ジャパンダイジェスト
独断時評


欧州でのコロナ拡大と忍び寄る不況の影

中国に端を発した新型コロナウイルスの拡大が止まらない。ドイツ、フランスなど欧州各国でも感染者が急増したため、学校、劇場、飲食店などが閉鎖されるなど市民生活に多大な影響が出始めている。

11日、ケルン・ボン空港の電子掲示板に英独で表示された「手を洗おう!」の注意喚起11日、ケルン・ボン空港の電子掲示板に英独で表示された「手を洗おう!」の注意喚起

WHOがパンデミック宣言

11日に世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスの拡大をパンデミック(病原体が複数の大陸に広がる、世界規模の流行)と初めて認定した。

ロベルト・コッホ研究所(RKI)は、10日に発表した通達の中で、「中国の臨床統計によると感染者の80%の症状が軽度か中程度、14%が重症、6%が生命に危険がある状態となった」と述べている。大半の感染者が軽症もしくは中程度の症状で終わるとはいえ、RKIは「50~60歳以上の市民や、糖尿病、がん、心臓病などの持病がある人のリスクは高い」としているため、このウイルスを軽視することは禁物だ。

イタリア政府、全土を「封鎖」

ジョンズ・ホプキンス大学によると、16日の時点で欧州での感染者数は4万人を超えている。イタリアの感染者数は約2万5000人で、中国の次に感染者が多い国となり、死者が約1800人に達した。全世界の感染者数は約17万人、死者数は6500人を超えた。

イタリア政府は、市民の行動制限措置を10日に全土に拡大。不要不急の外出を禁止し、スーパー、薬局、ガソリンスタンドを除く商店の閉鎖を命じた。普段観光客でにぎわうローマやヴェネツィアが、ゴーストタウンと化した。感染症のために国全体が「封鎖地域」に指定されたのは、第二次世界大戦後の欧州で初。さらに、多くの国々が国境を閉鎖している。

市民生活にさまざまな影響

RKIによると、15日の時点でドイツの感染者数は4838人。国内での死者数は12人、エジプトで観光中に死亡したドイツ人が1人だ。感染者数が最も多いのがノルトライン=ヴェストファーレン州(1407人)で、大半がオランダ国境に近いハインスベルク郡で確認されている。またバイエルン州(886人)、バーデン=ヴュルテンベルク州(827人)でも感染者数が増えつつある。

シュパーン連邦保健相は8日、ウイルスの拡大に歯止めをかけるために、参加者数が1000人を超える催しの中止を勧告。バイエルン州政府などは100人を超えるイベントも絶対に必要でない限り中止するよう求めている。ライプツィヒの書籍見本市が中止されたほか、4月に予定されていたハノーファー・メッセは7月に延期。また13日にはサッカーのブンデスリーガの試合などが中止された。コンサートやオペラ、演劇も次々にキャンセルされている。

学校教育にも大きな影響が出ている。大半の州は、16日から復活祭の休暇が始まる4月6日まで、一斉休校に踏み切った。多くの企業も社員の感染の危険を減らすために、在宅勤務(テレワーク)を命じている。ベルリン市当局などは映画館、喫茶店、クラブ、プールなども閉鎖させた。

世界中で株価が一時急落

コロナウイルスは世界経済にも影を落とし始めた。9日には「コロナ禍が不況につながる」という懸念に、原油価格の下落が加わったために世界の主要な株式市場で株価が急落。12日にはニューヨークのダウ株式指数が11%も下落し、過去33年間で最大の下げ幅を記録した。同日ドイツの株式指数市場DAXでも終値が約11%下がった。経済学者の間では「2008年のリーマンショックの状況に似ており、ドイツは景気後退(リセッション)に陥る可能性が強い」という意見が出ている。

