ジャパンダイジェスト
独断時評


「女帝」メルケル圧勝連立交渉は難航へ

9月22日の連邦議会選挙では、メルケル首相の率いるキリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が、前回の選挙と比べて得票率を約8ポイント伸ばし、大勝した。この選挙結果は、2005年から首相を務めるメルケル氏に対する国民の信頼が、いかに強まっているかを浮き彫りにした。

メルケル個人の勝利

多くの世論調査機関やメディアが、メルケル氏の勝利を予想していた。ドイツの景気は、ユーロ危機による不況の暗雲が欧州全体を覆っているにもかかわらず好調である。この国の失業率は約5%で、ユーロ圏平均の半分にすぎない。経済状態が良い時、人々は安定を望む。

選挙前の世論調査では、「誰を首相に望むか」という問いに対して、回答者の半分以上が「メルケル」と答え、社会民主党(SPD)の首相候補シュタインブリュック氏に対して、20ポイント近い差を付けていた。「Mutti(お母さん)」というあだ名まで付けられ、安定感に満ちたメルケル氏に比べると、失言・放言の多いシュタインブリュック氏は精彩を欠いていた。欧州諸国を見回しても、メルケル氏のようにリーマン・ショック、ユーロ危機など様々な危機をくぐり抜け、絶大な指導力を発揮できるリーダーはいない。最近の政局運営の仕方には、「女帝」の風格すら加わってきた。

今回の選挙結果は、CDU・CSUの政策の勝利ではない。メルケルというベテラン政治家の勝利なのだ。

FDP惨敗の波紋

だが、今回の勝利はメルケル氏にとって完全無欠の物とはならなかった。西ドイツの政治ドラマの中で戦後半世紀以上もの長きにわたり、しばしばCDU・CSUを連立パートナーとして支えてきた自由民主党(FDP)が、5%の閾(しきい)を越えることに失敗し、初めて連邦議会での議席を失ったのだ。1948年に創立されたFDPは、テオドア・ホイス、ハンス・ディートリッヒ・ゲンシャーなど著名な政治家を輩出し、企業経営者や自営業者、富裕層の利益を代表してきた。だが近年では、党首の指導力の弱さや、政策の独自色のなさによって支持者から見離され、緑の党や左翼党よりも得票率が低い泡沫政党に転落した。

個性をアピールしない現在のFDPは、メルケル氏にとって連立パートナーとしてベストの選択肢だった。保守勢力・リベラル勢力がともに議席の過半数を確保できなかったことから、メルケル氏は2005年にも経験したライバル政党との大連立の道を探らなくてはならなくなった。組み合わせとしては黒・赤(CDU・CSUとSPD)もしくは黒・緑(CDU・CSUと緑の党)が考えられるが、現実的なのはSPDとの大連立だろう。

ドイツ連邦議会選挙の得票率

政策の違いをどう調整する?

メルケル氏にとっては、難しい交渉である。大きな争点が少ない無風選挙だったとは言え、CDU・CSUとSPDの政策の間には、様々な違いがあるからだ。

たとえば、市民の関心が強い増税問題では、両党の違いがくっきりと浮かび上がる。現在、所得税の最高税率は42%ないし45%だが、SPDはこれを49%に引き上げることを提案した。最高税率は、年収が独身者で10万ユーロ、夫婦で20万ユーロを超える世帯に適用される。さらにSPDは、90年代にコール政権が廃止した資産税を再び導入するとともに、相続税を引き上げる方針を明らかにしている。

これに対し、CDUはマニフェストの中で、「ドイツの納税者の内、最も所得が多い25%の市民が、所得税の76.9%を払っている。現在税金の大半を払っている人々の負担を、これ以上増やすべきではない」として最高税率の引き上げに反対している。また資産税の再導入や相続税の引き上げについても、「中規模企業(ミッテルシュタント)の国際競争力を弱め、雇用を脅かす」として、拒否している。

家庭での教育を重視するCSUは、働いている両親が子どもを託児所に預けないで、自宅で養育する場合には、「家庭養育手当(Betreuungsgeld)」を支給する方針を提案していたが、SPDは「女性を家庭に縛りつけようとする試み」として、強く反対している。

