Web限定インタビュー!英独仏三国の識者に聞く新聞の強みと日本のジャーナリズム
ニュースダイジェスト2021年新年号では、英独仏のメディア事情に詳しい3名の識者に、各国新聞の特徴についてうかがった。ここでは、紙面では語り尽くせなかったインタビュー内容を、余すことなくご紹介する。三つの視点から浮かび上がった、「新聞メディアの強みと、日本のジャーナリズムの課題」とは?
お話を聞いた人
英国
小林恭子さん Ginko Kobayashi
在英ジャーナリスト。英国をはじめとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。英国ニュースダイジェストでは毎号「英国メディアを読み解く」を執筆。
ドイツ
熊谷徹さん Toru Kumagai
在独ジャーナリスト。過去との対決、統一後のドイツ、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続ける。ドイツニュースダイジェストでは毎号「独断時評」を執筆。
フランス
フィリップ・メスメルさん Philippe Mesmer
ジャーナリスト、ニュースキャスター。Le MondeとL’Expressの在東京コレスポンダントとして活動中。École Supérieure de Journalisme 修士課程修了。
新聞の強みはどのような点にありますか。
小林さん「規制に縛られない自由な報道」
時間をかけて、自分のペースでじっくり集中して読めることでしょうか。また、(英国の)テレビやラジオの報道は、放送網を利用するために英国情報通信庁(Office of Communications)による監査を受けていて、内容の中立性を順守する必要がありますが、新聞にはそのような特定の法律的縛りはありません。事実と情報を流すだけではなく、論説や分析なども多いので、ニュースの背景についてより深く知ることができる点も、新聞の強みだと思います。
熊谷さん「思いがけない情報に出会える」
印刷された新聞の利点は、デジタル化されたメディアよりも、情報を早く吸収できることにあると思います。物理的にページをめくっていくことによって、新しい情報を見つけやすいんですね。
もちろん、デジタル・メディアの場合は、検索すれば知りたい情報がすぐに出てくるという利点がありますが、逆に言えば、検索しない情報は見つけにくい。紙媒体を最初から最後まで読んでみると、あっと思うようなニュースが見つかったということが、これまでに何度もありました。
メスメルさん「読者の知性に訴える『確かな情報』」
新聞の持つ真面目なイメージは、ほかのメディアにない強みだと思います。特に、ソーシャル・メディアや個人ブログなどによる情報発信が増えた結果、フェイク・ニュースが問題になっている現在においては、「信頼に足る情報」を確実に届ける新聞の存在意義が大きいといえるでしょう。
新聞記者は、見聞きした情報を丸ごと信じることはありません。手掛かりとなる情報をもとに、取材やリサーチを通じて深堀りし、ファクトを確かめます。このプロセスが重要であり、オンライン・メディアなどにはない特徴です。
現在はビジュアルの時代ともいわれており、写真や動画といったイメージがニュース視聴者に与えるインパクトが大きいですが、私はこの傾向にも懐疑的です。
私の通ったジャーナリズム学校の講師が言ったことで、印象に残っている言葉があります。「イメージは感情に訴え、言葉は知性に訴える」というものです。言葉を用いて情報発信する新聞は、読者が冷静に状況を把握し、判断を下すために重要な存在だと考えています。
日本の新聞に必要なことは何でしょうか。
小林さん「権力との距離を保ち、市民の側に立った報道を」
新聞の役割は民主主義を守ることなので、日本の新聞はもっと市民の側に立った報道が必要です。そして権力に対する監視をもう少し厳しくしていただきたい。政治家に「メディアは怖い、用心しなくては」と思わせ、緊張感を持たせるような記事を書かなければいけません。昨今の日本の政治を見ていても、もしこれが英国であれば、菅政権はもうとっくにメディアからボコボコに叩かれているはずです。
