2005年1月に導入された第2種失業手当は、手厚い失業手当に頼って、なかなか働こうとしない長期失業者を減らすことが目的だった。そのため、支給額を生活保護レベルにまで減額したのだが、実際は長期失業者が減少するどころか貧困に陥り、深刻な社会問題となっている。第1種失業手当を取り上げた前回に続き、今回は第2種失業手当についてみていきたい。
受給資格
第2種失業手当が受給できるのは、就業能力があり、生活保護を必要とする15~64歳のドイツ居住者。具体的には、第1種失業手当の受給終了後も失業状態が続いている長期失業者や、働いてはいるものの賃金が低く、それだけでは生活できない人が対象となる。
ただし、賃金収入がない、もしくは低くても、一定額を超える貯金のほか、売却によって適当な収入が得られる土地や株式などの資産を所有している場合は、保護の必要はないと見なされ、保障の対象外となる。また手当は家族全員に支給されるため、配偶者など、パートナーに適当な収入や資産がある場合も支給されない。パートナーが家族を養えると見なされるからだ。
最低生活費
同手当では、生活するために最低限必要とされる費用のうち、収入などで補えない分が給付されることになる。「最低生活費」とは食料品、衣服、家財道具、身体のケアにかかる費用のほか、暖房費を除く光熱費、交際費など。具体的には独身、ひとり親、未成年のパートナーを持つ人には月額359ユーロ、夫婦(同等の関係にあるパートナーも含む)にはそれぞれ、その90%である323ユーロ、同居している24歳までの子どもには年齢に応じて60~80%の支給が定められている。25歳以上の子どもは、親と同居していても個別に申請しなければならない。家賃や暖房費はこれとは別に、適切とされる範囲内であれば全額支給される。(→枠外記事参考)
また「失業手当」の一種ではあるが、生活を保障しながら、失業者が自活できるよう就職を支援する「求職者への手当」という意味で、手当を受けながら仕事をすることができる。というよりもむしろ、働くことが推奨されており、就職控除などによって、賃金収入があれば手当と合わせた収入が増えるような仕組みになっている。第2種失業手当でも、あっせんされた仕事を特別な理由もなく断ったりした場合は、給付停止または終了となる。
なお、第1種失業手当が失業保険料でまかなわれているのに対し、第2種失業手当は税金から支払われるため、過去の社会保険料納入の有無は受給に関係ない。給付期間は6カ月。引き続き手当が必要な場合は、その都度申請しなければならない。
貧困問題の深刻化
このように第2種失業手当の下では、家族全員の資産をほとんど手放して生活費に回し、それでも生活に苦しむ人が給付を受けている状態で、貧困問題が深刻化している。また、25歳未満の若者への手当が十分に整っていないなど、数多くの問題点も指摘されており、「福祉国家の解体」といった非難や、「失業手当の支給額が大幅に削減できた」と皮肉る声は後を絶たない。
9月の総選挙で、第2種失業手当の導入を推進した社会民主党(SPD)が野党に回ったことから、反対の声はますます強まっている。メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)は新政権樹立に向けた連立交渉の中で、受給額算出の際に差し引く資産額を増やすことで合意。現在、老後の生活費として控除されるのは「年齢×250ユーロ」(例えば50歳の場合1万2500ユーロ)までだが、今後は「年齢×750ユーロ」と3倍に増やす考えだ。また受給者の労働意欲をさらに高めようと、賃金収入に対する基本控除額や就業控除額を増やすことも検討している。新政権には、失業者の生活改善とともに、失業問題の抜本的解決を期待したい。
「収入」とみなされるもの(世帯全部の合計)
● 賃金収入(所得税や教会税、社会保険料、各種控除は差し引く)
● 失業手当(第1種失業手当を受けていても、さらに生活が困難な人には、第2種失業手当も給付される)や疾病給付金などの手当
● 利子による収益
● 土地や家屋などの賃貸収入
● 株式などの配当所得
● 養育費
● 児童手当(月額164ユーロ、3人目は同170ユーロ、4人目以降は各195ユーロ)
● 年金など
第2種失業手当で支給される額は「最低生活費-収入」。でも具体的にどうやって決められるのだろうか? 大まかにではあるが、例を挙げながら1カ月当たりの支給額を “算出” してみよう。
《1》1カ月当たりの最低生活費
*物価などに合わせ、毎年7月に調整される
独身、ひとり親、パートナーが未成年の人 | 359ユーロ(100%) |
夫婦(同等の関係にあるカップルを含む) | 各323ユーロ(90%) |
