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Wed, 17 December 2025

LISTING イベント情報

オープン・ハウス・ロンドン 2017年9月16日(土)& 17日(日) 姿を変えるロンドンの景観を見つめて

歴史的な建造物や優れたデザイン建築の内部が一般に公開される、毎年恒例のイベント「オープン・ハウス・ロンドン」。25周年を迎えた今年は、800以上の建物が参加するそう。ここでは、革新的なデザインでロンドンの景観を変えたフォスター+パートナーズ建築設計事務所の建築と、遠い昔を想起させるユニークな建造物の両方を取り上げる。ロンドンの街の大きな移り変わりを改めて感じることができるはずだ。

オープン・ハウス・ロンドンって?
オープン・ハウス事務局は、ロンドンという街の魅力を市民にもっと知ってほしい、という志の下にスタートしたチャリティー団体だ。公式サイトでは、今年公開されている建築作品の基本情報が確認できるほか、印刷されたガイドブックも販売中(7ポンド)。移動中に便利な無料アプリもダウンロードできる。あらかじめ予約しないと入場できない建築なども、同サイトから予約ページに飛べるようになっている。https://openhouselondon.org.uk

ロンドンの現在

フォスター+パートナーズによる代表作

今年で設立50周年を迎えるフォスター+パートナーズは、刻々と姿を変えつつあるロンドンの街にあって、常に革新的な建築デザインを生み出してきた。オープン・ハウス・ロンドンで公開される建築の中から、彼らがデザインした建築物6点を紹介しよう。

フォスター+パートナーズ建築設計事務所とは?

1967年に英建築家のノーマン・フォスターが設立。スタイリッシュかつエコロジカルなデザインを提供することで、世界的に知られる。ロンドンでは今回紹介した建築のほか、大英博物館のグレート・コートや、ミレニアム・ブリッジも手掛けた。本イベントでは彼らのオフィスも公開。

  • 9月16日(土)13:00-17:00 & 17日(日)10:00-17:00
  • Riverside, 22 Hester Road SW11 4AN
  • Imperial Wharf / Fulham Broadway

「ガーキン」の呼び名でおなじみ
30 St Mary Axe
30 セント・メリー・アクス

30 St Mary Axe

41階建て、高さ180メートルの高層オフィス・ビル。周辺に起こるビル風を緩和させるために円錐状にデザインされたが、その姿がピクルスに使う小さなキュウリに似ていることから、「ガーキン」のあだ名が付いた。電力使用量が通常の高層ビルの半分で済むような、様々な省エネルギー技術が採用されている。2003年に完成し、今ではロンドンのランドマークに。

  • 9月16日(土)& 17日(日)8:00-15:00 (定員30人)
  • 30 St Mary Axe, EC3A 8EP
  • Bank / Liverpool Street

開放的なガラス張り市庁舎
City Hall
シティ・ホール

City Hall
City Hall

サディク・カーン・ロンドン市長のお膝元である、ロンドン市庁舎。テムズ川の方から斜めにせり出すようにして建つ、ヘルメットのような丸いフォルムで、全面ガラス張りのデザインだ。長さ500メートルの緩やかな螺らせん旋状の階段が、最上階の10階までつながっている様子は一見の価値がある。11時からは9階のロンドンズ・リビング・ルームで子供向けイベントを開催。2002年完成。

  • 9月16日(土)10:00-18:00
  • The Queen's Walk, More London SE1 2AA
  • Tower Hill / London Bridge

ロンドン東部の新たなオアシス
Crossrail Place Roof Garden
クロスレール・プレイス・ルーフ・ガーデン

Crossrail Place Roof Garden
Crossrail Place Roof Garden

2018年にオープン予定のクロスレール、カナリー・ワーフ駅の頭上に覆いかぶさるように造られたルーフ・ガーデン。屋根は特殊な木材を組み合わせて使い、周囲の無機質な高層ビル群とは一線を画す。自然光がふんだんに入る内部は、かつて世界各地からの貨物を集散していたドックランズの歴史にちなみ、世界の植物が育つ庭園となっている。まさに都会のオアシスと言えそう。2016年完成。

  • 9月16日(土)10:00-16:00 (1時間ごとのツアー形式)
  • One Canada Square, Canary Wharf E14 5AB
  • Poplar / Canary Wharf

近未来を体現したオフィス・ビル
The Walbrook
ザ・ウォルブルック

The Walbrook
The Walbrook

周囲の建物とは全く趣の違うモダンな外観で、フォスター + パートナーズのデザインの特徴でもある、丸みを帯び、ガラスを多用したオフィス・ビルディング。外壁に施された日よけのおかげで、建物の内部は夏は涼しく、冬は暖かい。ロビーは吹き抜けになっており、ガラス張りの天井からは青空がのぞく。2010年完成。

  • 16日(土) 13:00-17:00(定員30人)
  • 17日(日) 10:00-13:00(定員30人)
  • 25 Walbrook EC4N 8AF
  • Canon Street / Bank

歴史とモダンが融合した美しさ
HM Treasury
財務省

HM Treasury
HM Treasury

1917年に完成したGrade II*指定の重要建築物で、第二次大戦中にはチャーチル首相のオフィスもあったという由緒ある建物。2002年、外観は20世紀初期のエドワード朝建築のまま、たくさんの光を採り入れた開放的なオープン・プラン式に改築された。以前は細かく区切られて行き来のしづらかった各部屋が、現代のオフィスに似合う、機能的で明るいデザインに生まれ変わった。

  • 9月16日(土)& 17日(日)10:00-17:00 (エキシビション・スペース)
  • 1 Horse Guards Road SW1A 2HQ
  • Westminster

贅を尽くした空間
ME London Hotel
ME ロンドン・ホテル

ME London Hotel
ME London Hotel
ME London Hotel

フォスター + パートナーズが建築ばかりではなく、バスルームなどの内装も手掛けた初めてのホテル。劇場街の真ん中にあり客室のバルコニーからはウェスト・エンドや川沿いの景色も眺められる。中でも印象的なのはロビー・エリア。高さのある鋭角な壁面は、まるでピラミッドかモダンな美術館のよう。ルーフトップ・バーも贅を尽くした空間が広がる。2002年完成。

  • 9月16日(土)&17日(日)13:00-16:00 (30分ごとにアトリウムのツアー形式)
  • あらかじめメールで予約が必要 このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください
  • 336-337 Strand WC2R 1HA
  • Temple / Covent Garden

歴史の刻印

ロンドンの昔に触れよう!

現代のロンドンを離れ、過去の様々な時代に造られた建築から、この街の長い歴史に思いを馳せてみては。ここでは昔ならではのユニークな建築物6点を紹介。

ロンドンにもある公衆浴場跡
Billingsgate Roman House and Baths
ビリングスゲート・ローマン・ハウス・アンド・バスズ

Billingsgate Roman House and Baths

ローマ時代の遺跡としては、ロンドンで最も保存状態が良いものの一つ。2世紀ごろの家屋跡と、3世紀ごろの公衆浴場跡が隣接している。ロンドンの街もかつてはローマ帝国に支配されロンディニウムと呼ばれていた。

  • 9月16日(土)& 17日(日)11:00-16:00
  • 101 Lower Thames Street EC3R 6DL
  • Tower Hill / Fenchurch Street

中世の建築技術に感服
The Great Barn, Harmondsworth
ザ・グレート・バーン、ハーモンズワース

The Great Barn, Harmondsworth

1426年〜27年に建築された中世の大型納屋。これまでに2回修復されているが、95%が当時のままだという。1970年代まで実際に利用されていた。イベント時は修復時の模様や、当地の農業の歴史なども紹介される。

  • 9月16日(土)& 17日(日)10:00-17:00
  • Manor Court, High Street, Harmondsworth UB7 0AQ
  • West Drayton

まるでホビットの住み家
Ivy Conduit
アイビー・コンドゥイット

Ivy Conduit

まるでJ・R・R・トールキンの小説「指輪物語」に出てくる小人族、ホビットの家の入口のようだが、これは16世紀初めにウルジー枢機卿によって建設された水路。ヘンリー8世のいるハンプトン・コート宮殿へ新鮮な水を供給するために造られた。

  • 9月16日(土)11:00-14:00
  • Holy Cross Preparatory School, George Road,
    Kingston upon Thames KT2 7NU
  • Raynes Park

ディケンズも言及したお風呂
'Roman' Bath
「ローマン」・バス

'Roman Bath

ローマ時代のものではなく、元々は17世紀に造られた貯水槽が、18世紀に風呂になったのではと言われている。深さは約1メートル40センチほどで、英作家チャールズ・ディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」にも記述が出てくる。

  • 9月16日(土)12:00-17:00
  • 9月17日(日)12:00-16:00
  • 5 Strand Lane (access via Surrey Street steps) WC2R 2NA
  • Temple / Blackfriars

古色蒼然とした佇まいが人気の秘密
Wilton's Music Hall
ウィルトンズ・ミュージック・ホール

Wilton's Music Hall

1859年に建設され、当時はオペラやオペレッタなどが演じられていた。第二次大戦中は防空壕になるなどしながらも、2015年に修復が完了し、現在も現役で使われている世界最古の大衆的なミュージック・ホールだ。

  • 9月16日(土)10:00-13:00
  • Graces Alley E1 8JB
  • Shadwell / Tower Hill

娯楽施設の知られざる歴史
Alexandra Palace
アレクサンドラ・パレス

Alexandra Palace

1873年に娯楽施設として建築され市民の憩いの場となったが、第一次大戦時にはドイツ兵の捕虜収容所に使われた。ツアーではパレスの歴史を探索する地下室ツアーが開催される。

  • 9月16日(土)10:00-16:00
    (30分ごとの地下室ツアーは12歳以下不可。歩きやすい靴で。あらかじめサイトから予約が必要)
  • Alexandra Palace Way N22 7AY
  • Wood Green / Alexandra Palace

ロンドンの人気建築 BEST 25

オープン・ハウス・ロンドンは25周年を記念し、人気投票による「好きなロンドンの建築」のベスト25を発表。新旧の建築が入り混じった、ロンドンの街らしい結果が出たようだ。

ロンドンの人気建築ベスト25

130 St Mary Axe, ‘The Gherkin’
「ガーキン」こと30セント・メリー・アクス

2St Paul's Cathedral 
セントポール大聖堂

3St Pancras
セント・パンクラス

4The Shard
ザ・シャード

5The Barbican
ザ・バービカン

6Lloyd’s of London
ロイズ・オブ・ロンドン

7House of Parliament
国会議事堂

8Foreign & Commonwealth Office
外務及び英連邦省

9BT Tower
BTタワー

10Royal Festival Hall
ロイヤル・フェスティバル・ホール

11Tower of London
ロンドン塔

12Battersea Power Station
バタシー火力発電所

13Two Temple Place
トゥー・テンプル・プレイス

14King’s Cross Station
キングス・クロス駅

15Sir John Soane Museum
サー・ジョン・ソーン博物館

16The Leadenhall Building
「チーズ下ろし器」ことリドンホール・ビルディング

17City Hall
市庁舎

18Royal Albert Hall
ロイヤル・アルバート・ホール

19National Theatre
ナショナル・シアター

2055 Broadway 
55 ブロードウェー

21Banqueting House
バンケティング・ハウス

22Senate House
ロンドン大学本部「セネート・ハウス」

23Guildhall
ギルドホール

24Trellick Tower
トレリック・タワー

25Royal Courts of Justice
王立裁判所

 

インタビュー人気お笑いコンビ・漫才師
サンドウィッチマンが
10月にロンドン初上陸!