英国の新聞の特徴は、思い思いの政治的見解を展開することですが、日本の新聞は不変不動、つまり報道の中立性を重視していますね。偏向報道をしないように作る側が心掛けているし、読むほうもそれを期待している。ですから日本ではよく「偏った報道だ」という言い方で批判が起こります。しかしその分、紙面はどっちつかずになり目立った意見が掲載されないともいえるかもしれません。
英国では、政府が政策を発表すると、新聞は市民の視点から報じます。「市民の生活にとってその政策はどうなのか」と、必ず批判的に物事を見ています。これは例えば性犯罪の報道などでも同じで、被害者の側に立った記事になり、「被害者にも悪い点があったのでは」などという、公平を装った報道にはならないわけです。
また、日本のメディアは、大企業について「企業の言うことにも一理あるのではないか」という姿勢で報道することがありますが、英国では、政治家や大企業などの権力者の言うことは最初から「おかしいことがあるかもしれない」と疑った目で見ている。権力の監視を役割としているのです。
取材方法も、日英で大きく違います。2011年に東日本大震災で原発事故が起きたとき、日本の新聞界は「危険だから行ってはいけない」という政府の言葉を守り、現場に足を踏み入れませんでした。しかし英国のチャンネル4などは行ってしまった。これは、与えられたものを報道するだけではなく、一歩踏みこんで自分たちで判断するということを意味します。人種差別に関する問題なども、当事者に話を聞くだけでは分からないことは、潜入取材で自らが当事者になることで記事を書く。公益のためにはかけ引きや危険も辞さず、情報をもぎ取るくらいのやり方です。それに比べると日本はおとなしいですね。特に政治に関しては、日本は政権がなかなか変わりませんから、一定の政党、政治家と仲良くなることで情報を流してもらう形になってしまいがちです。
熊谷さん「複雑な出来事を解説するクオリティー・ペーパーを」
日本にもドイツのような高級紙(クオリティー・ペーパー)ができてほしいですね。これは、日本のマスコミ関係者や新聞記者の間でもよく話されています。
ドイツ語の動詞に「einordnen」という日本語には訳せない言葉があります。これが意味するのは、出来事や事件を解析して、さらにそれにどういう意味があるのかを解説すること。ドイツでは、新聞を読んで単に新しい情報を入手するだけではなく、「einordnen」することが新聞の一番重要な機能なのです。日本の新聞には、この「einordnen」が足りないと感じています。
日本では事実を中立的に報道し、あとは読者が判断するというスタンスが基本です。しかしながら、この世の中には複雑な出来事が多すぎるため、事実を提示しただけでは一般の人が判断できないことが多いんですね。ドイツ人は理論性を好む傾向にあるので、一般の人が理解できるように出来事の歴史的・政治的背景を解説してくれることを新聞に望んでいます。昨今、世界では右派ポピュリズムが勢力を拡大しています。特に若者たちがその主張の問題点を自分の頭で考えられるようにするには、やはり「einordnen」が重要だと思います。
日本の新聞記事に比べて、ドイツの記事は圧倒的に長いです。日本では、できるだけ記事をコンパクトにしないと受け入れられないと思うのですが、ドイツの新聞ではよく取材したものに関しては丸1ページを割いており、記者の取材力と筆力を感じますね。また、一流の経済学者や歴史学者、政治学者が一面を使って評論を書くこともあります。ホットな話題でなくても、例えば第一次世界大戦や第二次世界大戦が現代の政治に及ぼしている影響といったトピックも。ちょっとした本を読むくらいの内容量があり、読むのは大変なのですが、非常に勉強になります。
今の日本には高級紙と呼べるものはありませんが、月刊誌「FACTA」など一般的な新聞には載らないような内容を伝える雑誌が発行されています。現在は関心のある人だけがそういった雑誌を購読しているような状況ですが、時間と費用をかけてでも物事の背景をきちんと解説するような高級紙が、これからの日本に必要だと思います。
メスメルさん「独立独歩の姿勢で、市民の意見形成に貢献を」
日本の新聞は、もっと独立した存在であるべきです。今の新聞は、政府をはじめとする権力からの干渉を許し過ぎています。官邸での記者会見などを見ていると、政府側の誘導に従って、当たり障りのない質問をしているだけで、突っ込んだ質問をする記者はほとんどいません。メディアの経営層が政府に取り込まれているからだと思いますが。ジャーナリストらしい取材をしていると思えるのは、東京新聞の望月衣塑子記者くらいですね。
