ジャパンダイジェスト
独断時評


露からのガスパイプライン - ノルドストリーム2をめぐる激論

ロシアからドイツに直接天然ガスを送るパイプライン「ノルドストリーム2」をめぐり、欧州連合(EU)加盟国の間の対立が表面化した。

ドイツや西欧諸国はプーチン大統領とクリミア併合やウクライナ内戦をめぐって対立する一方で、エネルギーについてはロシアに大きく依存するという矛盾に苦しんでいる。

ドイツ北部、メクレンブルクにて工事作業を行なっている、ノルドストリーム2の様子
ドイツ北部、メクレンブルクにて工事作業を行なっている、ノルドストリーム2の様子

フランス政府の突然の「転向」

対立のきっかけは、2月8日にブリュッセルで開かれたEU加盟国のエネルギー担当大臣評議会だった。ポーランドなど一部の加盟国は、EUガス指令を改正してノルドストリーム2のように第三国からEUにガスを送るパイプラインを、EU法の下に管理することを求めていた。エネルギー担当大臣たちは、この会議でガス指令改正案について採決を行う予定だった。

この改正案が可決されると、EUの法律が適用されるので、ガスを採掘・販売する企業とパイプラインを運営する企業を分離することが必要になるほか、パイプラインを他社にも使用させることを求められる。つまりロシアからのノルドストリーム2も、EUの厳しい管理下に置かれる。

ロシアとともにノルドストリーム2計画を進めているドイツ政府はこの改正案に反対しており、フランス、オランダ、ベルギー、オーストリアとともに反対票を投じてブロックする予定だった。ところが採決の2日前になって、フランス政府が突然態度を豹変させ、改正案に賛成する意向を打ち出した。

この決定はメルケル政権にとって、寝耳に水だった。フランスが賛成派に寝返ったためにブリュッセルの会議で改正案が採択されて、ノルドストリーム2建設計画が暗礁に乗り上げる可能性が浮上した。

そこでメルケル政権は各国と交渉し、「ノルドストリーム2のような域外の国からのガスパイプラインは、EU法による管理下に置く。ただし実際の管理業務を担当するのは、パイプラインが最初に到達するEU加盟国とする」という妥協案を受け入れた。したがって、ノルドストリーム2についてはドイツが管理を担当する。ノルドストリーム2計画がほかのEU加盟国の反対で頓挫する事態は避けられた。

東欧諸国はパイプラインに強い懸念

東欧諸国は、なぜノルドストリーム2に反対するのだろうか。現在ロシアはウクライナやポーランドを通過するパイプラインを使い、ガスを西欧諸国に送っている。しかし、ウクライナやポーランドがこのパイプラインをブロックすれば、ロシアのガスビジネスを妨害することが可能である。実際、2005~2006年にはロシアとウクライナの間でガス料金をめぐるトラブルが起きたために、西欧へのガス輸送が一時滞ったことがあった。

ロシアのプーチン大統領とドイツのシュレーダー首相(当時)は2005年4月にノルドストリームの建設について合意し、1本目は2011年に稼働した。ノルドストリーム2はこれに並行するパイプラインだ。

ノルドストリーム2は毎年550億㎥のガスを直接ドイツへ送り込む。約1200kmのうちすでに370kmが完成しており、2019年末に稼働する予定だ。総工費は95億ユーロ(1兆2350億円・1ユーロ=130円換算)にのぼる。だがノルドストリーム2が完成すると、ロシアはウクライナやポーランドを迂回して、大消費国ドイツに直接ガスを送り込むことができる。

東欧諸国は、「ロシアから直接ドイツにガスを輸送するパイプラインが増えることは、EUのロシアへの依存度を高めるほか、ロシアが東欧へのガス供給を減らすと脅迫するための材料を与える。さらに、現在パイプラインが通過しているウクライナもノルドストリーム2建設によって不利になる」と主張していた。ポーランドやウクライナにとっては、ノルドストリーム2の建設は、自国を通過するガスパイプラインからの料金収入が減ることも意味する。ウクライナは毎年、ロシアからパイプラインの使用料として数十億ユーロの収入を得ている。ドイツ政府は、「ノルドストリーム2建設の条件は、ロシアが将来もウクライナとポーランドを通過するパイプラインを使用し続けること」と約束していた。

攻撃的な性格を強めるロシア

つまりフランスのマクロン大統領は、盟友ドイツよりも東欧諸国の意見に耳を傾けたのだ。実は欧州委員会や欧州議会でも、ノルドストリーム2については批判的な意見が強い。また米国のトランプ政権もこの計画に強く反対している。