人気お笑いコンビ、サンドウィッチマンの2人がロンドンにやって来る!結成20年目を記念して、10月19日、ロンドンで一夜限りの公演が決定。現在、日本でライブ・ツアー真っ最中の伊達さんと富澤さんに、ロンドンで予定されている公演についてお話をうかがった。
http://grapecom.jp

サンドウィッチマン

サンドウィッチマン
1998年、宮城県仙台市の高校で同級生同士だった伊達みきおと富澤たけしの2人がコンビを結成。2005年のテレビ出演をきっかけに頭角をあらわし、07年にM-1グランプリ王者になりブレイク。09年から毎年単独全国ツアーを開催している。2011年3月の東北ロケ中に東日本大震災が発生。その後、何度も被災地を訪問しサポート活動を行っている。

今回のロンドン公演は、結成20年目を記念したものということですが、記念公演の場所に海外、しかもロンドンを選んだ理由は何でしょうか。

サンドウィッチマン:結成20年目なので、「何か面白いことをやりたいね。じゃあ、海外公演でもやってみよう」ということになりました。ロンドンを選んだ理由は、サンドイッチ発祥の地が英国と聞いていたので、サンドウィッチマンとサンドイッチということで選びました。

サンドウィッチマンのステージは、日本語ならではの面白さや日本ならではの設定が多いかと思います。今回のロンドン公演では字幕もなしと聞いていますが、どのようなステージを考えておられますか。

富澤:ロンドンで行うと言っても、現地に住んでいらっしゃる日本人の方向けに公演を行おうと思っておりますので、ステージは基本的に日本語で行う予定です。

今回は同時期に開催されている国内のライブ・ツアーとは異なる、ロンドン特別公演とのこと。日本での公演とはどのような点が異なるのでしょうか。

富澤:国内のライブ・ツアーはオール新ネタですが、ロンドン公演ではセットの都合もあるので、僕らのやり慣れている、漫才中心のネタをお届けしようと考えております。

ロンドン公演のチケットは販売開始後、すぐに完売となりました。今後もロンドンで公演するご予定はありますか。そして、ロンドンを始め、世界の人々に向けてもサンドウィッチマンのお笑いを広めていきたいと思われますか

伊達:すぐに完売と聞いて驚きました!すごくうれしいです。今後もロンドンで公演するかどうかは、今回の特別公演次第だと思います。

富澤:今はYouTubeに公式サイトがあるので、そこに載っているネタに、字幕か吹き替えを付けることができたら面白いですね。

今回、ロンドンでぜひ訪れてみたいと思っておられる場所はありますか。

伊達:おいしいご飯、あと本場のサンドイッチが食べたいですね。タワー・ブリッジも見てみたいです!

富澤:ルイス・レザー(Lewis Leathers)の革ジャンを着ているので、ロンドンで1着買ってみたいです。

好評につき限定でのチケット追加発売決定!
サンドウィッチマン・ロンドン公演
Sandwichman Live Tour 2017

10月19日(木)19:00 
料金: £25

日本語公演、英語字幕なし
購入はLeicester Square Theatreサイトから

Leicester Square Theatre

6 Leicester Place, London WC2H 7BX
最寄駅: Leicester Square
www.leicestersquaretheatre.com
 

個性を極めるロンドンの本屋

マルチカルチャーの街ロンドンでは、ファッションや音楽関連のショップだけでなく、本屋も負けず劣らずの個性派ぞろい。これまでとは異なる店の探訪は、なじみのない文化に出合うチャンスにも、自分の知らない世界をのぞくきっかけにもなる。活字離れと言われる昨今でも、好奇心を掻き立ててくれる元気な本屋はまだまだあるのだ。目に留まった本を手に取りページをめくれば、新しい扉が開かれるはず。 (取材・文: Keiko Lippard)

新型コロナウイルスの影響により、営業時間等に変更がある場合があります。最新の情報は店舗へ直接ご確認ください。

まさに本の百貨店
Foyles Charing Cross Road

Foyles
まさに本の百貨店と言うべき存在
Foyles
英国の演劇といえばこの人、シェイクスピア
Foyles
演劇コーナーには俳優の自叙伝だけでも大変な数が
Foyles
吹き抜けの天井から光が注ぐ店内中央

ロンドン中心部ウェスト・エンドの中でも大きな存在感を放つフォイルズ。入り口近辺にはカラフルなアート関係の本が見栄え良くディスプレーされ、奥へ進めば建物中央の吹き抜け天井から差し込む光が店内を照らす。規模といい品ぞろえの豊富さといい、まさに本の百貨店と呼ぶにふさわしい。劇場に囲まれた土地柄、映画や演劇、音楽関係などエンターテインメント・コーナーの充実ぶりには特に目を見張るものが。演劇だけでも演出法や演技法、舞台美術、俳優の自叙伝など、種類と数はそうそうたるもの。戯曲も多々あり、真剣に読み込んでいる未来の俳優たちの姿も垣間見られる。最上階にはカフェ&ギャラリーもあり、一日中いても飽きない。

「The Sellout」 Paul Beatty 著
マネージャー、エドワードさんお勧めの一冊
「The Sellout」 Paul Beatty 著
2016年に権威ある文学賞マン・ブッカー賞を受賞。アフリカ系米国人である著者が現在の米国における人種問題の深さを描いた問題作だ。エドワードさんいわく、「米国の社会がしっかり描かれていて、最近読んだ本では一番良かった。重い内容だけれど一読の価値ありだよ」。

107 Charing Cross Road, London WC2H 0DT
Tel: 020 7434 1574
月~土 9:30-21:00 日 11:30-18:00(販売は12:00から)
www.foyles.co.uk

20世紀中期までの女性作家の本に光を当てる
Persephone Books

Persephone Books
グレーを基調にした装丁の本が整然と並ぶ
Persephone Books
お洒落な雑貨屋さん風の外観
Persephone Books
表紙の内側と同じデザインのクッションなども販売

自社出版物、それも主に1900年代初期~中期の英国女性作家による小説や日記を販売するパーセフォニー・ブックス。絶版になってしまった書籍を発掘・再出版し、その魅力を現代に伝えている。「女性の視点を通した社会、世界観は男性のそれとは違う。まして1900年代初頭は女性がなかなか表に出られなかった時代。彼女たちがどんな風に社会を捉えていたかを知るのはとても興味深いものよ」とマネージャーのリディアさん。グレーで統一されたすっきりとした表紙の内側には、それぞれの本が書かれた年代に使われていた布地のデザインが印刷されており、時代背景や内容の雰囲気を伝えるのに一役買っている。

「The Closed Door and Other Stories」Dorothy Whipple 著
マネージャー、リディアさんお勧めの一冊
「The Closed Door and Other Stories」
Dorothy Whipple 著
「どの作家の本を選んだらいいかとアドバイスを求められたらドロシー・ウィップルの本を挙げるの。自己のスタイルを持った素晴らしいストーリーテラーだし、登場人物の描き方も魅力的。最初はこの短編集が読みやすくてお勧め」。ウィップルは「20世紀のジェーン・オースティン」とも呼ばれる実力派作家。

59 Lamb's Conduit Street, London WC1N 3NB
Tel: 020 7242 9292
月~金 10:00-18:00 土 12:00-17:00
www.persephonebooks.co.uk

「タトリンの塔」が出迎える本屋で人間社会を考える
Bookmarks

Bookmarks
赤い旗のモチーフが印象的な店の外観
Bookmarks
デモ集会で実際に使われたスピーカーが中央テーブルに。周りにはお勧めの本が置かれている
Bookmarks
「タトリンの塔」を本のディスプレーに使用

ロンドンのみならず、英国で唯一の「社会主義」を看板に掲げる本屋。店頭にはプロレタリアートの象徴にもなっている、ロシア帝国出身のアーティスト、ウラジーミル・タトリンによる「タトリンの塔」の複製模型が鎮座している。中央テーブルにスピーカーが置かれ、その脇の本棚にはロシア革命とマルクス主義に関する本がずらり。この店の姿勢を象徴している。だがそれにとどまらず、人種差別や女性差別など、あらゆるマイノリティーへの差別を扱った書籍がそろうのも特徴だ。そのほか、偏見や差別といった難しい問題を取り上げながらも易しく分かりやすく書かれた本を集めた子供コーナーも設けられている。

「A People's History of the World」Chris Harman 著
マネージャー、セネンさんお勧めの一冊
「A People's History of the World」Chris Harman 著
ヨーロッパやアジア、アフリカなどの国々でどのようにして今の社会が構築されていったのかがまとめられている。「社会というものを理解したいという人には必ずこの本を勧めているんだ」とセネンさんが熱く語る。かなり分厚い本なので、夏休みにチャレンジしたい人はぜひ!

1 Bloomsbury Street, London WC1B 3QE
Tel: 020 7637 1848
月 12:00-19:00 火~土 10:00-19:00
https://bookmarksbookshop.co.uk

声を大にして「自分」を示したい
Gay’s The Word

Gay’s The Word
店頭に並ぶスタッフお勧めの本、多くはノンフィクションだ
Gay’s The Word
間口は狭いが奥が深い店内。一番奥の棚には詩集が。DVDやTシャツなども売られている
Gay’s The Word
シンプルな白壁の外観

性的少数者(LGBTQ)の関連本に特化したこの専門書店は、まだその言葉の定義も浸透していなかった1979年にオープン。差別や偏見も多くみられ、個々が孤立しがちだった時代だ。「声を大にして自分の在り方を示すという意味もあって『ゲイズ・ザ・ワード』という名が付けられたんだよ」とマネージャーのウーリーさん。「お互いの違いを認め合う大切さ、自分が自分であることを大事にする気持ち、そうしたものを共有できる場を提供しているという自負もある」と語る。随時催されるイベントでは、ディスカッションも多く行われ、悩みを抱えた人たちにとっては支援グループと会える機会にもなっているという。

「William's Doll」Charlotte Zolotow 著、William Pène du Bois 絵
マネージャー、ウーリーさんお勧めの一冊
「William's Doll」Charlotte Zolotow 著、William Pène du Bois 絵
ウィリアムは男の子だけど、欲しいのはサッカー・ボールではなく人形。「変なヤツ」と見られることに引け目を感じる彼の元に、ある日おばあちゃんが訪ねて来て……。自分のアイデンティティーの在り方に悩む子供のために書かれた絵本。人と違うことに自信を持ってほしいという作者の気持ちが伝わってくる。

66 Marchmont Street, London WC1N 1AB
Tel: 020 7278 7654
月~土 10:00-18:30 日 14:00-18:00
https://en-gb.facebook.com/gaystheword

超自然現象から宗教まで
Watkins Books

Watkins Books
自己啓発本も多数、置かれている店内には、宗教関連の置物も
Watkins Books
興味深げにウインドーを眺める観光客も多い
Watkins Books
最近、人気が高まっているというオラクル・カード

