ジャパンダイジェスト
独断時評


ロックダウン大幅緩和 一部の州で集団感染も

新型コロナウイルスの拡大を防ぐために、3月23日にドイツで未曽有の「接触・外出制限令」が発令されてから約2カ月。「冬眠状態」にあったこの国に、ようやく活気が戻り始めた。

5月25日、記者会見で話すテューリンゲン州のラメロウ州首相5月25日、記者会見で話すテューリンゲン州のラメロウ州首相

ホテルや劇場も再開へ

5月6日にメルケル政権がロックダウン緩和の方針を発表して以降、マスク着用や1.5メートルの最低距離を取ることを条件に、商店、レストラン、喫茶店、ビアガーデン、理髪店などが徐々に営業を再開。教会のミサやモスクでの礼拝も許可された。さまざまな制約付きとはいえ、今後はホテル、劇場、映画館、コンサートホールなども再開されていく。

工場やオフィスに戻る人も、少しずつ増えていくだろう。国内旅行や、欧州連合(EU)域内でのバカンスを計画する人々もいる。「わが国はパンデミックの第1期をうまく乗り切った」とする連邦政府は、感染者数が急増しない限り、接触・外出制限令を6月29日に終える方針を明らかにした。

一部の州政府のロックダウン緩和競争

3月後半にロックダウンが宣言された時、連邦政府と州政府は一致団結していた。ところが今ではコロナ対策の一枚岩は崩れた。一部の州政府が足並みを乱し、ロックダウン緩和を急いでいるからだ。

特に5月24日にテューリンゲン州のラメロウ首相が行った発言は、連邦政府を驚かせた。彼は「わが州は、これまでの緊急事態モードから通常モードに切り替える。6月6日以降はマスク着用義務や1.5メートルの最低距離などの規制事項を州全体で適用するのをやめ、新型コロナウイルスの拡大状況に応じて、地域的に実施する」と述べたのだ。

首相は後に「全廃するとは言っていない。こうした措置を法律で強制するのではなく、市民が他者を守るために自発的に行うようにするのが、私の希望だ」と発言を若干修正したものの、連邦政府やほかの州政府からは批判の声が上がった。

バイエルン州のゼーダ―首相は、5月25日のARDでのインタビューで「マスク着用義務や1.5メートルの最低距離は、コロナ対策の基本中の基本だ。ウイルスが消えたわけではないのに、そうした義務を廃止するのは早すぎる」と述べた。

旧東独で高まる撤廃要求

ラメロウ氏が大幅緩和を求める理由の一つは、テューリンゲン州の新規感染者数が、ほかの州よりも少ないことだ。ロベルト・コッホ研究所によると、5月26日のテューリンゲン州の新規感染者数はわずか6人で、バイエルン州(130人)やノルトライン=ヴェストファーレン州(97人)に比べて大幅に少なかった。

ザクセン州政府も、積極的な緩和派だ。同州でこの日確認された新規感染者数は5人。また、同州で5月26日までの1週間に確認された感染者数は、人口10万人当たり2.2人で、バイエルン州(5.6人)の半分以下だ。このため同州のケッピング保健大臣は、「もしも新規感染者数が低い水準で推移すれば、わが州も6月6日以降、規制を大きく変更する」と述べた。

各州の政府が緩和競争を始めたのは、5月6日にメルケル首相が接触・外出制限などを緩和する方針を発表する前後からだった。例えばニーダーザクセン州政府は、メルケル首相の発表の2日前に、「5月11日からレストランの営業再開を許す」と発表。バルト海に面した観光地を持つメクレンブルク=フォアポンメルン州政府は、「5月9日からレストランの営業を解禁する」と宣言した。

一部の州が緩和を急ぐ理由は、飲食店・小売業界などで、ロックダウンのために苦境に陥る経営者が増えているからだ。連邦労働庁が4月30日に発表した統計によると、ドイツの失業者数は3月には約234万人だったが、4月には約264万人になった。ドイツでは通常4月になると悪天候の日が減って建設労働者が働きやすくなるため、失業者数は減る。つまり4月に失業者数が約13%増えたのは、異常な事態だ。