ドイツ国内では見本市などの中止により、一部の企業の資金繰りが厳しくなる可能性がある。バカンスや出張などのキャンセルが運輸・旅行業界に与える影響も大きい。このためメルケル政権は、13日に国営金融機関KfWを通じて無制限の融資を実施することで、企業倒産を防ぐ方針を発表。さらに短時間労働制度の条件を緩和したり、納税の延期、苦境に陥った企業の部分的な国有化などの措置も行う方針だ。2008年の金融危機に匹敵する大規模な支援措置である。

メルケル「60~70%が感染する可能性」

メルケル首相は11日に「中長期的にドイツ市民の60~70%が新型コロナウイルスに感染する可能性がある。しかし、それがどれくらいの期間に起こるかは分からない」と発言した。これはベルリン・シャリテー病院のクリスティアン・ドロステン教授など感染症の専門家がすでに公表していた予測だ。この発言からドイツでは危機感が強まった。

大規模な感染が、1年間に起きるのと2年間に起きるのとでは、医療機関への負荷に大きな違いが出る。ワクチン開発にはまだ相当の時間がかかるとみられている。したがってドイツ政府は、イタリアのように感染者が短期間に急増して、医療機関が適切に対応できなくなる事態を防ぐために、市民間の接触を減らし感染拡大のスピードを遅らせようとしているのだ。メルケル首相は「これまでに例のない事態だ。市民全員が責任感をもって行動してほしい」と訴えている。過度な不安やパニックに陥ることなく、正しい情報を入手し、ウイルスの拡大を防ぐ努力をすることが重要だ。

最終更新 Mittwoch, 01 April 2020 14:50
 

ハーナウ極右テロと政府の無力

ドイツで極右の暴走がやまない。2月19日夜に、人種差別思想を持つドイツ人がヘッセン州ハーナウで外国人ら10人を射殺した事件は、この国の政府や捜査当局が、極右の無差別テロに対して有効な対抗手段を持っていないことを白日の下に曝した。

2月23日、ハーナウで数千人の人々が参列した犠牲者の葬儀行進2月23日、ハーナウで数千人の人々が参列した犠牲者の葬儀行進

外国人・移民が犠牲に

この日トビアス・R(43歳)は、ハーナウのシーシャ(水たばこ)バー2カ所とキオスクに車で乗り付け、トルコ系ドイツ人、クルド人、ルーマニア人、ボスニア・ヘルツェゴビナ人など9人をピストルで殺害し、5人に重軽傷を負わせた。彼は自宅へ戻ると母親を道連れにして自殺。Rの母親を除くと、殺されたのはすべて外国人か、ドイツ国籍を取った移民だった。

Rは銀行やネット企業を転々とした後、失業して両親とともに自宅に住んでいた。射撃クラブの会員で、合法的にピストルを所有していた。彼は前科もなく、極右団体にも属していなかったことから、捜査当局からは全くマークされていなかった。

Rがインターネット上に公開した映像などによると、彼はトルコ人など中東系の外国人に敵意を抱いており、「中東やアジアの24カ国を完全に殲滅(せんめつ)するべきだ」と述べている。さらに彼は「秘密諜報機関から常に監視されており、私にガールフレンドができないのは監視のためだ」として、検察庁に対してこの諜報機関を告訴していた。このため連邦検察庁は、精神を病んで強迫観念にかられていたRが、インターネットなどで人種差別思想に汚染され、「すべての問題は外国人にある」という確信から凶行に走ったと見ている。

9カ月間で3件の極右テロ

ドイツでは過去9カ月に、極右によるテロが3件も発生。昨年6月にはヘッセン州カッセル区長のリュプケ氏(65歳)が、自宅のテラスで極右団体の元構成員によって射殺された。キリスト教民主同盟(CDU)に属する同氏は、メルケル首相の難民受け入れ政策を支持し、難民救済の重要性を強調したために、ネット上で極右勢力から殺害予告を受けていた。極右テロリストが政治家を殺害したのは、第二次世界大戦後初めて。

また昨年10月には、旧東独のハレで27歳のドイツ人がユダヤ教の礼拝施設(シナゴーグ)に銃と爆発物を持って乱入しようとした。しかし内部から施錠されていた扉を開けることができなかったために、通りがかりのドイツ人女性ら2人を射殺。彼はネット上に公開した映像の中で、シナゴーグで礼拝中のユダヤ人らを殺害することが目的だったと語っている。