超自然世界に興味を持っている人が多いことで知られる英国にあって、1893年のオープン以来、心霊や魔術、悪魔祓い、占い術などの本を一堂に集めてきたのがここ、ワトキンズだ。怖いもの見たさの好奇心を煽るようなものも多々あるが、扱っているのは俗に言うオカルト系のみではない。心理学、身体と精神のかかわり、世界の宗教、自己啓発、また、昨今では欧米でも人気が高まっているZen(禅)など、人の心にまつわる本が店内2階分にわたり所狭しとひしめき合っている。占いに使われるクリスタルなどのアイテムもあり、100種類を超すタロット・カードやオラクル・カードの様々なデザインを見るだけでも面白い。

「The Secret」
Rhonda Byrne 著
スタッフお勧めの一冊
「The Secret」 Rhonda Byrne 著
「幸せになるのに特別な魔法はいらない。でも幸福を生み出す方法はあるのだ」 ――著者が自ら製作を務め、映画化もされた2006年のベストセラー。「今、読んでも人生を豊かに生きる多くのヒントがある。あくまで僕の意見だけどね」と控えめに勧めてくれたスタッフ。

19-21 Cecil Court, London WC2N 4EZ
Tel: 020 7836 2182
月~水、金 10:30-18:30 木&土 11:00-19:30 日 12:00-19:00
www.watkinsbooks.com

初版本、しかもサイン入りを自分のものに
Goldsboro Books

Goldsboro Books
本屋の小道、セシル・コートの一角にある
Goldsboro Books
話題本、セレブの自叙伝など様々な本が3部屋に分かれている店内
Goldsboro Books
ウインドーに陳列された、年代を感じさせる本の数々
Goldsboro Books
新刊が並ぶ棚

初版本、しかも作家のサイン入りのものだけがそろう本屋。新刊でも装丁を少し変えてある限定版など、どれもがコレクターズ・アイテムだ。施錠されたガラス・ケースの中には、アガサ・クリスティーやコナン・ドイルなどおなじみの作家による希少本が並び、その価値は数百ポンドから2000~3000ポンドになることもあるという。「本も投資の対象かって? もちろん、そうした面もあるけど、自分のお気に入りの作家のサイン入り、それも初版本を持つ喜びのために求める人の方が多いと思うな」とスタッフのダニエルさん。新刊本なら普通の小売価格で買えるので、好きな現代作家がいる人は、新作が出る際に連絡してみる価値あり。

「How to Stop Time」Matt Haig 著
スタッフ、ダニエルさんお勧めの一冊
「How to Stop Time」Matt Haig 著
「16世紀に生まれて、あるタブーさえ破らなければ永遠に生きられる男の話。もちろんフィクションだけれど、生きる意味を問う優れた本だと思う。ネタバレになるからこれ以上、内容については話さない方がいいな」とダニエルさん。今、買っておけば、そのうち価値が上がるかも!?

23-27 Cecil Court, London WC2N 4EZ
Tel: 020 7497 9230
月~金 10:00-18:00 土 11:00-17:00
www.goldsborobooks.com

 

大英博物館の魅力、再発見!

古くから収集家は世界の珍奇品を集めてきましたが、それを展示するだけならアトラクションと変わりません。でも収集品の背景を調べ、分類・系統立てて研究すれば総合科学としての博物学に転じます。ミュージアムもミュージックもその語源は学芸をつかさどる9人の女神「ミューズ」に由来。大英博物館の建物が神殿に見えるのも納得です。

寅七大英博物館は1759年、アイルランド出身の収集家ハンス・スローン医師の遺志と8万点の収集品を受け継いで開館しました。以来、収蔵品は増え続け、現在は1200万点を超えると言われます。今回、寅七は同館の収蔵品の「動物」に焦点を当てて特別散策を企画しました。一緒に動物巡りをしてみませんか。

※展示品は変更、展示室工事中などの可能性もあります。

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、
週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ


プロローグ

それは巨大な薬箱から始まった

大英博物館の生みの親、ハンス・スローンは植物好き。薬草研究が高じてシティの薬剤師組合に学び、南仏で医学博士号を取得、総督の侍医としてジャマイカに赴任します。現地からたくさんの動植物の標本を持ち帰り、ロンドンのチェルシー地区に薬草園を作って内科医を開業。カール・フォン・リンネの分類学にも影響を与えたと言われる博物学の父、ジョン・レイから分類術を習い、集めた博物標本に応用しました。スローン医師の遺品が基になった大英博物館の展示も、ガラス・ケースに収められてしっかり整理されています。当時、博物館の展示は「神の摂理」を示すものと考えられ ていました。言ってみれば薬師如来が持つ薬壺(やっこ)が人類叡智の玉手箱に変わったようなもの。第1室「啓蒙ギャラリー」にはスローンの収集品のエッセンスが凝縮されており、頭痛薬はありませんが知識欲を旺盛にする栄養剤が並んでいます。

大英博物館の生みの親、ハンス・スローン医師と住居
左)大英博物館の生みの親、ハンス・スローン医師 右)彼の住居は大英博物館のすぐ近く
薬剤師組合の薬草棚
彼が薬学を学んだシティの薬剤師組合の薬草棚
スローン医師の薬箱の一つ
スローン医師の薬箱の一つ
啓蒙ギャラリー
「啓蒙ギャラリー」を歩くだけで知識が豊かになった気分に
 
 
 

動物巡り① スカラべと猫

エジプト文明は循環サイクルの世界

地階のエジプト・コーナー、まずは巨大なスカラベ像をご覧ください。スカラベとは、甲虫フンコロガシのこと。エジプト神話によれば、大地の男神ゲブと天空の女神ヌトが手足を繋いで天地が創られます。息子の太陽神ラーが聖船に乗ってヌトの口に入ると夜が訪れ、朝になると彼女の股から再生。毎日がこの死と再生の繰り返しです。スカラベは獣糞を球体に変えて日の光に向かって転がし、そこに産卵しますが、排出物から再生する様子が、太陽を導く復活神と見なされました。エジプト文明は、ナイル川が氾濫、水が引いて種まき、そして収穫という4カ月ごとのサイクルが何千年もの間、繰り返されることで発展しました。民衆の関心も来世で復活するというミイラ信仰に注がれます。また、穀物を食べるネズミを追い払う猫が神聖化されました。太陽神の娘、獅子頭のセクメトは破壊の女王でもありますが、おとなしくなると猫頭のバステトに変わり、庶民に愛されました。まさに猫かぶり。

猫のミイラ
左)猫のミイラ(第62室)
右)「アンダーソンの猫像」(第4室)の首飾りには太陽の象徴でもあるホルスの目が
ゲブとヌトの絵
ゲブとヌトの絵(展示なし)。大気の神シューが支える
獅子頭のセクメト神の石像
獅子頭のセクメト神の石像(第4室)お澄まし顔のお姉様たちは破壊の女王
スカラベの石像(第4室)
スカラベの石像(第4室)
 
 
 

動物巡り② ヤギとライオン

メソポタミア文明は異民族の交差点

定期的に氾濫するナイル川と異なり、チグリス・ユーフラテス川は予期しない洪水が起こり、また、異民族の侵入でこの地域は戦争が絶えませんでした。北部の牧畜と南部の灌漑農業が結び付いて有畜農耕が発達しますが、ここではヤギに注目。おとなしい羊の群れはなかなか移動しませんが、ヤギが先頭に入ることで引っ張られます。博物館地階にいる守護獣神ラマッスはエジプトのスフィンクスとよく比較されますが、こちらは飛ぶ翼があって機動性重視です。また、紛争地帯なので武勇に優れていること、猛獣ライオンを狩猟することが王の権力誇示になりました。アッシリア美術の至宝、ニネべ宮殿の壁画に描かれたライオン狩りの場面は圧巻です。壁画の約30年後に建てられた、新バビロニア王国のイシュタル門のライオンのモザイクも見事です。こちらはドイツの博物館から借りてきました。

「林の牡山羊」の像、移動中のラマッス
左)「林の牡山羊」の像(第56室)は宝石や金箔で飾られている
右)移動中のラマッス(第9室)は足が5本あるように見える
ウルのスタンダード
古代都市ウルから出土した「ウルのスタンダード」(第56室)。中段に羊を先導するヤギがいる
イシュタル門のライオン・モザイク
イシュタル門のライオン・モザイク(第55室)は、ドイツの博物館から貸与
ライオン狩りの場面
ライオン狩りの場面(第10室)。馬を戦車の動力に
 
 
 

動物巡り③ 憂いの表情をした馬

ギリシャ文明は栄枯盛衰

パルテノン神殿の彫刻は、神殿の①ペディメント(破風 はふ*)、②メトープ(外柱上部の石版)、③フリーズ(内壁上部)の部分を装飾し、①東に女神アテナの誕生、西にアテナと海神ポセイドンの争い、②神話の世界、③パンアテナイア大祭の行列、がモチーフになっています。行列のシーンは計163メートルもあり、人物が378人、動物が232頭描かれ、その先頭を追っていくと本尊アテナ像の着替え用の布が手渡される場面に行き着きます。メトープには半人半獣のケンタウルスとペイリトオスの戦闘場面が、東破風には太陽神ヘリオスの馬車の馬と月神セレナの馬車の馬が左右の端に展示されています。ところでこの秘宝を実費で持ち帰ったエルギン卿は離婚の慰謝料捻出のため、泣く泣く英国政府に秘宝を買い上げてもらいました。奥さんとはウマが合わなかったので馬の表情には憂いが。いや、本当は「塞翁(さいおう)が馬」かもしれません。
 *三角屋根を支える先端の三角形の部分

太陽神ヘリオスと馬車の馬の頭
太陽神ヘリオスと馬車の馬の頭(第18室)
月神セレナの馬車の馬の頭(第18室)
月神セレナの馬車の馬の頭(第18室)
行列の彫刻群
フリーズには行列の彫刻群(第18室)
布を手渡す場面
布を手渡す場面がハイライト(第18室)
メトープの彫刻
筋肉や静脈まで描写されているメトープの彫刻(第18室)
 
 
 

動物巡り④ 蛇と鳥

中南米には生贄の文化と海洋文化

1519年、スペイン人エルナン・コルテスがアステカに上陸すると、住民たちから白い神ケツァルコアトルの再来と勘違いされ、丁重にもてなされて「双頭の蛇」のお守りを受け取ります。主食がトウモロコシの彼らにとって、蛇は農作物をネズミから守る知恵と長寿の神。蛇を悪魔の化身と考えるキリスト教信者には驚愕でした。また、アステカには終末信仰に基づく人身御供が行われ、生きた心臓を神に捧げるため、人体を切り裂く黒曜石の剣もありました。一方、太平洋の孤島、イースター島のモアイ像は村人を見守るように作られ、海に背を向けています。その背中に描かれているのが大空舞う鳥。海洋民族にとって山鳥は守り神。万が一、漁師が陸の見えない沖合まで流されたときは、山鳥を放って帰るべき方向を示してもらいます。思えばノアの洪水伝説や日本の神社の鳥居でも、鳥が案内役を担っていますね。

双頭の蛇
「双頭の蛇」は貴重なトルコ石製(第27室)
心臓を取り出す剣
「心臓を取り出す剣」で生きたまま生贄から心臓を取り出した(第27室)
ケツァルコアトル
「ケツァルコアトル」は羽のある蛇神(第27室)
イースター島のモアイ像
左)イースター島のモアイ像は背中を海に向けている(第24室)
右) 背中には大きな鳥が(第24室)
 
 
 