教会やレストランで集団感染

この国が「平時」に近づきつつあることは、喜ばしい。だが大半のウイルス学者たちは「秋から冬にかけてパンデミックの第2波が来る可能性が高い」と予想しており、油断は禁物である。

例えば一部の州では、ロックダウン緩和から1カ月も経たないうちに、クラスター(集団感染)が発生した。フランクフルトのある教会では、5月10日にミサが行われたが、信徒やその家族が次々に新型コロナウイルスに感染。感染者数は5月27日の時点で133人に上り、重症化して集中治療室に収容された人もいる。信徒たちは接触制限令を守らず、マスクを着けずに讃美歌を歌っていたという。

またニーダーザクセン州のレーアという街のレストランでは、5月15日に再開を祝う内輪のパーティーを行った後、感染者が続出。5月27日までに客や従業員23人の感染が確認された。これらの出来事は、最低距離やマスク着用義務を軽視することの危険性を浮き彫りにしている。

ロックダウン緩和は、ウイルスの消滅を意味するわけではない。過度に神経質になるのも良くないが、ワクチンが開発されない限り、ウイルスが人類に再び襲いかかる機会を伺っていることを、われわれは頭の片隅に置いておくべきではないだろうか。

最終更新 Dienstag, 02 Juni 2020 17:04
 

コロナ対策にも悪影響?憲法裁による違憲判決の衝撃

欧州諸国が新型コロナウイルスとの闘いを続けるなか、5日にカールスルーエの連邦憲法裁判所が下した判決は、欧州連合(EU)全体を揺さぶる激震となった。

5日、カールスルーエにある連邦憲法裁判所の様子5日、カールスルーエにある連邦憲法裁判所の様子

ユーロ圏の足並みを乱す判決

憲法裁は、「欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の金融緩和政策として、2015年以来PSPP(公共部門購入プログラム)の名の下に2兆ユーロ(240兆円・1ユーロ=120円換算)を超える国債を買い取ってきたことは、市民の財産権を侵害し、ドイツの憲法に部分的に違反している」という判決を下した。経済大国・ドイツとEUの対立をエスカレートさせ、コロナ危機で苦戦するユーロ圏諸国の足並みを乱すことは確実だ。

「金融緩和策が市民の財産権を侵害」

EU首脳とECBにとって、この判決は寝耳に水だった。PSPPは、ECBが2009年に表面化したユーロ危機の後遺症を緩和し、加盟国の景気を下支えするために、各国の中央銀行と共に行ってきたものだ。ECBは国債を買い取ってユーロ圏に膨大な流動性を供給することにより、ユーロ圏の物価上昇率を2%まで引き上げることを目指していた。

ECBの総裁だったドラギ氏は2012年に「ユーロを守るためには、どのような方法も使う」と公言し、債務危機を鎮静化させることに成功。だが歴史上例のない超金融緩和政策は、重い副作用も生んだ。憲法裁によると、PSPPはユーロ圏内の金利水準を低下させたため、市民の生活に多大な悪影響を与えた。これまでもドイツでは「低金利政策で、老後の備えが大幅に減った」という不満が強まっている。

連邦政府、議会をも批判

憲法裁の裁判官たちは、「PSPPの目的に比べ、市民が受けた不利益はあまりにも大きかった。しかし連邦政府、連邦議会も国債買取りによる市民生活への悪影響が大きくなっていることに対し、手を打たなかった」と指摘。「ECBの国債買取りプログラムは、国民の基本権を侵害しており、部分的に違憲」と断じた。

ちなみに連邦銀行(ブンデスバンク)も、他国の中央銀行と共にPSPPに加わっている。憲法裁は、「今後3カ月以内に、ECBがPSPPの利点と市民への悪影響の間で均衡が取れていることを納得できる形で説明しない限り、ブンデスバンクがECBの国債買取りに参加し続けることは許されない」と釘を刺した。

