104. 私の好きな冬の音楽
雪のライン河畔
ドイツの寒い冬には、温かい部屋でしっとりと音楽に親しむのも良いものです。今回は、冬をテーマにした音楽をご紹介します。ずばり「冬」とタイトルに付けられている曲では、シューベルトの「冬の旅」があります。ヴィルヘルム・ミュラーによる同名の詩集から作曲された24曲の歌曲集で、物語は失恋から始まり、放浪、そして死へと向かって行く……という絶望的な内容ですが、ものすごい名曲です。
暗い気持ちにばかりなってはいけないので、冬でも楽しい内容の曲も。まずはルロイ・アンダーソンの「そりすべり」があります。軽快なリズムに乗って、そり遊びをする情景が描かれています。エミール・ワルトトイフェルの「スケーターズ・ワルツ」もまた、スケートを楽しむ情景を軽妙かつ優雅に表現しています。ところで、ワルトトイフェルは、仏独の文化が混在するストラスブール出身のフランス人なのですが、その名前のスペルは「Waldteufel」でドイツ語だと「森の悪魔」という意味になります。
寒い国の作曲家としてはフィンランドのシベリウスが挙げられます。彼は民俗音楽を巧みに取り入れ、大自然の印象を背景に凛とした音楽を作曲しました。ただ、年齢とともに自己批判が強まり、だんだんと作品を発表しなくなります。交響曲第6番や第7番は難解ですが、初期の第1番や第2番は完成度も高く聴きやすい名曲です。
小品では、これまたシベリウスの「悲しきワルツ」が大好きです。マリス・ヤンソンス指揮によるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏会で、アンコールにこの曲を聴きましたが、そのはかなくも美しいメロディに思わず熱くなるものを覚えました。ところで、「フィンランドでは森に積もった雪が青く光る時がある」とどこかで読んだことがありました。空と湖が反射しているのだと思われますが、一度は見てみたいものです。
本コラムでは今年の春から、季節にまつわる音楽に焦点を当てて取り上げて来ました。本誌1168号の「春」にまつわる音楽では、ヴィヴァルディの「四季」から「春」を紹介しましたが、今回は「冬」の出番です。私が特に好きなのが、ヴァイオリンのソロが叙情的な雰囲気を甘く奏でる第2楽章のラルゴ。ピッチカートによって外で冷たい雨が降る様子を描かれていますが、暖炉がある室内では穏やかな時間が流れています。