動物巡り⑤ 龍と鳳凰

中国は南船北馬と絹の道

世界的に有名な青花雲龍文象耳瓶(せいかうんりゅうもんぞうじへい)には、見事な龍と鳳凰が描かれています。中国は南の農耕・漁労民族と北の騎馬民族が争いつつ、東西の文化を取り入れて出来た国。この磁器は元の時代、つまりモンゴル騎馬族に支配された時代に、中国北東部の景徳鎮で作られました。近くで採石されるカオリンから作られた白磁にペルシアから輸入したコバルト顔料で絵付けされています。デザインは中国画の筆遣いと西洋・イスラムの唐草文様が見事に融合。鳳凰は麟(りん)、鹿、蛇、魚、亀、鳥類が複合された霊鳥で皇后のシンボル、一方の龍は猪、馬、鹿、ワニ、蛇、魚類が複合された霊獣で皇帝のシンボルです。大部分の官窯製の磁器には鳳凰と龍の文様が施され、皇帝に献上する磁器の龍の爪は5本と定められました。貴族は4本、庶民は3本です。このルールを破ると「ツメが甘い」と皇帝の逆鱗(げきりん)に触れます。

青花雲龍文象耳瓶」
左)この龍は4本爪(第95室)
右)「青花雲龍文象耳瓶」。1351年、元の時代の作品(第95室)
象の取っ手の下に鳳凰が舞う
象の取っ手の下に鳳凰が舞う(第95室)
15世紀後半(明)の景徳鎮
15世紀後半(明)の景徳鎮。官窯製の5本の爪(第95室)
龍の爪は3本
15世紀前半(明)の景徳鎮。ここに描かれた龍の爪は3本(第95室)
 
 
 
 
没後
200周年

新10ポンド札の顔になった
ジェーン・オースティン

「高慢と偏見」「分別と多感」など、イングランドの田舎を舞台に中流階級の女性の姿を生き生きと描いた、英国を代表する作家ジェーン・オースティン(1775-1817)。作品の多くが映画化されるなど、今でもその人気は衰えていない。オースティンが副腎皮質の疾患と思われる病により41歳の若さで死去したのは、今からちょうど200年前の1817年7月18日。この記念すべき節目に、チャールズ・ダーウィンに替わり、9月からジェーン・オースティンが10ポンド札の顔になる。ここでは、新紙幣の個々の図柄を解説しよう。

新10ポンド札のデザイン・コンセプト

1
オースティンの肖像画
W・H・リザーズによる
オースティンの肖像画

肖像画は姉の描いた
スケッチが基

紙幣に印刷されている、お人形のような可愛い顔立ちのオースティンの肖像は、生涯を通して仲の良かった姉カサンドラが1810年ごろに描いたスケッチを基に、1870年に制作された銅版画。甥に当たるジェームズが、死後に名声の高まったオースティンの伝記を書く際に、アーティストのウィリアム・ホーム・リザーズに依頼した。原画のオースティンが意志の強そうな表情をしているのに比べ、銅版画はビクトリア時代に流行したロマンティックで女性らしい顔になっており、姉の描いたスケッチを紙幣デザインに採用しなかったのは残念という意見もある。原画は現在、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーに所蔵されている。

2

ミス・ビングリーのセリフ
「読書ほど楽しいものはないわ!」

肖像画の下に書かれている「I declare after all there is no enjoyment like reading!」は、オースティンの「高慢と偏見」の第11章でミス・ビングリーによって語られるセリフだ。本文ではこの後、「本以外のものは、全部すぐに飽きてしまうもの!」と続く。これは、あるディナー・パーティーの後、兄の友人であるダーシーに好意を寄せているミス・ビングリーが、彼の読んでいる本の2巻目を手にして言うのだが、誰も返事をする者はいない。ダーシーの気を引こうとして不成功に終わったミス・ビングリーは、本を放り出しておしゃべりに戻る。

3

十二角形の
ライティング・テーブル

ジェーン・オースティンズ・ハウス・ミュージアム所蔵のテーブル
ジェーン・オースティンズ・ハウス・
ミュージアム所蔵のテーブル

背景にうっすら見える幾何学模様と、1本の羽根は、オースティンが執筆の際に使っていたライティング・テーブルと羽根ペンを表している。オースティンがこれらを使ったのは晩年の8年を暮らしたハンプシャーのチョートン・コテージで、オースティン作品の多くがこの家で生み出された。この家は近くのマナー・ハウス、チョートン・ハウスに住む兄のエドワードが、オースティン、母親、姉カサンドラ、そして彼女たちの親しい友人マーサ・ロイドのために購入。現在は「ジェーン・オースティンズ・ハウス・ミュージアム」になっており、オースティンの使った楽譜や本棚などの家具類が展示されている。

4

背景のドローイングは
イザベル・ビショップ

紙幣の中央に描かれた、机に向かう女性の姿は、オースティンではなく、「高慢と偏見」の主人公エリザベス・ベネット。図柄のエリザベスは、それまでに姉のジェーンから送られた手紙を一枚一枚調べている。これは米アーティストのイザベル・ビショップ(1902-1988)に手によるもので、1976年にE・P・ダットン & カンパニーから出版された「高慢と偏見」の31枚の挿し絵の一つだ。ビショップは1930年代から70年代のニューヨーク、ユニオン・スクエアの様子を好んで描いた。同書が出版されたときは、繊細かつ正直に女性の姿を描く姿勢がオースティンの作品にぴったりだとされた。

5

ゴッドマーシャム・パークの
風景が広がる

紙幣の中央下に描かれた風景は、ロンドンの南東ケント州にあるゴッドマーシャム・パーク。ここは裕福なナイト家の養子になった3番目の兄エドワードの暮らした地で、オースティンは何度も兄のもとを訪れたそう。美しいケントの風景がオースティンの著作に与えた影響は大きいとされ、「マンスフィールド・パーク」はゴッドマーシャム・パークを舞台に描かれたとも言われている。また、この付近はテレビ・ドラマ「ジェーン・オースティンのエマ」のロケ地としても利用された。

ジェーン・オースティン没後200周年200年記念イベントが開催中

Jane Austen's House Museum
10:00-17:00(9月~12月は10:30-16:00)
£8
Winchester Road, Chawton, Hampshire GU34 1SD
Tel: 01420 83262
Alton駅
www.jane-austens-house-museum.org.uk

Jane Austen's House Museum

 

樫本大進 ヴァイオリニスト / ベルリン・フィル第1コンサートマスター

樫本大進 - ベルリン・フィル第1コンサートマスター / ヴァイオリニスト - いつでも
「これが最後のコンサートだ」というつもりで

世界最高峰のオーケストラとして、音楽ファンならずともその名を知るベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。同オーケストラを束ねる第1コンサートマスターとして活躍するヴァイオリニスト、樫本大進が7月、ロンドンのウィグモア・ホールでリサイタルを行う。ピアニストの辻井伸行、ヴァイオリニストの三浦文彰と続いたエイベックス・リサイタル・シリーズの最後を締めくくるコンサートだ。ドイツを拠点に、オーケストラのコンサートマスターとして、ソリストとして世界中を飛び回る樫本に、ベルリン・フィルへの思いや多忙な演奏活動、そしてコンサートについて話を聞いた。

樫本 大進 Daishin Kashimoto

1979年、ロンドン生まれ。生後3カ月で日本に帰国。3歳からヴァイオリンを習い始める。5歳で家族そろって米ニューヨークへ。7歳でジュリアード音楽院プレカレッジに入学。11歳のときに世界的な指導者ザハール・ブロン氏に招かれ、母親とともにドイツのリューベックに移住、リューベック音楽院の特待生として学ぶ。20歳からはフライブルク音楽院のライナー・クスマウル氏に師事し、2005年に同音楽院を修了。1996年にフリッツ・クライスラー、ロン=ティボーの両国際音楽コンクールで1位を獲得するなど、複数の国際コンクールで優勝を重ねる。2010年にベルリン・フィルの第1コンサートマスターに就任。以後、同オケのコンサートマスターとして活動する一方で、ソリストとしても世界各国で活躍している。

──樫本さんはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第1コンサートマスターとして活躍する一方、ソリストとしても演奏活動を行っていらっしゃいます。ソリストとオーケストラのコンサートマスターでは、同じ演奏家といっても求められるものはかなり異なるのではないかと思われますが、なぜコンサートマスターになろうと決意されたのでしょうか。

僕の前にベルリン・フィルのコンサートマスターを務めていたイスラエル人のガイ・ブラウンシュタインさんという人と仲良くしていて、彼に「大進、ちょっと興味ないか」と言われたのがきっかけです。ヘッドハンティングされた形ですね(笑)。

正直言って、自分がコンサートマスターを務められる人間だとは思っていなかったですし、考えたこともなかったので、現実的に興味があるかと言われたときにはすぐに返事ができなかったです。とはいえ、もちろんベルリン・フィルのことはよく知っていましたし、憧れのオーケストラでしたから、初めて言われてからだいぶ時間が経ってはいたのですが、「受けた方がいい、受けた方がいい」とかなり強くラブ・コールを受けつつ(笑)、考えながら徐々に進めていったという感じですね。

実はオーディションは2回受けていて、1回目のときにはオーケストラ側が誰も採用しなかったのです。ファイナルまで残ったのは僕とドイツ人の方。その後にゲスト・コンサートマスターとして呼んでくれて――それもある意味で試験だったのかもしれませんが ── それから2回目のオーディションを経てコンサートマスターに内定しました。

ベルリン・フィルベルリン・フィルで演奏する樫本さん

──オケのコンサートマスターともなれば、かなり時間的に拘束されるのではないかと思います。ソリストとしての活動との両立は大変なのではないでしょうか。

スケジュール的にはそう簡単なことではないのですが、3人(ベルリン・フィルの第1コンサートマスターは3人体制)仲良くやっていますので、互いにサポートし合い、助け合ってどうにか今のところうまくいっているという感じです。中には指揮をやっている人もいますし、3人ともそれぞれ色々な活動を行っていますよ。

──ソリストの魅力、オケのコンサートマスターの魅力をそれぞれ教えてください。

比べるのは難しいのですが、ソリストとしては自分の音楽を100%正直に出して、100%自分の責任でつくっていくという感覚ですね。一方でコンサートマスターは、お客さんと指揮者の間に立って、メッセンジャーのような立場で指揮者の音楽をできるだけうまく、分かりやすく伝えるということになると思います。時には自分の音楽をあえて抑えて、全体的な面を見る方が大事になってくる。やっている仕事の内容が異なりますので、魅力というよりは、その違いが面白いですね。ソリストとしてずっと演奏してきた上でオーケストラをやると楽しいですし、でもオーケストラの中でずっと弾いているとまた久しぶりにソロをやりたいなという気持ちにもなります。両方あってちょうど良いという感じですね。

──31歳という若さでコンサートマスターに就任され、名門オケのベテランたちを束ねる立場に立たれたわけですが、当初から彼らとのコミュニケーションは上手くいったのでしょうか。

ベルリン・フィルのメンバーは、「若い」とか「ベテラン」という感覚ではなく、良いか悪いかだけの世界で生きている人たちなので、僕に対しても若いからどうだということは全くなかったですね。皆さん、素直で正直だと思います。僕が「こうして」と頼むとすぐやってくれますし、最初からそのようなスタンスで接してくれてありがたかったです。信頼してくれているなと感じました。やはり最初は色々と難しいこともありましたが、それは次第に慣れてくるものですし。これから何十年とやっていくつもりでしたし、僕自身も慣れようと急いではいなかったので、多少時間はかかりましたが。

