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Tue, 19 November 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 45

キャロット・ケーキ
Carrot Cake

Carrot Cake

食べず嫌いをするほうではないのですが、見ためのせいで、なかなか手を出せなかったお菓子が「キャロット・ケーキ」でした。それは、ケーキの上にどっぷりと塗られたアイシングのせい。

以前ご紹介したビクトリア・サンドイッチと並び、キャロット・ケーキは英国のティー・ルームでの定番中の定番。なので、何度も見掛けてはいました。でも、クリーム色のアイシングがたっぷりとかけられ、その上にマジパンで作った人参までのせられていると「甘ったるいんじゃないかしら……」と不安がよぎります。それに英国のケーキひと切れはたいていが出血大サービス(?)のジャンボ・サイズ。見栄を張るつもりはありませんが、「食べ切れないかも」と思ってしまうのです。

そんな私がとうとうこのケーキに挑戦する日がやってきました。それは2012年のこと。ドーバー・ストリート・マーケットというファッション・ビルの最上階にあるローズ・ベーカリーでした。今や日本各地にも店舗があるというほどの人気カフェですが、もともとは2002年に英国人ローズ・カラリーニさんがフランス人の夫、ジャン=シャルルさんとともにパリ9区にオープンしたのが始まりです。

「ここではキャロット・ケーキを食べるべし!」と友人に言われ、カウンターを見ると、そこには普段のイメージのものとはずいぶん違う形のケーキが。それは、学生時代に習っていた茶道で使った棗(なつめ)のような形をしています。その上部7ミリほどがアイシングでした。

鉄瓶に入った紅茶とともに運ばれてきたキャロット・ケーキをさっそく一口ほおばりました。……おおっ、アイシングは甘くない。というか、それはクリーム・チーズ味なのだと、このとき初めて知りました。スポンジ部分はよそのキャロット・ケーキと同様に焦げ茶色。ほんのりとした甘さがアイシングのチーズ風味によく合います。生地はしっとりしていて、口当たりも滑らか。一気に食べ切ったあとは、私のキャロット・ケーキに対する評価は急上昇です。

さて、中世ヨーロッパにおいて人参は、その甘みから甘味料としてケーキやデザートに利用されていたそうです。英国では18~19世紀の料理書にキャロット・プディングのレシピが登場します。その後、再び人参が甘味料として注目されたのが、第二次大戦時でした。食料が配給制となり、すべての食べ物が大幅に不足するなか、当時の食料省(Ministry of Food)は戦時下における料理のレシピやアイデアを紹介するリーフレットを発行します。そこでは人参がいかにすぐれた野菜かが語られ、人参を使ったレシピが掲載されました。その中にもキャロット・ケーキが紹介されています。ただし、それにはアイシングはなし、卵は粉末状のドライド・エッグを使用。ローズ・ベーカリーで食べたものとはずいぶん違う味だったに違いありません。

キャロット・ケーキの作り方(直径20cmの丸型1個分)

材料

  • セルフ・レイジング・フラワー ... 225g
  • ベーキング・パウダー ... 小さじ1
  • 砂糖(マスコバド・シュガー) ... 150g
  • 人参(すり下ろす) ... 100g
  • くるみ(細かく刻む) ... 50g
  • サラダ油 ... 150ml
  • 卵 ... 2個
  • シナモン・パウダー ... 小さじ1/2
  • 【アイシング用】

  • 無塩バター(室温に戻す) ... 50g
  • クリーム・チーズ ... 200g
  • 粉砂糖 ... 50g

作り方

  1. サラダ油、砂糖をボウルに入れ、ハンド・ミキサーでよく混ぜ合わせる。そこに溶き卵を加えてさらに混ぜる。
  2. ❶に人参を加えて木べらで混ぜる。
  3. ❷にセルフ・レイジング・フラワー、ベーキング・パウダー、シナモン・パウダーを加えて混ぜ、さらにくるみを入れてさっくりと混ぜる。
  4. ❸を型に流し入れ、180℃に余熱したオーブンで約1時間ほど焼く。
  5. バター、クリーム・チーズ、粉砂糖をハンド・ミキサーでクリーム状になるまでよく混ぜる。
  6. 網の上でケーキを冷まし、上から❺を塗って出来上がり。
memo

アイシングにクリーム・チーズを使うのは米国からの影響だと言われています。なかには粉砂糖をレモンやオレンジの果汁で溶いただけのアイシングを好む英国人もいます。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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