28. ビゼー「アルルの女」から第1組曲
ドーデの風車小屋(フォンヴィエイユ)
夏に聴きたくなる曲にジョルジュ・ビゼーの名作「アルルの女」があります。これはアルフォンソ・ドーデがプロヴァンスで最後に残った風車小屋を譲り受け、ここからパリへ送り続けた短編集「風車小屋だより」の一つ「アルルの女」から戯曲化されたお芝居の付随音楽として作曲されました。短い話ですが、作品の題名である「アルルの女」が登場しないこのお芝居は、人々に感銘を与えました。ただ、予算とスペースの制約から劇場版はオーケストラ編成が小さく、それに不満を持ったビゼーがフルオーケストラ用の組曲として編曲し、人気作品になります。組曲は第1と第2の各4曲で、第1はビゼーによるものですが途中で亡くなったため、第2は友人のエルネスト・ギローの編さんです。
力強く荘厳な民俗音楽風に始まる「前奏曲」は、プロヴァンスの明るく力強い太陽を連想させますが、同時に悲劇の影もにおわせています。後半に入りサクソフォンによる甘いメロディーへと移り、穏やかな農村風景、夏の午後が連想されます。軽快な民族舞踊風に始まる「メヌエット」は流麗な弦楽のメロディーへと移り、青い大空をバックに田園風景が広がるようです。その上に浮き上がるようなハープが爪弾かれると、柔らかく木管たちが絡まり、まるでミストラル(フランス南東部に吹く北風)に吹かれ流れている雲が目に浮かぶようです。曲は一変して静かな「アダージェット」へ。弦楽が穏やかで甘いメロディーを奏でます。バルタザール老人がベンチに座り、フレデリ(アルルの女に恋をし、嫉妬のあまり自殺をしてしまう地主の息子)に昔話を聞かせるシーン。若い頃雇われていた農家の夫人と相思相愛になりますが、事情が許さずこの農家を去ったが、今も思い出すと涙が出てしまうと話す場面で、甘くも切ない物語です。
さらに曲は一変し、高らかなホルンの刻みによって鐘の音を表現する「カリヨン」へ入ります。これはアルルにあるサン・トロフィーム教会の鐘楼で鳴る鐘をイメージしているのでしょうか。このシーンではいつも、ゴッホの「アルルの見える花咲く果樹園」を思い浮かべます。ミュンヘンの美術館、ノイ・ピナコテークにある一枚で、ポプラ並木の向こうにアーモンドの花咲く農園が広がり、この鐘楼と共にアルルの街並みが描かれています。(続く)