2011年にも、旧東独のネオナチによる連続テロが明るみに出た。テューリンゲン州の「国家社会主義地下組織(NSU)」というグループが、2000年からの7年間で、ミュンヘンやハンブルクでトルコ人、ギリシャ人、ドイツ人警察官など10人を殺害していたのだ。

メルケル首相らは犯行を強く糾弾

ドイツの政治家たちは、立て続けに起こる極右テロに茫然としている。メルケル首相は「人種差別主義と憎しみは、社会を侵す毒だ」と述べ、人種差別主義を強く糾弾した。シュタインマイヤー大統領は、テロの当日にハーナウの事件現場に駆け付けた。殺された市民の家族や友人は大統領に対し、「われわれもドイツの市民だ。殺されたのはドイツの市民なのだ」と訴えた。大統領は、「全くその通りだ。われわれは今、団結しなくてはならない。テロによって社会に亀裂を生んではならない」と語り、ドイツ人と移民的背景を持つ市民が結束を強めなくてはならないと強調した。

AfDにも間接的責任?

ドイツでは右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の間接的な責任を問う声が強まっている。AfDは2013年に結党され、2017年の総選挙で第3党となった。AfDの幹部たちは、公共の場やインターネット上で、イスラム教徒や移民を敵対視する発言を繰り返してきた。彼らの言葉の暴力が、一部の極右勢力の暴走につながっているというのだ。同党の下部組織「翼」と青年組織「若い選択肢」は、憲法擁護庁から予備的監視を受けている。

一方、AfDのガウラント院内総務は「今回の事件は精神を病んだ者による犯罪であり、わが党に責任を押しつけるのはお門違いだ。事件をAfD弾圧のために利用するべきではない」と述べ、責任を否定している。だがドイツの政治家やメディア関係者の間では、AfDを右翼政党ではなく極右政党と呼ぶ者が増えているほか、党全体を憲法擁護庁に監視させるべきだという意見も。今後AfDへの風当たりが強まることは確実だ。

一匹狼の犯行は阻止が困難

ゼーホーファー内務大臣は、「極右テロは現在のドイツにとって最大の脅威だ」と述べ、モスクやシナゴーグ周辺、鉄道の駅や空港での警戒態勢を強化する方針を明らかにした。だがハレとハーナウの事件の犯人は、捜査当局のブラックリストに載っていなかった。さらにハレの事件の犯人は、殺傷能力のある武器を自作。こうした「一匹狼」のテロリストによる犯行を、捜査当局が事前にキャッチするのは極めて困難だ。ネット上の「極右ウイルス」に心を汚染される者が減らない限り、外国人を狙ったテロが今後も繰り返される危険がある。ドイツはかつて安全な国と言われたが、21世紀に入って社会のタガが外れ、以前には考えられなかったような犯罪が起きていることは残念だ。

最終更新 Mittwoch, 04 März 2020 19:07
 

FDPと右翼政党が「結託」 - テューリンゲン発の激震

「ついにダムが決壊した」。2月5日に旧東独のテューリンゲン州議会で起きた「政変」を見て、多くの政治家、報道関係者がこう語った。既成政党がタブーを破り、初めて右翼政党の力を借りて、一時的に州政府のトップの座に就いたのだ。2月10日には、メルケル首相の後継者として最も有力視されていた、キリスト教民主同盟(CDU)のクランプ=カレンバウアー党首が混乱の責任を取って辞意を表明するなど、中央政界も大きく揺さぶられている。

2月7日、報道陣の前で話すケンメリヒ氏(FDP)2月7日、報道陣の前で話すケンメリヒ氏(FDP)

