ジャパンダイジェスト
独断時評


コロナ第2波の猛威に部分的ロックダウン実施

新型コロナウイルスが、ドイツを再び危機的状況に追い込んでいる。新規感染者が激増するなか、メルケル政権は11月2日から30日まで、学校や商店などを除いて部分的なロックダウンを全国で実施することを明らかにした。

10月28日、記者会見で接触制限令を発表したメルケル首相10月28日、記者会見で接触制限令を発表したメルケル首相

厳しい制限措置を再び導入

10月28日にメルケル首相は、16の州政府の首相たちとのビデオ会議後、全国一律の部分的な接触制限令を発表した。11月2日から30日までは、公共の場での他人との接触は、別の1世帯に住む人々に限られる。つまり三つ以上の別々の世帯に住む人々が集うことは禁止される。しかも上限は10人。違反した場合には、罰金を科される。

レストラン、喫茶店、バー、ディスコ(クラブ)、フィットネスクラブなどの営業は禁止される(飲食店のテイクアウトやデリバリーは可)。さらに劇場、コンサートホール、映画館、プールなども閉鎖されるほか、見本市のような多数の人が参加するイベントもできなくなる。屋外、屋内を問わず、友人や親戚などを集めての宴会やパーティーも制限され、ホテルは観光客を宿泊させることを禁じられる。

これに対し、政府はロックダウンが子どもたちの教育に及ぼす影響を最小限にするため、学校や幼稚園は閉鎖しない。また商店や理髪店も営業を許される。

メルケル首相は、ドイツ全土で接触を制限する理由について、「現在と同じテンポで新規感染者が増え続けたら、ドイツの医療体制は数週間で限界に達する。したがって、今われわれは行動しなくてはならない」と述べた。「クリスマスに家族や親類が集えるように、一時的に厳しい措置を取る必要がある」と説明した。

さらに政府は、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化する危険が高い高齢者や、持病がある人々を守るために、介護施設や病院などで簡易ウイルス検査を実施する方針だ。

新規感染者数が1万人を超えた

メルケル政権が部分的とはいえ、再びロックダウンに踏み切らざるを得なかった理由は、10月下旬以降、新規感染者数が急激に増えているからだ。ロベルト・コッホ研究所によると、10月中旬には1日の新規感染者数は4000~5000人前後だった。しかし10月22日に新規感染者数が1万1409人に達して以降、4日連続で1万人を超えた。10月28日には、1日の新規感染者が1万4964人と過去最高を記録。3~4月の第1波の時にもこのような現象は見られなかった。

ベルリン・シャリテー病院のクリスティアン・ドロステン教授は、今年6月にラジオのインタビューでこう発言した。「1918年のスペイン風邪では、米国での第1波は特定の地域に限られていた。だが秋から冬にかけて始まった第2波では、ウイルスが全国にくまなく広がった。ドイツでも秋以降はこのような状況が起こる可能性がある」。今ドイツで起きているのは、まさにドロステン教授が警告していた状況である。

第1波の時との違いは、若年層の感染者の比率が高いことだ。15~59歳の市民の間で感染者の増加率が最も高い。若年者は高齢者に比べると重症化の危険が少ないので、今のところ1日当たりの死者数は2桁で推移している。今年4月には、一時ドイツでも毎日200人を超える死者が出ていた。

だがドイツでも感染者数が急激に増えるなか、病院に収容される市民の数も増加しつつある。この国の病院には、人工呼吸器を使った集中治療が可能なベッドが約2万9000床あり、10月28日の時点で7700床が空いている。しかし医療関係者の間では「集中治療室で働くための技能を持つ看護師が圧倒的に不足している」という声が強まっている。楽観は禁物だ。

経済にも深刻な影響

ドイツの周辺国でもパンデミックが猛威を振るっている。フランスでは10月後半に入ってから、1日の新規感染者の数は3万~4万人に上る。このためマクロン政権は、レストランやバーの閉鎖や夜間の外出禁止を命じた。スペイン、イタリア、英国などでも毎日1~2万人ずつ感染者数が増加。ドイツの隣国チェコでは、10月下旬に直近2週間の住民10万人当たりの新規感染者数が一時1148人と世界で最も多くなった。ちなみに米国は244人、ドイツは107人、中国は0.02人だった。チェコ政府は、10月22日に学校閉鎖も含む全国的なロックダウンに踏み切っている。