その理由は、近年ロシアの対外政策が攻撃的かつ強権的な性格を強めているからだ。ロシアは2014年にクリミア半島を併合し、ウクライナ内戦に介入している。ロシア軍は、バルト三国周辺で大規模な軍事演習を繰り返し、圧力を強めている。ロシアはINF条約(中距離核戦力廃棄条約)に違反して、西欧の主要都市を攻撃できる巡航ミサイルを昨年配備した。英国で発生した、ロシアの元二重スパイに対する神経剤による暗殺未遂事件の解明にも、ロシア政府は協力を拒んでいる。

連邦系統庁によると、2017年にドイツが輸入したガスの65%はロシアからだった。西側に対して敵対的な態度を見せる国から、暖房や調理、工業生産に欠かせないガスを大量に輸入する。この矛盾した態度は、今後もEUの中で不協和音を生むに違いない。

最終更新 Donnerstag, 28 Februar 2019 12:34
 

2038年までに脱石炭をめざす - 納税者に多額のコスト

1月26日にドイツは経済史に残る決定を行った。連邦政府の諮問委員会が、最終報告書内で2038年末までに褐炭・石炭による火力発電所の全廃を提言したのだ。

ラウズィッツで稼働している褐炭火力発電所
ラウズィッツで稼働している褐炭火力発電所

脱原発の次は脱石炭

ドイツは今も発電量の約35%を褐炭・石炭に依存しているが、地球温暖化や気候変動の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に減らすべく、重要な一歩を踏み出した。ドイツは2011年の福島原発事故をきっかけに、2022年末までに原子力発電所を全廃することを決めているが、脱原子力に続いてエネルギー政策を大きく変更することになった。

本来この委員会は、去年暮れにポーランドのカトビッツで行われた国連の地球温暖化防止に関する会議の前に提言を発表する予定だった。発表が今年までずれこんだことは、委員会のメンバーだった産業界、学界、電力業界、環境団体、褐炭採掘地の住民代表らの間で意見が対立したことを物語っている。

2030年までに温室効果ガスを55%削減

現在ドイツの褐炭・石炭火力発電所の容量は42.6ギガワット(GW)。委員会はこれを2022年までに30GW、2030年までに17GWに減らす。そして2032年に電力需給の状態などを検討して可能と判断されれば、2035年に前倒しして褐炭・石炭火力の使用を停止する。

メルケル政権は、当初2020年までにCO2など温室効果ガスの排出量を、1990年に比べて40%減らすことを目標にしていた。しかし、2018年末の時点では削減率は32%にとどまっており、2020年の目標達成に失敗することは確実だ。このため政府は、「2030年までに温室効果ガスを55%減らす」という目標を達成するべく、脱石炭の「締め切り日」を設定したのだ。また政府は、2030年に再生可能エネルギーが電力消費量に占める比率を現在の38%から65%に引き上げる方針だ。

脱石炭に賛否両論

緑の党や環境団体は、2030年までに褐炭・石炭の使用停止を要求していた。国際環境NGOグリーンピース・ドイツのM・カイザー事務局長は、「褐炭・石炭火力の全廃が2038年になったのは、残念だ。しかし欧州最大の工業国ドイツが脱褐炭・石炭を断行し、再生可能エネルギー社会に変わるための第一歩を記したことは、正しい。2030年代初頭に全体状況を見直し、2035年には褐炭・石炭火力は事実上全廃されることになるだろう」と述べている。

これに対し大手電力会社RWEのR・M・シュミッツ社長は、「2038年までに褐炭・石炭火力発電所を全廃するのは早すぎる。提言書によると2032年に雇用や電力需給の状況を勘案し、2038年の脱石炭が可能かを検討することになっているので、わが社はそのときに全廃の時期を先延ばしにすることを要求する」と不満を表明した。

莫大なコスト

脱褐炭・石炭は、国民経済に大きな負担を生じさせる。この決断は市民の雇用に大きな影響を与えるからだ。旧東ドイツのラウズィッツ地区や、旧西ドイツのルール工業地帯などでは、約5万6000人が褐炭の採掘や火力発電に従事している。RWEのシュミッツ社長は、「2023年までに、従業員数の大幅削減を始めなくてはならない」と語っている。