初めて欧州司法裁の判決に異論

今回の判決の中で特に注目される点は、ドイツで最も権威のある裁判所が、EUで最も重要な裁判所である欧州司法裁判所に「楯突いた」ことだ。2018年に、欧州司法裁は「PSPPはEU法に照らして合法だ」という判決を下していた。だが憲法裁は今回の判決の中で、「欧州裁の判決は誤っており、全く理解できない」という厳しい言葉で批判。ドイツの憲法裁が欧州司法裁の判決と食い違う結論に達したのは、戦後初だ。

今回の判決は、ECBのドラギ前総裁の「いかなる方法でもユーロを救う」という発言に対する、ドイツ司法部の痛烈な批判だ。今後ユーロ圏では、市民の財産に十分配慮しない限り、ECBが加盟国を支援するために無制限の資金投入を行うのは難しくなるだろう。

EU、仏伊は判決を厳しく批判

一方EUは、憲法裁の判決に強く反発している。欧州委員会では、「今回の判決は、EU法が各国の国内法に優先するという事実を無視し、ECBの独立性を否定するものだ」という意見が強まっている。フォンデアライエン欧州委員長は、ドイツに対しEU条約違反の疑いで調査を検討していることを明らかにした。

また欧州司法裁は、5月5日に異例の声明を発表。「EUに属する機関の行為がEU法を侵害していないかどうかを判断する権限を持つのは、欧州司法裁だけである。EU加盟国の裁判所がこの権限を疑問視することは、EUの法的な統一性を脅かす可能性がある」と指摘した。つまりEU側は、「EU法は各国の国内法を超越して適用される法律であり、ドイツの憲法裁にはECBの政策を違憲と判断したり、欧州司法裁の判決を批判したりする権利はない」と主張しているのだ。

コロナ危機下の国債買取りにも悪影響か

このコロナ危機で、ドイツはほかの欧州諸国から尊敬されていた。ドイツの病院は、ピンチに陥ったイタリアやフランスの病院から重症者約150人を受け入れ、命を救っている。だが、今回の憲法裁の判決はその状況を一変させた。フランスやイタリア政府の閣僚たちは「EU法はECBの独立性を保証しており、欧州司法裁の判決は全加盟国に対する拘束力を持つ。ドイツの憲法裁の判決は、EUの安定にとって百害あって一利なしだ」として、怒りを露わにしている。

ECBはコロナ危機が景気に及ぼす悪影響を減らすために、7500億ユーロ(90兆円)を投じて、加盟国の国債や社債を買い取る方針だ。憲法裁の判決は、このコロナ対策を禁止するものではない。だが憲法裁がECBの国債買取りを批判したことは、コロナ危機をめぐるEUの結束にも大きな影を落とすことだろう。

三権分立を重んじるメルケル政権は、憲法裁の決定に介入できない。しかしドイツ政府はコロナ危機下で、EUとの関係を悪化させることもできない。ロックダウン緩和や雇用対策などで手一杯のメルケル首相の肩に、また一つ重荷が加わった。

最終更新 Mittwoch, 20 Mai 2020 14:25
 

ロックダウン緩和開始とウイルス拡大への懸念

ドイツは主要先進国の中では最も早く、コロナ危機に伴うロックダウンの部分的な解除に踏み切った。だがウイルス学者の間では、経済活動などの早急な再開について、「ウイルスの拡大を加速する危険がある」という警告も出ている。

ベルリンでは、4月27日から公共交通機関の利用時にマスク着用が義務化されたベルリンでは、4月27日から公共交通機関の利用時にマスク着用が義務化された

部分的な「正常化」への動き

まず各州政府は、4月20日以降、面積が800平方メートル以下の商店の営業再開を許可し始めた(具体的な再開日には、州の間で違いがある)。自動車、自転車、書籍を売る店などは、面積にかかわらず再開を許可。ただし、店内では顧客は最低1.5メートルの間隔を取らなくてはならず、マスク着用も義務づけられた。また、学校も徐々に再開されている。たとえばノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州では、4月23日にアビトゥーア(大学など高等教育機関への入学資格試験)を控えた生徒たちの授業を再開し、5月4日から小学校の授業も部分的に始まった。