約1カ月の部分的なロックダウンは、生命と健康を守るために必要な措置だ。しかし飲食店、旅行業界、イベント業界などを中心に、甚大な損害が生じることだろう。コンサートの中止で芸術家たちも苦境に追い込まれる。

国際通貨基金(IMF)が10月に発表した統計によると、ユーロ圏の今年の国内総生産(GDP)は前年比で8.3%、ドイツでは6.0%減ると予想されている。だがパンデミック第2波が何カ月続くかは誰にも分からない。部分的ロックダウンの延長が必要になった場合、ドイツ経済はさらに縮む危険がある。

欧州全体の行方も心配だ。ドイツの輸出額の60%は欧州連合(EU)加盟国向けである。今年のスペインのGDPが12.8%、イタリアでは10.6%、フランスでは9.8%も縮小することを考えると、ドイツの輸出産業への悪影響はさらに深刻化するかもしれない。

パンデミック第1波を比較的うまく乗り越えたドイツが今回もウイルスとの闘いで勝者となるかどうかは、未知数である。

最終更新 Mittwoch, 04 November 2020 17:55
 

テレワークを法制化? 在宅勤務大国への道

パンデミックの第1波で、生まれて初めてテレワーク(在宅勤務)を経験した人も多いだろう。コロナ危機をきっかけに働き方を改革しようと、連邦労働社会省のフベルトゥス・ハイル大臣(社会民主党・SPD)が大きな一歩を踏み出した。

2日、連邦議会に出席するフベルトゥス・ハイル労相2日、連邦議会に出席するフベルトゥス・ハイル労相

ハイル労相、24日間の最低日数を要求へ

ハイル大臣は10月4日付の「ビルト・アム・ゾンターク」紙とのインタビューの中で、企業に対し社員が毎年少なくとも24日間テレワークを行なえる制度を導入する方針を明らかにした。企業は、社員のオフィスや工場への出勤が業務上避けられないことを証明できない限り、最低24日間自宅で働くことを許さなくてはならない。ハイル大臣によると24日は最低限の日数であり、経営者団体と産業別労働組合は個別の交渉によって、在宅勤務の日数を増やすこともできる。

大臣は「コロナ危機の経験は、テレワークが可能であることを示した。しかも多くの労働者は、テレワークを歓迎している。例えば幼い子どものいる夫婦が、毎週交代で1日ずつテレワークを行って、子どもの世話をすることも可能だろう」と述べている。

コロナ危機によるロックダウンが引き金

連邦労働社会省の調査によると、国内1460万人の会社勤務者のうち、今年3月以降テレワークを経験した人の比率は36%。これは前年同期(24%)に比べて12ポイントの増加だ。DAK Gesundheit (ドイツの公的健康保険運営者)がコロナ危機前と勃発後にそれぞれ7000人の勤労者にテレワークについて行ったアンケートでも、昨年12月に「ほぼ毎日テレワークを行っている」と答えた人の比率は10%だった。しかし、今年4月には28%と大幅に増えている。

労働者の間でテレワークは好評といえそうだ。DAK Gesundheitの調査によると、回答者の58.7%が「会社よりも自宅で働く方が生産性が高い」と答えているほか、今回のコロナ危機で初めて在宅勤務を経験した人の76.9%が「今後少なくとも部分的にテレワークを続けたい」と答えている。「仕事の間、全くストレスを感じない」と答えた人の比率は、コロナ危機前には48%だったが、コロナ発生後には57%に増えている。

職種により大きな違い

しかしテレワークの実施については、職種によって大きな違いがある。今年3~4月には、銀行などの金融サービス業界やIT業界の大半の社員が自宅で働いていた。DAK Gesundheitのアンケートでも、「私が働いている企業はコロナ危機発生後、テレワークのための体制を急激に拡充した」と答えた人の比率は銀行・保険業界では80%、IT業界では75%に上る。これに対し商業に携わる人の間では37%、医療関連者の間では29%と低くなっている。いわんや、警察官や消防士らがテレワークを行うことは不可能である。