紙面を見ても、一面を飾るニュースはほぼ横並びで、各紙の特色が見えません。まるで同じ新聞を読んでいるような気になります。もっと自由に取り上げるネタを選んでもいいと思いますね。紙面上でもっと活発な議論を展開することも必要でしょう。新聞が読者に対して具体的な「イデア」(考え方)を提供し、「こうあるべきだ」という提案をするべきです。読者が自分なりの意見を形成するための助けにならなくてはいけません。民主主義国家の言論機関として、それこそが新聞の使命なのですから。
最近は、ソーシャル・メディア上でマスメディアを「マスゴミ」と呼ぶような風潮もありますが、これはマスメディアの記者たちが積み重ねている地道な取材・調査活動のような舞台裏が、一般の人たちに知られていないからという面もあると思います。
これに対しては、米「ニューヨーク・タイムズ」紙が良い試みをしてます。トランプ政権によるマスメディア攻撃が始まっていた2018年、自社の記者たちの日常を映したドキュメンタリー番組である「ザ・フォース・エステート」(The Forth Estate)を公開したのです。「新聞記事が多くの時間と労力をかけ、時には命の危険を冒して作られているという事実をきちんと説明してこなかったことが、信頼不足につながっている」という反省のもとに制作された番組で、視聴者からは「記者たちが地道な取材活動や真剣な議論を繰り返し、悩む様子を観て、彼らも私たちと同じ人間なのだということが分かった」といった感想も出ています。日本の新聞社も、もっとありのままの姿を見せ、等身大の存在として理解してもらう試みをしてみるといいのではないでしょうか。
マスメディアは、市民に寄り添うパートナーとしての情報提供を
お三方のインタビューを通して、新聞やジャーナリズムにとって欠かせない、いくつかの共通ポイントが見えてきた。
まずは、権力との適切な距離を保ち、民主主義国家における「第四の機関」としての役割を果たすことだ。その時その時の政権や大企業と癒着することなく、主権者である市民の利益を考えた報道をすることが求められる。それに伴っては、独立した報道機関の存在意義をしっかりと示し、「新聞が権力批判をするのは政治家叩きがしたいからではなく、民主主義国家を構成する機能としての役割を果たすためだ」という事実を、丁寧に伝えていくことも必要だろう。
また市民の利益を考えるにあたっては、複雑な事象や問題を中立的に報道するだけでなく、背景なども含めて分かりやすく説明し、市民生活にはどのような影響があるのか、といった解説を提供することも重要だ。
メディアは、権力の暴走を食い止め、私たち一人ひとりの手から主権が奪われることを防ぐための重要なツールだ。ソーシャル・メディアを利用したポピュリズムが蔓延する現代こそ、「一般の人々に寄り添うパートナー」としてのマスメディアの在り方が、ますます求められている。



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英国の「ガーディアン」紙に掲載された、スティーヴ・ベル氏による作品。2020年4月、英国内で増え続ける新型コロナウイルスの感染者数に対し、政府ができるソーシャル・ケアの最終プランを描いた。同氏は、ボリス・ジョンソン首相の顔をお尻の形に描くことで有名だ
ドイツでは毎年カリカチュア大賞を開催しており、2020年の金賞はヴォルフ=リューディガー・マルンデ氏が受賞。洗車やヴィーガン・スナックの販売で生き残ろうとするガソリンスタンドを通じて、ドイツの車社会の危機を描いている
※数値が小さければ小さいほど自由度は高くなる。
英南部ワイト島にあるイングランド国教会の聖トマス教会とクリスマス・ツリー
イングランド国教会成立のきっかけを作ったヘンリー8世
清教徒革命の様子を描いた「ネイズビーの戦い後の風景」
同性婚の式を行う教会もある
聖パウロを祭る聖ポール大聖堂
ジェームズ・ハード司祭
St John the Baptist
クリスマス礼拝のポスター。幼子イエスの絵が描かれている