諮問委員会は、脱褐炭・石炭の影響を受ける採掘地域のために、産業構造の改革や省庁の誘致などのために、連邦政府が今後20年間に400億ユーロ(5兆2000億円・1ユーロ=130円換算)を支出することを提言。その内訳は、毎年13億ユーロを採掘地域の自治体に、7億ユーロを州政府に支払う。つまり毎年20億ユーロ(2600億円)の金が雇用対策として投じられるのだ。

このほか連邦政府は、脱石炭によって早期退職を迫られる労働者のために50億ユーロ(6500億円)を投じて補償措置を取る。また、電力会社は褐炭・石炭火力発電所の早期停止により経済損害を受けるので、政府は補償金を支払う。額は明示されていないが、数十億ユーロの規模に達する可能性が強い。

さらに脱褐炭・石炭が企業・市民の電力コストを増加させるのを防ぐために、連邦政府は2023年以降、毎年20億ユーロ(2600億円)の助成金を出す。これらの費用を合計すると、今後20年間に納税者が負担するコストの総額は800億ユーロ(10兆4000億円)を超えるという見方も出ている。

旧東独地域での州議会選挙に配慮

褐炭採掘地域への潤沢な財政支援の背景には、今年秋に旧東ドイツのザクセン州、ブランデンブルク州、チューリンゲン州で州議会選挙がある。これらの州では、右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持率が、西側より高い。急激な脱褐炭・石炭は市民の 不満を爆発させ、AfDの支持者を増やす可能性がある。政府はこれらの選挙でAfDの得票率が高まらないよう脱石炭に19年の歳月をかけ、大規模な財政出動によって市民の不満を和らげようとしているのだ。

政府はCO2の排出量を大幅に減らしつつ、電力の安定供給も確保しながら、雇用削減に関する不満と右翼の躍進も抑えるという離れ業に成功するだろうか?

最終更新 Mittwoch, 13 Februar 2019 13:04
 

「合意なしBREXIT」に身構えるドイツ企業

1月15日夜、ドイツの政界、経済界に衝撃が走った。英国議会下院が、メイ首相が推すEU離脱(BREXIT)に関する条約を圧倒的多数で否決したからだ。

1月15日にロンドンで行われた離脱合意案の議会採決に臨む、英国のメイ首相(中央)
1月15日にロンドンで行われた離脱合意案の議会採決に臨む、英国のメイ首相(中央)

袋小路のメイ首相

採決では432人の議員が条約案に反対したのに対し、賛成した議員は202人にすぎなかった。メイ首相が率いる保守党の議員からも、多数の反対者が出た。条約案の否決は予想されていたが、230人もの大差がついたのは想定外の事態である。これによってメイ首相の保守党内での立場は一段と弱まるとともに、英国政界の混乱が深まった。

この条約案が否決された最大の理由は、英領北アイルランドの取り扱いだ。EU側はアイルランドと北アイルランドの間の国境検査、税関検査が強化されることに反対しているが、合意に達することができなかった。そこでEUとメイ首相は「2020年末までの過渡期間中に、英国とEUが北アイルランドの扱いについて合意できなかった場合には、北アイルランドはEU関税同盟に残留する」という暫定措置(バックストップ)を取り決めた。

だが保守派の議員からは「これでは英国は自国の判断で関税同盟から抜け出ることができず、主権が制限される」と強い批判の声が上がっていた。つまりバックストップに期限をつけるなどの変更を加えない限り、この条約案が議会で承認される見込みは薄い。一方EUはメイ首相と合意した条約案を変更することを断固として拒否している。

1月21日にメイ首相は議会下院で「バックストップについてEUと再び協議する」と述べたが、EU側が態度を大きく変えるとは思えない。要するにメイ首相は袋小路に追い詰められてしまったのだ。

否決で合意なし離脱の可能性が強まった

3月29日のBREXITまでに残された時間は、わずか8週間。それまでにメイ首相が議会の同意を得られる条約案をまとめあげて、EUと合意できない場合には、英国は同意のないままEUを離脱する。いわゆる「ハードBREXIT」である。

ドイツの経済界、論壇では1月15日の否決以降、ムードががらりと変わった。「最後は英国とEUが妥協するだろう」という楽観論が影をひそめ、合意なしのBREXITがやって来るという悲観論が強まったのだ。経済団体や企業関係者の間では、「ハードBREXITが起きた場合、英国とEUの間の物流が少なくとも一時的に悪影響を受ける」という見方が有力だ。物流の混乱によって最も大きな影響を受けるのはドイツだ。