14歳~同居している24歳までの子どもおよび未 成年のパートナー | 287ユーロ(80%) |
6歳~13歳までの子ども | 251ユーロ(70%) |
5歳以下の子ども | 215ユーロ(60%) |
《2》以下の場合は《1》に加え、特別手当(月額)も支給される
妊娠中(13週目以降)の女性 | 61ユーロ(17%) |
ひとり親で、7歳未満の子どもが1人いる場合 | 129ユーロ(36%) |
ひとり親で、16歳未満の子どもが2人もしくは3人いる場合 | 129ユーロ(36%) |
ひとり親で、上記以外の未成年の子どもがいる場合(1人当たり) | 43ユーロ(12% ただし計60%が上限) |
障害者 | 126ユーロ(35%) |
病気などで、経費のかかる特別な食事が必要な場合 | 個々の場合に応じて |
《3》第2種失業手当の算出例
例1) 4歳の子どもが1人いる失業中の夫婦の場合
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例2) 例1と同じ家族に800ユーロの賃金収入(税込み)がある場合。
賃金収入とみなされる額の算出方法は以下のとおり
税込み賃金 | 800ユーロ |
所得税、社会保険料等を差し引いた手取り収入 | 633.81ユーロ |
基本控除額(一律100ユーロ) | 100ユーロ |
就職控除額(総収入が800ユーロ以下の場合、基本控除額を引いた額の20%が控除される。それ以上の総収入がある場合は、1200ユーロ(子どもがいる場合は1500ユーロ)までの収入の10%がさらに控除される | (800ー100)× 0.2 =140ユーロ |
収入とみなされる額(633.81-100-140 =) | 393.81ユーロ |
賃金収入があることにより、第2種失業手当の支給額は、785.19ユーロ(1179ユーロー393.81ユーロ)に減るが、実際の収入は633.81ユーロ(手取り賃金)+ 164ユーロ(児童手当)+ 785.19ユーロ(第2種失業手当)= 1583ユーロと、控除分だけ働いた方が多くなる。
ほかにも、過去2年以内に第1種失業手当を受けていた第2種失業手当受給者には、第1種失業手当で受給していた額と第2種失業手当(家賃、暖房代含む)の差額の3分の2(独身の場合は月160ユーロ、夫婦の場合は月320ユーロが上限)が支払われる。受給期間は第1種失業手当の支給終了から2年間。ただし2年目の支給額はさらにその半分となる。
最近5カ月の失業者の内訳(下記の表)。失業者のうち、第2種失業手当受給者の占める割合が高いのがよくわかる。
失業者総数 (失業率) |
第1種失業手当 受給者 |
第2種失業手当 受給者 |
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2009年9月 | 334万6000人 (8.0%) |
114万人 (2.7%) |
220万6000人 (5.2%) |
2009年8月 | 347万2000人 (8.3%) |
124万4000人 (2.9%) |
225万7千人 (5.4%) |
2009年7月 | 346万2000人 (8.2%) |
121万4000人 (2.9%) |
224万9000人 (5.3%) |
2009年6月 | 341万人 (8.1%) |
224万9000人 (2.8%) |
224万7000人 (5.3%) |
2009年5月 | 345万8000人 (8.2%) |
119万7000人 (2.8%) |
226万1000人 (5.4%) |
Quelle: Statistik der Bundesagentur für Arbeit
ハルツ4 Hartz IV
第2種失業手当を要とした労働市場改革第4法のこと。自動車メーカー、フォルクスワーゲンの元人事担当役員ペーター・ハルツ氏が提案したことから、こう呼ばれており、一般的には第2種失業手当自体を指すことも多い。働けない人への生活保護は「社会手当(Sozialgeld)」と呼ばれるが、同じくハルツ4から誕生したもので、内容は第2種失業手当と基本的に同じ。<参考文献>
■ Bundesagentur für Arbeit „Arbeitslosengeld II / Sozialgeld“
■ Bundesministerium für Arbeit und Soziales
■ Die Tagesschau erklärt die Welt (Rowohlt・Berlin Verlag)
■ Die Welt „Union und FDP verteilen Wohltaten“ (15.10)ほか