ジャパンダイジェスト
独断時評


危険高まるアフガン派兵

10月16日、世界の目が金融危機に向けられていた陰で、連邦議会は重要な決定を下した。議員たちは圧倒的多数で、アフガニスタンに派遣しているドイツ連邦軍の将兵の数を、現在の3500人から4500人に増やすという政府案を承認したのだ。

与党側は「左派政党リンケが求めているようにアフガンから即時に撤退したら、国際社会に対する責任から逃げることになる」として、アフガン駐留の重要性を強調した。だが議会の決定からわずか4日後に、アフガン北部のクンドゥス近郊をパトロールしていたドイツ軍兵士2人がタリバンの自爆テロによって殺害された。ベルリンの決定に挑戦するかのようなテロ攻撃である。アフガンで死亡したドイツ兵の数は、これで約30人になった。今回タリバンは、ドイツ軍の基地からわずか5キロメートルの所でテロ攻撃を行った。このことは、抵抗勢力が外国軍を恐れず、むしろ挑発を強めていることを示す。南部に比べると平穏と言われていた北部でも、治安が急速に悪化しているのだ。

今回の自爆テロ犯がアフガン人の子ども5人を巻き添えにしたことに表れているように、手口は冷酷を極め、一時のイラクにすら似始めている。同じ日にはカブールでも、キリスト教系の援助組織の女性が何者かに射殺されている。

増派を決めたドイツ政府は、このテロ攻撃で苦しい立場に追い込まれた。議会の決定をくつがえすことはできないものの、アフガン派兵がドイツ連邦軍の創設以来最も危険な任務になったことは間違いないからだ。

左派政党リンケは、「アフガン派兵そのものが誤りだ。間違った任務についていくら将兵の数を増やしても、正しい任務にはならない」として、政府を厳しく批判している。実は与党側にも、「アフガンの平定について、軍隊ができることは20%程度であり、残りは文民が行わなくてはならない」という意見が根強い。国際社会は教育、警察、医療制度の拡充や、道路・上下水道の整備などを今以上に力強く進めるべきだ。市民たちが民主主義を受け入れ、自らの判断でタリバンやアルカイダの復活を拒否するような社会を築かなくてはならない。国際社会はいつまでもアフガン政府に指図するべきではなく、あくまでもアフガン人の主権を尊重するべきだ。

だが現状は、そうした理想からほど遠い。パキスタンとの国境地帯を拠点にして、タリバンはテロ攻撃だけでなく村々への浸透を強めつつある。欧米諸国に協力するアフガン人は殺害される危険がある。度重なる誤爆で外国軍への不信感も高まりつつある。

米軍は状況が好転しつつあるイラクから軍を撤退させ、2011年までにアフガン駐留部隊を2万人増やす方針だ。だが最近、アフガン駐留英軍のカールトン・スミス司令官は、「抵抗勢力に対して軍事的に勝利することは不可能だ。我々はこの戦争に勝てない」と述べている。ドイツは、ベトナムのような泥沼に足を踏み入れつつあるのだろうか。

31 Oktober 2008 Nr. 738

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:04
 

国際金融不安は解決できるか

米国発のグローバル金融不安に対処するため、ようやく西欧諸国の足並みが揃い始めた。今月12日にメルケル首相は「金融市場安定化基金」を設置し、銀行に対し4000億ユーロ(約60兆円)という巨額の保証を行う方針を発表した。さらに政府は経営難に陥った銀行に対して最高700億ユーロ(約10兆5000億円)の公的資金を注入し、一時的に株主となって銀行経営に関わる。

政府が異例のスピードで法案をまとめあげ、銀行救済のために1000億ユーロ(約15兆円)もの追加債務を行うことを決めたことは、金融システムがいかに危険な状態にあるかを示している。そのことはシュタインブリュック財務相の「Es ist Gefahr im Verzug(危険な状態なので、遅れは許されない)」という言葉にも表われている。

その最大の理由は、銀行が貸し倒れを恐れて互いに資金の貸し借りを行わなくなってしまったことだ。資金は経済の血液であり、その流れが滞った場合、実体経済にも深刻な影響が及ぶ。中小企業の中には、銀行の貸し渋りによって資金繰りが苦しくなる会社も現われるかもしれない。金融サービスの最大の財産は「信用」だが、サブプライム関連投資が今後、各金融機関にどのような損失をもたらすかは誰にもわからないので、現在のマーケットでは信用が大幅に低下している。このため銀行は戦々恐々となり、お金を貸そうとしないのだ。

今回の金融不安は、欧州連合(EU)加盟国政府がグローバルな危機対応に慣れていないことを暴露した。当初、各国の足並みはバラバラだった。メルケル首相は、今月初めにアイルランド政府が個人預金を無制限に保証する法律を施行させたことを強く批判した。だがその数日後には、ミュンヘンのヒポ・レアル・エステートが倒産しそうになり、金融システム全体に大きな影響が及ぶ危険が高まったので、個人預金の全額保証を発表した。市民の不安を解消するためとはいえ、ドイツの危機対応には一貫性が感じられない。