英国議会下院調査局によると、2017年の英国とほかのEU加盟国の間の貿易額(輸出額と輸入額の合計)は6150億ポンド(86兆1000億円・1ポンド=140円換算)だが、この内ドイツは1349億ポンド(18兆8860億円)と最も多い。同国は英国の対EU貿易の21.9%を占めていることになる。

英国と欧州大陸を結ぶドーバー海峡のユーロトンネルを毎日行き来し、英国とEUの間で物資を輸送しているトラックの数は、1日当たり1万~1万2000台。現在は税関検査がまったく行われていないが、ハードBREXITによって税関検査が始まり、1台のトラックにつき15~30分の検査が行われるとなれば、英国とEUの国境の間で大渋滞が発生する可能性がある。

今日多くのメーカーは部品の在庫を最小限に抑えるために、受注の状況に応じて短期的に部品を注文するカンバン方式を採用している。だがその前提は、ドーバー海峡を越える物流がスムーズに運ぶことである。国境でトラックが大渋滞に巻き込まれた場合、カンバン方式の前提が崩れてしまう。

多くの独企業はハードBREXITを想定

ドイツの多くの大企業は、2016年に英国の国民投票で離脱派が勝って以来、「合意なしのBREXITがあり得る」という前提で密かに準備を進めてきた。

たとえば英国企業から原材料や部品の供給を受けているドイツのある機械製造企業は、去年夏から原材料や部品の在庫を増やし、英国・UK国境でトラックの渋滞が2~6週間続いても支障が出ない体制を作り上げた。万一英国からの部品供給が途絶えても、2カ月近く自活できるようにしたわけだ。同企業では中長期的には英国の企業が供給している部品や原材料を、EU域内での調達に切り替えることも検討している。

また英国で車の組み立てを行っているドイツのあるメーカーは英国工場の保守点検のための操業停止を3月29日のBREXIT直後に予定することにより、数日間にわたって国境で大渋滞が起きることによる衝撃を緩和しようとしている。同社はドーバー海峡での渋滞に備えて、自動車部品を欧州大陸から英国に空輸するためのキャパシティーも確保したと伝えられている。

ミュンヘン・南部バイエルン商工会議所で貿易問題を担当するフランク・ドレンドルフ氏は、「大企業ではハードBREXITについての準備が進んでいるが、中小企業では、備えが遅れている」と語る。ドイツ産業連盟(BDI)のヨアヒム・ラング専務理事は、「合意なしBREXITは、英国とEUの数万社の企業、数多くの就業者に悪影響を及ぼす惨事となるので、絶対に避けるべきだ。英国政府と欧州委員会は妥協策を見つけてほしい」と訴える。だが楽観論は禁物だ。メイ首相の推す条約案の交渉には約1年半かかった。その案が否決された今、英国とEUはわずか2カ月の間に合意に達することができるだろうか?

最終更新 Mittwoch, 30 Januar 2019 18:50
 

デジタル社会の落とし穴、個人情報リークの衝撃

デジタル革命は人々の生活を便利にした。もはやインターネットやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)がない暮らしは考えられないという人も多いだろう。だが便利さの裏には必ず落とし穴がある。ドイツでは年明け早々、デジタル化時代の危険な一面を示す事件が発覚した。

1月8日にドイツ・ベルリンで開催された連邦記者会見の様子
1月8日にドイツ・ベルリンで開催された連邦記者会見の様子

家族との写真まで盗難、ネット上で公開

ハッカーがドイツの政治家、俳優、歌手、ジャーナリストら約1000人の住所や電話番号、メールアドレスなど大量の個人情報を盗み出し、去年12月以降ツイッターのアカウントで公開していたことが、今年1月4日に明らかになったのだ。

「G0D」というアカウントを通じて公開された個人情報の中にはアンゲラ・メルケル首相、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領、マルティン・シュルツ前欧州議会議長らの個人的なメールアドレスや手紙、電話番号も含まれていた。シュルツ氏は、公開していない携帯電話の番号にたびたび市民から電話がかかってくることを不審に思い、警察に通報した。

最も深刻な被害に遭ったのは緑の党のロベルト・ハベック党首で、住所や電話番号だけではなく家族とバカンス中に撮影した写真のほか、子どもとのチャットの内容まで公表されていた。さらに俳優のティル・シュヴァイガー氏、コメディアンのヤン・べーマーマン氏など芸能人も被害に遭った。

