今回は、学校でのいじめについてです。昨年末から日本でいじめの問題が大きくクローズアップされ、社会問題として懸念されていますが、ドイツの学校にもいじめはあるのでしょうか。
イラスト: © Maki Shimizu
ドイツの人気キャスティング番組『DSDS(Deutschland sucht den Superstar=ドイツのスーパースターを探せ)』に登場し、2009年に優勝を果たしたダニエル・シューマッハーは以前、学校でいじめにあったと話していました。「人と違う声をしているから」と、同級生から殴られたり蹴られたりしたそうです。「殴られ蹴られ」と聞いて、「なんてダイレクトな形のいじめなんだろう」と思いました。いじめにもいろいろな形があると思いますが、「これはいじめではないか?」と私が心配するとき、ドイツでは身体的暴力が疑われることが多いように思います。
私の娘が思春期を迎え始めた頃、学校で何度か青あざを作って帰ってきたことがありました。相手は男の子のことも、女の子のこともありました。
イラスト: © Maki Shimizu
一度は卓球台を取り合って年上の男の子に殴られ、それを知った同じクラスの男の子が仕返しのために相手をさらに殴り倒してしまいました。これはいじめの部類に入らないかもしれませんが、学校中で大騒ぎとなりました。
同級生の女の子から暴力を受けたこともありました。「女の子が!?」と、初めは半信半疑でしたが、同じ学年の女子が別のクラスの女子を引っ掻いたり叩いたり……。特に体育の時間にわざと体当たりでぶつかってくるようなこともあり、「ドイツの女の子は体格が大きいからしょうがないよ」などと悠長なことはすぐに言っていられなくなりました。次第に片腕が血だらけになった女の子が出たり、うちの子も蹴られて足の傷口の周りには真っ赤な血痕。ほかの子も押されて倒れて腰を打ったり……。そんな怪我が頻繁に続いたときには、「学校でいったい何が起こっているの!?」と、とても信じられない気持ちになったものです。子どもの年齢が12~15歳くらいの多感な年頃には、このような状況が日常茶飯事になっていきました。
ドイツの女の子は見た目よりもアグレッシブ(攻撃的)。体も心も強いし、何より背丈が大きく、敵対心が丸見えです。私自身、ドイツ人女性のライバル意識の強さを身に染みて経験しているので、女の子同士のある程度の摩擦は理解できるのですが、それにしても文字通り本当に“体当たり”してくるあたりは想像を超えていました。そんな状況の中で、半泣きになりながらもたくましく生きている我が娘は、「よく頑張っている」と思いました。けれども、こんなことが普通であってはならないし、ほかの親たちも許すわけがありません。娘が通った学校の場合は、いじめや暴力を止めない子どもの親に対して、学校から警告の通知書が渡されます。3回の警告で“レッドカード”、強制転校の措置が取られます。
いじめはドイツ語でMobbingと言い、その原語はもともと英語だそうです。何をいじめと定義するか、はっきりと踏み込んだことは言えませんが、ドイツと日本のいじめは質が違うのではないかというのが、私の率直な気持ちです。仲間外れや嫌がらせに似たようなことがあっても、長期間にわたって集団で1人の子を標的にすることや、周囲の生徒が無抵抗にグループのボスに従うような現象は見たことがありません。ドイツの学校では、周囲がそれとはっきり分かるけんか(?)のような様相を呈していて、個人対個人の対立や問題に帰結しているようです。次回もこの問題について考えてみたいと思います。