──これまで様々なオケとの演奏経験をお持ちだと思いますが、ベルリン・フィルならではの特徴は何だと思われますか。

(オケの)一番後ろに座っている人たちから一番前に座っている人たちまでが全員、100%、150%を出し切って演奏していて、いつでも「このコンサートが自分たちの最後のコンサートだ」というつもりでいるので、その勢い、エネルギーが音に出ていると思うんですよね。一音一音を大事にする。それがこのオーケストラの一番の魅力ではないでしょうか。

ベルリン・フィル 樫本さんベルリン・フィルの演奏会で笑顔を見せる樫本さん

──英国出身の人気指揮者、サイモン・ラトル氏が来年で首席指揮者兼芸術監督の座を辞し、ロシア出身のキリル・ペトレンコ氏がその後を継ぐことになっています。首席指揮者が変わるというのは、オケにとって非常に大きな出来事なのではないかと思いますが、オケの日常生活において、コンサートマスターとして首席指揮者とはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょう。

色々な指揮者がいるので、きっと皆、様々な感覚でやるのでしょうし、オーケストラによっても独自のやり方があると思います。ただ、(演奏中は)近くに座っていて、何かあればまずコンサートマスターに相談しに来てくれるという意味では、近い存在ではあります。  

サイモンさんは、誰とでも仲良くしていつも一緒に食事に行って、というタイプではないですね。どちらかと言うと、意図的に距離を取っているところがあるように感じます。少なくとも僕が就任した当初からそうでした。前任者のクラウディオ・アバドが誰にでも近くにいられるようにしていた人なので、あえて違うようにしたのかなとも思います。でもとてもチャーミングで、イギリス人なのでよくご存じでしょうが、ユーモアも面白くて、楽しくやっていける方。すごく仲が良いって勝手に自分では思っているのですけれども(笑)。

──後継者のペトレンコ氏についてはどのような印象をお持ちですか。

僕は2回、一緒に演奏したことがありますが、感動的な音、音楽を僕らから引き出してくれて素晴らしい人だなと思っていたので、とても楽しみにしています。始めるのは19年、20年なのでまだ先のことではあるのですが、今年の3月にも(次期首席指揮者に)決まってから初めてゲストとしてベルリン・フィルに振りに来てくださって、素晴らしいコンサートになりました。

英語でも同じように言うのかもしれませんが、ドイツ語で「片方の目で泣いて片方の目で笑っている」という言葉があります。悲しいけれど楽しみという意味です。サイモンさんが去るのは悲しいけれど(ペトレンコ氏が来るのは)楽しみでもある。ベルリン・フィルだからこそ、両方の感情が生まれるのでしょうね。

──英国で生まれたのち、日本と米ニューヨーク、ドイツで音楽を学ばれ、特にドイツはリューベック、フライブルク、ベルリンと複数の都市で生活されたご経験をお持ちです。師事された先生によって変わってくるものとは思いますが、それぞれの国や都市による音楽教育の違いは感じましたか。

英国については生まれて3カ月で日本に戻ったため、記憶は全く残っていません。日本にいたのは幼稚園のときなので、音楽教育という点ではよく分かりませんが、11歳でドイツに行き、そこから音楽教育が始まったと思っています。それでもやはりアメリカのジュリアード音楽院では皆の勉強の仕方や教え方も分かったので、ちょっとでもかじれて良かったです。様々な教育の仕方、実際の音楽の作り方、ヴァイオリンの弾き方を知っているだけでもプラスになると思うので。

──樫本さんが実際に日本で生活された期間はかなり短いと思いますが、樫本さんにとって日本という国はどのような存在なのでしょうか。

生まれて3カ月で行って5歳までしか住んだことのない場所なのですが、やはり血は日本人なんですよね。母と2人でドイツに行って、日本人はほぼ2人だけという環境だったので、10代のころは日本語もひどかったのです。定期的に日本へ行き、日本語を使うようになると、アットホームな気分を味わえるようになりました。毎回、日本に行くのは楽しみですし、日本に滞在するのも楽しいです。でもその一方で、ツアーをしてまた(ドイツに)戻ってくるのもいいなと思います(笑)。

──7月にはロンドンのウィグモア・ホールでリサイタルを開催されます。今回演奏される曲は、どのような経緯で選ばれたのでしょう。  

ウィグモア・ホールで演奏する前に、同じピアニストとのアジア・ツアーが予定されています。ウィグモアの方が時間が短いので、全部弾けないのが残念ですが、そのプログラムを使っています。今まで日本で行ってきたリサイタルは、集中的なプログラム、例えばベートーベンだけ、バッハだけを演奏するような形が多かったのですが、今回は遊び心を取り入れて、モーツァルトやシマノフスキ、ラヴェルなど色々なジャンル、様々な国の作曲家の作品が入っていて、それはそれで面白いのではと思います。

──共演されるイタリア人ピアニストのアレッシオ・バックス氏とは過去にも一緒に演奏されていますが、ピアニストとしての印象をお聞かせください。

すごくピュアな音楽家です。目立ちたい、良く見せたいなどというエゴが強くなくて、音楽そのものの美しさを引き出したいという正直な気持ちを持っている音楽家なので、そういう点が素晴らしいですね。

僕も作曲家の正直な気持ち──それは僕の目とエモーションを通してということになりますが──作曲家が何を伝えたかったかを優先的に考えて演奏したいといつも思っています。と言いつつ、実際のところ自分自身のことはよく把握できていないのですけれども(笑)。

コンサート情報

Avex Recital Series 2017
Daishin Kashimoto, violin
Alessio Bax, piano

樫本大進

2017年7月22日(土)13:00開演
チケット: £20(全席指定)
会場: Wigmore Hall
36 Wigmore Street W1U 2BP
最寄駅: Bond Street 駅
チケットお問い合わせ先
Tel: 020 7935 2141 
http://wigmore-hall.org.uk

プログラム

モーツァルト「ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.301」
シマノフスキ「神話 Op.30」
グリーグ「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調」

 

小林賢太郎インタビュー「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」2回目のロンドン公演

「人間が」楽しめる舞台作品を目指して ー 小林 賢太郎 劇作家 / パフォーミング・アーティスト

小林 賢太郎
Kentaro Kobayashi
1973年4月17日生まれ、神奈川県出身。96年、多摩美術大学在学中に同級生の片桐仁とラーメンズを結成。以来、脚本・演出・出演を手掛けている。2002年に演劇プロジェクト「K.K.P.」、05年にソロ・パフォーマンス「Potsunen」を始動。09年、NHK-BSにて「小林賢太郎テレビ」がスタートする。12年にフランス、モナコにて初の海外公演を敢行。15年にはロンドン、パリ公演を成功させた。キャンペーンのプロデュースやアニメ作品の監督、絵本の執筆など、多様な分野で活躍中。http://kentarokobayashi.net

山高帽にスーツという洒脱な衣装に身を包んだポツネン氏の、平凡だけれどちょっと奇妙な毎日を綴ったソロ・パフォーマンス「ポツネン氏の奇妙で平凡な日々」が2015年、ロンドンで好評を博した小林賢太郎。日本国内での全49公演にわたるステージを経て、再びロンドンの舞台に立つ。パフォーマーとしてのみならず、自身が出演する舞台の美術を手掛け、アニメ作品の監督や絵本の執筆も行うなど多彩な活動を展開する小林に、2回目となるロンドン公演について聞いた。

── 2015年に行われたロンドン公演を拝見しましたが、日本人のみならず、様々な国籍の人たちが集まり、反応もとても良かったのが印象に残っています。小林さんは実際に舞台に立ってみて、どのように感じられましたか。また、当時はパリ公演も行われましたが、パリとロンドンで観客の反応に違いはあったのでしょうか。

国による違いは、あまり感じませんでした。舞台に立ってしまうと、どこにいるかは関係なくなります。観客の反応に違いがあるとすれば、お国柄というよりは、劇場の個性の方が反映されると思います。

── 今回の公演では、前回の内容と何か変わる部分はあるのでしょうか。

過去の上演から、さらに磨きをかけました。より濃密なステージをお楽しみいただけると思います!

── 「Potsunen」では、アートやマイム、映像など、言語を必ずしも必要としない手法が用いられていることもあり、そのジャンルを超越したスタイルが国籍や年齢、趣味嗜好を問わず幅広い観客を呼ぶことに成功しているように思います。

「Potsunen」は、日本語が分からないお客様にも楽しんでいただけるように作っています。日本で上演される際も、色々な国の方に来ていただけます。「どの国籍の人が」ではなく、「人間が」楽しめる作品を目指しています。

── 前回のロンドン公演が行われたのは、中心部のレスター・スクエア・シアター。劇場内にバーもあり、賑やかな雰囲気のベニューでしたが、今回は19世紀末に劇場としてオープンし、その後は映画館としても使われていたこともある趣ある劇場で開催されます。ベニューの違いが作品や演技に影響を及ぼすことはあるのでしょうか。

パフォーマーが会場の雰囲気に対応することは、とても大切なことだと思います。僕は劇場が大好きなので、様々なタイプの劇場で上演できることを、とてもうれしく思います。

── キャンペーンのプロデュースやアニメ作品の監督、絵本の執筆など、多様な分野で活躍される小林さんですが、一方で作品やインタビューなどを拝見していると、プロの舞台人であることに対するこだわり、矜持を感じます。小林さんにとって舞台とはどのような意味をもつものなのでしょう。

舞台はあらゆる表現手段の中で、最も観客の反応がダイレクトに伝わってくる場所です。それは表現者にとって、とても鍛えられる環境ということ。僕はアーティストとして、もっともっと成長したいと思っていますので、舞台という特別な場所にこだわっていたいのです。

Mr Potsunen's Peculiar Slice of Life

Mr Potsunen's Peculiar Slice of Life by Kentaro Kobayashi

2017年7月5日(水)~8日(土) 19:30(5日は19:00、8日は17:00)
£20~28
Print Room at the Coronet
103 Notting Hill Gate, London W11 3LB
Tel: 020 3642 6606
Notting Hill Gate駅
www.the-print-room.org

 

2017年 英国総選挙を読む - ブレグジットをかけた戦いの行方は -

ー 6月8日に前倒し実施 ー
ブレグジットを賭けた戦いの行方は
2017年 総選挙を読む

6月8日、英国で総選挙が実施される。前回の総選挙からまだ2年しか経っていないが、英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)交渉に向けて政権基盤をより確かなものにするため、メイ首相が解散・選挙を呼び掛けた。どの世論調査も与党・保守党の圧勝を予測しているが、コービン党首率いる最大野党・労働党やファロン新党首による自由民主党は、一歩でもその差を縮めようと躍起だ。保守党は果たしてどこまで逃げ切れるだろうか。(小林恭子)

与党保守党党首のメイ首相
与党保守党党首のメイ首相

コービン労働党党首
コービン労働党党首

保守党圧勝は実現するか?

