ジャパンダイジェスト
独断時評


メルケル首相に衝撃! - AfDの躍進

2016年3月13日にドイツの3つの州で行われた州議会選挙の結果は、メルケル政権だけでなく、この国のすべての在来政党に強い衝撃を与えた。

メルケル(キリスト教民主同盟=CDU)の難民受け入れ政策に反対する右派ポピュリスト政党・「ドイツのための選択肢(AfD」が大躍進し、初の議会入りを果たしたのだ。

AfDが旧東独の州で第2党に

「難民危機をめぐる国民投票」と呼ばれたこの選挙で、多くの有権者がメルケルの難民政策に「ノー」の意思表示をした。日本の新聞社や放送局はこの選挙についてほとんど報じていないが、この選挙結果は来年の連邦議会選挙の行方を占う上で、極めて重要な意味を持っている。

今回、州議会選挙が行われたのは、旧西ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州、ラインラント=プファルツ州、旧東ドイツのザクセン=アンハルト州。

この内、ザクセン・アンハルト州では、約27万人がAfDを選び、得票率を24.2%に押し上げた。これは、第一党であるCDUの得票率(29.8%)に肉薄するものだ。この州では、有権者のほぼ4人に1人が、右派ポピュリスト政党を選んだことになる。有権者の3人に1人が、AfDに票を投じた選挙区もあった。

同州での選挙結果は、驚異的である。AfDの得票率が、現在ベルリンで大連立政権に加わっている社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)、リンケ(左派党)の得票率を大幅に上回ったからだ。この州では、前回の選挙の投票率は51.2%だったが、今回は投票率が10ポイント近く上昇して、61.1%となった。前回棄権した有権者10万1000人が、メルケルの難民政策に抗議するために投票所へ行ってAfDに票を投じたためだ。また、前回CDU、SPDなど5つの在来政党を選んだ有権者の内、11万2000人がAfDに鞍替えした。

旧西独でも2桁の得票率

AfDが躍進したのは、旧東ドイツだけではない。同党は、ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州でも15.1%、ラインラント=プファルツ州でも12.6%と、二桁の得票率を記録した。

バーデン=ヴュルテンベルク州でのSPDの得票率は、AfDよりも低かった。ガブリエル党首には、大きな屈辱である。同州では、実に80万9000人がAfDに投票。同党は、CDUから19万人、SPDから9万人、緑の党から7万人の票を奪っている。

投票率の増加は、バーデン=ヴュルテンベルク州(61.8%から70%に上昇)と、ラインラント=プファルツ州(66.2%から70%に上昇)でも見られた。難民危機は、多くの有権者を投票所へ駆り立てたのだ。

メルケルの難民政策への抗議

AfDが躍進した最大の理由は、同党がメルケルの寛容な難民政策に批判的な有権者の票を集めることに成功したからだ。AfDは、難民受け入れ数の制限を求めている。さらに、同党はユーロ圏からの脱退や、ギリシャへの金融支援の停止などを要求している。

だがAfDには、ネオナチに近い過激思想の持ち主も加わっている。今年1月末には、同党のフラウケ・ペトリ党首が「ドイツは国境を閉ざすべきだ。もしも難民が警官の制止にもかかわらず、国境を突破した場合、警察官は銃を使用してでも、難民の侵入を防ぐべきだ」と発言した。ドイツの法律によると、警察官は国境を越えようとする外国人に対して発砲することを禁じられている。この発言については、警察関係者やメディアから強い批判の声が上がった。社会主義時代の東ドイツ政府は、国境警備兵に対し、ベルリンの壁を越えて西側に逃亡しようとした市民を見つけた場合には、射殺してでも逃亡を食い止めるよう命じていた。ペトリ党首の発言は、民主国家ドイツを、社会主義時代の東ドイツのような国にすることを求めるものだ。党首がこのような発言をしたにもかかわらず、多くの有権者がAfDを選んだことは、いかに多くのドイツ人が政府の難民対応に不満を抱いているかを示している。

投票直前の2016年2月に公共放送ARDが行った世論調査によると、「連邦政府の仕事に満足している」と答えた回答者の割合は、昨年7月には57%だったが、今年2月には、19ポイントも下がって38%になった。

メルケル首相に対する支持率は今年1月には58%だったが、2月には12ポイントも下がって46%になった。また、「連邦政府は難民問題にきちんと対応していると思うか」という設問に「ノー」と答えた市民の割合は、81%にのぼった。