捜査当局によると、連邦政府や連邦議会の機密を含んだ文書などは暴露されていない。だが暴露されたデータの量が多いので、被害の全貌が明らかになるまでにはまだ時間がかかるだろう。

AfD議員だけが被害を受けず

連邦刑事局(BKA)は、1月8日に20歳のドイツ人生徒をデータ窃盗容疑などで逮捕した。BKAは若者が犯行を自供し、逃亡の危険が低いことから同日釈放している。警察は、現在のところこの若者の単独犯行とみている。この生徒は犯行の動機として、「これらの人物の発言に憤慨したため」と説明している。

犯人の政治思想などは明らかになっていないが、一つの傾向は見える。それは右派政党への共鳴だ。キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)、社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)、緑の党、左翼党(リンケ)の政治家らがサイバー攻撃の被害を受けたのに対し、右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の政治家は、1人も被害に遭わなかった。

また現在支持率が高まりつつある緑の党のハベック党首が特に多くの個人情報を暴露されたことにも注目するべきだ。SPDに落胆した多くの有権者が、緑の党を応援している。緑の党は、AfDに対して最も批判的な政党である。さらに右翼勢力に批判的な発言を行っている芸能人が標的にされたことも、犯人が右寄りの思想を持っている可能性を示唆している。

犯人が最初に個人情報をネット上で暴露したのは2017年7月。次に2018年8月にも個人データを暴露した。最も大量のデータを公開したのは去年12月で、その際には1週間ごとに扉を開けるアドベントカレンダーのような形を取った。2017年以来犯人とネット上で会話をしていた人々は、「アカウントの所有者は右寄りの思想を持っていた」と証言している。

監督官庁の対応に遅れ?

この事件では、連邦IT安全局(BSI)の対応の遅さが指摘されている。BSIの任務はサイバー攻撃からドイツ連邦政府のITシステムや重要な経済インフラを守ることである。

BSIのアルネ・シェーンボーム長官は、「われわれは数週間前からデータの窃盗について情報を得ていた」と語っている。BSIは去年12月初めにある連邦議会議員から「個人的なEメールやSNSのアカウントに対して、不審な動きがある」と通報を受けた。しかし、BSIが大量の情報暴露を把握したのは、今年1月3日の夜。同庁は「12月初めの議員からの通報が、大量の個人情報リークと関係があることは、当初分からなかった」と説明している。連邦政府のさまざまな機関の対応に不備な点がなかったか解明されるのは、これからだ。

デジタル時代にプライバシーはない

今回の事件は、米国のNSA(国家安全保障局)のような大規模な電子諜報機関ではなく、一生徒でも、自宅のPCから首相や大統領の個人情報を易々と盗めることを示した。いわんや国家が大量の人員を投じて組織的にハッキングを行えば、盗めない情報はないと言っても過言ではないだろう。つまり、われわれは「デジタル時代に、プライバシーというものは存在しない」ということを改めて意識するべきだ。

PCやネット上に蓄積した情報を100%守ることは不可能である。失いたくない情報は、ネットに接続していないPCやハードディスクに、必ずコピーするべきだ。

欧米では数億人のホテル利用客のクレジットカード番号・パスポート番号がハッカーに盗まれたり、PCを凍結するランサムウエアによってグローバル企業の業務が数週間にわたって妨害されたりするなどの事件が起き、経済損害の額が増えつつある。今後サイバー攻撃はさらに悪質化し、規模は大きくなるだろう。

政府、経済界は「明日は我が身」という心構えで、サイバー攻撃への防御措置を強化する必要がある。

最終更新 Mittwoch, 16 Januar 2019 19:11
 

2019年を展望する変革の年を迎える欧州

新年を祝う花火の音とともに、2019年が始まった。今年は欧州にとって大きな変化の年になりそうだ。

BREXITなど、2019年は欧州にとって変化の年となるか
BREXITなど、2019年は欧州にとって変化の年となるか

BREXITという敗北

最も大きな変化が、英国のEU離脱(BREXIT)である。EUと英国のメイ首相が2018年11月に合意した条約案によると、英国は今年3月30日以降にEUを離れる。1952年にEUの前身・欧州鉄鋼石炭共同体が創設されて以来、加盟国のEU脱退は初めてのこと。BREXITによりEUの人口は約6600万人減り、国内総生産(GDP)も約2兆6000億ユーロ減る。英国のGDPは、28の加盟国の中でドイツに次いで2番目に大きい。その主要国が脱退するのは、大きな痛手だ。EUは常に求心力を強める方向に進んできたが、67年間にわたる統合過程はBREXITにより急ブレーキをかけられる。