総選挙の投票日がいよいよ、1週間後に迫った。今回の選挙の注目どころは、メイ首相率いる保守党がどこまで最大野党・労働党を引き離し、「地すべり勝利」を達成できるか、だ。

首相が総選挙実施を提唱した4月末、どの世論調査を見ても保守党と労働党の支持率は20ポイントほどの差があった。「選挙をやるなら今だ」と慎重派と言われるメイ首相が思ったのも、無理はない。労働党は左派系ジェレミー・コービン氏が党首に就任して以来、内紛が続いており、コービン氏は1年に2回も党首選に立候補し勝つことで、ようやく党内の「コービン降ろし」の波を乗り切った。しかし、「党内をまとめられない党首」「実現不可能な政策を掲げる政党」という印象を完全に解消するには至っていない。

なぜ保守党がこれほど強いのか?

メイ首相は元内相であったものの、首相就任以前はそれほど著名な政治家と言うわけではなかった。しかし、英国の史上2人目の女性宰相ということで国内外から脚光を浴びた。靴フェチと大胆なファッションも好感をもって受け止められた。労働党のふがいなさとは正反対に、メイ首相は「強く、安定した指導力」を発揮したいというメッセージを発信。就任初日に「一部の特権階級のためではなく、国民皆さんのために政治を行いたい」と述べたことも強いアピール力を持った。富裕でエリート層の象徴でもあったキャメロン前首相とは違うことをはっきりと示したからだ。

ブレグジットを成功裏に導くことがメイ政権の最大の課題だが、自分自身は残留派であったにもかかわらず、首相になった途端に「ブレグジットはブレグジット」と繰り返し述べた。ブレグジットに向けての国民投票を実施させた仕掛け人とも言える英国独立党(UKIP)のお株を奪い、離脱派の支持を得ている。5月に行われた地方選挙が、これをはっきりと示した。146議席を有していたUKIPは1議席を除き、すべてを失ってしまったのである。UKIP党首ポール・ナッタル氏自身が下院選で議席を取れるかどうかも定かではない。

しかも、今回の保守党のマニフェストには、エド・ミリバンド前労働党党首によるマニフェストの影響がみられ、勤労者の権利を強くするような政策も入っている。労働党支持者をも奪うことを狙っていると思われる。5月末のマンチェスター・テロは選挙の大勢にはそれほど影響を及ぼさないと見られているが、テロを毅然と非難する首相の姿は、保守党にとって決してマイナスにはならないだろう。

5月18日の討論番組
5月18日にITVで放映された討論番組に出演したルーカス緑の党共同党首、ファロン自民党党首、ウッド・プライド・カムリ党首(写真左から右)

労働党、自由民主党が迎え撃つ

しかし、迎え撃つ労働党も黙ってはいない。中低所得者を中心に、緊縮財政に苦しむ人を支援する方策を主眼としたマニフェストを発表。「非現実的」と言われないよう、それぞれの提案にはどこからその資金を得るかを記した。選挙運動中の集会では聴衆からの質問を積極的に受けて、市民との対話を重要視。5月末時点で、保守党との差を数ポイントにまで縮小させた。

自民党も負けてはいない。前回2015年の選挙では議席を57から8に激減させてしまったが、ここまで底に落ちたらもう上がっていくしかない。EU離脱をめぐる昨年6月の国民投票では有権者の約52%がEUからの離脱を、48%が残留を希望。この48%からの支援を頼みにするのが、親欧州の自民党だ。ファロン党首は「国民は離脱を選択したが、どのようなブレグジットになるかを分からないままに離脱を選択した」が持論。このため、離脱交渉後にもう一度国民投票を行うことを提唱している。

解散前の議席数は、保守党が330議席、労働党229議席、スコットランド民族党(SNP)54議席、自民党が9議席。下院の定数は650なので、過半数を取るには326議席が必要だ。保守党と労働党との差は100議席ある。現時点では労働党が100議席以上を得て、保守党に代わり政権を担う可能性は高くない。しかし、与党との差を縮めることで保守党の政策を変更させることはできそうだ。

コービン労働党党首、ファロン自民党党首がどこまでメイ保守党の議席を崩せるだろうか。

5月18日の討論番組
5月18日にITVで放映された討論番組に出演したナッタルUKIP党首(写真左)、スタージョンSNP党首(同右)

各政党の支持率の変遷

世論調査
最新の世論調査7つの結果を用いて算出した移動中央値
Source: BBC

2015年総選挙の結果(合計650議席)

2015年総選挙の結果
Source: www.parliament.uk

主要4政党の主な政策とは

ここでは、保守党、労働党、自由民主党、スコットランド民族党の政策を、7つのテーマ別に比較してみる。

経済

  • 保守党
    2020年までに全国生活賃金を平均収入の60%のレベルにまで上昇させる。研究開発部門への投資を増加。企業が必要とする道路、鉄道、空港、高速ブロードバンドを提供する。経営陣の給与と勤労者の給与との比率を公表する。中小企業支援のため、次期会期の終わりまでに政府購入の33%を中小企業を通じて行う。
  • 労働党
    経済活性化のために今後10年で2500億ポンドを投資。超高速ブロードバンドを2020年までに普及させ、都市中心部や公共交通機関でのWi-Fiの利用範囲を拡大させる。2030年までに英国のエネルギー源の60%を再生エネルギーとする。フラッキング(石油・天然ガス採掘技術)の禁止。原発をエネルギー供給の一部とする。
  • 自由民主党
    インフラ整備のために追加で1000億ポンドを投資する。2020年までに財政赤字をなくす。高速ブロードバンドを地方に敷設する。民間資金が再生エネルギー投資に回るよう支援する。2022年までに年間30万戸の新規住宅建設を実現させる。ディーゼル車と小型バンの販売を2025年までに禁止する。
  • スコットランド民族党
    競争力を高めることを主眼に、企業への課税率を見直す。小企業支援策として、1万5000ポンド以下の資産価値を持つ企業には課税しない。2021年までに超高速ブロードバンドを全戸で使えるようにする。

税金

  • 保守党
    2020年までに個人所得の基礎控除額を1万2500ポンド(約180万円)に引き上げる。法人税を2020年までに17%に下げる。税金体制を簡素化。カウンシル・タックスの税率上昇に対して住民が住民投票を行えるようにする。VATの値上げはしない。税金逃れが起きないようにする。
  • 労働党
    年間所得8万ポンド以下の世帯に対する所得税の税率を上げない。納税者のうち95%は所得税率が上がることはない。上位所得者5%の税率のみ上がる。「税金透明性と実行プログラム」を立ち上げ、税金逃れを防ぐ。大企業には税金を少し多く払ってもらうことで、法人税を先進国の中で最も低い率にする。
  • 自由民主党
    法人税を20%から17%に引き下げる。セカンド・ホームへのカウンシル・タックスを200%上昇。高額所得者が公正な金額の税金を支払うようにする。法人税の支払い逃れに行動を起こす。新規ビジネスの立ち上げに新たに「スタートアップ用税金免除」を導入する。事業税の見直しをする。ゼロ・アワー契約による搾取を止める。
  • スコットランド民族党
    次期会期中に、所得税の基礎控除額を1万2750ポンドに引き上げる。中・低所得者を支援するため所得税の基礎税率を現状維持とする。高額所得者については最高課税率を2018年末までは現状維持とし、その後上昇させる。

医療・福祉

  • 保守党
    今後5年間で国民医療制度(NHS)予算を実質80億ポンド増。年金上昇率の「トリプル・ロック」(平均所得の上昇率、インフレ率、2.5%の3つの数字の中で最高を選択する)を2020年まで維持し、それ以降は「ダブル・ロック」(2.5%が外れる)とする。
  • 労働党
    次期会期中にNHS予算を300億ポンド増。資金源は高額所得者に対する所得税増など。一部民営化されているNHSを再国有化。次期会期中に80億ポンドを社会福祉部門に投入する。年金の「トリプル・ロック」制、冬期燃料支援費、無料バス・サービスを維持する。年金支給開始年齢の引き上げに反対。
  • 自由民主党
    所得税1ポンドにつき1ペンスをNHSや社会福祉サービスに回し、60億ポンドの投資を行う。高齢者が福祉サービスを受ける際の料金に限度を決める。NHSの内部告発者を保護。メンタル・ヘルス関連のケアを向上させ、治療を受けるまでの待ち時間を縮小。NHS職員の給与凍結を解除する。
  • スコットランド民族党
    高齢化社会に対応するため、今後5年間で13億ポンドを健康・福祉分野に追加投資する。NHSの民営化には同意しない。

移民

  • 保守党
    年間の移民流入の純増加数を数万人規模にする。非EU諸国からの移民を継続して減少させ、家族ビザで海外から人を呼び寄せる場合、ホストとなる英国民の最低年収額を上昇させる。移民統計に学生を継続して含む。学業終了後は帰国することを基本とする。移民を雇用する企業への課税額を増やす。
  • 労働党
    誰にとっても透明で公正な、新たな移民管理方法が必要。労組と協力しながら、移民を搾取する雇用主を駆逐する。流入数制限の数値目標を設けない。外国人の学生は移民数の計算に入れない。偽の大学の摘発に力を入れる。移民の適切な管理を行うが、移民流入数について嘘の約束はしない。
  • 自由民主党
    欧州人権条約からの離脱や人権法廃止の動きを止める。難民が安全で合法に英国にやって来ることができるようにする。今後5年で5万人までのシリア人難民を受け入れる。難民の子供たちで面倒を見る親がいない状態となった3000人を欧州他国から受け入れるプログラムを復活させる。
  • スコットランド民族党
    スコットランドの大きな強みは多様性であり、移民は経済と社会に大きく貢献する存在と見る。大学で学んだあとに働くことを可能にするビザの再開を望む。

欧州連合(EU)

  • 保守党
    EUの単一市場や関税同盟から撤退する。NHSで勤務する14万人のEU出身者が継続して働けるようにEU側と交渉する。次期会期の間は欧州人権条約に加盟し続ける。離脱交渉中は現行の人権法を廃止しないが、離脱後に人権に関する法律の枠組みをどうするか考える。欧州連合基本権憲章は英国の法律の中に組み込まない。
  • 労働党
    国民投票によるEU離脱という結果は認めるが、雇用と生活水準を維持し、EUと新しい関係を築くことを目標とする。英国に住むEU市民の権利を保障すると同時に、国外のEU諸国に住む英市民の権利も保障されるようにする。保守党の「大廃止案法」を却下し、「EU権利と保護法案」を提出する。単一市場へのアクセスを維持。
  • 自由民主党
    EU離脱交渉後に、合意内容の是非を問う国民投票を行う。英国に住むEU市民、及びEU内に住む英国民に同様の権利を与える。単一市場及び関税同盟に参加し続ける。EU市民の英国とEU諸国の間の自由な行き来を維持する。EU加盟国として保障されていた権利(育児休暇など)を維持する。離脱後の大学への投資縮小に反対。
  • スコットランド民族党
    保守党政権による「ハードブレグジット」に反対。もしスコットランドに利をもたらさないブレグジットが実現する見込みとなった場合、英国からの独立の是非を問う住民投票を実施する可能性もある。