ドイツは連邦制の国なので、防疫政策の最終的な決定権は各州政府が握っている。このため、学校再開の日程などに州の間で違いがある。特に南と北に温度差が目立つ。NRW州のラシェット州首相は、教育や経済活動の早期の再開へ向けて積極的だ。これに対し、バイエルン州はNRW州よりも慎重で、授業や商店の再開時期もやや遅い。この背景には、バイエルン州の感染者数がドイツで最も多いという事実もある。

それでも社会全体の流れが、「ロックダウンの部分的な緩和」へ向けて進んでいることは間違いない。5月4日からは、慎重なバイエルン州政府ですら教会のミサや集会を人数の制限付きで許可し始めたほか、理髪店や美容院の営業も再開された。

ロックダウンで独経済に深刻な打撃

緩和の背景には、食品販売や薬局を除く多くの商店が、3月以来、売上高の急減・経営難に苦しんでいるという事実がある。ドイツ小売業協会(HDE)によると、食料品を除き、営業禁止措置のために小売店業界が1日ごとに失う売上高は、11億5000万ユーロ(1380億円・1ユーロ=120円換算)に達する。また、ドイツ商工会議所(DIHK)が4月3日に発表したアンケート結果によれば、ドイツの企業・事業所の43%で業務が完全に停止しているという。

レストランや酒場、クラブ、ホテルなどは、ロックダウン緩和の対象にまだ含まれていない。HDEによると、飲食店の91%、旅行関連企業の82%が全く営業していない状態だ。ホテル・飲食業連合会(Dehoga)は「4月末までに、100億ユーロ(1兆2000億円)の売上額が失われる。このままでは、会員企業の3分の1に相当する約7万の企業や飲食店が倒産するだろう」と警告している。

経済界は4月20日以降、商店の部分的な再開が許されたことを歓迎しているが、「なぜ800平方メートル以下の店だけが営業を許されるのかの理由が曖昧だ。レストランやホテルについては、将来の営業の見通しが全く立たない」という不満の声もある。一部の行政裁判所は、「面積が800平方メートルを超える店の営業を許さないのは、適法ではない」という判断を示している。これに対し政府は、「繁華街が多数の市民で混雑するのを防ぐためには、商店の営業再開は段階的に行う」と説明した。

学界からはロックダウンの早期緩和に批判の声

メルケル首相は、「せっかく国民の努力によって感染拡大の速度が抑えられているのに、外出制限措置を急に解除することで、ウイルス拡大が再び加速されたら、元も子もない」と述べて、各州政府に対し拙速を戒めている。

この背景には、ウイルス学者たちの慎重な姿勢がある。1人の感染者が何人に感染させるかを、「再生産数=R」と呼ぶ。これは市民の間の感染速度を推測する手掛かりとなる数字だ。ロベルト・コッホ研究所によると、3月10日には1人の感染者が3人に感染させていた。外出制限令の施行や、気温の上昇によって、4月17日の時点ではRが0.7に下がった。だが、ロックダウンを緩和すると外出する人が増えて、感染速度が再び加速される可能性がある。実際、復活祭には初夏のような陽気に誘われて外出する人が増えたため、4月27日にはRが再び1に増えてしまった。

ドイツには現在人工呼吸器付きの集中治療室(ICU)が約1万3000床空いている。だがメルケル首相が4月15日に説明したところによると、Rが1.2に増えると今年7月にはICUの余裕がなくなってしまう。また、新型コロナウイルスは秋から冬にかけて気温が下がり始めると再び活発になる危険があり、一部のウイルス学者は「秋以降に第二波が来る可能性がある」と述べている。1918年から2年間にわたり全世界で流行したスペイン風邪でも、秋以降に第二波が襲来した。ベルリン・シャリテー病院のドロステン教授も、「ドイツは早めに準備を始めたので、これまでのところはイタリアやスペインのような事態を避けられた。今慌ててロックダウンを緩和して、事態を悪化させてはならない」と警鐘を鳴らしている。

学界では、新型コロナウイルスに対して有効なワクチンが開発され、実際に投与が始まるのは早くても2021年になるという見方が有力だ。メルケル政権は、市民の生命を守りながら、景気後退の悪影響を最小限にとどめるという難しい綱渡りを、今後長期間にわたって迫られるだろう。

最終更新 Donnerstag, 14 Mai 2020 17:02
 

外出・接触制限の効果は?経済界が求める「出口戦略」

パンデミックは深刻化する一方だ。全世界の新型コロナウイルス感染者数が100万人を突破し、各国で死者数が増加している。日本政府は7日に緊急事態宣言を発令し、7都府県の市民に外出自粛を要請した。

7日、報道陣の前で話すロベルト・コッホ研究所のヴィーラー所長7日、報道陣の前で話すロベルト・コッホ研究所のヴィーラー所長

感染拡大速度に低下の兆候

ドイツの感染者数も、6日に10万人を超えた。しかし感染者の増加速度に変化が見え始めた。連邦政府、各州政府が外出・接触制限令を施行してから約2週間近く経った3日、ロベルト・コッホ研究所のヴィーラ―所長は、「制限令が導入されて以来、ウイルスの拡大速度が鈍り始めた」と述べ、政府の措置が一定の効果を見せていることを明らかにした。

ヴィーラ―所長は、「過去数週間には感染者1人が5~7人にウイルスを感染させていたが、ここ数日間は、感染者がウイルスを伝播する数が1人に減った」と語った。世界保健機関(WHO)の統計によると、3月の第2週目には、ドイツの感染者数は3日間で倍増。しかし4月2日の時点では、倍増にかかる日数が10日に増えていた。メルケル政権は、「重症者の数が急増して、イタリアやスペインのように人工呼吸器や集中治療室が足りなくなる事態を防ぐには、倍増日数を少なくとも14日に伸ばす必要がある」と主張している。

国民の大半が制限令を支持

このためメルケル首相は、直ちに外出・接触制限令を緩和することに反対する姿勢を打ち出した。首相は3日に発表したビデオ演説の中で、「今慌てて制限を緩めると、再び感染拡大速度が高まって、規制の強化が必要になる。そうした事態を避けるためには、復活祭の休暇にも外出制限令を守り、国内旅行や遠足などをやめていただきたい」と国民に訴えた。

ドイツ国民の大半は、メルケル政権の外出・接触制限令に理解を示している。公共放送局ARDが2日に公表した世論調査結果によると、回答者の72%が「メルケル政権のコロナ対策に満足している」と答えたほか、63%が「政府の仕事ぶりに満足している」と回答。63%という比率は、ARDが約20年前にこの世論調査を始めてから最高の数字だ。また回答者の93%が、「外出・接触制限令に賛成だ」と答えている。

「出口戦略」を求める経済界

これに対し産業界や経済学者たちからは、「メルケル政権はどういう条件が整えば現在の経済シャットダウン状態を緩和するのかについて、『出口戦略』を示すべきだ」という声が強まっている。この背景には、コロナ危機が国民経済に及ぼす悪影響が、日に日に深刻化しているという事実がある。

ドイツ商工会議所(DIHK)によると、現在ドイツ企業のほぼ半数が休業状態だ。その比率は、旅行業界と飲食業界では80%、小売業界では68%に上る。ドイツ小売業協会(HDE)は、3月16日の時点で「食料品を除くと、コロナ危機のために小売店業界が1日ごとに失う売上高は、11億5000万ユーロ(1380億円・1ユーロ=120円換算)に達する」と述べていた。4月1日には、全国でデパートを経営するガレリア・カールシュタット・グループが経営難に陥り債権者からの保護を申請した。

