時々、あごを動かすとカクンと音がすることがあります。また口を大きく広げようとしても開きにくかったり、あごが痛んだりすることも。放っておいても問題ないのでしょうか? 原因や治療法について詳しく教えてください。
Point
- 関節とあごの筋肉の痛み、圧痛
- クリック音、開口障害
- 男性より女性に多い
- 数週間〜数カ月で改善
- 歯ぎしり、食いしばり、TCHが関与
- 日常生活にリスク要因あり
顎関節症とは
あごの構造
顎関節(Kiefergelenk)は耳の前方にあり、下あご(Unterkiefer)と頭蓋骨をつなぐ関節です。噛む・飲み込む・話すという大切な役割を担っています。あごの筋肉である咀嚼筋は機能の異なる四つの筋肉の総称で、咬筋(食べものを強く噛む)、側頭筋(口を閉じる)、内側翼突筋(噛む力を補助)、外側翼突筋(あごを前後左右に動かす、口を開ける)に分かれています。
顎関節症(Kiefergelenkstörung)の3症状
①顎関節、咀嚼筋の痛み(口を大きく開け閉めした時や外側から押すと痛みがある)、②口が大きく開けない(指3本を縦にそろえて入れにくいことが一つの目安、開口障害)、③あごを動かすとカクン、コキッと音がする(顎関節からの雑音)が主な症状です。クリック音は顎関節症の症状の一つですが、これだけで必ずしも治療が必要とはいえません(2019年のJ Appl Oral Sci誌、日本顎関節学会「顎関節症治療の指針2025」)。
日本人の4〜5人に1人
厚労省「平成28年歯科疾患実態調査結果の概要」によると、顎関節の雑音を自覚する人は約15%、痛みを自覚する人は約3%でした。症状を自覚する人は若年から中年の成人に比較的多く、女性に多い傾向がみられました。また、2023年に日本顎関節学会が行った全国調査では、顎関節症が疑われる人は23.7%で、国民の4~5人に1人に何らかの顎関節症状がある可能性が示されました(2025年の日本顎関節学会雑誌)。
顎関節症の病態
顎関節症には、①筋肉(咀嚼筋)の問題、②顎関節の関節円板のズレ、③顎関節の変形性関節症など、障害部位が異なるタイプがあります。①と②が多く、③は比較的少なく中高年に多くみられます。関節円板は、顎関節内にあるクッションの役割をする線維性の組織です。この関節円板が前方にずれ、口を開ける途中で元の位置に戻る際に、「カクン」「コキッ」というクリック音が生じることがあります。
予後は良好
生活習慣の見直しや適切な治療により、多くの場合、痛みや開口障害は数週間~数カ月で改善します。クリック音が残ることもありますが、痛みや機能障害がなければ、必ずしも治療を必要としません(日本顎関節学会)。痛みや開口障害が続く場合や、日常生活に支障がある場合は、歯科(Zahnarzt/-ärztin)、口腔顎顔面外科(MKGChirurgie)、あるいは家庭医(Hausarzt/-ärztin)に相談しましょう。
日常生活に潜む要因
眠っている時の歯ぎしり(Zähneknirschen)
眠っている間の歯ぎしりは、咀嚼筋や顎関節に負担をかけ、顎関節症の症状を悪化させることがあります。また、うつぶせ寝など睡眠時の姿勢が、あごに負担をかける場合もあります。
無意識の食いしばり(Zähnepressen、Bruxismus)
パソコン作業に熱中している時、緊張を強いられる際など、無意識の食いしばりもあごの関節と筋肉に負担をかけます。日本で提唱された「食いしばり・噛みしめ呑気症候群」は、無意識に歯を食いしばることで、唾液を頻繁に飲み込むと同時に多量の空気も飲み込む病態概念です。「歯を食いしばって我慢する」というのは、顎関節症にとっては好ましくないことになります。
上下歯列接触癖(Tooth Contacting Habit、TCH)
無意識のうちに上下の歯を持続的に接触させる癖のことです(本来、安静時には上下の歯は触れ合わず、2~3mm程度のすき間がある)。軽い接触であっても長時間続くと、咀嚼筋が休むことができず、顎関節や筋肉に負担がかかります。
日中の動作、姿勢
頬づえをつく癖、始終ガムを噛む、片側の歯のみで食事をする、背中を丸めた姿勢(猫背、Runder Rücken)も、顎関節症の要因になります。
精神的なストレス
精神的なストレスや緊張が続くと、無意識のうちに上下の歯を接触させるTCHがみられたり、歯を食いしばったり、咀嚼筋の過緊張を生じることがあります。
顎関節症の診断
特徴的な症状から
「あごが痛む」「口が開きにくい」「あごを動かすと音がする」などの症状を確認し、診察でほかの病気を除外した上で診断します。
検査方法
顎関節症に似た症状を示す顎関節脱臼(あごが外れる、Kieferluxation、Kiefergelenkluxation)もまれにあり、必要に応じてあごの動きの検査、咀嚼筋の痛みの検査、レントゲン写真などが用いられることもあります。
顎関節症の治療
自分でできる管理
あごの関節や筋肉に痛みがある場合は、大きく口を開けたり、硬いもの(硬いパン・硬い肉)を食べたりすることを避け、あごを酷使せずに安静を保つようにします。ガムを噛むのも控えましょう。日常生活においては、頬づえをやめ、猫背などにならないような姿勢に心がけます。また、上下の歯が直接合わさらず軽く離した状態に保つようにします。
痛み止め(Schmerzmittel)
痛みがある場合は、イブプロフェン(Ibuprofen)、ジクロフェナク(Diclofenac)などの非ステロイド性抗炎症薬や、パラセタモール(Paracetamol)などの鎮痛薬が用いられることがあります。
マウスピース(Aufbissschiene)
マウスピースは、歯ぎしりや食いしばりによって歯やあごに加わる力を分散し、咀嚼筋や顎関節への負担を軽減する目的で使用されます。
開口訓練、マッサージ
症状に応じて、痛みのない範囲で少しずつ口を開ける練習を行うことがあります。医療機関からの指導を受けた場合は、上下の前歯を指で支え、無理をせずゆっくり開口を補助します。また、こめかみや頬の筋肉を軽く円を描くようにマッサージすると、筋肉の緊張が和らぐことがあります。痛みが強くなる場合やあごが引っかかる場合は中止し、医師に相談してください。
クリック音だけの場合
クリック音がするだけで、痛みや口の開けにくさがなければ、必ずしも治療が必要とは限りません。
病態に応じた治療
咀嚼筋痛、顎関節痛、関節円板障害、変形性顎関節症など、症状の背景にある病態を確認し、歯科医師または専門医が症状を評価した上で必要に応じてそれぞれに適した治療を行います。(日本顎関節学会の「顎関節症治療の指針2025」)。



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック





