106. コンメディア・デラルテのこと②
ヴェニスの運河
前回ご紹介した喜劇一座の「コンメディア・デラルテ」は、18世紀に入り、オペラの世界にも影響を与えます。もともと、ギリシャ悲劇の再興を目指して誕生したオペラ・セリアは、神話の世界や歴史的英雄などの悲劇を扱った内容でした。
そのうち、幕間に観客を退屈させないように、「インテルメッツォ」といわれる簡単な寸劇を行うようになっていきます。これがだんだんと発達し、独立した「オペラ・ブッファ」(喜歌劇)へと発展。イタリアのモリエールとも称される劇作家で、コンメディア・デラルテの戯曲も執筆してきたカルロ・ゴルドーニが、オペラ・ブッファのための台本も書き始めます。これが徐々に人気を博し、ペルコレージやチマローザ、そしてロッシーニやドニゼッティ、さらにオーストリアではモーツァルトへと受け継がれ、このジャンルを大いに成長させていきました。
ところで、このコンメディア・デラルテは1979年に初来日し、ゴルドーニ作「二人の主人を一度に持つと」を上演。センスに溢れた天才演出家ジョルジュ・ストレーレルの演出で、各地で大変な反響を呼びました。この来日に合わせ、日本舞台美術家協会の主催で展覧会が開催されましたが、私もこれに参加させてもらいました。
本国ヴェネツィアから舞台写真や衣裳、そして仮面やトルソが送られてきました。この仮面は皮製で、役者一人ひとりの型を取って作られています。顔にぴったりとはまるため、役者たちは紐などで留める必要もありません。それに、ものすごく軽く作られているので、軽妙な動きをする役者の負担にはなりませんでした。今でもヴェニスへ行くと、多くの土産物店でコンメディア・デラルテの衣裳や仮面が、特産品よろしく売られています。
ある年の2月、ちょうどカーニバルの時期にヴェネツィアへ行ったことがあったのですが、人々は中世の衣裳やコンメディア・デラルテの衣裳を身にまとっていました。それも本格的に凝った衣裳で、もちろん仮面を被っている人たちもたくさん。運河には8人で漕ぐ伝統的なゴンドラをはじめ、さまざまな形をした船が浮かんでいて、何だかタイムスリップしたような錯覚に陥りました。