ジャパンダイジェスト

芸術家たちに愛され続ける村 曇り空が美しいアーレンスホープ

曇り空に心を奪われてしまいました。ここはドイツ北東地方のダース半島に位置する、アーレンスホープ(Ahrenshoop)。1900年頃からドイツ全国の芸術家、特に風景画家たちがこの地に集まり、「芸術家コロニー」が作られたほど美しい風景に囲まれた細長い村です。バルト海とザール湾に挟まれた目抜き通りには、ギャラリーやカフェ、ホテルそして茅葺屋根の小さな家屋が立ち並び、例年だと春から秋のシーズン中は観光客でにぎわいます。茅葺屋根の家屋はダース半島ではお馴染みですが、昨今は維持が簡単ではないなどの理由で減少傾向に。しかしアーレンスホープでは、丁寧に守られてきた木造のかわいらしい家が今でも多く残っているのです。

茅葺屋根の教会茅葺屋根の教会

本誌1119号でもアーレンスホープ村の浜辺をご紹介しましたが、海側は絶えず吹き付ける西風の影響で、ものすごい速さで浸食が進む「動」の世界。そして反対側の湾は、牧場や野原が広がる「静」の世界。村の端から端まで数キロメートルしか離れていないということを忘れてしまいそうになるくらい、別世界のような景色が広がります。

目抜き通りにある家目抜き通りにある家

目抜き通りから少し離れれば、少し憂いを感じる灰色の空からはヒバリの鳴き声が響き渡ります。どこまでも続く緑色の草原と鮮やかな黄色のタンポポがたっぷりと咲き誇るその風景は、まさに絵画そのもの。感激しながら辺りを見回してみると、今目の前にある風景がモチーフになった絵画が看板で紹介されています。曇天のくすんだ景色は、写真ではなかなかにその表情が伝わりにくいですが、絵画だとその美しさがダイレクトに伝わることに気づきました。この看板はアーレンスホープの至る場所に設置されていて、絵の実物は村にある美術館(Kunstmuseum Ahrenshoop)で観ることもできます。時間さえ許せば、まずは村中を散歩してから美術館で作品を堪能し、そしてまた散歩をするのがおすすめ。現実の風景と絵画とを行き来し、きっと違う世界が見えることでしょう。言わずもがなですが、5月時点では閉館中。この記事が公開される頃には再開の目途が立っていると良いのですが。

風景画を紹介する看板風景画を紹介する看板

アーレンスホープは隣接するほかのダース半島の村とは一線を画し、とても洗練されています。私はこれまでその理由が分からずにいましたが、その秘密は「曇り空」にあるのだと確信しました。写真では伝わりきらない「曇り空の風景」の奥深さがアーティストたちの心を揺さぶり、この地に留まらせ、あらゆる「美」を追及させ続けるのではないでしょうか。透き通るような青い空と真っ白な雲だけが、「映える」のではないのですね。

ハス エリコ
ロストック在住。ドイツ北東地方の案内人、そしてシュヴェリーン城公認ガイド。ツイッターで観光、街、大好きなビールについて、ほぼ毎日つぶやいています。
Twitter: @rostock_jp
griffin-guides.com
 
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