7歳になる子どもが週に何回か眠っている間におもらしをするので、このまま自然に治るのかどうか心配しています。夏にキャンプに参加させたいと考えているのですが、治療は受けるべきでしょうか?もし病院に行く場合は、何科を受診したらよいか教えてください。
Point
- 夜尿症の子どもは多い
- 年齢とともに自然に治る
- 親が夜尿症だった場合も
- 起こさず、怒らず、焦らずが基本
- デスモプレシン服用とアラーム療法
- 小児泌尿器科に相談
- 排尿痛、便失禁もあれば即受診
夜尿症の基礎知識
夜尿症とは
夜尿(おねしょ、Bettnässen)は、夜の就寝中に無意識に尿を漏らしてしまう現象です。5歳以上で、1カ月に1回以上、3カ月以上続いて夜尿がみられる場合を「夜尿症」(nächtliche Enuresis)と呼んでいます(夜尿症診療ガイドライン2021、国際小児禁制学会[I CCS])。6歳未満の子どもでは単に「おねしょ」(夜尿)と呼ばれ、学校に上がる6歳以降では「夜尿症」と呼ばれることが多いようです。
おしっこ機能の発達
子どもの膀胱機能や脳の神経系の発達とともに、3歳頃から昼間の遺尿(おもらし、Pinkeln、Inkontinenz)がなくなり、多くは4歳頃には夜尿もなくなってきます。しかし、この機能発達がゆっくりしている子どもも多くいます。
実は多い夜尿症
夜尿症は5歳で15%、6歳で13%、7歳で10%、8歳で7%、10歳で5%、12~14歳で2~3%、15歳以上で1~2%程度との報告(2014年のAJM誌)があり、女児より男児に多くみられます。小学校入学時では、クラスに夜尿症の子どもが複数いると推定されています(夜尿症診療ガイドラインより)。
夜尿症の分類
医学的には1週間の夜尿回数が4日以上を「頻回」、3日以下を「非頻回」としています。生まれてからずっと夜尿が続いている場合を「一次性」(約75~90%)、6カ月以上消失していた夜尿が再発した場合を「二次性」(約10~25%)と呼びます。さらにほかの尿路系の異常を疑わせる症状(昼間尿失禁、排尿痛など)を伴わない場合を「単一症候性」(約75%)、伴う場合を「非単一症候性」(約25%)と呼びます。以下、夜尿症の大多数を占める単一症候性夜尿(Monosymptomatsche Enuresis Nocturna[ MEN])について説明します。
夜尿症の原因
①夜に尿が作られすぎる、②膀胱容量、機能が十分でない、③尿が溜まっても目が覚めないの要素が組み合わさっていると考えられています。また転居、兄弟の誕生、両親の離婚などの環境の変化が起因となって、二次性夜尿症(上記)を生じることがあります。
親にも夜尿症があった場合
両親のいずれかの幼少時も夜尿症があった場合、子どもが夜尿症になる確率は5~7倍と高いことが知られています。子どもの発育過程における夜間の尿生成、膀胱機能、尿充満による覚醒などの働きが素因的に似てくるためと考えられています(2001年のJ Ur ol 誌)。
家庭での対応
起こさず、怒らず、焦らず
これらは、家庭での対応としての夜尿症の3原則と呼ばれています。夜尿症は子どもの成長に伴い次第に治ってきますので、自然に良くなるものだとおおらかに子どもに接することが大切です。朝に「あ~、また!」「洗濯が大変だ!」といった親の独り言も、子どもの自尊心を傷つけることや、予想以上の大きなストレスにつながりかねないので気を付けましょう。
日常生活の改善ポイント
早寝、早起きの規則正しい生活、寝る前に水分を摂りすぎない(コップ1杯程度まで)、寝る前にトイレに行く、夜間に足や体を冷えないようにします。慢性的な便秘があれば、便通の改善を心がけましょう。子どもが眠っている夜中に無理にトイレに起こすことは、治療には結びつかないと考えられています。
宿泊行事への参加前に
小児用のおねしょパンツ(TENA Pants Plus®など)を入手しておくとよいでしょう。夜寝る前に履くことで、宿泊先でパジャマや寝具を濡らさずにすみます。子どもとも話し合った上で、親から宿泊行事の担当者に事前に伝えておくのも一案です。
子どもの自尊心への影響
夜尿症の子どもへのストレスは、両親の離別、両親の争いに次いで、3番目に高い要因ともいわれています(1988年のBr J UI r ol 誌)。長引く夜尿が子どもの自尊心の低下につながり、それがほかの領域での自信低下を招くことがあります。
親のストレス
夜尿症の親を対象とした協和キリンの調査(2008年)では、ストレスを「よく感じる」が30.6%、「ときどき感じる」が47.2%と、大半の親(計77.8%)のストレスになっています。洗濯のほか、学校の宿泊行事へ参加するときや、他人に相談しにくいことも負担になってきます。
子どもの夜尿症の治療
治療効果はありますか?
生活指導により、自然経過に比べて治癒率を2~3倍に高めることができます。未治療での1年後の治癒率が10~15%に対し、次項の治療を受けた子どもでは約50%が治癒すると報告されています(2009年の「夜尿症研究」誌)。
デスモプレシン内服薬(Desmopressin, DDAVP)
脳下垂体から分泌される抗利尿ホルモン(ADH、バゾプレシン)の合成薬で、夜尿症治療の第一選択の一つです(夜尿症診療ガイドライン 2021)。有効性が高く、即効性があり、携帯できる点が長所ですが、内服中に水分を取り過ぎると「水中毒」を生じるため、内服1時間前~8時間後までは飲水量を制限します。
おねしょアラーム(Bettnässer-Alarm, Pipi Alarm)
パンツに小さなセンサー(おねしょアラーム)を付けると、おしっこでパンツが濡れた際にアラーム音とバイブレーションが作動して子ども(多くは親も)を起こします。夜尿症の有効な治療の一つとして推奨されていますが、効果を実感するまでに6~12週間ほどかかります。
日記をつける
排尿日記、排便日記、デスモプレシン治療の場合は加えて飲水日記をつけるようにします。親子で記録をつけることで、排泄の様子に対する気付きを生み出す大切な機会となります(夜尿症診療ガイドライン2021)。
小児泌尿器科へ(Kinderurologie)
小児の泌尿器科の専門医で治療を受けます。分からない場合は、小児科や家庭医(Hausartz/-ärtzin)に相談してみましょう。特に、子どもや家族が悩んでいる場合には、積極的に治療を行うことが推奨されています(夜尿症診療ガイドライン2021)。
受診前に確認しておくこと
昼間の排尿が8回以上あるいは3回以下か、昼間にも尿漏れがあるか、排尿時の痛みはないか、など非単一性夜尿症(前述)を疑わせる下部尿路症状がないことを確認しておきましょう。排尿痛のほか、便失禁もある場合はすぐに受診します。