ハイル大臣は、24日間の最低日数を法律で保障することにより、テレワークの恩恵を受けられる市民の比率を増やそうとしているのだ。

労使間で評価が正反対に

ハイル大臣の提案に対する社会の反応はさまざまだ。ドイツ経営者連盟(BDA)のインゴ・クラーマー会長は「ドイツ企業は、すでに可能な限りテレワークの機会を労働者に与えている。政府が法律によって24日間のテレワーク権を企業に強制するのは、現実に即していない。ハイル大臣の提案は、企業にとって可能なことの範囲を超えており、労働者のニーズにも合っていない」と厳しく批判している。

これに対しドイツ労働組合連盟(DGB)のライナー・ホフマン委員長は、「24日という最低日数は少なすぎる。これでは労働者のニーズは満たされない。ハイル大臣は経営者団体に忖度しているのでは」と述べ、在宅勤務が可能な日数を増やすように要求している。

多くの大企業がテレワーク定着を検討

クラーマー会長が言うように、多くの大企業はコロナ危機が去った後もテレワークを新たな働き方として部分的に定着させることを検討している。

例えばシーメンスは今年7月に、コロナ後も一部の社員が週に2~3日自宅で働けるようにすると発表した。ただしテレワークを行うかどうかの判断は社員に任され、工場などで製品の組み立てなどに携わっている社員は除かれる。同社はこのプロジェクトを「ニューノーマル・ワーキングモデル」と命名し、43カ国で働く約29万人の社員のうち、48%に相当する約14万人の社員に適用する。

企業にとっては、テレワークの社員の比率が増えればオフィススペースやエネルギー、社員食堂での昼食代の補助などの経費を節約できる。現在よりも労働時間が短くなり、1時間当たりの生産性が増加するかもしれない。実際、大都市の金融機関の中には、テレワーク社員が増えることを見越して、賃貸オフィススペースの面積の削減を検討している会社もある。

一方社員にとっては、通勤にかかる時間・コストがゼロになるほか、自分の好きな時間に仕事をできるという利点がある。休み時間に家族の世話をすることもできるだろう。ある意味では労使にとって「ウィンウィン」の働き方が将来生まれる可能性もあるのだ。

ドイツはすでに世界でもトップクラスの「時短大国」、「休暇大国」だが、パンデミックが引き金となって働き方がより柔軟になり、「テレワーク大国」への道を進むのかもしれない。

最終更新 Donnerstag, 15 Oktober 2020 08:15
 

シュパーン保健相の第2波対策は成功するか?

欧州にコロナ第2波が襲来した。周辺諸国で感染者数が急増し、ドイツでもホットスポットが増えるなか、連邦保健省のシュパーン大臣は9月21日に、新たなコロナ対策を打ち出した。

9月18日の連邦議会で演説するシュパーン保健相9月18日の連邦議会で演説するシュパーン保健相

発熱外来を導入へ

冬には新型コロナウイルスだけではなく、インフルエンザに感染する人も増える。このため保健省は全国の特定病院に、風邪のような症状がある人のための発熱外来を設置する方針だ。熱のある患者とほかの病気で来院する人の入り口を分け、病院で検査や診察を待つ人たちの間でウイルスが広がることを防ぐ。

また最近は陽性・陰性が直ちに判明する抗原検査キットが増えているので、介護施設などで検査数を大幅に増やす。さらに政府は、リスク地域から帰国した市民を保健所が容易に把握できるように、デジタル化された登録システムの導入も検討している。

英仏スペインで感染者が急増

この背景には、9月に入ってから欧州の一部の国で感染者数が急増しているという事実がある。世界保健機関(WHO)によるとスペインでは9月上旬に、一時毎日約1万人の感染者が見つかった。首都マドリードでは、政府が一部の地区で事実上の外出禁止令を発布。約85万人の市民が仕事や通院、食事の調達以外は外出を禁じられた。