EUと英国政府は、BREXITが双方の経済に与える悪影響を最小限にするために、去年合意した条約の中で過渡期を設定した。この条約案によると、英国は2020年末までEUの共通市場と関税同盟に残留するため、物の貿易については、1年以上にわたって今とほぼ同じ状態が続く。だがこの条約が施行されるかどうかは、未知数だ。本来メイ首相は12月11日に条約案を英国議会下院で採決させる予定だった。だが与党内でも反対議員の数が増え、否決の可能性が高まったために、首相は採決を今年1月14日の週まで延期した。万一条約案が否決されて、英国がEUとの合意なしにBREXITに突入した場合、英国は一夜にして共通市場から締め出される。つまり英国・EU加盟国は3月30日から関税を導入するので、ドーバー海峡を超えた貿易、物の移動が大きく阻害される。国境検査の強化によって、欧州内のサプライチェーンが滞る危険が高まる。

現状では英国の生鮮食料品の卸売業者が、午前中にオランダの卸売業者に野菜や果物を注文すれば、午後にはトラックで商品が英国市場に届けられる。だがメイ首相の条約案が施行されないままBREXITに突入すると、国境検査に時間がかかるので、このような即日配達は不可能になる。このため英国企業の中には、「合意なしのBREXIT」に備えて、長期間保存できる商品を買いだめする動きが出始めている。

また金融機関をはじめとする多くの企業が英国で働く社員数を減らして、欧州大陸に新しい拠点を設けつつある。中長期的に英国での雇用が減ることは確実だ。

理性ではなく感情が政治を決める時代

現在世界各地でポピュリスト勢力が拡大しつつあるが、2016年に英国で行われたBREXITに関する国民投票で離脱派が勝ったことは、ポピュリストたちの欧州での最初の勝利だった。当時英国のナショナリストやポピュリストたちは、「EUが外国人の域内での移動や就職の自由を保障しているために、移民が増加し社会保障制度を圧迫している。英国の主権が侵害されている」と主張した。つまり移民政策を決める権利を、EUから自国政府に取り戻そうと訴え、僅差で過半数の票を取ったのだ。しかしポピュリストたちはBREXITが英国経済にもたらす混乱や不利益については、十分に説明しなかった。つまり経済的な理性ではなく、感情によって政治が決められる時代がやって来たのである。国際機関に残留するべきか否かという複雑かつ重要なテーマを、国民投票にかけるべきではない。当時英国の首相だったキャメロン氏は、ポピュリスト勢力を過小評価するという、大きなミスを犯した。

メルケル・クランプ=カレンバウアー体制への審判

また今年5月26日に行われる欧州議会選挙も、極めて重要だ。この選挙は欧州の民主勢力とポピュリスト勢力の一騎打ちとなる。ドイツやフランス、イタリアなどのポピュリスト勢力は連携してキャンペーンを行っている。彼らはこの選挙で議席数を大きく増やすことによって、EUの弱体化を目指している。米国でトランプの大統領当選に貢献した右派の論客スティーブ・バノンは、イタリアに拠点を置いてポピュリストたちの選挙運動を支援している。

またドイツでも重要な地方選挙が目白押しだ。9月1日には旧東ドイツのザクセン州とブランデンブルク州、10月27日にはチューリンゲン州で州議会選挙が行われる。これらの州では右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が高い。特にザクセン州では2017年の連邦議会選挙でAfDが27%という高得票率を確保し、第一党の座にある。CDUなど伝統的な政党は、AfD抜きで安定した連立政権をつくれるかどうかが、大きな焦点となっている。これらの選挙でCDUが再び得票率を減らした場合、メルケル首相・クランプ=カレンバウアーCDU党首の集団指導体制について批判が高まることは必至だ。

米国と中国の貿易紛争、EUと米国の貿易摩擦、EUとロシアの政治的対立、イタリアの債務問題にも本格的な改善の兆しは見えない。ドイツ経済は依然として製造業界を中心に好調だが、景気の先行きについて漠然とした不安を抱く企業経営者も増えている。

不透明感が強まる時代に正しい判断を行うためには、情報収集のアンテナをこれまで以上に密に張り巡らすことが重要だ。

ー 筆者より読者の皆様へ ー

旧年中は私の記事を読んで下さり、どうもありがとうございました。今年もよろしくお願い申し上げます。

最終更新 Donnerstag, 03 Januar 2019 10:53
 

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