強まる右傾化傾向

バーデン=ヴュルテンベルク州で興味深いのは、緑の党が30.3%を確保し、州議会選挙で初めて第一党になったことだ。その理由は、現州首相クレッチュマン(緑の党)が、同州で保守・革新を問わず高い人気を集めているからだ。同時に、前回はCDUを選んだ有権者の内、メルケルの難民政策を支持する市民が、CDUの保守派が難民問題をめぐってメルケルを攻撃していることに不満を持ち、緑の党に鞍替えしたことも、緑の党の躍進の理由だ。この事実は、メルケルの政策がいかに緑の党に接近しているかを示している。

ただし全体的にみると、ドイツの有権者は右傾化傾向を強めた。移民に批判的な右派政党が支持率を増やしているフランスやオランダ、英国に似た現象がドイツでも起き始めていることは、残念である。

1 April 2016 Nr.1023

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 10:28
 

欧州難民危機 - トルコの野望

欧州連合(EU)加盟国首脳とトルコのアフメト・ダウトオール首相は、3月7日から8日の早朝まで、ブリュッセルで約12時間にわたり、難民危機について協議した。この会議で、トルコは極めて大胆な提案を行い、メルケル首相を初めとするEU加盟国首脳たちを驚かせた。

トルコのダウトオール首相
3月7日、EU・トルコ首脳会合後の記者会見で話す
トルコのダウトオール首相

「不法難民を全て送還させる」

ダウトオール首相は、「今年6月から、我が国を通過してギリシャに渡った不法難民を、全てトルコに受け入れる用意がある。不法難民がどの国から来たかは問わない。そのかわり、EUはギリシャがトルコに送還した不法難民と同数のシリア難民を、合法的に受け入れてほしい」と提案したのだ。

すでにトルコには、270万人のシリア難民が滞在している。同国は、経済難民も含めてギリシャへの全ての不法入国者を引き取る代わりに、今トルコにいるシリア難民をEUが受け入れることを求めているのだ。難民受け入れの負担が過重になることを防ぐためだ。

ギリシャは、ドイツなど西欧諸国を目指すシリアやアフガニスタンからの難民たちにとって、最も重要なEUへの玄関口である。ギリシャの島の中には、トルコの沿岸から数キロしか離れていない島もある。このため、「人間運搬業者」たちがフェリーや小舟に難民を詰め込んで、トルコからギリシャに不法入国させる例が後を絶たないのだ。昨年10月には、211万663人もの難民がギリシャに入国した。しかも今月ギリシャの北側のマケドニアが国境を封鎖したために、大半の難民たちはいわゆる「バルカン・ルート」を通って西欧へ行くことができなくなり、数万人が国境付近で野宿させられている。今もユーロ危機の後遺症に苦しむ小国ギリシャにとっては、極めて重荷である。

このため、「トルコ経由でギリシャへ渡った不法難民を全て引き取る」というトルコの提案は、EU諸国には朗報である。だがメルケルらEU加盟国首脳は、直ちにトルコの提案を受諾することができなかった。その理由は、ダウトオール首相が持ち出した交換条件が、EUにとって厳しいものだったからだ。

トルコ側の厳しい要求

ダウトオール首相は、EUが難民支援のために、これまで供与を約束した30億ユーロ(3900億円・1ユーロ=130円換算)では足らないとして、供与額を2倍の60億ユーロにすることを要求。

さらにトルコは、EUのシェンゲン協定加盟国に対し、今年6月末にはトルコ人のビザなしでの渡航を可能にすることを求めた。これまでトルコは、今年10月からビザなし渡航を可能にすることを求めていたが、実施時期を4カ月早めたことになる。またトルコは、同国のEU加盟交渉を加速することも要求した。

EU側にとって、このトルコ側の提案は寝耳に水だった。このためEUはどう対応するかについて内部で協議した上で、3月17日にトルコと再び首脳会議を開くことを明らかにした。

欧州だけでなく、国内でも孤立しつつあるメルケル首相にとって、トルコは唯一の「盟友」だ。「EUの連帯」は、難民問題に関しては、すでに事実上崩壊している。他のEU諸国は、国境を閉ざしたり、国境検査を厳しくしたりして、難民の受け入れに難色を示している。昨年EU諸国は、ギリシャとイタリアに到着した16万人の難民を、人口や失業率、国内総生産に応じて加盟国に分配することを決定した。だがこれまでに実際に分配された難民の数は、1000人に満たない。ハンガリーやチェコ、スロバキアなどの東欧諸国の政府は、難民の強制的な割り当てに頑強に反対している。隣国オーストリアは、「2019年までに受け入れる難民の数を12万7500人に制限する。今年の受け入れ数の上限は、3万7500人にする」と発表している。つまりメルケルは、もはや難民受け入れについて、他のEU諸国に頼ることはできないのだ。

