ジャパンダイジェスト

Nr. 27 ドイツの学力問題、移民の子どもが原因?!

あれほど混乱しながら急発進したドイツの教育改革でしたが、2006年に実施された3度目のOECD(経済協力開発機構)による学力テスト「PISA」においても、学力レベルにあまり変化は見られませんでした。  

「ドイツの学力はなぜ低いのか」。教育学の専門家や関係者たちは、第1回PISAの実施後のショッキングな結果以降、その原因を懸命に探し続けていました。その議論の中で、常にある1つの理由が挙げられていました。それは「ドイツには移民の子が多いから」というものです。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

ドイツは、確かに移民を多く受け入れている国です。労働不足を補うため、特にトルコなどから大勢の外国人労働者を受け入れ、旧ソビエト連邦諸国からの帰還者やアジア諸国からの移民も多く住んでいます。ドイツ人だと思っていた近所の家族がルーマニア出身だったり、ポーランド国籍だったりすることも。さらにドイツの大都市の幼稚園では、園児の半数以上が移民の子どもたちで占められているという光景も珍しくありません。そのような状況の中で、「ドイツ語があまり得意ではない子がドイツの学校にはたくさんいる。こうした生徒もPISAに参加したから、不本意な結果を招いたのだ」という意見がよく聞かれました。

単なる意見であれば聞き流せたのですが、あるとき、同様の見解が専門家チームから公式発表されたことがありました。正直なところ、私はこのニュースに不快感を禁じ得ませんでした。自国の生徒の成績不振の言い訳に、移民問題を取り上げることに納得がいきません。というのも、この頃、私の娘はドイツの小学校に通っていて、その学校にも移民の子どもが多数在籍していましたが、授業の様子を見ていると、移民2世や外国生まれの子どものドイツ語の理解度が極端に低いかと言えば、そうでもないと感じていたからです。移民の背景を持つ子たちは、ボキャブラリーの数こそ少ないかもしれませんが、意外にも、ドイツ人の子どもたちの中にも学校で習うドイツ語の文法や正書法、ディクタート(書き取り)の問題でつまずいている子がいるのです。ドイツ語は難しい言語と言われます。der die dasの冠詞を間違えたり、スペルが分からなかったりするドイツっ子を横目に見ながら、「やっぱりドイツ人にも難しいんだ」と、自分のドイツ語能力不足を下手に理由付けしていたものです。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

しばらくすると、また別の見解を主張するニュースが聞こえてきました。それはPISAの回答をよく調べてみると、なんと逆に「移民の子の方が、そうではない子よりも読解能力において優れた成績を残していた」というのです。PISAに振り回されて諸説紛々(しょせつふんぷん)。理由探しに躍起になり、なんとしてでも赤点を挽回したいドイツなのでした。  

その後、学力が改善しない理由がはっきりと分からないまま、2006年に国連から1人の特別調査官がやってきました。彼の名前はヴィラロボス(Vernor Muñoz Villalobos)。コスタリカ出身の教育学者で、1週間ほど国内の学校を見学した後、ドイツの教育の現状についての報告書を国連人権理事会に提出しました。その中身はドイツ教育を批判する内容となっていて、特にドイツの「3分岐型教育システム」がほとんど"犯罪的"とも言えるほどの悪影響を子どもに与えている可能性があると指摘したのです。その犠牲者は、障害を持つ子どもと移民の子どもとも。ドイツは教育制度が日本とは違うだけでなく、多民族国家に見られる教育問題の難しさも抱えているようです。

 
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