FDP議員がAfDの支持を受けて首相に当選

テューリンゲン州で昨年10月に行われた州議会選挙では、左翼党が31%の得票率を確保し首位となったが、連立交渉が難航して新政権の成立が遅れていた。このため州議会での票決により首相を選ぶことに。そして、3回目の票決で驚くべき事態が起きた。保守中道の自由民主党(FDP)のケンメリヒ議員が45票を獲得したのだ。彼は、左翼党のラメロウ前首相(44票)と1票の差で首相に選ばれた。

だが問題は、ケンメリヒ氏が右翼政党・ドイツのための選択肢(AfD)の議員団の支援を受けて当選したことだ。AfDは自党の候補に投票せず、ケンメリヒ議員に全票を投じた。つまりFDPの候補者は、右翼政党の援護を受けて、州首相の座に就いたのだ。FDPは旧東独では泡沫政党であり、昨年10月の州議会選挙での得票率は5%にすぎない。ケンメリヒ氏はCDUの支援も受けたが、AfDの票なしに首相になることは不可能だった。AfDは昨年10月の州議会選挙で得票率を前回の2.2倍に増やして、第二党になっている。

なぜAfDはケンメリヒ氏に票を投じたのか。AfDの目的は、左翼党・社会民主党(SPD)・緑の党の連立政権を崩壊させること。そこでAfDは、赤・赤・緑政権を崩すために、FDPの候補に票を集中させた。ケンメリヒ議員の当選で、AfDはラメロウ氏を首相の座から追い落とすことに成功したのだった。

ネオナチに近い政党がキングメーカーに

AfDは、イスラム教徒を敵視し、排外主義を標榜する右翼政党。テューリンゲン州議会でAfD議員団を率いるヘッケ院内総務は、ベルリンのホロコースト(ユダヤ人虐殺)の犠牲者のための追悼碑を「恥のモニュメント」と呼ぶ歴史修正主義者だ。ヘッケ氏は、AfDで最右翼に位置し、人種差別的な傾向を持つ下部組織「翼(フリューゲル)」の幹部でもある。フリューゲルは連邦憲法擁護庁から「民主主義を脅かす極右団体に近い」という理由で監視されている。

AfDには、ネオナチに近い思想を持つ議員も少なくない。このため、すべての政党は、地方支部に対してAfDとの連立や提携を禁止している。だが今回初めて、AfDは「キングメーカー」の役割を演じた。FDPという既成政党が、自党の議員を権力の座に就かせるために、AfDの票を使ったのだ。

CDU党首も引責辞任へ

ケンメリヒ首相の誕生については、ドイツ全土で批判の声が巻き起こった。テューリンゲン州議会の前では、市民がFDPとAfDに抗議するデモを行った。メルケル首相も「許すことのできない事態だ。今日は、民主主義にとって悪い日となった。首相の選出をやり直すべきだ」と厳しい言葉で批判した。

CDUのクランプ=カレンバウアー党首は、FDPのリントナー党首に対し「FDP議員がAfDの支持を受けて首相の座に就いたのは、偶然ではないはずだ。FDP執行部は、テューリンゲン州支部を十分管理できていない」と厳しい批判を浴びせた。

だがCDU議員団も、AfD同様にケンメリヒ氏を支援して赤・赤・緑政権を倒すのに一役買ってしまった。このためクランプ=カレンバウアー氏に対する批判が強まり、同氏はCDU党首を辞任する意向を表明。AfDの毒矢は政権党の中枢をも直撃したのだ。

テューリンゲン州議会で左翼党の議員団を率いるヘンニッヒ=ヴェルゾウ院内総務は、ケンメリヒ氏が首相に選ばれた後、持っていた花束を新首相に手渡さずにその足下に投げ捨て、「あなたは民主主義者ではない」という言葉を浴びせて抗議の意思を表した。

過激政党の影響力増大を示す事態

ナチスによる迫害の被害者を支援する国際アウシュヴィッツ委員会は、「テューリンゲン州議会で起きたことは、致命的だ。既成政党の、『AfDと協力しない』という約束は、説得力が薄れる一方。AfDは、既成政党が極右勢力に対抗するために団結できないということを、全世界に見せつけた。これは破局的な事態であり、民主政治に深刻な被害を与えるだろう」という声明を発表した。

