103. 私の好きな晩秋の音楽
晩秋のホーフブルク
秋も深まり、長い夜を過ごす頃となりました。こんな夜はしみじみとした音楽に身を委ねるのも良いものです。私がこの季節によく聴く曲に、ブラームスのピアノ・トリオの1番があります。ブラームスが21歳の時の作品で、初めての大作だったそうです。その後、58歳の時に改訂をし、今日ではこの版が演奏されることが多いです。こんな長い年月を経てから手を加えたのですから、彼自身も相当気に入っていたのでしょうね。
私が初めてこの曲をライブで聴いたのは、ルツェルン音楽祭でのことでした。アンドレ・プレヴィンのピアノに、アンネ=ゾフィー・ムターのヴァイオリン、リン・ハレルのチェロという組み合わせ。この当時はプレヴィンとムターが結婚する直前で、何とも仲むつまじく、共演のハレルがちょっと気の毒に感じるほどでした。
第1楽章は、21歳の若書きとは思えないような落ち着いた導入で、しみじみとした音楽が展開していきます。そして第2楽章は、ピアノによって導かれた後、ヴァイオリンが甘くて切ないメロディを弾きだすと、思わずジーンと来るものを感じ、熱いものが頬を伝いました。残念ながら彼らの録音は残っていませんが、この曲を聴くたびにあの日の演奏と、会場脇に広がるルツェルン湖が青白く暮れていく光景が思い出されます。
さて、2曲目もやはりブラームスの「間奏曲集」です。これは彼の最晩年の作品で、昔を慈しむように思い出し、深い思いを曲に込めています。これらは一気に書き上げられたのではなく、思い出すたびに書き溜められました。その中でも、私は最初のOp.117-1が大好きで、演奏はグレン・グールドの録音を楽しんでいます。これを録音した当時、グールドはまだ28歳だったにもかかわらず、枯淡の域に達したブラームスの心情に寄り添うような愛情が感じられます。
グールドといえば、何といってもバッハの演奏が有名で、画期的な表現方法を駆使し、金字塔ともいえる業績を残した人です。バッハがチェンバロのために作曲した曲において、ピアノ演奏で限りなく多様な可能性を探っており、ほとんどの音がスタッカートで演奏されています。対照的に、このブラームスでは慈しむかのように滑らかで柔らかく表現しています。ブラームス独特のほの暗いロマンチシズムも充分ですが、控えめで品を保っているのが魅力的です。