8. クリスマスの音楽
ラムザウ
日本では毎年、年末になるとベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調作品125、いわゆる「第九」の演奏会が各地で催されます。集客力のあるこの興行は、収益をオーケストラ団員へのボーナスとして還元できるようにと考え出されたとも言われ、この時季お馴染みのイベントとなっています。ちなみに、欧州にはこのような風習はなく、「第九」は季節に関係なく上演されます。
一方、オペラやバレエは、クリスマス・シーズンに相応しい演目が欧州各地で上演されます。今回は、この時季に欧州で上演される、不朽の名作をいくつかご紹介しましょう。
まずは、フンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」。これを子ども向きと侮ることなかれ、相当のオペラ通をも満足させる名作に仕上がっています。内容は、誰もが知っているグリム童話の残忍な部分を柔らかく変更したもので、少しマンネリ化したクリスマス劇の代わりとして、「お兄ちゃん、ちょっと曲を付けてくれない?」とフンパーディンクが妹から頼まれてできたという作品なのですが、ワグナーも嫉妬したといわれるほどの名作となってしまいました。第2幕の後半に大勢の天使が出てくるので、この時季に相応しい作品として上演されています。
次いで、プッチーニの「ラ・ボエーム」。クリスマス・イヴの夜、パリの裏町を舞台に展開していくこのオペラは、貧しくて悲しいボヘミアンたちの恋物語です。叙情たっぷりのメロディーも手伝って、ハンカチなしでは観ることができません。メロディーを思い出すだけでも、もうジーンときてしまいます。
最後はバレエの演目から、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」。ドイツの幻想作家E.T.A.ホフマン原作によるこの作品は、内容的にも素晴らしい筋立てで、メロディーはロマンチック、全編にわたり聴き応えがあります。第1幕の夢のシーンでは、舞台装置が大きくなっていく仕掛けや幻想的な雪の精たちのワルツなど見どころも多く、第2幕のガラ・シーンは、次から次へと登場する異国からの訪問者に合わせたスタイルの異なる音楽や踊りが、華やかで見飽きることがありません。
上記3作は内容も分かりやすいので、子どもが観ても十分楽しめます。冬の寒い一夜に、心温まる体験をされてみてはいかがでしょうか。