健康保険制度の改革でも、両党の意見は対立している。SPDは、現在の公的健保と民間健保の違いを廃止し、国民全員を「市民保険(Bürgerversicherung)」に加入させることを提案しているが、CDU・CSUら保守派は反対している。電力価格の高騰にどう歯止めを掛けるかについても、議論の難航は必至。再生可能エネルギー促進法(EEG)の抜本的な見直しが不可欠という点では、両派の意見は一致しているが、SPDが提案している電力税の引き下げなどについては、CDU・CSUが難色を示している。

メルケル首相とリベラル派の代表が連立協定書に署名して新政権が発足するまでには、まだかなりの時間が掛かるだろう。

4 Oktober 2013 Nr.963

最終更新 Freitag, 17 Januar 2014 11:30
 

所得不平等の是正を!

ドイツ連邦議会選挙まで、いよいよあと2日。今回の選挙戦で各党が訴えたテーマの1つは、所得格差の是正だった。

ゲアハルト・シュレーダーは2003年に「アジェンダ2010」を発動し、失業保険制度や公的年金制度に大胆にメスを入れた。彼の政策は、「第2次世界大戦後、最大の社会保障サービス削減」と呼ばれた。このため統計上の失業者数は減ったものの、富裕層と貧困層の間の格差は拡大した。

ドイツも格差社会に

そのことは、社会の所得格差を測る物差しとして、欧州連合(EU)などの国際機関が最も頻繁に使うジニ係数に表れている。これは、社会の中で所得が完全に平等に分配されている場合に比べて、どれだけ分配が偏っているかを数値で示したものだ。例えば,収入格差がない完全に平等な集団では、ジニ係数は0になる。これに対し、1つの世帯だけが収入を独占する完全に不平等な集団ではジニ係数が限りなく1に近付く。数字が大きいほど、所得が一部の市民に偏っていることを意味する。

独・米・日のジニ係数の推移

経済協力開発機構(OECD)の統計によると、ドイツのジニ係数は、シュレーダー政権誕生直後の1999年には0.2585だったが、2005年には0.2968に増えている。約15%の上昇である。ただし、2005年以降は低下傾向にある(手元にある直近の数字は2010年で、0.286)。ドイツのジニ係数の絶対値には、ドイツ経済研究所(DIW)や欧州連合統計局、OECDなどの間でわずかな差異がある。計算方法などの違いによるものだろう。だが、ジニ係数が1990年代後半から2005年まで上昇し、それ以降下がるという傾向は、どの統計を見ても一致している。

富裕層に偏在する資産

ドイツで所得の偏在化が進んでいることを裏付ける、もう1つの数字がある。連邦統計局は、全世帯を個人資産が多い順に並べて、資産がどのように分布しているかを調べた。1998年には市民の内、最も裕福な10%の人々が、社会全体の個人資産の合計の45%を所有していた。シュレーダー改革後の2010年には、その比率が61%に拡大している。逆に、個人資産のリストの下半分に位置する市民は、1998年には個人資産全体の3%を所有していたが、2010年には、その比率が1%を割ってしまった。

このグラフは、ドイツの中間階層が時とともに小さくなっていく傾向も、くっきりと描いている。

ドイツの個人資産の分布状況

ベルリンにあるDIWのマルクス・グラプカ研究員は、この国の所得配分や貧困の問題をテーマに研究活動を行っている。彼は2012年に発表した研究報告書の中で、貧困に脅かされている市民の比率を調べた。貧困に脅かされている市民とは、市民の可処分所得を多い順に並べた場合、可処分所得が中間値の60%に満たない人々だ(これはEUなどの国際機関が使っている基準である)。

グラプカ研究員は、「1990年代のドイツでは、貧困に脅かされている市民の比率は約11%だった。しかし、1999年から2005年の間に貧困層は著しく拡大し、全体の14~15%となった。貧困率は、今もこの水準から下がっていない。特に旧東ドイツの貧困率は旧西ドイツを上回っており、2010年には市民の5人に1人が貧困層に属していた」と指摘している。