自動車メーカーなど多くの製造企業では生産ラインが停止。政府に対して短時間労働制度(クルツアルバイト)の適用を申請している企業は、約47万社に上る。

財界から「出口戦略を早く示してほしい」という声が上がるのも、無理はない。ドイツ経営者連盟のクラーマー会長は、「もしも感染者数の拡大に順調にブレーキがかかれば、5月以降は徐々に経済活動を復活させるべきだ」と訴えた。Ifo経済研究所のフュスト所長は、4月3日に13人の経済学者、医学者とともに提言書を発表し、「他人との間に1.5メートルの距離を取ることやマスク着用を義務付けながら、少しずつ企業活動や学校での授業を再開させるべきだ」と勧告している。

これまでメルケル政権は、国民の健康と安全を最優先にする政策を取ってきた。しかし経済界からは「メルケル首相は、感染症学者の意見を重視し過ぎている。雇用や企業活動にも配慮するべきだ」という意見が強まっているのだ。

コロナ警戒アプリも導入へ

このためメルケル政権も、復活祭の休暇明け以降、何らかの方向性を打ち出さざるを得ないだろう。政府がスマートフォンを利用した「警戒アプリ」の導入へ向けて実験を続けているのは、そのためだ。このアプリをダウンロードすると、一定の距離内に近づいたスマートフォン同士がブルートゥース機能によって自動的にデータを交換し合う。感染した市民がその事実を自分のアプリに登録すると、過去にその人に近づいた人のスマートフォンに自動的にデータが送られる。アプリはこのようにして、感染者と接近した人に対し、ウイルス検査に行くように促す。個人データは匿名化されるので、情報漏えいの心配はない。中国とは異なり、アプリの使用や自分が感染した事実の登録は任意なので強制力がないとはいえ、感染拡大にさらにブレーキをかけるのに役立つかもしれない。

コロナ危機の特徴は、健康への危険と経済への打撃のダブルパンチである点だ。健康を守るために制限令を施行すると経済活動がダウンし、企業や飲食店の活動を再開させると感染拡大のリスクが増大する。政府は、国民の生命を守りながら、大不況を回避するという難題にどのような解決策を打ち出すだろうか。

最終更新 Donnerstag, 16 April 2020 10:14
 

コロナ危機と闘うドイツ、史上初の接触制限令

3月22日、メルケル首相は厳しい表情で報道陣の前に立った。「コロナ危機はドイツにとって第二次世界大戦以降、最大の試練だ。高齢者や基礎疾患がある人たちの命を守るために、市民の自由を制約する措置が必要になった」。首相はこう述べて、ドイツ全土で2人を超える接触を禁止することを明らかにした。この措置は少なくとも4月20日まで続く。

3月25日、人通りのほとんどなくなったベルリンのブランデンブルク門前3月25日、人通りのほとんどなくなったベルリンのブランデンブルク門前

公共の場での、2人を超える接触を禁止

政府は、3月23日に施行された接触制限令によって、同じ世帯に住む家族や仕事で必要な場合を除き、公共の場で3人以上の市民が集うことを禁止。屋外でも他人との間で最低1.5メートルの距離を取るよう要請するとともに、テイクアウトを除く飲食店や理髪店の営業を禁じた。違反者には厳しい罰則が科される。例えばノルトライン=ヴェストファーレン州では、公共の場で3人以上集っていた場合、1人当たり200ユーロ(2万4000円・1ユーロ=120円換算)の罰金がある。

これに先立ち、バイエルン州政府のゼーダ―首相は3月21日から外出制限令を施行。食料など生活必需品の購入や、通院、テレワークができない仕事などを除く外出は禁止され、スーパーや薬局、銀行などを除く商店は閉鎖された。単独や家族での散歩やジョギングは許されている。

なぜドイツでの死亡率は他国よりも低いのか

メルケル政権はなぜ接触制限に踏み切ったのか。それは、イタリアやスペインのような事態を防ぐためだ。これらの国々では、特に重症者の急増に医療機関が対応できず、死者数がうなぎ上りになっている。

