80. サンタ・チェチーリアのこと
サンタ・チェチーリア・イン・トラステヴェレ教会がある地区の広場
イタリアのオーケストラといえば、歌劇場のオーケストラをすぐにイメージしますが、演奏会をメインにしたいわゆるシンフォニー・オーケストラはほとんど存在しません。近年、「それではいかん! 」といくつか創設されましたが、世界的に認識されるには時間がかかりそうです。そんな中で唯一長年活躍しているのが、ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団です。
その母体であるサンタ・チェチーリア国立音楽院は、創設1584年と世界で1番歴史のある音楽院。オーケストラも1908年創設で、長い歴史を誇っています。かつては妙なことに、オペラのレコード録音でその名を知られるようになりましたが、「サンタ・チェチーリア」という何ともかわいらしい名前に親しみを感じたものでした。
イタリアの演奏家たちは、ソリストとしての腕前は世界でも最高レベルなのですが、アンサンブルが重要視されるオーケストラでは、若干まとまりに欠けるところもありました。近年は、実力のある指揮者を音楽監督として迎えるようになり、特に2005年から就任したアントニオ・パッパーノとはよほど相性が良いのか、メキメキとその実力が増していったのです。パッパーノは近年の指揮者では珍しく、聴衆を裏切らずに、ここぞという場面で気持ちいいほどオーケストラを鳴らしてくれます。彼の両親はイタリア人ですが、英国で生まれ育っていることも影響してか、決して単に大きな音を出しているわけではなく、節度も備わっているので音楽に説得力があります。
さて、この「サンタ・チェチーリア」という名前は、紀元後180年ころに殉教した16歳の少女チェチーリアにちなんでいます。彼女は斬首刑にあったのですが、3度も刃が通らず、3日間生き延びたそうです。その後、1599年に教会を建立する際、彼女の遺体はカタコンベから移設されましたが、全く腐敗していなかったとか。彼女の姿は、ステファノ・マデルノという彫刻家によって再現され、現在はサンタ・チェチーリア・イン・トラステヴェレ教会の、チェチーリアの遺体が安置されている上に展示されています。この彫刻家はものすごい技量だったようで、生々しく繊細な表現が美しいです。大理石にもかかわらず、少し垂れた手からは温もりすら感じるほど。彼女は生前竪琴を奏でたり音楽に親しんだりしていたことから、音楽院の名前にも冠されたのでした。