つまり、シュレーダー政権下で富裕層が資産の蓄積を加速する一方で、貧困に苦しむ市民の比率が拡大したのである。メルケル政権は、シュレーダー政権が実施した社会保障改革を一部緩和したが、それはシュレーダーの一部の政策に、市民にとって厳し過ぎる点があったからであろう。

ジニ係数に関するグラフをご覧頂ければお分かりになるように、ドイツの所得格差は米国や日本ほど大きくない。それでも今年誕生する新しい政権には、ドイツの国是である「社会的市場経済(Soziale Marktwirtschaft)」の精神を再確認するためにも、貧困の危機にさらされているシングル・マザーの年金補てんなど、富の再分配を促進する政策を取ってほしい。

19 September 2013 Nr.962

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 10:59
 

ドイツの落ちた偶像たち

メディアの表舞台で脚光を浴びる有名人たち。新聞、テレビ、雑誌はこうした「セレブ」なしには生きていけない。だが彼らの中には、栄光の頂点から突然、真っ逆さまに転落する人々がいる。

サッカー界の大御所の脱税事件

バイエルン・ミュンヘンのヘーネス会長
バイエルン・ミュンヘンのヘーネス会長。
4月23日、欧州CL準決勝バイエルン対
バルセロナ(スペイン)の試合にて

ウリ・ヘーネス(61)は、まさにその1人だ。彼は、ブンデスリーガで人気の高いサッカーチーム「FCバイエルン・ミュンヘン」のゼネラルマネジャーである。

今年4月にメディアの報道によって、スイスの銀行に320万ユーロ(4億1600万円・1ユーロ=130円換算)の資産を隠し持って脱税していたことが発覚。ヘーネスは、ドイツで最も有名なスポーツ業界人で、メルケル首相など多くの政治家とも知己がある。名選手だったヘーネスは、ニュルンベルクのソーセージ・メーカーを経営する実業家としても有名だ。

テレビのトークショーなどに出演し、スポーツの話題だけではなく銀行危機など、専門外の時事問題についても発言する「ご意見番」としても人気があった。そうしたマスコミの寵児が、脱税の罪で検察庁に起訴されたことは、サッカーファンだけでなく多くの市民に衝撃を与えた。320万ユーロの内、290万ユーロについては時効になっているため、量刑は軽いものになると見られているが、その栄光には大きな傷が付いた。

財界のご意見番の転落

脱税で転落した著名人と言えば、ドイチェ・ポストの社長だったクラウス・ツムヴィンケル(69)を忘れることはできない。

財界の大物で政治家に知り合いも多かったツムヴィンケルは、約100万ユーロ(1億3000万円)を脱税した疑いで、2008年2月に検察庁に摘発された。公共放送ZDFは、ツムヴィンケルが自宅で検察官によって任意同行を求められるシーンの撮影に成功。この特ダネ映像は、ドイツ中を駆け巡った。郵便事業を民営化したツムヴィンケルは、国から勲章まで授与された著名人だったが、裁判所から執行猶予付き2年間の禁固刑と100万ユーロの罰金刑の判決を言い渡された。

彼の転落につながったのは、リヒテンシュタインのLGT銀行の元行員が盗み出した顧客データである。この元行員は、約900人のドイツ人資産家に関するデータを収めたCD-ROMを、ドイツの諜報機関である連邦情報局(BND)に提供。メルケル政権は、420万ユーロ(約5億4600万円)の報酬を支払ってデータを入手した。

検察庁と税務当局は、この顧客リストを基に、資産家に対する強制捜査に着手。その網にかかった富裕層の1人がツムヴィンケルだった。ZDFの映像を見た資産家たちは、震え上がった。最初の2週間で91人の資産家が脱税していたことを自主申告し、税務当局は2780万ユーロ(36億1400万円)の脱税額を回収した。かつての「財界のご意見番」だったツムヴィンケルも前科者となり、マスコミの表舞台から姿を消した。

グッテンベルクと博士論文

脱税と並んで、著名人たちを奈落の底に突き落とす地雷原が、「博士論文」である。最も激しい転落ぶりを見せたのが、連邦国防相だったカール・テオドール・ツー・グッテンベルク(41)だ。彼はここ数年のキリスト教社会同盟(CSU)の中で、最も人気のある政治家だった。2009年に連邦経済相、2年後には国防相となった。フランケン地方の貴族の血を引き、甘いマスクを持ったグッテンベルクは、しばしば美しいブロンドの髪を持つ妻とともに女性誌の表紙を飾る、珍しい政治家だった。

