ジャパンダイジェスト

コレステロールの謎を考える − 正義の見方、それとも悪者?

最近、食事中のコレステロールの量は血液のコレステロール値にあまり影響しないと聞きました。それではどのような基準でコレステロールをコントロールしたら良いのでしょうか。

Point

  • コレステロールは人の生命に必要不可欠です。
  • 皮ふのコレステロールのおかげで強い骨へ。
  • LDL-コレステロール高値は冠動脈疾患を増加。
  • 脳卒中とコレステロール値の関係は不明瞭。
  • 高齢者は低栄養に注意が必要。

コレステロールの大切な役割

● 細胞膜の構成成分です

とかく近年は悪いイメージで捉えられるコレステロール(Cholesterin)ですが、実は欠かせない大切な役割を担っています。人間の細胞数は約37兆個あり、この細胞一つ一つの膜の構成成分がコレステロールです。

コレステロールの役割

● 活性型ビタミンDの素材です

食べたカルシウムは、皮膚にあるコレステロールが太陽光を浴びて作られる活性型ビタミンDの働きで骨に取り込まれます。

● 神経線維を守っています

脳の神経細胞の軸じくさく索という部分を保護する役割を担っています。人の体内のコレステロールの約¼は脳に存在します。

● 胆汁酸、ホルモンを作ります

食事の脂肪の消化を助ける胆汁(Galle)、この主成分である胆汁酸の主成分はコレストロールです。また、女性ホルモン、男性ホルモン、副腎皮質ホルモンなどのステロイドホルモンはコレステロールが原料となって作られています。

なぜ、コレステロールは悪者なの?

● 狭心症・心筋梗塞の危険因子

米国でスタートした研究により、コレステロールが高い人ほど冠動脈疾患(Koronare Herzkrankheit、KHK)が多いことが分かりました。

● 「悪玉」LDLはコレステロールの運送屋さん

LDL(低比重リポ蛋白)は肝臓で作られたコレステロールを体全体に運ぶ働きをしています。このLDLに含まれるのがLDL-コレステロールです。余分なコレステロールが動脈硬化の原因となることから「悪玉」と呼ばれます。

LDLはコレステロールの配達係、HDLは回収係

● 「善玉」HDLはコレステロールの掃除屋さん

HDL(高比重リポ蛋白)に含まれるコレステロールがHDL-コレステロールです。血管に残されたコレステロールを掃除し、肝臓に戻す働きをしています。値が高ければ、それだけ多くのコレステロールが血管壁から引き抜かれたことを意味します。そのため「善玉」と呼ばれます。

● 余分なコレステロールが動脈硬化を助長

血液中の余ったコレステロールが血管壁に入り込むことにより動脈硬化が助長されます。高血圧、糖尿病、タバコも助長因子です。様々な物質を取り込んで、こぶのように血管内腔に盛り上がったコレステロールの固まりがプラークです。プラークが損傷し、そこに血栓(Thrombus)ができると血流が止まってしまいます。

LDL-コレステロールの基準値は?

● 基準値を決める方法

LDL-コレステロール値はあくまで冠動脈疾患のリスク因子(Risikofaktor)です。そのため、今までの疫学研究や治療の意義の評価から基準値が設けられています。日本の診断基準では、LDL-コレステロール値が120mg/dl未満を適正域、140mg/dl以上を脂質異常症(Dyslipidemie)、その間が境界域とされています。

境界域でも他のリスク因子が組み合わさるとさらに動脈硬化が起きやすくなります。現在の基準値は年齢・男女の差を問わず同じ値です。ドイツでの基準値は160mg/dl/未満とされています。

血中のLDL-コレステロールの基準値
120 mg/dl未満 適正域
120〜139 mg/dl 境界域
140 mg/dl以上 高LDL-コレステロール血症

LDL-コレステロールと他の病気

● 脳卒中との関連は?

LDL-コレステロール値の議論の多くは、冠動脈疾患との関係でなされています。一方、LDL-コレステロール値が高いと脳卒中も増えることを明確にした疫学報告はあまりありません。

● 高齢者は値が低くなりすぎないように

東京都長寿健康医療センターの調査では、総コレステロール値が低い高齢者より高い人たちの方が、累積生存率は高いことが分かりました。

高齢者の総コレステロール値と生存率

食事からのコレステロール

● コレステロールの摂取基準がない?

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2015年版)から、それまであったコレステロール摂取の目標量の記載が省かれました。食事のコレステロールだけの摂取制限と血液濃度への効果の関係が明らかではなかったためです。血液中のコレステロールの大半は肝臓(Leber)で作られ、食事によるコレステロール摂取が多ければ肝臓でのコレステロール合成が減り、少なければ合成が増える仕組みになっていると説明されています。

血中コレステロールの由来

● 高脂肪食品が多くても大丈夫ですか?

脂質異常症の患者や、病気の人も前記の仕組みが同じように働くのかは不明です。LDL-コレステロール値の高い人がさらに制限なく脂肪分を取り続けることは好ましくないと考えられています。

LDL-コレステロール値から見た生活改善

● 基本は包括的な食事内容の改善

栄養バランスの取れた食事によって、血中コレステロール値を下げることができると考えられています。肥満の改善、血圧の安定化、耐糖能にも良い影響が期待されます。肥満の人は食事と運動による体重コントロール、喫煙者は禁煙の努力が求められます。

  • 動脈硬化のリスク因子
  • ● LDL-コレステロール過剰
  • ● 高血圧
  • ● 肥満
  • ● 糖尿病
  • ● タバコ

● 高齢者は低栄養にも留意しましょう

高齢者では低いコレステロール値と健康を損なう可能性の関連が示唆されています。厳格な食事制限は逆に低栄養など栄養障害の原因にもなりますので注意が必要です。

  • 高齢者の低栄養との関係が疑われる病気
  • ● 肺炎などの感染症
  • ● 骨折
  • ● うつ様の症状
  • ● がん
  • ● 脳卒中(議論あり)
  • ● 認知症

● コレステロール降下薬

スタチン系を含むコレステロール降下薬で高いLDL-コレステロール値を有効に下げることができます。特に、家族性高コレステロール血症(FH)ではスタチン系薬剤により冠動脈疾患による死亡のリスクを著明に減らすことができます。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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