前立腺(Prostata)って何ですか?
ぼうこうの下に位置し、尿道を取り囲んでいるクルミ大の腺組織(図1)で、尿道の幅を調節し、排尿をコントロールしています。また、男性ホルモンの働きで前立腺液を作ります。前立腺液は精液の成分となり、精子に栄養とエネルギーを与えます。外からは見ることも触れることもでません。前立腺肥大、前立腺癌、前立腺炎の3つが代表的な疾患です。
図1 前立腺肥大
前立腺肥大とは?
生殖年齢が遠ざかり、男性ホルモンの活性が下がると前立腺は萎縮するか、肥大します。戦前の日本人男性は、前立腺が萎縮することが多かったのに対し、近年では肥大が増えています(図2)。肥大した前立腺(主に内腺)が尿道を圧迫すると、あらゆる症状が出てきます。これを、(良性)前立腺肥大症(benigne Prostatahyperplasie、略してBPH)と言います。
図2 増加する日本の前立腺肥大症
前立腺肥大の症状は?
最初に気付く症状は、尿線が細くなるため排尿時の勢いがなくなり、夜間にトイレに起きるようになること。さらに、排尿が途切れる、時間が掛かる、残尿感がある、などが加わり、ひどくなると尿が全く出なくなる(尿閉)場合もあります。前立腺肥大は日常生活の質(Lebensqualität)を損なう病気です。
前立腺肥大の原因は何?
まず加齢です。前立腺肥大は40歳後半~50歳頃より出現し、頻度は年齢と共に増加します。日本人男性では、40代の10%、60代の25%、70代の40%程度の人が罹っています。脂肪やたん白質の多い食生活、性経験の年数や旺盛さの関与も示唆されていますが、詳細は不明です。
前立腺肥大でぼうこう症状も?
肥大した前立腺が直接ぼうこうを圧迫するほか、抵抗に逆らって尿を出そうとするため、次第にぼうこうの壁が厚くなり、柔軟性が乏しくなります。また、ぼうこうが過敏に働くようになり(過活動ぼうこう)、尿が充分に溜まっていないのに突然、我慢できないような尿意を感じることがあります。そのため、トイレを気にする余り、日常生活に不安や支障をきたすことがあります。
前立腺肥大の治療方法は?
尿道への過剰な圧迫を除く目的で、α1ブロッカーという内服薬が用いられます。抗男性ホルモン薬はテストステロンの作用を抑えて前立腺を小さくします。また、植物エキス製剤や漢方薬が用いられることも。薬で効果が得られない場合は手術療法の適応も考えます。最近は、高温度療法やレーザー治療など、手術より負担の少ない治療法もあります。過活動ぼうこうを和らげる、抗コリン薬も有効です。なお、抗コリン薬は尿道の閉塞を促す可能性があるため(後述)、α1ブロッカーなどの前立腺肥大治療薬との併用が基本です。
前立腺肥大で避けるべき薬は?
日常使われている治療薬の中には、前立腺肥大の症状を悪化させる可能性のある薬が多く存在します。例えば、アレルギーや風邪の治療で用いられる抗ヒスタミン薬や腹痛に用いられる抗コリン薬、循環器領域や精神・神経科領域で用いられる薬の一部、排尿障害自体の治療に用いられる薬も時として症状を増悪させます。前立腺肥大の疑いがある場合は、担当医に必ずその旨を告げることが大切です。
前立腺癌(Prostatakrebs)とは?
前立腺の外腺にできる悪性腫瘍です。欧米人男性にとっては最も発生頻度の高い癌の1つで、日本人男性にも増えてきています。前立腺癌は非常にゆっくりと増殖し、しかも進行期になるまで症状がないのが特徴です。骨や腎臓に転移しやすく、転移があって初めて気付かれることもあります。そのため早期発見が最も大切です(後述)。前立腺癌が大きくなると、尿が出にくくなる、トイレの回数が増えるなど、前立腺肥大症に似た症状が出現します。血尿を認めることもあります。
スクリーニングのためのPSA測定の勧め
前立腺癌の腫瘍マーカーである血中PSA(前立腺特異抗原)の測定が、最も簡単なスクリーニング法です。前立腺の直腸診も有用。PSAは4.0ng/ml未満が正常で、それより高い値を示した場合には専門の泌尿器科で精査を受けます。PSA値は前立腺肥大症でも上昇することがあります。PSA値4.0 –10ng/mlの値を示す人の約30%、10ng/ml以上の50~80%に前立腺癌が見付かります。
前立腺炎はどういう病気ですか?
前立腺部に痛みと腫れを伴なう病気群の総称です。原因が細菌感染によるもの(急性細菌性前立腺炎、慢性細菌性前立腺炎)と非感染性のものに分けられ、しばしば、ペニス下部の袋の部分と肛門の間(会陰部)の筋肉のけいれんから痛みを生じます。痛みはペニスの先端におよぶこともあり、勃起や射精時に支障をきたす場合もあります。治療法は原因によって異なり、急性細菌性前立腺炎では抗菌薬が投与されます。
身近な病気です
前立腺の病気は男性だけに生じる身近な病気。病気への理解と家族のサポートが大切です。前立腺癌スクリーニングのPSA測定はかかりつけ医(Hausarzt/ärztin)で行えます。高値の場合には専門の泌尿器科に紹介してもらいましょう。