ドイツの政治家としては稀有なカリスマ性を持ち、将来の首相候補という声もあった。ところが、彼がバイロイト大学で2007年に博士号を授与した際の論文に、ほかの論文からの盗用部分があることが判明。2011年に大学は彼の博士号を剥奪した。その直後に彼は国防相の職だけでなく、連邦議会議員のポストも辞職した。グッテンベルクは人気の絶頂で挫折し、あっという間にメディアの舞台から姿を消した。太陽に近付き過ぎて、羽根を固定していた蠟が溶けて転落したイカロスを思い出す(バイエルン政界の事情通によると、グッテンベルクはこの論文を自分で書かず、ゴーストライターに書かせていたという説もある)。

教育相よ、お前もか。

ドイツには、IT技術を駆使して、著名な政治家の博士論文の盗用部分を次々にチェックするプロの「盗用調査マン」がいる。彼らは政治家たちの博士論文をスキャンして、ネットで検索する。盗用部分が数値化されるので、政治家は抗弁できない。IT革命によって、盗用調査技術も飛躍的に進歩したのだ。

この盗用調査マンによって転落したもう1人の著名政治家が、アンネッテ・シャヴァン(58、CDU)である。彼女はドイツの教育行政を司る連邦教育相だったが、1980年に博士号を取った際の論文に盗用疑惑が浮上した。デュッセルドルフ大学は、今年2月にシャヴァン氏の博士号を剥奪。彼女は教育相の職を辞した。彼女は教育行政の責任者として、グッテンベルクの盗用疑惑が浮かび上がった際、彼を批判していた。その彼女が、自分でも他人の文章を盗用して博士論文を書いていたというのだから、滑稽である。

ここに挙げた4人は、運命の急変を経験した著名人の氷山の一角にすぎない。一寸先は闇。今後も転落する偶像たちは、後を絶たないだろう。

6 September 2013 Nr.961

最終更新 Donnerstag, 05 September 2013 12:46
 

ドイツ太陽光発電の栄光と苦悩

読者の皆さんの中には、バイエルン州やザクセン州の田園地帯を車で旅行された時に、農地を埋め尽くすように灰色の太陽光発電パネルが設置されているのをご覧になった方も多いと思う。この国のあちこちに作られているメガ・ソーラー(大規模太陽光発電施設)である。また、郊外の農家や工場の屋根にも太陽光発電パネルがびっしりと取り付けられている。

太陽光発電ブーム

ドイツは世界で最も太陽光発電に力を入れている国の1つだ。ドイツ太陽光発電連合会によると、この国で1年間に新設された太陽光発電装置の設置容量は、2010年に前年の2倍に増えて7400メガワットとなった。11年の新規設置容量は7500メガワットと戦後最高の水準を記録し、12年にも7300メガワット。つまり、3年連続で7000メガワットを超えたのである。これは、連邦政府の想定(年間3500メガワット)を大幅に上回るものだ。今年の設置容量は、3500~4000メガワットになると予想されている。

ちなみに、ドイツ最大の総出力を持つ原子力発電所はバイエルン州で稼働しているイザール2で、1485メガワット。この数字と比べると、ドイツで過去3年間に新設された太陽光発電装置の容量がいかに大きかったかをご理解頂けるだろう。

太陽光発電の急成長の最大の理由は、社会民主党(SPD)と緑の党の左派連立政権が、2000年に再生可能エネルギーの本格的な助成を開始したことである。送電事業者はEEGという法律によって、太陽光や風力から作られた電力を、需要の有無にかかわらず、優先的に買い取って送電網に流し込むことを義務付けられた。しかも、買取価格は20年間にわたり固定され、発電事業に投資する投資家にとっては損失を受けるリスクが少なくなった。中でも太陽光エネルギーの買取価格は、風力や水力などと比べて大幅に高く設定されていた。買取価格は毎年漸減したので、2011年以降、価格が大きく下がる前に多くの発電事業者が発電装置の「駆け込み設置」を行ったことが、3年間にわたって毎年7000メガワットを超える容量が設置されたことの原因である。

