バッテンバーグ・ケーキ
Battenberg Cake
「ワォ、今回の記事も素晴らしい、ファンタスティック!」
ニュースダイジェスト最新号が我が家に届くたび、このコラムを見た夫は英国人らしく大げさなほどに褒めてくれます。でも、残念ながら彼の読める日本語はひらがな、カタカナとほんの少しの漢字だけ。なので、賞賛しているのはこのページに描かれたイラストのことです。
その素敵なイラストを描いてくださっているのは、本誌デザイナーの中村さん。先月発行号の「From Staff」で、その中村さんが「英国料理は彩りに乏しいので、水彩色鉛筆の茶系ばかりが減っていく」と書いていらして、改めて「はっ」としました。確かに、これまで登場したものの中で鮮やかな色味があったのは、ニッカーボッカー・グローリー、サマー・プディングにトライフルなど、片手に収まる程度。ならば今回はぜひ鮮やかな色のものを、と思い、ピンクと黄色の市松模様がまぶしい「バッテンバーグ・ケーキ」をご紹介することにしました。
地味な色が多い英国菓子の中で、華やかさが際立つこのケーキ。実はずっと前から気になっていました。紹介をためらっていた理由の一つは「手作りするのが難しそう」だから。たいていのレシピには4つに分けた棒状のスポンジを「assemble」となっています。「assemble=組み立てる」という翻訳が脳内でなされ、「イケアの家具じゃあるまいし、ケーキを組み立てるだなんて~」と、ここで少し弱気に。そして更に、組み立てた(!)ケーキの周りをマジパンで皺が寄らないようにぴっちりと覆わなくてはなりません。たいていは焼いたら出来上がり、というほかのケーキ類に比べると、ちょっと手間が掛かります。お菓子作りの好きな友人アリソンが「バッテンバーグ・ケーキだけは店で買ってくる」と言っていたのも「手作りするのは大変」という刷り込みになっていたような気がします。
さて、このケーキについては、1884年、ビクトリア女王の孫娘と、ドイツ、バッテンバーグ(バッテンベルク)家のルイス・アレクサンダー王子とのウエディングを祝うために考えられたと言われています。また、4つの四角はバッテンバーグ家の4人の王子を表している、という説が広く伝わっています。ところが、食文化の歴史研究家であるアイバン・デイ氏は、こうした説には根拠となる文献がないと否定的です。彼が調べたところでは、市松模様が4つの四角ではなく、9つの部分で構成されたものがバッテンバーグや「ドミノ・ケーキ(Gateau à la Domino)」という名で19世紀の料理書に登場していると言います。また、現在のような4つの市松模様は「ナポリタン· ロール(Neapolitan Roll )」という名前で1898年の文献に出ているとも。
だとしたら、いったい誰がビクトリア女王の孫のウエディング記念のための創作物との物語を考え出したのか……。どなたかご存知でしたら、ぜひお知らせください。
バッテンバーグ・ケーキの作り方(1本分)
材料
- セルフ・レイジング・フラワー ... 175g
- バター ... 175g
- カスター・シュガー ... 150g
- 卵 ... 3個
- 食紅(ピンクのフード・カラーリング) ... 適量
- マジパン ... 400g
- アプリコット・ジャム ... 80g
- アイシング・シュガー ... 適量
作り方
- 室温に戻したバターとカスター・シュガーをクリーム状になるまでよく混ぜる。
- ❶に溶き卵を少量ずつ混ぜる。
- ❷にセルフ・レイジング・フラワーを混ぜる。
- ❸の半分に食紅を混ぜ、ピンク色の生地にする。
- ピンクの生地、色を付けていない生地の両方を型に入れ、 180℃に余熱してあったオーブンで20~30分ほど焼く。
- 焼き上がったスポンジが冷めたら、ピンク、黄色のそれぞれを2つの棒状に分ける(合計4つの棒状スポンジが出来ることになる)。
- なべで温めて柔らかくなったアプリコット・ジャムを間に塗って、市松模様になるように棒状スポンジを重ねる。
- ➐の周りにジャムを塗る。
- アイシング・シュガーを振ったまな板上でマジパンを2~3ミリ程度に延ばし、➑を載せて全体を包む。
- 余分なマジパンを切り落として形を整える。
memo
今回、私が使用したバッテンバーグ・ケーキ専用型はAlan Silverwoodというメーカーのもの。£14.99でした。専用型を買わずとも、15×20センチの四角型をベイキング・シートで2つに区切って使ったり、パウンド・ケーキ型2つを使って2種類のスポンジを焼くことも可能です。