ケンメリヒ氏は「私は反AfDの政治家であり、同党とは絶対に連立・協力しない」と釈明したが、世論の轟轟(ごうごう)たる非難の前に、就任から3日足らずで首相を辞職した。

だがドイツ全体を揺さぶった激震は、ケンメリヒ氏の辞任では収まらない。既成政党が、AfDと結託して権力の座に就くという事態は、すでに起きてしまったからだ。AfDは「もはやわれわれを政治の世界から閉め出そうという試みは、成功しない」と豪語している。テューリンゲン州議会で起きた事態は、ネオナチに近い過激政党の政治的な影響力が強まっていることを示している。なかには、「ワイマール共和国に似てきた」という声も。われわれドイツに住む日本人にとっても、深刻な事態である。

最終更新 Donnerstag, 20 Februar 2020 10:47
 

新型肺炎の脅威とドイツ経済

新しい年を迎えたばかりの世界を、未知の病の影が覆っている。昨年12月に中国・武漢で発生した新型肺炎は瞬く間にほかの地域に広がった。空の旅が当たり前になったことと経済のグローバル化により、新型コロナウイルス2019-nCoVの感染者は中国以外の国々でも増えつつある。

1月29日、封鎖された武漢市で建設が進められている仮設病院1月29日、封鎖された武漢市で建設が進められている仮設病院

SARSを上回る感染者数

中国の保健当局、国家衛生健康委員会によると、2月4日の時点では、中国で約2万人が感染し、425人が死亡した。これは2003年に中国や香港に広まった新型肺炎SARS(重症急性呼吸器症候群)の感染者の数を大幅に上回る。

このほか2月3日の時点で、日本、米国、シンガポール、オーストラリアなど23カ国で183人の感染者が見つかっている(そのうちフィリピンで1人が死亡)。ドイツではこれまでに12人の感染が確認された。中国では感染者の数が毎日急激に増えている。だがウイルスの潜伏期間は最長14日間で、この間にも他人にウイルスが感染することから、医療機関が確認した感染者の数は、氷山の一角とみられている。

武漢など数都市を「封鎖」

中国政府はウイルスの拡大を防ぐために、SARSの時よりも厳格な対策を取った。中国は武漢と他地域を結ぶ交通を遮断し、武漢市民が市外に出ることや、他地域からの市民が同市に入ることも禁止した。さらに湖北省のほかの数カ所の都市でも事実上の「封鎖措置」が取られている。これらの街では合計約5000万人の市民が足止めを食っている。このため日本、米国、ドイツなどの政府はチャーター機などを武漢に送り自国民を「救出」した。

感染症のために百万都市の住民が事実上の隔離状態に置かれるというのは、歴史上例がない。中国政府が今回の事態をいかに深刻に見ているかを示している。武漢では患者の数に比べて医療施設が不足しているため、新たな病院が建設された。

だが、新型肺炎発生のタイミングは非常に悪かった。この時期は中国の春節(旧正月)の休日のために、多くの市民が国内外へ旅行するからだ。武漢市が封鎖される前に、住民1100万人のうち500万人がすでに同市を離れていたという情報もある。つまり新型肺炎の拡大は目に見えない所で進んでいる可能性が高い。

このコロナウイルスの発生源は、武漢の海鮮市場で食用に売られていた野生動物とみられている。動物の体内にあったコロナウイルスが、「種の壁」を乗り越えて人間に伝播し、人間から人間へ感染するようになった新種の病原体だ。このため、治療薬もワクチンもまだ開発されていない。

パンデミックの脅威

WHOは、ウイルスが複数の国々、複数の大陸に広がって多数の市民を感染させる現象を「パンデミック」と呼んでいる。1918年のスペイン風邪、1968年の香港風邪、2003年のSARSや2009年の豚インフルエンザ(H1N1)はその例だ。

WHOは、1月30日に武漢発の新型肺炎を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」と認定し、各国にウイルス拡大防止のための対策を取るよう求めた。2月3日の時点では、WHOはこの肺炎をパンデミックとは呼んでいない。だが米国・国立アレルギー感染症研究所のフォーシ所長は、2月3日付のニューヨークタイムズ紙に対し「このウイルスの感染力は非常に強く、患者数は毎日急増している。パンデミックに発展することは、ほぼ確実だ」と語っている。

世界経済にも悪影響?

