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Tue, 08 October 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 85

イブズ・プディング
Eve's Pudding

Eve's Pudding

アイスクリームやゼリーなどの冷菓だけでなく、英国ではスプーンを使って食べる温かいデザートがたくさんあります。スポンジ・ケーキと、しっとりと煮えたリンゴが組み合わさったお菓子「イブズ・プディング」もその一つ。日本では、ケーキはフォークで食べるのが一般的でしょう。でも、底の部分に溜まったリンゴの煮汁と、柔らかく煮溶けたリンゴ、そしてその両者を包み込むようなほわほわとしたスポンジ。それが三位一体となった英国のプディングを一気にすくうのは、スプーンでなければならないのです。

そして、一口食べてみれば……。ふわふわ生地のバターのコク、砂糖の甘み、リンゴのほのかな酸味が一体となって、それはもう完璧というしかないほどのプディングらしいプディングなのです。

ところで、私はここで「プディング、プディング」と連呼していますが、プディングとは、そもそも一体何のことかご存知でしょうか。現代の英国では、デザートや甘いお菓子の意味に使われていますが、かつては必ずしもそうではありませんでした。語源はラテン語の「Botellus(ソーセージ)」からきているそうで、中世には、動物の腸や胃袋に、肉や内臓、パン粉やスーイット(牛や羊の脂)を混ぜて詰め物にしたものがプディングと呼ばれていました。

17世紀には、内臓膜の代わりに、布を使ったプディング専用の袋が使われるようになり、肉をメインとしたプディングに加え、砂糖を使った甘いプディングも登場。そして、それまで高価で富裕層のみ入手可能だった砂糖が庶民の手にも入るようになった18世紀に、甘いプディングが主流を占めるようになりました。

英国のプディングのおいしさは外国の人々をも魅了し、19世紀には世界的に有名になっていきます。その証拠に、1814年にフランスで出版された料理書「L'Art du Cuisinier」にも、英国のプラム・プディングのレシピが掲載されています。

イブズ・プディングに話を戻すと、1800年代の料理書にいくつかレシピが登場しています。ただし、中身は現在のものと若干異なり、リンゴ以外にカランツが加えられています。また、まだベイキング・パウダーが発明される以前ということもあってか、小麦粉でなく、パン粉が卵やほかの材料と混ぜて使われています。それを茹でて作ったといい、仕上げにレモン果汁とナツメグを合わせたソースや、溶かしバターなどを添えるようにと書かれています。

これが、いつどのような経緯で煮リンゴの上にスポンジ・ケーキを被せたような現代版イブズ・プディングに変化したのかはよく分かっていません。

ところで、日本語ではイブズ・プディングと表記していますが、英国では「イーブズ」と伸ばして発音しないと通じないので、レストランで注文の際にはご注意くださいね。

イブズ・プディングの作り方
(1 ~ 1.2リットル容量の耐熱容器1個分)

材料

  • リンゴ(クッキング・アップル) ... 600g
  • カスター・シュガー (40gはリンゴにまぶす用、100gはスポンジ生地用) ... 140g
  • シナモン ... 少々(好みで)
  • 小麦粉 ... 100g
  • バター(室温に戻したもの) ... 100g
  • 卵 ... 2個
  • ベイキング・パウダー ... 小さじ1.5

作り方

  1. リンゴの皮をむいていちょう切りにしたものに、シナモンとカスター・シュガー40gを混ぜ、それを耐熱容器に均等の高さになるように敷き詰める。
  2. バターにカスター・シュガー100gを加え、クリーム状になるまでよく混ぜ合わせる。
  3. ❷に溶き卵を少しずつ加えて混ぜ合わせる。
  4. 小麦粉とベイキング・パウダーを混ぜて、❸に加え、ダマがなくなるまで混ぜ合わせる。
  5. ❹を❶の上全体に均等の高さになるように広げる。
  6. 約170℃に予熱したオーブンで、約30~40分焼き上げる。表面がきつね色になり、竹串を生地に刺してみて何も付いてこなければ出来上がり。好みでカスタードやダブル・クリームをかけて召し上がれ。
memo

英国では、プディングへのこだわり、思い入れがある人は少なくなく、著名な英フード・ライターのナイジェル・スレーター氏もその一人。「プディングは幸福になるために重要なもの。プディングは癒しであり、私たちを甘やかし、包み込んでくれる存在」とまで言っています。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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