メルケルの最後の「盟友」

彼女にとって唯一の頼みの綱は、トルコである。メルケルは、これまでしばしばトルコを訪れて支援を求めた。トルコは、1997年からEU加盟交渉を続けているが、ドイツを初めとして多くの国々が同国のEU加盟に反対してきた。だが昨年以来、難民危機がエスカレートし、EUに100万人を超える難民が流れ込んだことから、トルコの立場は大幅に有利になった。

ドイツなどEU側に残された時間は少ない。冬の間は、ドイツに到着する難民の数は毎日2000~3000人だ。だが4月以降は気温が上昇し、エーゲ海や地中海が穏やかになるので、西欧を目指す難民の数が再び増加する。昨年9月には、毎日1万人近い難民がドイツの土を踏んだ。だがバルカンルート沿いのマケドニア、スロベニア、セルビアなどは、3月初旬以降国境を閉ざしている。このため、ギリシャ北部で多数の難民が足止めを食らい、混乱が生じる恐れがある。

ダウトオール首相は、「EUに対する要求を引き上げるのは、春が目前に迫った今しかない」と考えて、ブリュッセルで大胆な提案を行ったのだ。

だがトルコの民主主義は、EUの水準には達してない。EU諸国は、トルコ政府の言論の自由の抑圧、クルド人に対する弾圧について批判してきた。ドイツでは、「難民問題でトルコへの依存を高めることは、逆にトルコから『脅迫』される危険も生じる」という意見もある。

メルケルや、他のEU加盟国首脳は、苦しい選択を迫られている。

18 März 2016 Nr.1022

最終更新 Montag, 19 September 2016 12:54
 

高額紙幣とテロ対策をめぐる激論

ユーロ圏には、500ユーロという高額紙幣がある。日本円にして、約6万5000円だ(1ユーロ=130円換算)。だが私は、実物をまだ見たことがない。一体誰がこんな紙幣を使っているのだろうか?

500ユーロ
一般市民には縁のない500ユーロ紙幣の束

500ユーロ紙幣に高まる批判

欧州連合(EU)では、「高額紙幣は、テロリストや麻薬の密売人などに使われるほか、脱税にも使用されるかもしれない」として、500ユーロ紙幣を廃止するべきだという意見が強まっている。つまり政府や金融機関によって金の流れを把握されたくない人々が、このような紙幣を使っているというのだ。

昨年12月にドイツ連邦財務省のヴォルフガング・ショイブレ大臣は、欧州委員会に対して、資金洗浄に関する法律を強化するよう求めた。彼は、500ユーロ紙幣を廃止するとともに、ユーロ圏での現金による支払いに、5000ユーロ(65万円)の上限を設定することを提案している。今のところユーロ圏での現金支払いについては、統一された上限がない。フランスでは現金支払いについて1000ユーロ、イタリアでは3000ユーロの上限が設けられている。

さらに今年1月末には、社会民主党(SPD)の議員団が、「500ユーロ紙幣を廃止し、現金による支払額に上限を設ければ、犯罪組織などによる資金洗浄を防止することができる」とする意見書を公表した。実は欧州ではこれまでも現金の使用について様々な意見が出されてきた。ノルウェーでは一部の銀行が、紙幣と貨幣の全廃を提案したことがある。

欧州中央銀行(ECB)の大半の理事は、500ユーロ紙幣の廃止に賛成している。同理事会は、銀行委員会に対し、500ユーロ紙幣廃止のための技術的な手続きを検討するよう命じた。

市民に無縁の高額紙幣

ECBの統計によると、これまでに発行された500ユーロ紙幣の総額は、ユーロの紙幣・硬貨の総額の約28%を占める。しかしECBが行ったユーロ圏の市民を対象とした世論調査では、回答者の56%が「500ユーロ紙幣を一度も見たことがない」と答えている。

ECBのベノワ・ケーレ理事は、「今日では、電子決済の重要性が高まる一方だ。500ユーロ紙幣が、犯罪組織などによって、違法な目的のために悪用されているという事実を、無視することはできない。この紙幣を使い続けるという理由は、どんどん減っている」と述べ、廃止に賛成する姿勢を打ち出している。ドイツ銀行のジョン・クライアンCEO(最高経営責任者)も今年のダボス会議で、「現金による支払いは時代遅れだ」と語っている。

