継承者として知られるラシェット氏を中心に、コロナ・パンデミックや景気後退などの難題に取り組む。だが最も注目される連邦議会選挙の首相候補は決まっておらず、キリスト教社会同盟(CSU)のマルクス・ゼーダ―党首とラシェット氏が協議して、4月の復活祭後に決定される予定だ。

ただしラシェット氏は、圧勝したわけではない。第1回目の投票では、ラシェット氏だけでなく、中道右派のフリードリヒ・メルツ元院内総務、連邦議会のノルベルト・レットゲン外務委員長も過半数を取れなかった。メルツ氏が385票を獲得したのに対し、ラシェット氏の得票数はそれよりも5票少なかった。この開票結果は、CDU内部の路線が必ずしも統一されていないことを物語っている。ラシェット氏は決選投票で521票を獲得し、メルツ氏(466票)を下した。

メルケル路線の強力な支持者

ラシェット氏はドイツ語で「Merkelianer(メルケリアーナー)」、つまり熱烈なメルケル支持者の1人。メルケル氏が2015年に多数のシリア難民にドイツでの亡命申請を許したために、党内外から厳しく批判された時にも、頑として首相の難民政策を支持し続けた。

ラシェット氏は党大会での演説で、「われわれは、社会の真ん中で強くなることによってのみ勝利することができる。この国には、まずメルケル首相が好きで、次にCDUが好きだという人がたくさんいる。メルケル首相の優れた点は、『信頼感』という言葉に集約することができる。今CDUが党として必要としているのは、まさに信頼感だ」と語っている。

同氏は、フリージャーナリストとしてラジオ放送局やアーヘンの教会新聞などのために働いた経験を持つ。1989年にCDUに入党して5年後には連邦議会議員となった。1999年から6年間は欧州議会の議員も務めている。2017年のNRW州議会選挙ではCDUが第1党となり、州首相の座を射止めた。

復活祭後に首相候補を決定か

最大の焦点は、今年9月26日の連邦議会選挙へ向けて、誰が首相候補になるかである。実はCDU・CSUには、ラシェット氏よりも有力視されている政治家がいる。バイエルン州のゼーダ―首相だ。ドイツ第2テレビ(ZDF)が昨年11月13日に公表した世論調査によると、「CSUのゼーダ―党首が首相候補に適している」と答えた人の比率は58%で、ラシェット氏と答えた人の比率(27%)を大きく上回っている。

ゼーダ―氏は、「誰が連邦議会選挙で首相候補として出馬するかは、私とラシェット氏の話し合いで決める」と語っている。両氏ともに、緑の党との連立については前向きの姿勢を取っている。ゼーダ―氏は、昨年3月以来厳しいコロナ対策を行ってきたことで人気が急上昇した。しかしCSUでは、彼がバイエルン州の首相のポストに留まることを希望する声が強い。

ロックダウン強化の背景に、変異株への不安

現在の政局の焦点は、コロナ対策だ。ドイツではコロナ対策の巧拙が敏感に政治家の支持率に反映される。12月16日に施行されたロックダウンによって、直近1週間の人口10万人あたりの新規感染者数は、減る傾向を見せている。イェンツ・シュパーン連邦保健大臣は、「市民が接触や旅行を自粛してくれたからだ」と述べている。

だが、油断は禁物だ。ドイツでは今も毎日約1000人の市民が、新型コロナウイルスの犠牲となっている。メルケル政権は、新規感染者数が減る兆候を見せているにもかかわらず、ロックダウンを2月14日まで延長した。さらに企業に対してテレワークを強化させる政令を発布したほか、商店や公共交通機関を利用する際にFFP2マスクなど高性能のマスクの着用を義務付けるなど、ロックダウンを強化した。

この背景には、英国で見つかった新型コロナウイルスの変異株B.1.1.7について、メルケル政権が警戒心を強めているという事実がある。オックスフォード大学の研究によると、B.1.1.7の感染率は、これまでの新型コロナウイルスよりも20~35%高い(70%という説もある)。しかも英国のボリス・ジョンソン首相は1月22日の記者会見で、「B.1.1.7は感染率だけではなく、死亡率も従来のウイルスよりも高いことを示すデータがある」と発言している。

ベルリン・シャリテー医科大学病院のクリスティアン・ドロステン教授も、「現在は1日あたりの新規感染者数が2万~3万人だが、B.1.1.7の抑え込みに失敗したら、毎日10万人ずつ感染者が増えるかもしれない」と警告している。B.1.1.7によって新規感染者数が急増した場合、医療資源が枯渇して死者数がさらに増える危険がある。頼みの綱である予防接種も、昨年夏の欧州連合(EU)の注文数が少なすぎたことや、認証の遅れ、メーカーの生産が間に合わないことなどにより、遅々として進まない。

ラシェット氏、ゼーダ―氏のどちらがメルケル首相の後継ぎになるにせよ、パンデミックおよび不況との闘いという険しい道程を歩まざるを得ないことだけは確実である。

最終更新 Donnerstag, 04 Februar 2021 09:30
 

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