スター・アップ・サンデーに作るクリスマス・プディング
イエス・キリスト誕生の場面を演じる子どもたち
2021年に改修完了
ビッグ・ベンの工事は、単に老朽化した塔の保全作業ではない。文字盤と針を紺青色に塗り直し、調査によって明らかになった1859年当時の色合いを蘇らせるほか、メンテナンス、緊急時の作業を行うためのリフトを新たに設置するなど、さまざまなお直しが含まれているのだ。工事期間中は、第一次、第二次世界大戦でも止むことのなかった鐘も、特別な日を除き一旦お休み中。
今や世界で最も有名な時計塔として名を馳せるビッグ・ベン。その誕生のきっかけとなったのは、1834年10月16日にウェストミンスター宮殿(現在の国会議事堂)を襲った大火だった。この火事で建物のほとんどが焼失。その結果、同じ場所にゴシック様式の新しい建物を建設することになったのである。
英国を代表する画家、ターナーの描いた大火
ワーナーズ鋳造所での鋳造過程
ホワイトチャペル鋳造所で再鋳造される
再鋳造されたビッグ・ベン
ウェストミンスター・ブリッジから望む時計塔

そしていよいよビッグ・ベン、すなわち鐘とのご対面。外気に面した鐘楼には、4つの鐘に囲まれたビッグ・ベンが。「間近で聞くとすさまじい音だから」ということで一人ひとり前もって渡された耳栓を装備、爆音に備える。待つことしばし。ついにビッグ・ベンが鳴り出した。とにかく大きな硬質な音で、美しいかどうかなんて考える余裕もない。耳も慣れてきたようなので、最後くらい実際に聞いてみようかと思い、耳栓を外した途端にすさまじい音が……。最後まで耳栓は外さない方が良さそうだ。鐘の音を堪能した後は、ビッグ・ベンに今もなお残るひびと四角い穴を確認。ひびが入ったまま100年以上もの間働き続けているのだからたいしたものだ

伝統的な英国の調味料
Bisto
HP Brown Sauce
Oxo Cubes
Worcestershire Sauce
Maldon Sea Salt
Salad Cream
Colman's Mustard
Malt Vinegar
Mushroom Ketchap
Piccalilli
Branston Pickle
Marmite
Belazu Rose Harissa
Red Kimchi
Jerk Barbeque Sauce
Organic Tahini
VFISH Fishless Fish Sauce
1970年、ノッティンガムに自分の店を持ったポール・スミス
1970年、ノッティンガムにオープンした「ポール・スミスの紳士服」(Paul Smith Vêtements Pour Homme)で働くポール・スミス
2016年、デザイン・ミュージアムのオープニング・パーティーに現れた、ポール・スミスと妻のポーリーン・スミス
1976年にパリで最初に行ったショーの様子
2017年のロンドン・ファッション・ウィーク
デザイン照明の老舗「アングルポイズⓇ」社とのコラボレーション・デスクランプ
2013年にデザイン・ミュージアムで開催された「ハロー・マイ・ネーム・イズ・ポール・スミス」展では、あらゆるモノであふれかえる、ポール・スミスのオフィスのレプリカが展示された


No.9 アルバマール・ストリート ショップの外観
1946年2月、ピカデリー・サーカス駅から護衛警官によって持ち出される美術品
1948年、ようやく地上へ出たエルギン・マーブル
1940年のヘンリー・ムーアの作品「Women and Children in the Tube」
1940年、エレファント&キャッスル駅の構内。多くの人がプラットフォームに直接寝転がっている
1940年9月7日、ロンドン東部のワッピングとアイル・オブ・ドッグス上空を通過し、爆撃に向かう独空軍のハインケル He 111
シティのモニュメント付近の様子。建物自体は残っているものの、ガラス窓は全て吹き飛んでしまっている
「ミッキーマウス」と呼ばれた2~4歳半用の子ども用ガスマスク。臭くて蒸れて息苦しいものだった。見た目のおかしさから笑いを誘ったという(帝国戦争博物館所蔵)。
この中で一晩を過ごすこともざらだった
写真中央にあるのがモリソン・シェルター。この家庭では卓球台として活用していた
駅構内だけでなく、駅のエスカレーターも避難場所に利用された