また通貨政策関係者の一部からは、「現金を完全に廃止すると、通貨政策の有効性がこれまでよりも高まる」という意見も聞こえる。その理由は、ユーロ圏やスイスのようにマイナス金利が存在する国では、企業や個人が預金を引き出して現金として金庫に保有する可能性が高まり、通貨政策が及ばない分野が生じるからである。このように、ECBや政治家の間では、高額紙幣や多額の現金支払いに対する風当たりが徐々に強まっている。

現金制限に反対する人々

だが、ドイツでは、現金使用の制限についての批判も根強い。ドイツの右派ポピュリスト政党アルファに属する経済学者のヨアヒム・シュターバッティー教授や、マンハイム大学で国民経済学を教えているロラント・ファウベル教授は、「現金支払いが禁止された場合、市民は国家と銀行によって、完全に監視されることになる」と主張している。

UBS銀行のチーフエコノミストだったアンドレアス・ヘーフェアト氏も、「現金支払いが廃止されて、金の流通が完全に電子化された社会では、プライベートな金のやりとりが全く不可能になってしまう。犯罪防止という大義名分のために、個人の領域が犠牲にされる」と警告している。またドイツ連邦憲法裁判所のハンス・ユルゲン・パピーア元長官は、「現金支払いについて制限を加えることは、契約形態を選ぶ自由などの個人の権利を侵害するものであり、憲法違反だ。市民のあらゆる行動を国家が監視することを許してはならない」と述べている。

「タンス預金の自由を」?

ドイツ産業連盟(BDI)のハンス・オラーフ・ヘンケル元会長も「現金支払いの制限は、監視国家への入り口。現在多くの国々でマイナス金利が問題になっているが、今後は、民間の銀行でも預金者に対して、「預金料」を請求するようになるかもしれない。その場合、市民は、金を銀行に預けずに、現金として持っていれば、マイナス金利による損失を防ぐことができる。資産を現金で保有することは、マイナス金利による財産没収を免れるための、唯一の道だ」と述べ、現金廃止に反対している。

日本や米国には、高額紙幣はない。1枚で6万5000円の価値がある500ユーロ紙幣は、先進国の通貨としては突出した存在である。こう考えると、500ユーロ紙幣は将来廃止されるかもしれない。

ただし、現金の完全廃止は別問題だ。そのような提案が浮上した場合、ドイツで経済学者や企業経営者らが連邦憲法裁判所に違憲訴訟を提起するだろう。

現金が地球から完全に姿を消す日は、まだかなり先のことになるのではないだろうか。

4 März 2016 Nr.1021

最終更新 Montag, 19 September 2016 12:54
 

ドイツは国境を閉鎖するべきなのか?

今年に入って、難民危機にどう対処するかをめぐる議論が白熱化している。メルケル首相は難民数を減らすべきだとしながらも、「基本法(憲法)が保障する亡命権に上限はない」という立場を崩していない。

国境を開くべきか閉ざすべきか
難民に対し、国境を開くべきか閉ざすべきか

上限設定を求めるCSU

これに対し、大連立政権に属するキリスト教社会同盟(CSU)は、今年ドイツが受け入れる難民数を20万人に制限するべきだと主張している。

CSUに属するバイエルン州政府のゼーダー財務大臣は、「欧州連合(EU)境界線の警備も、EU加盟国への難民の配分も機能していない。今年、ドイツの難民受け入れ数が20万人に達したら、少なくとも内戦などが起きていない国からやってきた外国人は、ドイツに入国させずに国境で追い返すべきだ」と主張する。

ゼーダーによると、昨年ドイツに入国した110万人の難民のうち、亡命する資格があるのは約67%。彼は「亡命のための要件を満たしていない残りの35万人は、ドイツから追い出すべきだ」と訴える。また彼は、「EUではドイツとフランス、英国、東欧諸国との間で難民の扱いをめぐって不協和音が高まり、分裂の危機さえ高まっている。ドイツが昨年、独断的に国境開放という決断を下したことが、現在のEUの内部対立の大きな原因になっている」と述べ、メルケルの決定を強く批判している。

現在、欧州でドイツの孤立は深まっている。今年1月に隣国オーストリアは、「2019年までに受け入れる難民の数を12万7500人に制限する。今年の受け入れ数の上限は、3万7500人にする」と発表した。これまで難民受け入れに積極的だったスウェーデンが、国境検査を強化し始めたことも、メルケル首相にとって大きなプレッシャーとなっている。