新型肺炎の流行が長期間にわたった場合、世界経済にも深刻な影響が出る可能性がある。すでに多くの企業が中国への出張を延期、または中止するよう社員に命じている。ドイツだけではなく、世界中の多くの企業にとって中国は最も重要な市場の1つ。世界中で毎年販売される車の3台に1台は中国で売られ、ドイツのフォルクスワーゲン・グループでは2.4台に1台に達する。世界銀行によると中国の経済成長率は2007年には14.2%だったが、2018年には6.6%に低下した。新型肺炎のために企業活動に支障が出た場合、経済成長率をさらに圧迫する可能性がある。

金融市場にも新型肺炎の影響が出始めた。1月27日には、ドイツの株式指数市場(DAX)で「新型肺炎が経済に悪影響を与えるかもしれない」という懸念が広がり、株式指数が2.7%下落した。2月3日には、上海株式市場でも株価が一時8.7%下落した。

ドイツ保健当局の素早い対応

ドイツではまだ感染者数が少ないため、医療関係者は余裕を持って感染者の治療にあたっている。保健当局はバイエルン州で見つかった最初の感染者の感染経路も直ちに特定し、この人物が接触した人々に対する検査を実施。連邦健康省も、「事態は深刻だが、われわれは万端の準備を整えている」と述べている。

だが武漢など中国の都市では医師や看護師たちが不眠不休で、病院に押し寄せる患者たちの治療にあたり、未知の病原体と闘っている。街からの脱出を政府によって禁じられた「封鎖都市」の市民たち、特に幼い子どものいる親の不安はどれほどであろうか。一刻も早く治療薬やワクチンが開発されて、感染者数や死者数の増加に歯止めがかかることを祈りたい。

最終更新 Dienstag, 10 März 2020 10:57
 

米国・イラン戦争の危険とドイツの苦悩

新年早々、中東で新たな戦争の危険が高まっている。1月3日に米国はイランの挑発行為に対する報復として、同国の革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したのだ。

6日、ソレイマニ司令官の葬儀に数十万人が参列。米国とイスラエル国旗が燃やされる場面も6日、ソレイマニ司令官の葬儀に数十万人が参列。米国とイスラエル国旗が燃やされる場面も

「影のナンバー2」を暗殺

ソレイマニ氏は、革命防衛隊のエリート部隊「コッズ部隊」の司令官だが、イランの宗教指導者ハメネイ師の片腕で、同国の「影のナンバー2」と呼ばれた人物だった。ソレイマニ司令官はシリアから飛行機でイラクのバグダッド空港に到着し、迎えの車に乗り込んだ直後に、米軍のドローンによるミサイル攻撃で殺害された。イランはこの暗殺を「国家によるテロ」と強く非難している。

ドイツをはじめとする欧州連合(EU)諸国は米国とイランに対し自制と軍事衝突の回避を求めているが、8日にはイラン軍がイラク国内の米軍基地をミサイルで攻撃するなど、両国が正面衝突する危険は刻一刻と高まっている。

ドイツ・EUは両国に自制を要求

欧州は、米国や日本以上に中東危機の影響を強く受ける。ドイツなどEU諸国は、中東の国々との政治的・経済的な結びつきが強い。それだけに、ドイツとEUの反応は速かった。たとえばドイツのマース外相は、事件の翌日に新聞のインタビューで、「ソレイマニ司令官は中東各地でテロ事件を起こしてきたため、EUのブラックリストにテロリストとして登録されていた」と述べ、まずこの人物が米国だけでなく、EUからも危険視されていた点を強調した。だがマース外相は同時に「ソレイマニ殺害によって、中東情勢全体が不安定になった。緊張緩和の試みが一段と難しくなった」として、米国のソレイマニ暗殺を間接的に批判した。