フランスでは9月以降、毎日感染者数が数千人ずつ増加。19日には1日で約1万3000人も増えた。累計死者が約4万2000人と欧州で1番多い英国でも、毎日数千人単位の新規感染者が見つかり、ジョンソン政権は「このままでは10月中旬に毎日感染者が5万人ずつ増え、11月には毎日500人が死亡する」として、レストランの営業時間の短縮などを命じた。WHOのデータバンクで欧州の感染者数のグラフを見ると、夏休みが終わってから急カーブを描いて上昇している。

ドイツでも増加ペースが速まっている

ドイツの状況は、今のところフランスやスペインほど悪化していない。それでも夏休み以降、感染者が増加するテンポが加速している。8月中旬頃までは毎日数百人単位だった新規感染者数は、8月下旬から千人単位となり、9月19日には2300人と今年4月以降で最高の水準に達した。

ドイツでは市・郡単位で直近1週間の新規感染者数が10万人当たり50人を超えると、「危険信号」である。バイエルン州の州都ミュンヘンでは、9月下旬に一時この数値が50人を超えた。このため市当局24日から中心部のマリエン広場などで市民にマスク着用を義務付けたほか、レストランなどで5人もしくは二世帯を超えての会食を禁止。さらに屋内での催し物の参加人数の上限を100人から25人に引き下げた。

このほかロベルト・コッホ研究所の9月22日付の報告によると、ノルトライン=ヴェストファーレン州のハム、バイエルン州のヴュルツブルクやニーダーザクセン州のクロッペンブルクでも、直近1週間の新規感染者数が住民10万人当たり50人を超えた。

全国的なロックダウンを回避せよ!

現在ドイツ連邦政府が狙っているのは、今年3~5月に実施したような全国的なロックダウンを回避することだ。シュパーン大臣はドイツ第2テレビ(ZDF)でのインタビューで、「当時、新型コロナウイルスについてのわれわれの知識は、非常に少なかった。従って厳しいロックダウンを実施した。しかし過去6カ月間にわれわれは多くのことを学んだので、第2波では全国的なロックダウンは避けられると考えている。重要なのは、他人との間で1.5メートルの最低距離を保ち、公共交通機関などでマスクを着けるという規則を全員が守ることだ」と述べている。さらに、「5月以降、商店や理髪店で集団感染が起きたという報告はない。したがって第2波が来ても、商店や理髪店、美容院などを閉鎖する必要はないと思う」と語っている。

ベルリン・シャリテー大学病院のドロステン教授も「欧州のほかの国の数字を見ると、警戒が必要だ。ドイツも感染者増加の初期の段階にある。しかし現在では、今年3月よりも検査数が多く、感染者増加の動向に対する監視システムが整っている。このため第1波の時のような全国的なロックダウンは避けられるのではないか」と述べている。またドロステン教授によると、現在の新規感染者では若者の比率が高い。若者は、高齢者に比べると重症化・死亡の危険が低い。

ロックダウンが経済に深い傷

メルケル政権が全国的なロックダウンを避けようとしている理由の一つは、経済的な打撃があまりにも大きいからだ。欧州連合(EU)加盟国ではコロナ不況が深刻化している。EU統計局の9月8日の発表によると、今年第2・四半期のEU加盟国の国内総生産(GDP)は、第1・四半期に比べて11.4%も減少した。スペイン、フランス、イタリアではGDPの減少率がいずれも2桁に達している。

第1波でのドイツの経済活動の制限は、イタリアやフランスに比べると緩かった。だがそのドイツですら、第2・四半期のGDPは、第1・四半期に比べて9.7%も減少した。連邦政府は今年の通年のGDPが前年比で5.8%減ると見ているが、これは第二次世界大戦後、最悪の減少率だ。ドイツだけでなく欧州各国は、来年の春まで、感染拡大防止と経済活動のバランスを取るという困難な作業に取り組まなくてはならない。

最終更新 Mittwoch, 30 September 2020 10:59
 

コロナデモと議事堂突入未遂の衝撃

8月29日の土曜日にメルケル政権のコロナ対策に反対する人々約3万人から4万人が、ベルリンの中心部でデモを繰り広げた。この時、ベルリンから衝撃的な映像が世界中に流れた。連邦議会議事堂(ライヒスターク)の正面階段に、黒・白・赤の旗を持った極右勢力のメンバーら数百人が押し寄せたのだ。