教育

  • 保守党
    イングランド地方の小学校で7歳までの生徒全員に提供されている昼食制度を廃止する代わりに、年齢にかかわらず全小学生に無料の朝食を提供する。貧困家庭の子女は小・中を通じて無償の昼食が継続して提供される。グラマー・スクールの設立禁止を撤回する。
  • 労働党
    大学授業料を撤廃する。5~7歳児の学級の大きさを30人以下とする。すべての小学校での食事を無償化する。資金源は私立校の授業料への免税措置廃止。生涯教育を奨励し、無料で受講できる継続教育カレッジを設立する。
  • 自由民主党
    70億ポンドを教育分野に追加投資する。グラマー・スクール設置への動きを停止させ、地方自治体が入学や学校の新設に責任を持つようにする。低所得者家庭出身学生向けの生活支援費提供を復活させる。教師の給与上昇率を1%とする規制を解除する。性に対する固定観念や性的早熟化への対策を講じる。
  • スコットランド民族党
    生徒の学力差をなくすため、今後5年間で7億5000万ポンドを追加投資する。大学教育費は無料という伝統を守る。恵まれない家庭出身者の大学進学を支援する。

国防・外交

  • 保守党
    国内総生産(GDP)の少なくとも2%を国防費に充てる。毎年、インフレ率を少なくとも0.5%上回る比率で国防費を増やす。今後10年で新たな軍事兵器に1780億ポンドを投資。現在の軍事規模を維持する。戦略的核ミサイル「トライデント」システムを維持。退役軍人を雇用する企業には雇用保険への支払いを1年間免除。
  • 労働党
    戦争による人々の苦しみを緩和させる。中東和平の実現に力を入れる。トライデント・システムを維持。国際社会と協力して核がない世界を構築する。GDPの少なくとも2%を国防費に費やす。障害を持つ退役軍人に無料で住宅を提供する。国民総所得(GNI)の0.7%を継続して海外開発援助に投資する。
  • 自由民主党
    GDPの2%を国防に充てる。GNIの0.7%を海外開発援助に使う。サウジアラビアへの武器販売の停止。国際的な核軍縮で主導的役割を果たす。軍隊に12年以上勤務した人物が継続教育を無償で受けられるようにする。
  • スコットランド民族党
    トライデント・システムの更新に反対。英政府による防衛費の削減にも反対。2010年から14年の間に、スコットランドで国防産業に従事する人員は3300人減少した。

(資料: 各政党のマニフェスト、SNPについては公式サイトの「Policy Base」https://www.snp.org/policybase による)


総選挙の豆知識

  • 前回2015年選挙の投票率: 66.4%
  • 有権者数: 4576万6000人(2016年12月時点)
  • 投票できる人: 投票日に18歳以上で、有権者として登録している英国人。アイルランド共和国の市民及び英連邦加盟国の市民も18歳以上で有権者登録が済んでいれば投票できる
  • 今回の選挙の投票時間: 午前7時から午後10時
  • 総選挙の投票日はいつも木曜日に決まっているのか: 2011年施行の「固定会期議会法」は、5年に一度、5月の第1木曜日に投票日を設定していた。しかし、今回のように会期が終了する前に総選挙となった場合は、日にち・曜日を指定していない。固定会期議会法の施行以前は、首相が平日のいずれかの日を選択していたが、伝統的には木曜日に開催されてきた。前回、木曜日以外に開催されたのは、1931年10月27日。この日は火曜日だった
 

フリーメイソン300年の歴史

フリーメイソン300年の歴史

中世から存在するという友愛組織フリーメイソン。1717年に4つのロンドンのロッジ(支部)が集まり、初めてグランド・ロッジ(本部)を形成して今年でちょうど300年を迎える。ここでは、英国のフリーメイソンの移り変わりを、その事実上の総本山であるユナイテッド・グランド・ロッジ・オブ・イングランド(UGLE)の建物の歴史とともにたどる。ガイド・ツアー参加時に聞いた、フリーメイソン会員による解説も併せて紹介。

建設中のフリーメイソンズ・ホール。1930年ごろ建設中のフリーメイソンズ・ホール。1930年ごろ

フリーメイソンは怪しい秘密結社?

フリーメイソンと聞いて、昔から存在する何だか怪しげな秘密結社だと考える人は多いのではないだろうか。そもそも、フリーメイソンは中世には「石工の職人組合」で、大聖堂や城壁を設計・建設する人々の集まりだったとされる(厳密には、フリーメイソンは各個人の会員のことで、組織はフリーメイソンリーと呼ばれる)。それが年月を経るうちに王侯貴族も参加する一種の「ジェントルマンのクラブ」になり、社交の場であると同時に情報交換の場へと変化していった。独自の教義があり古風な儀式を行い、各国にネットワークを持つフリーメイソンは、一般の人には分からない様々なシンボルを使うことなどから、奇妙な集団と見られることも少なくない。

英国はグランド・ロッジが最初に設立された国なので、UGLEは世界のロッジの総本部と考えられ、UGLEが認証しないロッジは非正規な存在と見なされることも多い。今のUGLEの棟梁(グランド・マスター)には、1967年からケント公(エリザベス女王のいとこ)が就いている。現在の会員の主な活動は慈善活動。これはフリーメイソン仲間を助けるだけではなく、社会的にも貢献しており、世界で行われているチャリティー活動の多くに参加しているそう。ただし、特定の宗教や政治団体を支持することはなく、中立の立場を貫いている。

フリーメイソンのシンボル・マーク
フリーメイソンのシンボル・マーク。石工の使う道具を組み合わせたデザインで、コンパスは友情・道徳・兄弟愛を、定規は誠実・公正・美徳を表すそう。GはGodまたは「The Grand Architect of the Universe」(万物の偉大なる建築者)の意

フリーメイソンA氏による解説

意外なことに、フリーメイソンは第二次大戦前まではそれほど閉ざされた謎の組織とは人々に見なされていなかったという。A氏いわく「そろいの衣装で街を歩くサッカー・ファンの集団みたいなもの」。これが変化したのが、1930年代後半、ナチス・ドイツの時代。各国にネットワークを持つ友愛組織など、欧州制覇を狙うナチス・ドイツには邪魔でしかない。同国でフリーメイソンの行動は弾圧され、会員であるために収容所送りになった者もいたそう。これを避け、目立たないよう活動したフリーメイソンは、世の中に平和が戻って来たとき、いつのまにか時代遅れで不気味な秘密結社と呼ばれるようになっていたのだとか。

高齢化によるメンバー減少

現在のフリーメイソンは会員の高齢化が進んでいるうえ、入会者も少ないと伝えられている。2016年の「インディペンデント」紙によると、UGLEに登録しているロッジ数はこの10年で8389から7401に減少。一年で平均約99のロッジが閉鎖されている計算になるという。UGLE内にあるミュージアムには、これまでに人数不足などから閉鎖した国内のロッジの儀式用備品などがガラス・ケースの中に納められている。

会員の減少は英国だけではなく世界的な現象。だが直接勧誘は規律で禁止されていることもあり、なかなか会員が増えることはない。2011年の「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙によれば、会員数は2000年代半ばに世界で200万人を切り、2011年の時点で140万人ほど。このためウェブサイトはもちろん、フェイスブックやツイッターなどで活動状況をアピールするほか、英国では2015年に1733~1923年にフリーメイソンだった著名英国人のリストを初めて公にするなど、人々に興味を持ってもらうための様々な努力を行っている。UGLEでは、蔵書を閲覧可能にし、所蔵品を紹介するツアーを実施。儀式に使われるメイン・ホール「グランド・テンプル」も一般公開しているほか、最近ではテレビのドキュメンタリー番組でフリーメイソンについて5回にわたりその活動を紹介するなど、開かれた団体にすることで、新しい会員を獲得しようと考えているようだ。

フリーメイソンA氏による解説

米作家ダン・ブラウンの小説「ダ・ヴィンチ・コード」が2006年に映画化され、これを観てフリーメイソンに興味を持った入会志望者が増加した。そのため、たとえ小説内でフリーメイソンに関する記述が少々異なっていたとしても、著者のブラウンに対して悪いイメージは持っていないという。むしろよくここまで書けたものだと感心するとのこと。2013年にブラウンは会員たちにロンドンに招待され、UGLEのグランド・テンプルで著書「インフェルノ」のサイン会を行ったそう。

プロビデンスの目至高の存在を表すという「プロビデンスの目」

入会条件、女人禁制は今も変わらず……

フリーメイソンの入会条件は国や地域などによって異なるが、UGLEは21歳以上の成年男子であれば、人種、宗教、経済状態、政治見解は問わないとしている。ただし、信仰心がなければいけない。そのほか、世間での評判が良く、高い道徳性を持っており、定職と一定の収入があることなどを問われるとも言われる。また、以前はなんらかの確立された宗教の信者であることが求められていたようだが、現在では「至高の存在への尊敬と信仰の心」を持っていれば認められるという。

もともと石工の職人組合だったせいもあるが、女性はUGLEの支部に当たるロッジに正式入会することはできず、それは21世紀の現代でも同じ。代々、英国王室のメンバーが入会しているが、エリザベス女王は会員ではない。英国には女性会員のみのロッジがロンドンに2カ所(The Honourable Fraternity of Ancient Freemasons、The Order of Women Freemasons)と、フランスで発展し男女ともに会員になれる「International Order of Freemasonry for Men and Women」の英国支部がある。だが、いずれも正式な支部として認められているわけではない。

フリーメイソンA氏による解説

カトリック教会は昔からフリーメイソンを認めておらず、1738年、ローマ法王クレメンス12世はフリーメイソンに加わったカトリック教徒は破門すると宣言。あらゆる宗教に寛容なことや、その秘密主義が異端視された。破門が解除されたのは1983年だ。以前は敬虔なキリスト教徒だったが、今はクリスチャンではないというA氏が、神の代わりに信仰し、至高の存在と考えているのは「人間の真心」。これはキリスト教徒が聞いたらかなり過激な意見に思えるはずだ。A氏いわく、カトリック教会がフリーメイソンを危険視する態度はその後もあまり変わっていないという。

グランド・ロッジ建設にまつわる物語 フリーメイソンズ・ホールの移り変わり

現在、コベント・ガーデンに立つフリーメイソンの「ユナイテッド・グランド・ロッジ・オブ・イングランド」(UGLE)は1927年から33年の間に建設されたもので、アール・デコ様式の佇まいは周辺の景色のアクセントともなっている。今では多くの観光客が訪れ、映画のロケ地としても利用されるなど一般にも開放。1717年にロンドンにグランド・ロッジが設立されてから、現在に至るまでの建物の歴史を振り返ってみよう。

初期フリーメイソンズ・ホールの完成

1717年6月24日、セント・ポール寺院に隣接したパブ「ガチョウと焼き網」でロンドンの4つのロッジが会合を開き、世界初のグランド・ロッジを設立した。50年後には、イングランドには400近いロッジが存在したが、そのうち130がロンドンに集中。そこで1768年、年4回の会合のための施設を作るべく、場所探しと資金集めが始まる。金融街に近いフリート・ストリートやリンカーンズ・イン・フィールズなどが候補に上がるが、シティ(経済)とウェストミンスター(政治)の中間点である、コベント・ガーデンのグレート・クイーン・ストリートに決定。1776年5月23日、トーマス・サンドビーによって61番地の中庭に最初のフリーメイソンズ・ホールが完成した。

De Vere Grand Connaught Rooms
De Vere Grand Connaught Rooms 中庭の奥にあった建物は オフィスと会議室に改装され、道路に面した建物は「フリーメイソンズ・タバーン」となった。現在は豪華なコンフェレンス会場「De Vere Grand Connaught Rooms」として一般の人も利用できる

