76認知症になる前に。「家族信託」ドイツ編
日本、ドイツともに認知症の人口は増えている傾向です。前回は万が一に備えた「家族信託」について、日本における実情をご紹介しました。ドイツでも本人の判断能力がないとみなされた場合には、家族であってもその資産や銀行口座に触れることはできません。
遺書(Testament)では亡くなった後のみに効力があります。また、亡くなった際には遺書がなくても法律に則って財産分与が行われますが、認知症の場合の財産管理については事前に対策をしていなければなす術がなく、当人が亡くなるまでその財産に手をつけることはできません。
このような問題を引き起こさないためにも、家族信託契約(Vorsorgevollmacht)を作成することは大切です(「任意代理委任」と訳されることもありますが、ここでは日本の制度の名称を使い「家族信託」と呼びます)。
● ドイツ版「家族信託」の内容は?
ドイツにおける家族信託の契約は、包括的委任状(Generallvollmacht)ですべての権限を誰かに委任することが可能な上、誰に何を委任するかを具体的に細かく指定することもできます。また、資産や不動産、銀行口座、貯蓄や保険・契約類などの財産に関することのみならず、治療や手術の承諾、介護施設への入居等の個人の意向についても委任することが可能です。
委任する相手は家族に限らず友人を指定することもできます。しかし、委任状があれば指定された人物に決定権があるため、もちろん信頼できる人でなければなりません。また、複数人を指定すると何かの決定をする際に全員の承認を得なければならないため、争いになったり、連絡のつかない人がいたりすると決定に時間がかかってしまうという欠点があります。
家族信託の内容は死後も効力を持たせることができますが、その旨を記載する必要があります。家族信託は一般的に「行為能力がなくなった場合」の委任であるため、行為能力がなくならずに死亡した際は、この委任状は効力を持たないのです。
このほかにも、後見契約(Betreuungsverfügung)を作成する方法もあります。後見契約は医療行為に特化した委任状ですが、任意代理委任状との一番の違いは後見契約で委任された人物が本当に代理人として認められるかどうかは裁判所が判断します。代理人として認められない場合は、他者を指定しなければならないということです。後見契約では、判断能力がなくなったときに、どのような治療を望むのか、どのような介護施設に入居したいか・したくないかなどの希望を、具体的に記入することができます。家族信託契約と後見契約は、事前に作成しておくと本当に必要なときに困りません。
家族信託契約は自分で作成することもできますが、それだけでは内容に不備があったり、記述の仕方によっては意図したことが可能にならなかったりする場合も想定されます。不動産の売買や財産管理においては、有効と認められない場合があるので公証人(Notar)のもとで漏れのないように作成・認証してもらいます。合わせて死後のことを決める遺書も作成しておくと良いでしょう。
公証人の料金は、管理する財産の額によって規定されています。資産が10万ユーロであれば家族信託の公証人料金は165ユーロ、25万ユーロでは300ユーロとなっており、日本の数十万円に比べると低い金額でお願いできます。
ドイツに両親や配偶者などの親族が暮らしている場合には、家族信託契約や後見契約の利用について話し合ってみる機会を設けることをおすすめします。