8月29日、ベルリンのブランデンブルク門の前で帝国旗を掲げる人々8月29日、ベルリンのブランデンブルク門の前で帝国旗を掲げる人々

議会前で「帝国旗」を振りかざす

彼らは警察が設置していた防護柵を乗り越え、一部は議事堂の中になだれ込もうとした。だが議事堂を警備していた3人の警察官たちが、入り口の前に立ちはだかり、多数の暴徒が建物に侵入するのをかろうじて食い止めた。やがて応援の警官隊が現場に駆け付け、デモ隊は議事堂の前から解散させられた。

当時ベルリンの中心部では、コロナ政策反対デモのために多数の市民が集まり、警察官たちが警戒・規制措置で大わらわだった。極右勢力はその最中に、虚を突くようにして議事堂を「襲った」のだ。

この時に極右勢力のメンバーたちが持っていた黒・白・赤の旗は、1871~1919年までドイツ帝国の国旗として使われていたため、「ライヒスフラッゲ(帝国旗)」と呼ばれる。ナチスも1933年から2年間にわたり、この旗に鉄十字章を配した「帝国戦争旗」を一時的に使ったことがある。第二次世界大戦中に戦功があった兵士に授与された鉄十字章のリボンには、この三つの色が使われていた。

現在、鉤十字(ハーケンクロイツ)とは違って、帝国旗を公衆の面前で掲げることは法律で禁止されていない。このためネオナチらはデモの時にしばしば帝国旗を掲げる。いわばドイツの極右にとっては、鉤十字の旗の「代用品」。この旗を公衆の面前で掲げる人々は、極右かそれに近い思想の持ち主と考えるべきだ。

民主主義への攻撃

連邦議会議事堂はドイツの議会制民主主義と政治の中心だ。この建物は、1933年のナチスによる放火、1945年のソ連軍による占拠、1961年のベルリンの壁建設、1990年のドイツ再統一などの事件を目撃してきた「ドイツ現代史の証人」でもある。その前でネオナチが帝国旗を掲げ、不法侵入を試みる……。この行為は多くの人の目に「民主主義への挑戦」と映った。

ドイツの政治家たちは、強い言葉で今回の事件を糾弾している。シュタインマイヤー大統領(社会民主党・SPD)は「極右勢力が連邦議会議事堂の前で帝国旗を振るという騒擾(そうじょう)は、われわれの民主主義の心臓部への耐えがたい攻撃だ」と批判。大統領は「政府のコロナ対策について怒り、その必要性を疑う者は、公に抗議したりデモを行ったりする権利がある。しかしデモ参加者が、民主主義を敵視する政治的な扇動者の先棒を担ぐことは、断じて許されない」と述べた。彼はデモに極右勢力が混ざっているのを、デモの主催者や参加者らが黙認することに警鐘を鳴らしているのだ。

連邦議会のショイブレ議長(キリスト教民主同盟・CDU)も、「暴力的な少数派が議事堂への乱入を試みるという行為は、全ての国民に対する攻撃だ。デモが極右勢力に悪用されるのを見過ごすことは、無責任だ」と指摘。彼は「ドイツの憲法(基本法)は、連帯の精神を欠いた少数意見をも守る。さらにデモを行う権利は、重要な市民権の一つだ。しかし発言やデモの自由にも、限界がある。政府が定めた規則に反したり、議事堂に突入を試みて、警察官に挑戦する行為は、市民に許される境界線を越えるものだ」と述べている。

ベルリンの警察当局は「過去のデモの例から、マスク着用や1.5メートルの最低距離などの規則が守られない可能性が強い」として、今回のコロナ対策抗議デモを禁止しようとした。だがベルリン行政裁判所は、「デモの主催者は政府が定めた規則を守れば、実施できる」として禁止措置を差し止めた。蓋を開けてみると、多くの参加者は抗議の意を示すために、わざとマスクを着けず、最低距離も取らなかった。