メルケル首相はまた、フランスが提案していた「EU不良債権買い取り機構」の設立を拒否し、自国民の預金だけを保証する方針を打ち出したため、フランスや英国政府から「EU全体のことも考えるべきだ」と強く批判された。ドイツは共同買い取り機構が設立された場合、最大の経済パワーとして多額の資金を拠出させられることを恐れたのである。「ドイツ国民の血税で、なぜ英国やイタリアの銀行の不良債権を買い取り、救ってやらなくてはならないのだ」という主張だ。

EU各国政府が今月中旬にそれぞれ発表した銀行救済策によると、総額1兆ユーロ(約150兆円)もの資金が金融機関に投じられる。欧州の歴史で例のない出来事だ。だが米国では、ローンを返済できない市民が今後も着実に増えるので、証券化されて世界中にばらまかれた不良債権は今後も増加する可能性が高い。各国の株式市場で株価は一時的に上昇したが、危機が完全に去ったと考えるのは早すぎる。日本のバブル崩壊よりもはるかに深刻なこの金融不安に、各国政府が打ち勝つことができるのは、いつの日になるのだろうか。

24 Oktober 2008 Nr. 737

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:04
 

深まる金融危機と政府の無力

米国の金融危機は欧州にも飛び火し、その炎は猛烈な勢いで広がり始めた。特にドイツ政府が10月5日に「万一、銀行が倒産した場合、個人預金は政府が全額保証する」という異例の措置を発表したことは、金融市場がいかに不安定になっているかを浮き彫りにした。

政府を戦後初の措置に踏み切らせたのは、ミュンヘンの大手不動産融資銀行ヒポ・リアル・エステート(HRE)が、アイルランドの子会社がサブプライム関連投資で巨額の損失を出したために破たん寸前になったことだ。HREが倒産した場合、他の金融機関にも損失が広がり、連鎖倒産が起こる可能性がある。このためドイツ政府と民間銀行団は9月末に、350億ユーロ(約4兆9000億円)をHREに注入する救済策をまとめた。

ところが、HREの損失は当初の予想を上回ることが判明し、この融資額では足りないことがわかった。HRE支援を拒否する銀行も現れた。救済策がご破算になったため、市民が銀行の倒産を恐れて現金を引き出そうとする危険が生じた。取り付け騒ぎを防ぐために、政府は個人預金を無制限に保証するという「伝家の宝刀」を抜いたのだ。

10月6日に政府と民間銀行団はHREへの融資額を500億ユーロ(約7兆円)に引き上げ、事態の沈静化に必死だ。この額は、1年以上前にサブプライム関連投資で破たんしそうになったドイツ産業銀行IKBに投じられた救済資金の5倍。時が経つにつれて、金融危機が深刻化していることを示している。10月上旬の時点では、ドイツだけでなく、日本や米国の株式市場でも金融関連銘柄を中心に株価が暴落している。マーケットは投資家からの信用を失ったのだ。

私が懸念しているのは、政府が金融市場の実態をよく理解していないために、対応が後手に回っていることだ。たとえばドイツ連邦銀行のヴェーバー総裁は、9月上旬に米国でリーマン・ブラザースが倒産した時、テレビに出演して「ドイツの金融システムは健全であり、全く不安はない」と断言していた。ところがそのわずか2週間後には、HREの経営が行き詰まり、金融システム全体が深刻な危機にさらされた。つまり、連銀総裁という要職にある人物ですら、サブプライム危機が多くの金融機関の資産内容を腐らせていることを理解していなかったのだ。いわんや政治家や財務官僚たちの中に、事態の深刻さに気づいていない人が多いのも無理はない。

国際通貨基金(IMF)が10月7日に発表した報告書によると、サブプライム危機によって世界中の金融機関が受ける損失は、1兆4000億ドル(約140兆円)に達する見通しだ。IMFは「危機はまだ峠を越えていない」と警告している。これからもドイツだけでなく欧州各国で、金融機関が破たんの瀬戸際に追い込まれる可能性がある。

政府は野宿しているホームレスは助けないが、大きな経営ミスを犯してつぶれそうになった民間企業は、何百億ユーロもの国民の血税を投じて倒産から救う。システム崩壊を防ぐためには止むを得ないとはいえ、こうした税金の使い方に憤慨する人も多いだろう。政府は銀行を救うだけでなく、経営者の責任もきちんと追及してほしい。

17 Oktober 2008 Nr. 736

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:04
 

CSUはなぜ大敗したのか

9月28日のバイエルン州議会選挙は、「革命的な事件」としてこの国の政治史に記録されるだろう。政権党のキリスト教社会同盟(CSU)が未曾有の大敗を喫し、46年ぶりに単独過半数を失ったのだ。同党の得票率は前回選挙の60.7%から17ポイントも減り、43.4%となった。支持者の数が約162万人も減ったことを意味する。同党のパートナーであるキリスト教民主同盟(CDU)、そしてメルケル首相にとっても大きな痛手だ。