巨額の助成金が追い風

再生可能エネルギーの買取価格は、最終的に電力を使う消費者が負担する。2011年に需要家がエコ電力促進のために払った金額は約135億ユーロ(約1兆7550億円・1ユーロ=130円換算)。00年から12年までの助成金を合計すると、およそ9兆円に上る。これは、クロアチアとルクセンブルクの11年の国内総生産(GDP)の合計に匹敵する。エコ電力買取のために天文学的な金額が注ぎ込まれていることが分かる。01年にはドイツの発電量に占める太陽光発電の比率はほぼゼロだったが、現在では約5%になっている。

モジュール・メーカーの苦境

だがこうした太陽光発電ブームにもかかわらず、ドイツの太陽光関連産業、特に発電モジュールのメーカーは青息吐息の状況にある。2011年にはドイツの太陽光モジュールメーカー2社(ソロン社とソーラー・ミレニアム社)が倒産したほか、他社もドイツの工場を閉鎖し、アジアに生産施設を移すなどして生き残る努力をしている。ドイツの太陽光モジュール・メーカーは、かつて「太陽光バブル」を経験した。04年に株式市場に上場した太陽光関連企業の数は4社だったが、06年には30社が上場。ソーラーワールド社の株価は、1999年の創業から9年間で、3689%上昇した。しかし黄金時代は、数年間で終わった。

象徴的なのは、トップメーカーの1つ、Qセルズの凋落である。1999年に3人のエンジニアが創業した同社は急成長して、従業員数2000人を超えるグローバル企業になった。2008年までは、製造した発電装置の容量では世界最大の太陽光モジュール・メーカーだった。だが11年には売上高が前年に比べて24%落ち込み、赤字に転落。昨年4月には債権者が経営再建策に同意しなかったため、裁判所で破産手続きを行った。今年7月にはハンブルクに本社を持つコナジー社が倒産。ソーラーワールド社は、債務減免などの措置によって、倒産の危機と必死で戦っている。

中国製品による価格破壊

ドイツの太陽光モジュール・メーカーの業績が悪化した理由は、中国から安価な太陽光モジュールが欧州に流れ込んだため、価格が暴落したことである。昨年1年間で、モジュール価格は約40%下落した。大手メーカー、ボッシュとシーメンスは太陽光関連ビジネスからの撤退を宣言した。

このため欧州委員会は、中国からの太陽光モジュールにダンピングの疑いがあるとして、制裁関税の導入を検討。中欧間で「貿易戦争」勃発かという観測もあったが、中国側が、高率の関税が課される期限の直前に、輸出量の上限や最低価格について欧州連合(EU)と合意し、紛争にエスカレートすることを避けた。

経済学者や電力業界の関係者の間では、「EEG助成金の50%が太陽光発電に注ぎ込まれているのに、太陽光が発電量に占める割合は5%にすぎない」として、ドイツで太陽光発電を助成することは非効率だとする批判が強い。ギリシャ・クレタ島の年間日照時間は2700時間だが、ドイツでは1550時間。太陽光発電ブームとは対照的に、この国のメーカーの苦境は今後も続きそうだ。

16 August 2013 Nr.960

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 11:02
 

参院選をドイツはどう見たか

ドイツのメディアは、東日本大震災と福島第一原発事故以降、日本についてあまり報道しなくなっていたが、今年7月21日の参議院選挙については、比較的大きく伝えた。

自民圧勝の陰に

参院選

この選挙では自民党が議席数を84から115に増やして大勝し、公明党とともに参議院でも過半数を確保。自公はいわゆる「ねじれ」状態の解消に成功した。今後3年間は選挙がないので、安倍政権は法案を衆参両院ですんなりと通過させることができる。

一方、民主党は議席数を106から59に減らして惨敗。議席の数が実に44%も減少した。国民は、民主党政権が経済政策、原発事故対策、外交政策などをめぐり失政を重ねたことを、今なお許していない。

さらに今回の参院選で象徴的なのは、投票率が52.6%と戦後3番目の低さだったことだ。有権者の半分近くが棄権したことは、国民の強烈な政治不信を示している。一方、ドイツでも投票率は年々低下している。2009年の連邦議会選挙の投票率は戦後最低だったが、それでも70.8%。日本の投票率がいかに低いかを痛感させられる。ドイツの政界にも当てはまることだが、日本の政界の人材不足は甚だしい。このままでは、投票率が50%を割る日も遠くないだろう。

日本改革のチャンス?