大半のドイツ市民はコロナ対策を許容

デモの映像はメディアによって拡散されるので注目されるが、ドイツ人の大半はメルケル政権のコロナ対策を必要だと考えている。Yougovが8月7~10日に実施したアンケートによると、「メルケル政権のコロナ対策はやり過ぎだ」と答えた回答者は約10%にすぎなかった。また、「新型コロナウイルスは危険ではない」と答えた人は3%、「コロナ対策の裏には、別の政治的な目的を達成しようとする勢力の意図がある」という陰謀論者は7%だった。

極右勢力は、声高なコロナ政策反対者の抗議行動を利用して、政府への反感を強めようとしている。極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が、2015年のメルケル政権の難民受け入れを利用して市民の不満を煽り、支持率を飛躍的に高めたことと似た点がある。

救済策の強化を!

新型コロナウイルスは、世界全体で経済活動を鈍化させ、第二次世界大戦後最も深刻な不況を引き起こしている。飲食店、ホテル、小売店、旅行業界、イベント業界などで倒産や失業の危機に曝されている市民の数は少なくない。今後コロナ危機は、社会の格差を拡大していくだろう。失業禍が今後深刻化し、困窮する市民の数が増えた場合、難民危機の時と同じように右派ポピュリストへの支持が高まる可能性もある。

ドイツ政府は、社会の安定を維持するためにも、パンデミックによって苦しい生活を強いられる人々のための救いの手をさらに充実させる必要がある。

最終更新 Donnerstag, 17 September 2020 08:56
 

ナワリヌイ暗殺未遂事件とメルケル政権の苦悩

ドイツとロシアの関係に大きな影を落とす事件が、また発生した。プーチン政権の声高な批判者として知られるロシアの政治活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が、8月20日に、シベリアのトムスクからモスクワに戻る飛行機の中で意識不明の重体に陥ったのだ。

今年2月にモスクワで撮影された、ナワリヌイ氏(左)と妻のユリア・ナワリヌイ氏(右)今年2月にモスクワで撮影された、ナワリヌイ氏(左)と妻のユリア・ナワリヌイ氏(右)

家族がドイツへの移送を希望

旅客機はオムスク空港に緊急着陸し、ナワリヌイ氏は病院に担ぎ込まれた。彼の家族は「ナワリヌイ氏はシベリアで始終尾行されていた。彼は飛行機に搭乗する前に毒を盛られたに違いない」と指摘したが、オムスクの病院は「毒物は見つからなかった。新陳代謝障害ではないか」と発表。

ナワリヌイ氏の妻は、ヤカ・ビジリ氏に電話で救援を要請した。ビジリ氏はスロベニア人の映画プロデューサーでリベラルな政治活動家でもある。また、同氏はベルリンに本部を持つ「平和のための映画(シネマ・フォー・ピース)」財団の責任者で、2018年にロシアの政治活動家ピョートル・ウェルシロフ氏がやはり毒物を盛られた時にも救援活動を行った。

ビジリ氏は看護施設を備えた特殊な小型ジェット機をオムスク空港に送り、ナワリヌイ氏をドイツに搬送してベルリンのシャリテー大学病院に収容させた。この病院の医師たちはウェルシロフ氏が毒を盛られた時にも治療に当たっており、毒物に関する救急医療の経験が豊富だ。

「神経剤が使われた疑い」

シャリテー病院は8月24日に声明を発表し、「ナワリヌイ氏の症状は、コリンエステラーゼ阻害剤による疑いが強い。毒物そのものは検出されていないが、複数の独立した検査機関が、被害者の身体にコリンエステラーゼ阻害剤が作用しているという見解に達した」と述べた。コリンエステラーゼ阻害剤は神経剤の一種で、VXやサリンなどの毒物はその例だ。

メルケル政権のシュテフェン・ザイバート報道官は同日「シャリテー病院の医師団は、ナワリヌイ氏が毒を盛られた疑いを強めている。ナワリヌイ氏がロシア政府に反対する勢力として重要な地位にあることを考えると、ロシア当局はこの事件を徹底的に解明しその過程と結果を公表するべきだ。ナワリヌイ氏を襲った者たちを逮捕し、法的責任を追及しなくてはならない。われわれはナワリヌイ氏が治癒することを願う。厳しい運命に襲われたナワリヌイ氏の家族に対しても、われわれは心から連帯を示す」という声明を出している。

