ジャパンダイジェスト

独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計13年間ドイツに駐在。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第16回ECBが利下げサイクルへ転換 ドイツ経済への影響は?

ユーロ圏経済の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)が、約2年間の利上げ局面を終了し、6月から利下げに転じている。マクロ経済の潮目が変わった節目でもあるので、今回はECB利下げ局面におけるドイツ・ビジネス上の注目点について整理しておく。

  • ECBが6月に利下げを開始したため、ユーロ圏・ドイツ経済は新たな局面に入った
  • ドイツでは景気が弱い割にインフレが高く、バランスの悪い状態が長期化しそう
  • 遅め・小さめの円高ヘッジ、余剰資金の小まめな運用、フランス情勢注視を推奨

利上げサイクルから利下げサイクルに転じたECB

域内共通通貨ユーロの番人であるECBはユーロ圏全体の物価安定をミッションとしており、インフレ目標を2%に設定している。しかしピーク時に10%を超えるほどインフレが悪化したため、2022年7月から2023年9月までの間に政策金利を累計4.5%引き上げた。その結果、ドイツでも長短金利が急上昇し、建設業を中心に投資が大きく冷え込み、ドイツ経済低迷長期化の一因となった。

そのECBが、インフレ低下傾向の定着が確認できたということで、今年6月に0.25%の利下げに舵を切った。利上げサイクルが終了し、利下げサイクルに転換したということである。この利下げサイクルは少なくとも来年いっぱいは続き、今後は3カ月ごとに0.25%ずつくらいのペースで利下げが進められていく可能性が高い。ドイツを含むユーロ圏のマクロ経済が、これまでとは異なる新たな局面に入ったということをまず認識しておきたい。

ECBとドイツ連銀の経済予測から読み取れるもの

金融政策上の転換点となった6月、ECBとドイツ連銀は各種資源価格や為替レートなどの前提条件をそろえた上で、2026年までの経済見通しを発表した。その主要計数を比較したのが下記の表だ。

ECBの利下げによるサポートもあり、ドイツの実質GDP(国内総生産)成長率は今年以降緩やかな回復に向かうものの、来年までユーロ圏平均を下回る成長率にとどまる見込みである。ユーロ圏経済の約3割のウエートを占めるドイツ経済が、本来期待されるけん引役ではなく、お荷物になっているのだ。インフレ率の高止まりがドイツの実質成長率を押し下げる一因となっており、ドイツのインフレは2026年になっても2.2%と、ECB目標の2%を上回り続ける見込みである。ドイツではユーロ圏より高めの賃金上昇が続いており、安易な追加利下げによるインフレ上振れを警戒する声が根強い。ECBとしても、現時点で今後の利下げ軌道を具体的に計画しているわけではなく、データを確認しながら慎重に利下げを進めていくスタンスを表明している。

今後のECB利下げ局面において、インフレのリスクは上振れ方向とみられている。注目点は、❶賃金(特にドイツでは上昇圧力が強い)、❷為替(米景気が堅調な一方、フランス財政に懸念が持たれているなか、ユーロ安がインフレを押し上げるリスクがある)、❸エネルギー価格(地政学リスクに大きく左右される)の三つであり、これらがECBの利下げを躊ちゅうちょ躇させる要因となりうる。

円安は続くのか?在独日本企業のインプリケーション

6月日銀短観によると、ユーロ/円の「想定為替レート」(業績見通しや事業計画に使われている為替レートの平均値)は、2024年度通年で1ユーロ155.40円、下期155.20円となっている。当面続くユーロ圏の利下げ・日本の利上げという組み合わせは、日欧間金利差縮小を通じて現在の円安ユーロ高を修正する方向に作用するはずだ。しかし、この金利差縮小は非常に緩慢(特に日本の利上げは年0.5%が精いっぱい)な上、ユーロ金利にはインフレ高止まりによる上振れリスクがあるため、今年度内のユーロ/円レートが想定為替レートを下回る可能性は低いとみられる。円高対策方向の為替ヘッジは引き続き遅め・小さめにしておくことを推奨する。また、定期預金金利は1~12カ月物で3%前後とインフレ率を上回る金利が引き出せるはずなので、余裕資金は小まめに運用しておきたい。

ポピュリストが勢力を拡大しつつあるフランスに対する目配りも重要になってきた。フランスの財政悪化を機に、欧州債務危機再発が現実味を帯び、ECBがフランス国債を買い支えるという展開になれば、ドイツの長短金利はかなり低下してユーロ安にもなるはずだ。フランスはドイツの輸出相手先としても貿易黒字の源泉としても米国に次ぐ2番目に重要な国である。フランスの政治状況やソブリン格付け(国が発行した国債の信用を示すもの)に関するニュースを、今まで以上にリスク管理上重視し、自社事業への影響を分析・確認することをお勧めする。

経済主要計数予測(前年比)

2023年 2024年 2025年 2026年 一言メモ
実質GDP ユーロ圏(ECB) +0.6% +0.9% +1.4% +1.6% ドイツの低成長は来年までユーロ圏全体の足を引っ張る
ドイツ(ドイツ連銀) ▲0.2% +0.2% +1.0% +1.6%
インフレ ユーロ圏(ECB) +5.4% +2.5% +2.2% +1.9% ドイツは低成長の割にインフレが高めの悪いバランスが続く
ドイツ(ドイツ連銀) +6.0% +2.8% +2.7% +2.2%
1人当たり賃金 ユーロ圏(ECB) +5.2% +4.8% +3.5% +3.2% 今年まで高い賃上げが続き、来年以降はユーロ圏に収斂
ドイツ(ドイツ連銀) +6.0% +6.0% +3.2% +3.5%
 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作