AfDへの支持率急上昇

難民問題は、ドイツの政局の台風の目である。今年ドイツでは、南部のバーデン=ヴュルテンベルク州など3つの州議会で選挙が行われる。また来年には日本の総選挙に相当する連邦議会選挙が行われる。こうした重要な選挙が近づいているため、メルケルに対する圧力は刻一刻と高まっている。

公共放送ARDが今月行った世論調査によると、排外主義を主張する右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率は約12%に達し、キリスト教民主同盟(CDU)・CSUと社会民主党(SPD)に次いで、第3党となった。右派政党が、緑の党や自由民主党(FDP)を追い抜いたのである。

さらに「連邦政府の仕事に満足している」と答えた回答者の割合は、昨年7月には57%だったが、今年2月には、19ポイントも下がって38%になった。メルケル首相に対する支持率は今年1月には58%だったが、2月には12ポイントも下がって46%になった。また、「連邦政府は難民問題にきちんと対応していると思うか」という設問に「ノー」と答えた市民の割合は、81%にのぼった。

これらの数字は、既成政党の難民危機に関する対応に不満を抱いた有権者たちが、抗議の姿勢を示すために、AfDを支持し始めていることを示している。AfDが、今年と来年の選挙で州議会や連邦議会に議席を獲得することは、ほぼ確実だ。

多くのドイツ人が抱く「今年も100万人の難民がドイツにやって来るのだろうか」という漠然たる不安感が、ポピュリスト政党にとって追い風となっている。

しかしAfDは、信頼するに足る政党だろうか。同党の幹部は、今年1月に「ドイツは国境を閉ざすべきだ。もしも難民が警官の制止にもかかわらず国境を突破した場合、警察官は銃を使用してでも、難民の侵入を防ぐべきだ」と発言した。ドイツの法律によると、警察官は国境を越えようとする外国人に対して発砲することを禁じられている。

社会主義時代の東ドイツ政府は、国境警備兵に対し、ベルリンの壁を越えて西側に逃亡しようとした市民を見つけた場合には、射殺してでも逃亡を食い止めるよう命じていた。AfD幹部の発言は、民主国家ドイツを、社会主義時代の東ドイツのような国にすることを求めるものであり、噴飯物である。この発言は、今日のドイツ社会での議論が難民危機のために、いかに感情的なものになっているかを浮き彫りにするものだ。

メルケルの言動に微妙な変化

そうした中、メルケル首相も次第に難民に対する姿勢を硬化させつつある。特に大晦日にケルンで起きた集団暴力事件以降、メルケル首相の言動に変化が生じている。

たとえばメルケル首相は1月30日にメクレンブルク=フォアポンメルン州での党の集会でこう語った。「シリアが平和になり、ISが撃退されたら、シリア難民はドイツで学んだ知識を持って、シリアに戻ってほしい」。これは、メルケル首相が難民に対し祖国への帰還を望んでいることを示した初めての発言として、ドイツの政治家やメディアによって注目された。彼女は心の中で、「難民に対して寛容な姿勢を見せ続けた場合、AfDによって、州議会選挙や連邦議会選挙で票を奪われる」という、冷徹な計算を行っているのかもしれない。

ドイツやオーストリアが国境を閉ざした場合、難民たちはどこへ行けばよいのか。数万人の難民が国境の前で立ち往生する悪夢が再現されるのか。難民危機という長く暗い夜に、まだ明かりは見えない。

19 Februar 2016 Nr.1020

最終更新 Montag, 19 September 2016 12:54
 

ドイツの原発のゴミをめぐり激しい議論

 西側先進国で最悪の原子力災害となった、東京電力・福島第一原子力発電所での炉心溶融事故から、今年で5年目となる。

夜のケルン中央駅前
最終所蔵処分場をどこにすべきか議論されている放射性廃棄物

今も約10万人が避難

だが福島事故は今も終わっていない。福島県によると、2015年11月の時点で、約10万2000人が避難生活を強いられている。

この内、住んでいた場所が原発からの放射能で汚染されたために避難している人の数は、12の市町村で約9万人。彼らが住んでいた地域は、放射線量の強さに応じて、政府から帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に指定されている。

双葉町などでは、大半の地域で年間積算線量が50ミリシーベルトを超えており、政府から帰還困難区域に指定されている。帰還困難区域では、放射能汚染がひどいために、福島事故から6年経っても線量が年間20ミリシーベルト未満にならないと予想されている。

帰還困難区域の広さは、約337キロ平方メートル。事故前にこの地域に住んでいた住民約2万5000人の大半は、今後も長年にわたって故郷に戻ることができないと見られている。福島県の原野では、汚染土を詰めた黒いビニール袋がうず高く積まれている。このビニール袋の山は、今後我々日本人が何十年にもわたって取り組んでいかなくてはならない、放射性廃棄物との戦いの象徴である。

廃棄物貯蔵処分場をどこに作るのか

ドイツでも、原発からのゴミをめぐる議論が激しく行われている。メルケル政権は、放射性廃棄物の最終貯蔵処分施設の建設へ向けて、本格的な作業を始めている。ドイツ連邦議会と連邦参議院は、2014年4月に「高レベル核廃棄物の貯蔵処分に関する委員会」を発足させた。この委員会の任務は、「最終貯蔵処分場の選定に関する法律」に基づき、原発からの使用済み核燃料など、放射能で著しく汚染された廃棄物を、長期的に貯蔵する場所を選定することだ。

委員会のメンバーは、連邦議会議員と州議会議員、科学者、宗教関係者、環境団体、産業界の代表33人である。この委員会は、次の問題について、議会と政府に提言書を提出する。

  • 最終貯蔵処分場の場所をどのように選ぶべきか?
  • 最終貯蔵処分場が満たすべき、安全基準は何か?
  • 放射性廃棄物は永久に貯蔵するべきか、それとも将来放射性廃棄物の新しい処理方法が開発される場合に備えて、廃棄物を取り出すことができるようにするべきか?

委員会は2031年頃までに最終貯蔵処分場の候補地を決定し、連邦政府と議会関係者に提案。最終的には連邦議会と連邦参議院が決定する。連邦政府は、計画通りに運べば、2050年頃には最終貯蔵処分場に高レベル放射性廃棄物の搬入を始める方針だ。

密室で決められた候補地・ゴアレーベン

この委員会での討議内容の議事録は、ネット上で公開され、誰でも読めるようになっている。高い透明性が確保されている理由は、環境団体や緑の党が「福島事故が起こるまで、高レベル核廃棄物の貯蔵処分場の選定作業は密室の中で決められてきた」と批判したからである。1977年に、当時のシュミット政権とニーダーザクセン州政府は、同州東部のゴアレーベンの岩塩坑が、高レベル放射性廃棄物の最終貯蔵処分場に適しているかどうか調査を開始した。当時の西ドイツ連邦政府は、ここに原発のゴミの捨て場所を作ることについて、事前に住民たちの意見を全く聞かなかった。このため地元の住民らの激しい反対運動が起きた。

だが1998年に、ゴアレーベンでの調査に反対していた緑の党が政権に参加すると、状況は一変した。シュレーダー政権の環境大臣に就任した緑の党のトリティンは、ゴアレーベンに関する調査活動を10年間にわたって凍結したのだ。2011年の福島事故後、メルケル政権はそれまで最有力候補地だったゴアレーベンだけにとらわれず、ほかの候補地も探すという方針を明らかにした。この決定は、ゴアレーベンを最終貯蔵処分場にしようとしていた、シュミット政権、コール政権の方針を事実上白紙撤回したものである。

日本での選定作業もガラス張りに!

ドイツでは、市民の強い反対によって原子力発電所や高速増殖炉の建設プロジェクトが中止に追い込まれたケースがいくつもある。ゴアレーベンの最終貯蔵処分場プロジェクトの挫折も、そうしたケースの一つである。地元住民たちの強硬な反対姿勢が、1998年の左派連立政権の誕生、緑の党の政権参加によって、国のエネルギー政策の大きな変更につながったのである。このエピソードは、市民の意思をエネルギー政策に反映させる上で、二大政党制が健全に機能することが、いかに重要かを示している。

日本でも、高レベル核廃棄物の貯蔵処分場がどこに作られるかは、まだ決まっていない。使用済み核燃料は、原子力発電所に中間貯蔵されている。中間貯蔵される使用済み核燃料の量は、時間とともに増えていく。

このため、日本でも高レベル核廃棄物の貯蔵処分場の正式な選定作業を、一刻も早く始める必要がある。その場合、日本政府と国会は、ドイツ政府と議会が現在行っているように、討議と決定のプロセスをガラス張りにして、技術者の意見だけではなく、住民の意思にもできるだけ配慮してもらいたい。

5 Februar 2016 Nr.1019

最終更新 Montag, 19 September 2016 12:55
 

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