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Fri, 20 December 2024
スズキ・ユウリさんサウンド・アーティスト、デザイナー
スズキ・ユウリさん

[ 前編 ] ターナー、コンスタブル、ミレーといった西洋の美術史に燦さんぜん然と輝く英国人画家たちの作品がずらりと並ぶテート・ブリテン。英国美術界の牙城とでも呼ぶべきこの場所の一室に、現在、ある日本人アーティストの立体作品が展示されている。作品の制作過程をも展示内容にしてしまう、そのアーティストの正体とは。
プロフィール
すずきゆうり - 1980年生まれ、東京都出身。芸術ユニット「明和電機」のアシスタントとして活動後に渡英。2008年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の修士課程を修了。以後、ロンドンを拠点とし、作品制作に加えてRCAなどでの指導に携わる。13年11月からはテート・ブリテンでジューク・ボックスをテーマとした作品の展示を開始。展示室で作品制作の実演を行うことも。

Juke Box meets Tate Britain: Yuri Suzuki
2月28日(金)まで 10:00-18:00 無料
Tate Britain
Millbank, London SW1P 4RG
www.tate.org.uk

 

奇妙な機材を操る日本人アーティスト

「僕の作品は稼働しないと話にならない。壊れたりすると大変ですよ」。作品の点検や修理に追われる日々について語りながら、スズキさんは苦笑いしてみせた。

テムズ河に臨むテート・ブリテンの正面玄関をくぐり、改装を終えたばかりの豪ごうしゃ奢な白いらせん階段の左脇を抜けると、黒い壁に蛍光ピンク色で「Yuri Suzuki」と書かれた部屋にたどり着く。内部はほぼ暗闇状態。その奥に、まるで深夜の自動販売機のようにぼんやりと光を放つ昔懐かしいジューク・ボックスが置かれている。反対側の隅っこに目をやると、逆さにした哺乳瓶をDJのターンテーブルに取り付けたような奇妙な機材を操るスズキさんがいた。少年や子供の手を引く母親といった来場客らと何やら言葉を交わしている。

「Juke Box meets Tate Britain」と名付けられたこの作品は、文字通りジューク・ボックスを使ったサウンド・アートである。各レコードのラベルを眺めると、テート・ブリテンに置かれたそのほかの展示物との関連性が見えてくるという仕掛けを用意。また音楽をデジタル保存することが多くなった現代におけるアナログの復権を目指して、レコードを焼きながら、そのレコードをジューク・ボックスの中に徐々に充填していくという現在進行形のプロジェクトでもある。

ジューク・ボックスを眺める子供達
テート・ブリテンで展示されているジューク・ボックス

スズキさんは、月2回ほど、ジューク・ボックスの点検を兼ねて美術館に自前の機材を持ち込み、その場でレコードを焼く作業に勤しむ。来場者に作品の趣旨などを説明し、機材を片付けるまでが彼の仕事。「テートにある彫刻や絵画作品の多くはつくったら終わりかもしれませんけど、僕の作品は修理とか子供たちとのコミュニケーションを頑張らなきゃいけないので大変です」。だがその言葉とは裏腹に、なんだかとても楽しそうでもある。

幻滅しかけた日本での学生時代

日本では「インダストリアル・デザインを学びたい」という思いを胸に、大学の美術学部に入った。しかし、そこは事実上の企業デザイナー養成校。「自分がやりたいことと、顧客が持ってきたものを会社として請け負うことって全然違うじゃないですか。僕が『こういうことが面白いと思う』と言ったって、学校の先生は『全然だめ』の一言で終わり。あっ、何かちょっと違うなって」。

大学の授業に幻滅を感じかけていたころに、気鋭のアート集団「明和電機」のアシスタントを務め始めた。日本の中小企業の社員をイメージした青い作業服を着用して「収納式ハリセン」や「雷が落ちると上空の雷に向かって剣が飛ぶ避雷針」といったユニークな作品づくりを行うアーティストとの出会い。「面白くてしょうがなかったです。学校にはほとんど行かなくなりました」。

明和電気社長と写るスズキさん
明和電機のアシスタントを務めていたころのスズキさん(写真中央)

奇しくも、明和電機のプロジェクトが、スズキさんが渡英するきっかけにもなった。2001年にロンドンの高級デパートであるセルフリッジズで開催された展覧会「トーキョーライフ」に明和電機が参加。10日間に及んだ滞在期間中に毎日3回、地下の特設ステージでパフォーマンスを披露した。そのときに駆けつけた学生たちの中に、ロンドンの名門美術大学として知られるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の学生たちが多くいたのだ。その後、わざわざ来日して明和電機を訪問する学生や卒業生も少なくなかったという。

「そのころの僕は、好きなデザインをスクラップしていたんですね。そしたら、ロンドンからはるばるやって来てくれた方々が、まさに自分がスクラップしていた作品のクリエイターたちなんですよ。話を聞いてみたら、皆さんRCAの出身で。これはすごく面白そうだなと思い、RCAに入学することにしました」。

 

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