ドイツ連邦刑事局(BKA)やベルリン警察は、ナワリヌイ氏がさらに襲われる危険があるとして、シャリテー病院に厳重な警戒態勢を敷いている。

ドイツの政界や論壇では、犯行の手口などから何者かが反プーチン派の急先鋒であるナワリヌイ氏を暗殺しようとしたという疑いを強めている。連邦議会外務委員会のノルベルト・レットゲン委員長は「再び起きた殺人未遂事件は、ロシア政府とプーチン大統領の真の顔を曝した」と批判した。キリスト教民主同盟(CDU)で国際問題を担当するローデリヒ・キーゼベッター議員は、ロシアの外交官の追放や、ロシア政府への追加的な制裁措置を実施するべきだと主張している。また緑の党のオミード・ノリプーリ議員は、「欧州連合(EU)はロシア政府に事件の徹底究明を求める共同声明を出すべきだ」と求めている。

ロシア側は毒物説を疑問視

ロシア政府の報道官は「ナワリヌイ氏が毒を盛られたという証拠は、まだ見つかっていない。なぜドイツの医師たちがこれほど早い時点で毒殺未遂という結論に至ったのか、理解できない」と述べている。

ナワリヌイ氏を誰が誰の命令で暗殺しようとしたのかは、過去の事件同様に闇に包まれたまま終わるに違いない。ロシアには、犯罪者、マフィア関係者、元秘密警察や元軍関係者など、体制側の「空気」を読んで政府批判者の殺害を試みる人々がいる。実行者は、誰の指示で動いたかについて、証拠を残さない。

ドイツでは昨年ベルリンでチェチェン人の亡命者がロシア人に拳銃で射殺される事件が発生したばかり。被害者はコーカサス地方でロシア軍と戦った抵抗勢力のメンバーだった。ドイツの捜査当局は、ロシア軍の諜報機関が殺害を命じたとみている。ロシア政府はこの時にも、ドイツ側の捜査に積極的に協力しなかった。ナワリヌイ氏暗殺未遂事件の解明も難航するだろう。

EU・ロシア間の「新冷戦」がさらに深刻に

この事件はメルケル政権にとって大きな頭痛の種だ。欧州だけでなく中東の安全保障は、ロシア政府の協力なしには確保できない。例えば、現在ベラルーシでは多くの市民が選挙結果をめぐって政府に対する抗議デモを繰り広げているが、同国政府による武力鎮圧を避けるには、プーチン大統領の圧力が重要である。

だが近年ロシア政府はクリミア半島の併合やウクライナ内戦への介入に見られるように強権的な態度を強めているほか、体制批判が暴力によって封じられる状況を放置している。ドイツ在住のあるロシア人は「ロシアの大手新聞や放送局は翼賛化されており、リベラルな大手メディアはない」と断言する。ドイツをはじめEU加盟国は、言論や思想の自由が踏みにじられる事態を見過ごすべきではない。この事件で、ドイツ・EUとロシアの間の「新冷戦」は一段と深刻になるだろう。

黒・緑連立政権が誕生か?

来年の連邦議会選挙のシナリオで最も可能性が高いと見られているのが、CDU・CSUと緑の党の連立政権である。公共放送局ARDが8月6日に発表した調査によると、CDU・CSUへの支持率は38%、緑の党は18%なので過半数を確保できる可能性が強い。

2015年の難民危機以降、CDU・CSUへの支持率は下がる一方だったが、コロナ危機からは回復した。イタリアやフランス、スペイン、英国とは対照的に、メルケル政権がパンデミックの第1波で死者数を比較的低い水準に抑えることに成功したからである。

コロナ対策の巧拙は政局に大きな影響を与える。ゼーダー氏も完全無欠ではない。8月中旬には、バイエルン州保健当局で帰国者に対するPCR検査の結果通知が大幅に遅れるなど、混乱が生じている。「ゼーダー首相」が来年本当に誕生するかどうかは未知数だ。

最終更新 Mittwoch, 02 September 2020 17:23
 

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