ジョンズ・ホプキンス大学によると、3月31日朝の時点のイタリアの感染者数は10万1739人、死者数は1万1591人。感染者数の中の死者数の比率(死亡率)は11.4%。これに対しドイツの感染者数は6万6885人、死者数は645人。死亡率は0.96%と大幅に低くなっている。

ドイツの死亡率が他国よりも低い理由はいくつかある。一つは検査数の多さだ。ベルリン・シャリテー病院のドロステン教授が3月26日に報告したところによると、ドイツでは毎週50万人がPCR検査を受けている。もう一つは、感染拡大の兆候を他国よりも早くキャッチし、隔離や治療を始めたことだ。またドイツではイタリアと違い祖父母がほかの家族と同居せず、別の家に住むケースが多いことも感染を防いでいる。

イタリア北部では1月末に肺炎患者が増えていたが、政府や地方自治体はこれが新型コロナウイルスによるものであることに気が付かなかった。そのため、市民の行動制限措置が大幅に遅れ、病院やサッカーの試合を通じて感染者が爆発的に増えたのだ。ドイツでもカーニバルのパレードや、イタリアからのスキー客の帰国によって感染者が増加。もしも政府が接触制限措置を取らなければ、感染が広がる危険があった。しかし、イタリアやスペインのように、医療体制が重症者数の増加のスピードに対処できなくなる可能性はゼロではない。3月26日にシュパーン保健相は「今は、嵐の前の静けさだ」と述べ、楽観を戒めている。

接触制限により感染拡大速度を遅らせる

ドイツには、人工呼吸器を持つ集中治療室が約2万8000床ある。メルケル政権はこの数を5万床に増やす作業を進めている。つまり政府は、接触制限令によってウイルスの感染速度にブレーキをかけることを目指しているのだ。重症者数がピークを迎える時期を遅らせることによって、医療体制がウイルス拡大に「凌駕」される事態を避けるという戦略である。

ある感染学者は、3月24日の公共放送ARDの特別番組の中で「今ドイツは、感染爆発という断崖に向かって走る列車に、非常ブレーキをかけています。国民全員が協力すれば、断崖に近づく速度を落とせるかもしれません。時間を稼げれば、ワクチンの開発によって、断崖に橋を架けることも可能になるかもしれません」と述べ、接触や外出制限の重要性を強調した。

戦後最大の支援パッケージを実施

しかしシャットダウンが経済に与える悪影響は、日に日に大きくなっている。大手自動車メーカーは欧州や米国での生産を中止したほか、ルフトハンザは国家支援を受けるべく政府と協議中だ。多くの中小企業や食品以外の商店、レストラン経営者らは突然売上高がゼロになり、途方に暮れている。2010年以降、好景気に沸いていたドイツ経済は急転直下、第二次世界大戦以降、最も深刻な景気後退に追い込まれるだろう。

IFO経済研究所は、3月24日に「コロナ危機のために経済活動が3カ月停止した場合、ドイツの今年の国内総生産は約20%減り、失業者数が180万人増える可能性がある。経済損害は、最悪の場合7290億ユーロ(約87兆円)にのぼる」という悲観的な予測を発表した。このため連邦議会は、3月25日に戦後最大規模の経済支援法案を可決した。ドイツは2014年以来財政黒字を記録し「無借金経営」を続けてきたが、今年は1560億ユーロ(18兆7200億円)の国債を発行し、資金供給によって中小企業や市民を支援する。

だが最大の不透明要因は、ウイルス拡大がいつまで続くのかが分からないことだ。ワクチンが開発されるのも、来年以降になるとみられている。ロベルト・コッホ研究所のヴィーラー所長は「このパンデミックは2年間は続くと考えている」と語っている。一刻も早くコロナ危機が世界から去ることを祈りたい。

最終更新 Mittwoch, 01 April 2020 15:22
 

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