第一次大戦のメモリアル・ホール

1813年にイングランドの別のグランド・ロッジを合併吸収し、「ユナイテッド・グランド・ロッジ・オブ・イングランド」へ改称。会員増加により、周囲の土地を買収し、著名な建築家ジョン・ソーンらがホールを増築していった。だが1883年の火事による損傷が激しく、1930年代には取り壊しを余儀なくされる。現在のホールは建物としては3つ目で、第一次大戦で従軍中に命を落とした、3225人のフリーメイソンのためのメモリアルとして建築された。メモリアルはビクトリア女王の三男である、当時のグランド・マスター、コノート公のアイデアで、デザインはH・V・アシュレーとF・W・ニューマンによる。1933年に完成した当時は「メソニック・ピース・メモリアル」と呼ばれた。

犠牲の上に得た平和
アール・デコ様式のステンドグラスは「犠牲の上に得た平和」がテーマ。その下にはブロンズ製の装飾された小さな棺が置かれており、中にはメモリアル・ロール(兵士たちの名前が記された記念紙)が入っている

グランド・テンプルが貸ホールに

フリーメイソンズ・ホールの中で最も大きな集会スペースが、グランド・テンプル。毎年各地からグランド・ロッジの会員が集まり、会合や儀式が開催される大ホールで、会員にとっては重要なエリアだ。だが1985年にフリーメイソンズ・ホールが一般に公開されるようになるとともに、グランド・テンプルもイベント用にレンタル可能なスペースとして利用されるようになった。映画やテレビ・ドラマのロケ地や、ファッション・ショーの会場として、更にはパーティー会場などにも使われている。ただし実はこれは驚くことではなく、初期のグランド・ロッジも建築資金を念出するため、ミュージカルやコンサート用にスペースを貸し出していたことがあるという。

グランド・テンプルの重厚な扉
グランド・テンプルの重厚な扉。クイーン・ビクトリア記念碑などを制作した彫刻家、ウォルター・ギルバートによるレリーフが付いたブロンズ製。古代イスラエル王ソロモンの寺院建築がモチーフ

英国のフリーメイソン
300年の歴史とその時代背景

1717年6月24日 ロンドンにグランド・ロッジが設立
1723年 フリーメイソンの初の教則本 「The Book of Constitutions of Masonry」が出版
1725年 アイルランドにグランド・ロッジが設立
1736年 スコットランドにグランド・ロッジが設立
1738年 ローマ教皇クレメンス12世が初めて教皇勅書「イン・エミネンティ」でフリーメイソンを排斥
1751年 ロンドンに2つ目のグランド・ロッジ「Antients」が設立。最初のグランド・ロッジとライバル関係に
1753年 大英博物館が設立される(開館は1759年)
1776年5月23日 グレート・クイーン・ストリート61番地に最初のフリーメイソンズ・ホールが完成
1813年12月27日 「ユナイテッド・グランド・ロッジ・オブ・イングランド」が設立
1828年~1831年 ジョン・ソーンのデザインによるホールが増設
1837年 ビクトリア女王が即位
1851年 ロンドン万国博覧会が開催
1862~1869年 ソーンの死の直後、フレデリック・ピープス・コッカイルがホールを再建
1914年 第一次大戦が勃発
1933年7月19日 第一次大戦のメモリアル・ホールでもある新たなフリーメイソンズ・ホールが完成
1939年 第二次大戦が勃発
1967年6月14日 ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでグランド・ロッジ設立250周年を祝う記念式典が開催
1985年 フリーメイソンズ・ホールの一般公開が始まる
2017年6月24日 グランド・ロッジ設立300周年

フリーメイソンズ・ホールのツアー

基本的に平日は1日5回、土曜日も1日に2回開催されているガイド・ツアー。ファースト・フロアのライブラリー&ミュージアムが集合場所となっているため、そこに着くまでの美しいアール・デコ様式の階段や廊下など、途中の様子も楽しめる。ライブラリーの入口でサインをして、ツアー開始を待ちながらライブラリーの展示資料や奥のミュージアムなどを観覧できる。ツアーでは、スタッフがフリーメイソンの不思議な儀式用品、アールデコ様式のホール、そしてグランド・テンプルと呼ばれる儀式用ホールなどを巡りながら、ユーモアを交えて解説。写真はどこを撮ってもよく、撮影タイムを作ってくれる場合も。所要時間は約1時間。スタッフによって、説明する展示品や歴史が、若干異なる可能性あり。

月~土 10:00-17:00
ツアー開始時間: 月~金 11:00、12:00、14:00、15:00、16:00 / 土 10:30、14:00
入場・エキシビション・ツアーともに無料 (写真付きIDを求められる場合がある)
The Library and Museum of Freemasonry
60 Great Queen Street, London WC2B 5AZ
Tel: 020 7395 9257
http://freemasonry.london.museum
最寄駅: Holborn / Covent Garden

エキシビションも開催中


現在ミュージアムで鑑賞できるエキシビション「Brethren Beyond The Seas」は2018年2月23日(金)まで開催。また、ライブラリー&ミュージアムの手前には エキシビション・ギャラリーもあり、ここでは数々の貴重な儀式用品が展示された 「Three Centuries of English Freemasonry」を観ることもできる。なお、6月24日(土)は300年記念日として、オープン・デーのイベントも開催されるそう。

エキシビション

 

映画「犬に名前をつける日」監督 山田あかねさんインタビュー

犬を飼いたいと思っている方にこそ、知ってほしい
TVディレクター・映画監督・作家 山田あかねさん TVディレクター・映画監督・作家

山田あかねさん
インタビュー

愛犬を病気で亡くしたことがきっかけで、犬の命をテーマにした作品に取り組み始めたという山田あかね監督。動物愛護センター(保健所)や東日本大震災で被災した動物たちの現状を撮影し、映画「犬に名前をつける日」を製作した山田監督が、英国の保護犬・猫事情を学ぶべく訪英。ロンドンで上映されるドキュメンタリー・ドラマ「犬に名前をつける日」と併せてお話を伺った。

PROFILE東京都生まれ。TVドラマの脚本、演出などで多くの作品を手掛ける。1995年、小説「終わりのいろいろなかたち」で文學界新人賞受賞、2003年「ベイビーシャワー」で小学館文庫賞を受賞。2010年には自著「すべては海になる」を監督・映画化。2012年から犬の殺処分に関する取材を続け、2014年に、NHK総合TV「むっちゃんの幸せ ~福島の被災犬がたどった数奇な運命~」、2015年、映画「犬に名前をつける日」ほかを監督している。

以前、英国の動物保護センターでボランティアをされたことがあるそうですね。

はい。英国の保護施設のシステムを学ぼうと、2011年の11月から3カ月間、ロンドン北西部のケンサル・グリーンにあるメイヒュー・アニマル・ホーム(The Mayhew Animal Home)という小さな保護センターで働きました。午前中は語学学校、午後はボランティアという日々でした。扱いの容易な犬から注意を要する犬まで、色々保護されているのですが、私は3カ月という短期ボランティアであることに加え英語の問題もあったので、容易に扱える犬の散歩や小屋の掃除をして、終わったら犬と遊んだりもしました。同時に、センターの様子の撮影も行いました。

英国の保護センターについてどんな印象を持ちましたか。

面接と登録をすれば誰でもボランティアに参加できるということで、実に様々な人たちが気軽に保護センターで働いていて、素晴らしかったです。今回もバタシー・ドッグス & キャッツ・ホーム(Battersea Dogs & Cats Home)など保護施設を取材したのですが、日本の保護施設で働く人たちにも見てもらいたいですね。

英国の生体販売やブリーダー、不妊去勢手術についても調査されたということでしたが、日本とは違うのですか。

日本では「お店に並んでいるペットを買う」という生体販売が一般的ですが、それがなくなれば良いと思います。英国では、法律で禁止はされていませんが、数少ないと聞いています。また、日本の営利目的のブリーダーは悪質なケースが多いですが、英国ではその犬の血統を守ることが目的で行われます。最近は悪質なブリーダーもいるとは聞きますが、お金目当てではなく、その犬種をよく理解しプライドを持った人によって繁殖が行われていると感じました。こういったことなども日本に伝えられればと思っています。

そして英国では保護犬・猫への不妊去勢は基本となっています。日本でも保護団体の方たちは手術を勧めていますが、一部の人からは「動物が子供を産む権利を奪っている」という反対の声もあるのです。英国の獣医師に、この意見をどう思うか聞いてみました。すると、「人間が動物を飼う、という時点でもう動物をコントロールしているわけだから、バース・コントロールも責任を持つのが当然ではないのか」と言われ、勉強になりました。

ロンドンなどで「犬に名前をつける日」を上映されますが、どういった人たちにこの作品を観てもらいたいですか。

アジアの中ではまだ良い方とはいえ、日本のペット事情は英国の方から見たらびっくりするような状況かもしれません。それでもやはり基本的に、犬や猫を愛する人たちに観ていただきたいです。観ていただけば、現在、犬や猫にまつわる状況を良くしようと戦っている人たちが大勢いて、行政も変わりつつあることが分かると思います。私が取材を始めた2011年には全国で年間18万匹の犬と猫が殺処分になっていましたが、現在は8万匹。県によっては殺処分ゼロのところもあります。犬や猫を助けるボランティアの人々の力が、行政を動かし始めているのです。この作品は単に日本の犬・猫事情を告発する映画ではありません。元々はそのつもりで作り始めたのですが、希望や、人々が世界を変える力を描いた作品だと思っています。

この作品はドキュメンタリー・ドラマという形式ですが、ではTVディレクターを演じる小林聡美さんは、山田監督ご自身ということですね。

はい。小林さんには実際に保護施設に行ってもらい、台本もないまま取材者を演じてもらいました。私が東日本大震災直後から撮りためた200時間を超える映像を、このままドキュメンタリーとして出すのでは、つら過ぎて多くの方に観てもらえないのではないか、犬・猫の問題に興味のある方にしか観てもらえないのではないか、と思い、20年来の知り合いでもある小林さんにお願いし、取材者のドラマの部分を加え見やすくしました。「犬を飼いたいな」と思っている普通の方にこそ、観ていただきたいと思ったからです。


「犬に名前をつける日」Dogs Without Names

「犬に名前をつける日」Dogs Without Name

監督: 山田あかね 出演: 小林聡美、上川隆也、渋谷昶子(のぶこ) ほか
(2015年、107分、英語字幕付き)

愛犬を病気で亡くし傷心のTVディレクター、久野かなみ(小林聡美)。尊敬する先輩の渋谷昶子監督に「悲しむ暇があるなら犬の映画を撮ったら」と励まされ、かなみは、犬の命をテーマにしようと、取材のため動物愛護センターへ向かうが……。「ちばわん」「犬猫みなしご救援隊」という2つの動物保護団体の活動を軸に、崩壊したブリーダーの様子や福島の原発20キロ圏内の犬・猫を追ったドキュメンタリー・ドラマ。

特別上映会+製作スタッフQ&A

5月30日(火)18:00  料金: £5
Hertford Castle
The Downshire Suite, Hertfordshire SG14 1HR
このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください
Hertford East/ Hertford North駅
www.friendswithpaws.co.uk
主催: 桑原春子さん(音楽家)

5月31日(水)18:30 料金: £10
Phoenix Cinema
52 High Road, London N2 9PJ
Tel: 020 8444 6789 East Finchley駅
http://phoenixcinema.co.uk
主催: ジャパンソサエティ

 
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