さらにマース外相は「われわれの政策目標は、3つある。1つ目は、米国とイランの軍事衝突を避けること。2つ目は、イラクの安定を維持すること。3つ目は、この混乱に乗じてテロ組織イスラム国(IS)が勢力を回復するのを防ぐことだ。われわれは国連などを通じて、事態の鎮静化に全力を尽くす」と述べた。ドイツは、イラクに駐留する反IS連合軍に約120人の将兵を派遣し、ISと戦うクルド人民兵に軍事訓練を行っている。

メルケル首相も6日にフランスのマクロン大統領、英国のジョンソン首相とともに共同声明を発表し、事態の鎮静化を求めた。メルケル首相らは声明のなかで、まず「イランが先月以来、イラク国内に駐留する反IS連合軍に対して挑発攻撃を行ってきたことを糾弾する。さらにソレイマニ司令官が率いるコッズ部隊が、中東各地でテロ行為などを起こしてきたことについても、深く憂慮する」として、イラン側の態度にも非があったことを指摘した。

その上で三首脳は、「関係各国に対し自制と戦闘行為の終結を求める。事態をこれ以上エスカレートさせてはならない」として、米国とイランに軍事攻撃を行わないように要求した。そしてメルケル首相らはイランに対し、2015年に英独仏、米国、ロシア、中国と調印した核合意の維持を求めた。

昨年からイランの挑発が激化

なぜ米国は、ソレイマニ司令官殺害という過激な作戦を実行したのか。その背景には、イランによる挑発行為のエスカレートがある。

昨年6月にイラン軍は、ホルムズ海峡上空で米軍のドローンを撃墜した。トランプ大統領は革命防衛隊の施設への攻撃を命令したが、攻撃直前に命令を撤回。その3カ月後にはサウジアラビアの製油施設がドローンによって攻撃され、イランが支援するイエメンの民兵組織フーシ派が「攻撃を実行した」という声明を出した。この時も米国は報復しなかった。

だが先月初めてイランの攻撃により米国人の死者が出たことで、トランプ大統領は態度を硬化させた。米国はイラクに駐留する反IS連合軍の中核である。昨年12月27日に、イランが支援するイラクのシーア派民兵組織「人民動員隊(PMF)」が、イラク北部キルクークの米軍基地K1をロケット弾で攻撃。米国の軍属1人が死亡し、米兵4人とイラク兵2人が重軽傷を負った。米軍が報復として2日後にPMFの施設を空爆して25人を殺害すると、シーア派民兵組織は大晦日に暴徒を動員してバグダッドの米国大使館に放火し、突入を図った。米国の海兵隊員たちは暴徒の侵入をからくも食い止め、大使館が占拠される事態は避けられた。

トランプ大統領は今年11月に大統領選挙を控えているため、イラン危機で弱腰の姿勢を見せることで支持率が下がることを恐れているのだ。

中東の核軍拡競争への懸念

今回の事件について、EUの外交担当者の間では失望感が強い。EU諸国は米国がイランとの核合意からの離脱を表明した後も、イランがこの合意を維持するよう説得に努めてきた。だが暗殺事件によって、核合意は事実上終焉したも同然だ。

EUが最も恐れるのは、今回の事件でイランが核兵器開発に拍車をかけることだ。イランと敵対関係にあるサウジアラビアをはじめ、エジプトやトルコも核兵器の開発を始める可能性がある。欧州の目と鼻の先の中東での核軍拡競争は、EUにとって最悪の事態の1つだ。米国とイランの全面戦争は、両国民の間に死傷者を出すだけではなく、世界の景気にも悪影響を与える。一刻も早く事態が鎮静化されることを祈りたい。

最終更新 Donnerstag, 16 Januar 2020 18:06
 

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