ジャパンダイジェスト

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

44. パリのモンマルトル墓地

44. パリのモンマルトル墓地

アベス界隈(モンマルトル)
アベス界隈(モンマルトル)

パリでは、モンマルトルの麓に位置するアベス界隈がゴジャゴジャとした下町の生活感があふれていて好きです。この界隈は画家達の縁の地も多いですし、アベス通りを西の方へ下るとモンマルトル墓地が現れます。初めてこの墓地へ行った時はブラッと立ち寄っただけで、何の予備知識もないまま訪れたのですが、います、います、数多の著名人達のお墓が目白押しに出現しました。この日は寒く、夜にはオペラに行く予定があったので、後ろ髪を引かれながらも、ここを後にしました。

それから数年後、今度はしっかり調べてから出向きました。クリシー広場から通りをダラダラ登り、コーランクール通りに入った辺りの階段を降りると墓地のメイン入り口に出ます。この墓地はかつての石切り場跡に作られたそうで、なるほど地面からは随分下がった所に位置しています。入り口の番屋には地図がぶら下っていて借りる事ができ、この裏側には著名人の名前がアルファベット順に載っているので心強い味方です。広い墓地は木々も多く、静かで都会の真ん中とは思えないほどです。ここにはスタンダールを初め、ゾラやハイネなどの文学者や、作曲家ではベルリオーズにオッフェンバッハ、それにドリーブ、画家ではドガ、ダンサーではニジンスキーと枚挙に暇がありません。

ただ、この日の目的はオペラ「椿姫」でヒロインになったヴィオレッタのお墓を訪ねることでした。陸橋を潜ると左手にあっけないほど簡単に見つける事が出来ました。屋根の付いたシンプルな墓石には彼女の本名で「Alphonsine Plessis(アルフォンシー・プレシ)」と刻まれています。正面には肖像画もはめ込まれていて、真っ赤な口紅の跡が幾つも残されていました。彼女が生きた時代から150年以上も経過しているにも関わらず、今でも彼女を慕う女性達が多くいることが伺われます。彼女の名前はややこしく小説ではマルグリット・ゴーティエとして登場し、オペラでは「椿姫」というタイトルにも関わらずヴィオレッタ(スミレちゃん)と名付けられ、もう一つのマリー・デュプレシという名はいわゆる源氏名で、その知性と気品の漂う美麗さで当時は有名な人だったそうです。彼女との実際の出来事を元に小説化したアレクサンドル・デュマ・フィスも近くに眠っています。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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