ジャパンダイジェスト

サルコペニア、ロコモ、フレイルとは?年齢に伴う筋力低下

日本に暮らす母が、病院で「サルコペニアがあるからロコモが何とか……」という説明を受けたようですが、聞き慣れない言葉で意味が分からなかったそうです。サルコペニアはどんな病気なのでしょうか?またロコモとの関係や治療法について教えてください。

Point

  • 歳とともに減る筋肉量と筋力
  • 自力移動の減少が要介護につながる
  • 高齢者に多い身体的、心理的、社会的変化
  • ドイツ国内の高齢邦人支援団体への相談
  • 十分な栄養と無理のない身体運動を
  • 音楽会、友達との交流、社会参加を

サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)

サルコペニア(Sarkopenie)とは?

主に加齢とともに筋肉量が減っていく現象のことで、筋力が弱くなり身体機能の低下につながります。「サルコ」はギリシャ語で「筋肉」、「ペニア」は「減少している」という意味です(1989年のAm J Clin Nutr誌)。ペットボトルのふたを開けられない、つまずいたり転倒したりしやすくなる、速く歩けない、重いものを運ぶとすぐ筋肉痛を生じるなどの症状が知られています。

サルコペニアの有病率

日本の65歳以上の高齢者の1~29%がサルコペニアに該当し、大規模調査だけでみると6~12%がサルコペニアと報告されています(サルコペニア診療ガイドライン 2017年の一部改訂版)。75~79歳では男女共に約2割、80歳以上では男性の約3割、女性の約5割が該当するとの報告もあります(2020年のJCachexia Sarcopenia Muscle誌)。

サルコペニアをセルフチェック!

両手の親指と人差し指で輪を作り、足のふくらはぎの一番太い部分を囲みます(指輪っかテスト)。もし内側に隙間ができれば筋肉量の減少が考えられます。また、握力低下、歩行速度(Ganggeschwindigkeit)の低下からも疑うことができます(「誰にでもできる筋肉評価」日本医事新報社、2024年)。

サルコペニアの原因

加齢だけが原因の一次性サルコペニア、日常の活動量の減少、栄養不足(低栄養)、病気での長期臥床などが原因の場合を二次性サルコペニアと呼びます。

年齢とともに減る筋肉

個人差があるものの骨格筋量は25~30歳頃から低下し始め、生涯を通して進行(厚生労働省)、70歳までに約30%の筋肉が失われます(2003年のJGerontol誌)。新しく筋肉を作る力は20代を100とすると70代では約半分ほどになるとの実験報告があります(1997年のAm J Physiol誌)。

使わないと減ってしまう筋肉

筋肉を使わないと筋肉成分はエネルギー源として分解され、筋肉量が減ります。宇宙飛行士の筋肉量と筋力は無重力の宇宙空間に滞在している短い間でも減少します(2006年のリハビリテーション医学誌)。病気による長期臥床でも同じようなことが起こりえます。

サルコペニア肥満(隠れ肥満)

サルコペニア肥満は筋肉が減って脂肪に置き換えられた状態です。見た目や体重には変化はないものの、体脂肪率が高いため「隠れ肥満」ともいわれます。

ロコモ(歩行移動機能の低下)

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)とは?

日本整形外科学会が2007年に提唱した用語で、略して「ロコモ」。加齢に伴う筋力の低下、関節や背骨などの整形外科的な原因で、移動するための身体能力が衰えた状態です(日本整形外科学会、2008年のJOrthop Sci誌) 。

要介護の原因に

ロコモの場合、将来的に要介護や寝たきりになるリスクが高まります。要介護の原因の約2割は運動器の障害で(厚生労働省「平成19年度国民生活基礎調査の概況」)、特に女性では3割近くと高くなっています(厚生労働省「平成16年度国民生活基礎調査の概況」)。

ロコモ度テスト

①下肢の筋力を調べる「立ち上がりテスト」、②歩幅を調べる「2ステップテスト」、③体の状態、生活状況も含めて評価する「ロコモ25」が用いられます。詳しくは、日本整形外科学会の「ロコモティブシンドローム予防啓発公式ガイド」を参照ください。

「運動器不安定症」という病気

「高齢化によりバランス能力および移動歩行能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒リスクが高まった状態」(日本整形外科学会、長寿科学振興財団)と定義され、日本で保険収載されている病名です。①目を開けて片足で15秒以上立っていられない、②椅子から立ち上がって3メートル先で折り返し再び椅子に座るのに10秒以上かかるのうち、いずれかができないことで診断されます(日本整形外科学会)。

フレイル(要介護に近づいた状態)

フレイル(Frailty)とは?

「加齢に伴う予備能力の低下のためさまざまなストレスに対する抵抗力・回復力が低下した状態」(日本老年医学会が2014年に提唱)で、身体的には例えば高温多湿、低気温、病気やけがなどのストレスに弱くなった状態です。

フレイルの3要素

身体的、精神・心理的、社会的な問題の重複がみられることが少なくありません。①「身体的フレイル」はサルコペニアやロコモなど、②「精神・心理的フレイル」は退職やパートナーと死別後の落込み、うつ状態、認知機能の低下など、③「社会的フレイル」は社会とのつながりが薄れて暮らす独居、孤食、経済的困窮などが挙げられます。

ドイツでの独居高齢邦人

フレイルは健康に過ごせる状態と日常生活のための支援(介護)を必要とする状態の中間といえます。ドイツ各地にある日本人の高齢者を支援する団体(DeJak-友の会、竹の会、ライン・マイン友の会、ライン・ネッカー友の会、むすび、まほろば、ミュンヘン友の会など)が日本語で相談に乗ってくれています。

発症予防のポイント

食事はバランスよく

栄養素のバランスの取れた食事内容が基本です。筋肉のもとになるタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)は、1日に適正体重1キロ当たり1.0グラム以上がサルコペニアの発症予防に有効であるとされています(サルコペニア診療ガイドライン2017年の一部改訂版)。また、コレステロールは体の構成成分、ホルモンやビタミンDの原料として欠かせない役割を担っています。

軽い運動が大切

散歩、無理ない範囲で階段を利用、ラジオ体操、片手をテーブルに添えて数回軽くしゃがんだり立ったりを繰り返すなどが、効果的で長続きしやすいです。慣れてきてから多少のレジスタンス運動(筋肉に負荷を掛ける運動)も試してみましょう。ただし、スクワット、腕立て伏せ、有酸素運動などで普段使い慣れていない筋肉に急に負荷を掛けると、逆に筋肉を痛めてしまうこともあります。自分に合った無理のない身体運動を長く続けましょう。

外出、社会参加も大切

音楽会や各種の集まりへの参加、友人との食事や交流も心身の活発化につながり、サルコペニアやフレイル、認知機能低下の予防に役立ちます。最初はおっくうでも一歩踏み出すと楽しいことも少なくありません。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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