ジャパンダイジェスト

失業手当のもらい方

8月のドイツの失業者数は、前月比9000人増の347万2000人。失業率は同0.1ポイント増の8.3%だった。世界的な経済危機の中でも、当地の労働市場は比較的安定しているように見えるが、これも景気回復対策のおかげ。しかし、対策終了後は失業者が急増する見通しで、今や失業問題は人ごとではなくなっている。今回は2回に分けて、失業手当について見ていこう。

誰がもらえるのか

失業手当(Arbeitslosengeld)を申請できるのは、(1)現在週15時間以上の労働に就いておらず、(2)失業する前の過去2年間で、社会保険料の納入が義務付けられている職に12カ月以上就いており、(3)連邦雇用庁(Bundesagentur für Arbeit=BA)に「求職登録(Arbeitssuchendmeldung)」および「失業登録(Arbeitslosmeldung)」をした人。

「失業登録」は失業状態になるその日までに行わなければならず、それによって初めて失業手当の申請が可能になる。ただし労働者にはその前に、退職が決まった時点でBAに「求職登録」をすることが義務付けられていることも忘れてはならない(→別枠記事中「求職登録はすみやかに」を参照)。これはつまり、失業手当を受け取ろうとする失業者は、就業を望んでいることが大前提になっているということだ。

給付期間と給付額

失業手当はすべて社会保険料でまかなわれているため、給付期間や給付額は失業者が過去一定期間内にどれだけの間、社会保険料を納めていたかに基づいて、算出されるようになっている。失業手当の申請資格で過去の社会保険料納入が問われているのは、このため。

まず期間は24カ月を最長に、過去5年間で12カ月以上社会保険料を支払っていた場合はその半分の6カ月、同様に16カ月以上は8カ月、20か月以上は10カ月、24カ月以上は12カ月、30カ月以上は15カ月、36カ月以上は18カ月、48カ月以上は24カ月となる。また年齢によっても異なり、50歳以上には15カ月間、55歳以上には18カ月間、58歳以上には24カ月間支給される。なお失業手当の給付は64歳まで。

給付額は、失業する前の年に得た賃金収入から1日当たりの平均収入を割り出し、そこから所得税や社会保険料などを差し引いた額の60%が1日分として支給される。子どもがいる場合は、子どもの数に関係なく67%。支払いは1カ月を30日として計算し、毎月行われる。退職理由が適当である限り、会社都合、自己都合に関係なく、すぐに給付開始となる。

社会保険“完備”、バイトもOK

失業中も、健康保険、介護保険、年金保険、労災保険の社会保険は“完備”されており、保険料は基本的に、全額BAが負担する。

また申請資格にあるように、週15時間未満の労働は「就業」ではなく「失業」と見なされるため、失業手当受給中でも週15時間未満であれば、アルバイトをして副収入を稼ぐことも可能だ。ただしアルバイトは、BAに申告した上で行わなければならない。

失業手当受給後

このように、失業者には手厚い支援が施されており、失業者は生活の心配をすることなく、就職活動に専念できるようになっている。しかしその一方で、低賃金の職に就くより失業手当を受けた方が収入が多いケースもあり、就職しようとしない失業者が増えるという問題も出てきた。この問題を解消するため、2005年に導入されたのが「第2種失業手当(Arbeitslosengeld II)」。これまで述べてきた失業手当はこれと区別するため、「第1種失業手当(Arbeitslosengeld I)」とも呼ばれる。

第2種失業手当は、失業救済金と社会扶助が一本化されたもので、第1種失業手当の給付終了後も失業状態が続いている人や、働いていても賃金収入だけではやりくりできない低所得者に支給される。最低限の生活を保障することが目的だ。次回は続いて、「第2種失業手当」を取り上げていく。

BAに失業登録・失業手当申請をすれば、毎月給付金が入ってくるというわけではない。BAの任務に失業者が応えることが前提だ。

BAの任務

・職業および職業訓練のあっせん
・職業ガイダンス
・職業訓練および職業教育の助成
・雇用の確保および創出
・失業手当の支給などによる経済的支援

失業手当受給者の責任

・どんな仕事にも就く用意がある
BAからあっせんされた仕事を特別な理由もなく断ったり、従事しなかったりすることは認められていない。

・再教育などの対策に応じる用意がある
就職の可能性を広げるために、再教育は必須。これも特別な理由なく断ることはできない。

・積極的に仕事探し
BAからのあっせんを待っているだけではダメ。自ら進んで就職活動することが求められており、その活動内容をBAに示さなければならない。
求人情報はBAの「JOBBÖRSE」で、各種職業訓練コースは「KURSNET」でこまめにチェックしよう。

・常にスタンバイ
常にBAと連絡が取れ、必要に応じて、すぐにBAに来所できる状態でいることが求められる。旅行などで自宅を離れるときは、前もって通知しなければならない。失業中は“休み”ではないのだ。

・求職登録はすみやかに
求職登録は原則、退職日の3カ月前までに行わなければならない。ただし、退職が決まった日から退職日まで3カ月を切っている場合は、退職が決まってから3日以内に登録すれば良い。

・通知の義務
医師による診断結果や住所変更などの通知は、すぐに行わなければならない。

以上の「責任」が果たせなければ、罰として1件あたり12週間の給付停止となる(ただし就職活動の内容を示すことができない場合は2週間、通知の義務を怠った場合および求職登録が遅れた場合は各1週間)。給付期間中に合計21週間以上の罰を受ければ、失業手当の受給権自体が失効するので注意が必要だ。

用語解説

失業者数 Arbeitslosenzahl

日本の7月の失業率は前月から0.3ポイント増加し、過去最悪の5.7%。数字だけ見れば、ドイツより失業率は低いが、両国の統計方法に差異があるため、簡単に比較することは難しい。日本では総務省が毎月、労働力調査を行うことで、完全失業者数を発表している一方、ドイツではBAへの失業登録者数=失業者数となっており、週15時間未満の労働に就いている人も失業者数に含まれている。

<参考文献>
Bundesagentur für Arbeit
■ Die Welt(04.09.2009)-„Koalition bleibt von schlechten Arbeitsmarktzahlen verschont“- „Krise verängstigt die Deutschen nicht“

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 05 Juni 2019 11:03  
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