さて、ドイツの保守系有力紙フランクフルター・アルゲマイネのカルステン・ゲルミス東京特派員は、「日本が構造改革、対外開放を実現して経済や社会を覆っている殻を打ち破るための最後のチャンスが到来した」という見方を打ち出している。

これまで日本政府は、衆参両院の「ねじれ」に妨害されて、構造改革を本格的に実現することができなかった。だが今や安倍首相の前には、さえぎる物のない大平原が広がっている。少なくとも7月21日に票を投じた有権者の大半は、安倍政権にフリーハンドを与えたのだ。

過去20年間に、ドイツ人の中国への関心が増大するのと反比例して、日本に対する関心は低下した。彼らがかろうじて関心を持っているのは、「日本はデフレと不況からいつ立ち直るのか」ということである。

ゲルミス記者は「黒船来航時の開国、1945年の敗戦に次ぐ、『第三の開国』を日本は必要としている。安倍首相は党内の反対をはねのけて、日本を変えることができるだろうか」と問いかけている。

ドイツ人は、日銀による国債の大量買い取り、つまり公共債務の拡大による景気の緩和には懐疑的だ。しかし「アベノミクス」の発令以降、株価が上昇し、経済成長率も回復の兆しを見せていることには注目している。とは言え、アベノミクスはまだ始まったばかりであり、成長力の回復、社会保障制度の改革、消費税の引き上げなど、難題が山積している。

環境意識の違い

エネルギー問題について、ゲルミス記者は「時間は掛かるだろうが、安倍政権は原子炉の再稼動を実現する。それは貿易赤字の解消など、経済的な理由からだ」と予測している。日本は長年にわたり貿易黒字国だったが、福島での事故以来大半の原発を停止したために、火力発電所のための原油や天然ガスの輸入額が増え、貿易赤字国に転落した。

日本では新聞社が世論調査を行うと、半分を超える回答者が段階的な脱原子力を望むと答える。それにもかかわらず、原子力を推進する自民党が大勝したことは、多くの有権者が投票の際にエネルギー政策を重視していなかったことを示している。これは、2011年の福島原発事故をきっかけに、脱原発へ大きく舵を切ったドイツとの大きな違いである。多くの国民にとって、原子力のリスクに関する議論よりも、「経済」の方が重要なのだろう。

ドイツでは環境政党・緑の党が15%の支持率を持ち、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、社会民主党(SPD)に次ぐ第三の政党となっているが、今回の参院選で「みどりの風」や「緑の党グリーンズジャパン」は全く議席を取れなかった。脱原子力を要求する俳優の山本太郎氏が、東京選挙区で初当選したことは注目されるが、会派を持たない状態では政治的な影響力は小さい。日本では、原発問題は票に結び付かない。先進工業国で最悪の原発事故となり、16万人を避難させた福島原発事故も、日本国民の意識を変えるには至らなかったのである。日独間に横たわる、環境問題・エネルギー問題についての感受性の違いが浮き彫りになった。

歴史認識問題の行方

さて、ドイツのメディアにとっては「歴史認識」も重要なテーマだ。彼らは、安倍首相の政策が今後、ナショナリズム的な色彩を強めるかどうかに関心を寄せている。例えば安倍首相が参院選直後のインタビューの中で、靖国神社に参拝するかどうかについては明言を避けながらも、一般論として「国のために戦った方々に敬意を表し、ご冥福をお祈りするのは当然のこと」と述べたことを取り上げている。ドイツは、日本と韓国・中国の関係が悪化することによって、世界で最も高い成長率を示すアジア経済にマイナスの影響が及ぶことを懸念している。

この国のメディアは今後、安倍政権の一挙手一投足に注目していくだろう。

2 August 2013 Nr.959

最終更新 Donnerstag, 01 August 2013 13:58
 

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