ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

60. セザンヌを訪ねて⑧:番外編「アヌシー湖」

アヌシー湖のシャトー
アヌシー湖のシャトー

かつてジュネーヴで4年ごとに大きなイベントがあって、準備のために長逗留(ながとうりゅう)していました。長いときは2カ月にも及んだので、その期間中の週末は休もうと決めたのです。そんな折、「アヌシーは良いところだよ!」との情報を得ました。

アヌシーはジュネーヴからフランス側へ1時間足らず。早速、行ってみることにしました。街はアヌシー湖から引かれた疏そすい水沿いに石造りの家が連なり、その風景は情緒豊かでとても素敵なところ。湖も水質が改善され、欧州隋一の透明度だそうです。

それから何年かして、私の好きな絵の1つセザンヌが描いた「アヌシー湖」を思い出しました。「これはどこから描いているのだろうか?」と調べたところ、どうやら対岸の小さな村タロワールで描いたことが分かりました。彼は病気療養のため、風光明媚で空気の良いタロワールをすすめられたようで、修道院跡に造られた「Abbaye de Talloires」というホテルに滞在しています。ただ、ここは何もない小さな村なので、彼はそれほど気に入らず、「早くエクスへ戻りたい!」ともらしていたようです。

描かれた場所を探すべく湖側の庭を歩いてみました。対岸に見える浮島には、確かにセザンヌが描いたシャトー(古城)が見えます。隣のホテルには芝が敷かれた庭があり、この位置辺りかなという場所を見つけました。左手前には、ドンと描かれた太い木の幹もちゃんとあります。

セザンヌの絵では、シャトーは実際に見えるよりも近くに捉えているようで、その凛とした風景のなかに静寂と堂々とした落ち着きを与えています。手前の水面は静かながら力強い垂直の線で、映り込みや透明度を表現しています。山々は簡素化されたタッチで遠景であることに留め、中央のシャトーは力強い線でアクセントが付けられ、メインの被写体である事を主張しています。

この絵を観てみたくて調べたところ、ありました、ロンドンのコートールド美術館に……。ここはキングズ・カレッジ内のサマセット・ハウスの一角に美術館として併設され、美術史や保存方法などの研究機関の役目もあるそうです。それほど大きな美術館ではありませんが、所蔵作品は目を見張るような名作揃い。2階には印象派の画家たちが飾られ、その奥にはセザンヌの部屋があり、6枚の作品が展示されています。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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