第03回 英国カントリーサイドの姿
全校生徒がすべてホワイト・ブリティッシュという小学校は、いまや私立の名門小学校に当たるプレップ・スクールでも、なかなかお目にかかれない光景だと思います。さらに息子の転校先は公立校でしたが、保護者の職業は医者や弁護士、大学やグラマー・スクールの教員や辞典の編集者、そして農場経営者などなど。労働者階級とはいえ、ミドル・クラスに極めて近い人たちばかりでした。
そう、これらは英国のカントリーサイドの特徴の一つと言えますが、俯瞰的に見れば都会と田舎の生活及び文化水準の違いは、実はほとんどないのではないかと感じています。ロンドンの東部と西部で生活や教育水準が異なるように、田舎においても同じ地域でもエリアによる教育格差がとても大きく、それが就学児童を持つ親の悩みとなり、さらにエリアによる住宅費の格差などにも繋がっています。
この「エリア」とは、子育て中の親にとっては「学区域」に当たります。英国流に言うと「キャッチメント」。英国の公立校は日本と同様、入学や転校の際は、自分の住むキャッチメントにある公立校から学校を選ばなければなりません。全校生徒が1000人前後と規模が大きくなる中学校(セカンダリー・スクール)は、そのキャッチメントも広域ですが、子供の送り迎えが親の義務となる小学校は、小さな村ごとにあることも多く、キャッチメントもぐっと狭くなります。必然的に、児童数が少ない小規模な小学校には、その学校近くに暮らす家庭の子供ばかりが集うことになるわけです。
従って英国の公立小学校の場合は、学区域を慎重に選べば、私立に劣らない教育環境に巡り会うこともできるのです。それだけに、英国人の中でも特に教育熱心な人たちは、結婚や妊娠を契機に、評判の良い公立校のあるエリアに転居することも少なくありません。またそうした地域の住宅価格は、常に英国全体の平均より上回り、富裕層が集まる結果となります。これは例えば、英国最大の住宅情報オンライン・サイトで家を探す際、その物件周辺の小・中学校の位置や、政府による教育機関の検査評価などが一目で分かる「スクール・チェック」が、物件情報の重要な項目に挙げられていることからも証明されています。
英国人が私たち親子にカントリーサイドを子育ての場として勧めたのは、ロンドンなどに比べてはるかに安価な住宅費で、評判の良い学校があるエリアが多数見つかるという理由もあったようです。
そして、子育て面ではちょっとぜいたくなカントリーサイドに暮らすファミリー層は、当然の結果かも知れませんが、皆アンチ都会派。当時は、そのような認識などゼロの状態でしたが、やがて判明するアンチ都会派の英国人ペアレンツと学校の先生たちの大歓迎を受けながら、いよいよ息子の転校初日を迎えたのです。
寒い季節になっても公園で元気に遊ぶ子供たち