CSUが得票率を減らすことは予想されていた。だが有権者がこれほど激しくCSUに反旗を翻し、長期単独政権を崩壊させるとは誰も予想していなかった。CSUが失った票は、どこへ流れたのだろうか。最も躍進したのが、無党派の有権者組織「フライエ・ヴェーラー(FW)」である。FWの得票率は前回の4%から2倍以上増えて、10.2%となった。FWはCSUの票を大量に切り崩し、支持者を約68万人も増やした。FWはミュンヘンなどの大都市では影響力が少ないが、小都市や農村地域では強い支持基盤を持つ。また前回の選挙でわずか2.6%の得票率だった自由民主党(FDP)も、CSUの票を大量に奪って8%を確保し、17年ぶりに州議会に返り咲くことになった。

バイエルン州はバーデン=ヴュルテンベルク州と並んでドイツで最も経済状態が良い州であり、失業率も全国で最も低い部類に属する。それにもかかわらず、市民はCSUの政治に不満を持っていた。その原因の1つは、CSUの党首でもあったシュトイバー前首相である。長年にわたる単独支配は、緊張感を失わせたようである。シュトイバー氏はトランスラピードのように多額の費用がかかり、庶民に受け入れられないプロジェクトを強引に推し進めようとした。ベルリンで大連立政権ができた時、シュトイバー氏は閣僚として中央政界で働くという公約を翻して州首相にとどまり、優柔不断な性格をさらけ出した。

経済グローバル化の圧力により多くの企業でリストラが進み、市民の間で将来への不安が高まる中、CSUは「どのように経済立地バイエルンの未来を確保するか」という問いに答えを出せなかった。長期単独政権は民意を読めなくなり、地に足がついた政策を執ることができなくなったのだ。

シュトイバー氏の後を継いだベックシュタイン州首相とフーバー党首は、トランスラピード計画を直ちに撤回したものの、前体制の頑迷さや保守性を色濃く残していた。多くの市民は「この2人ではCSUを改革し、バイエルン州の繁栄を維持することはできない」と考えたのである。両氏が大敗の責任を取り、辞任の意向を表明したのは当然のことである。州政府が1つの党に支配される時代が終わったことは、民主主義の基本原則に照らして好ましい。今回の「大地震」は、バイエルン州が半世紀ぶりに「正常な状態」に戻ったことを意味する。だがCSUの敗北を利用できず、むしろ得票率を減らした社会民主党(SPD)にとっても危機が続いている。投票率の低さと合わせて、来年の連邦議会選挙で在来政党が厳しい戦いを強いられることを予言しているのではないか。

10 Oktober 2008 Nr. 735

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:04
 

KfWの大失態

開いた口がふさがらないというのは、このような事件のことを言うのだろうか。米国の大手投資銀行リーマン・ブラザースが破綻の瀬戸際に追い詰められたというニュースが世界中に流れた9月15日、国営金融機関であるドイツ復興金融公庫(KfW)が、3億5000万ユーロ(約525億円)もの大金をリーマンに送金していたことが明らかになったのである。

この送金はKfWがリーマンと行っていた外貨スワップ取引に関する支払いだった。取引先が倒産する疑いが強くなったら、とりあえず全ての支払いを凍結するのは常識である。KfWの幹部らは、3日前の12日にはリーマンの経営が悪化していたことを把握しており、同行と新しい取引を始めないことを決定した。

しかし、それまでの取引によって予定されていた支払いについては、凍結することを怠ったのである。このため、15日の早朝に525億円の金がリーマンの口座に振り込まれた。リーマンはこの日に破綻したので、525億円のうち少なくとも半分は失われると見られている。大金をドブに捨てたようなものである。

シュタインブリュック財務大臣は、「まったくひどい事件だ。KfWでリスク管理が機能していないことが、これではっきりした」と批判した。KfWの管理評議会は、取締役2人と担当部長を更迭するとともに、独立の監査法人にこの送金の経緯について調査させることを決めた。

KfWは多くのドイツ国民に住宅ローンを供給している。政府が所有する銀行なので、倒産する危険がない。KfWのお目付け役である管理評議会の議長は、グロス経済大臣である。

このように公共性が強い銀行は、本来資金の取り扱いについて慎重を期するべきである。倒産まで秒読みといわれ、つぶれることがわかっている銀行に「追い銭」を送るとは、民間企業では考えられない失態である。KfW幹部は、リーマンが倒産しても金を全額返してくれるとでも思ったのだろうか。

KfWのリスク管理が不十分であることは、KfWの子会社であるドイツ産業銀行(IKB)が、サブプライム関連投資で巨額の損失を出して破綻寸前になったことにも現われている。IKBの倒産を防ぐために、KfWと連邦政府は92億ユーロもの公的資金を注ぎ込んだ。日本円で1兆3800億円という莫大な金額である。

IKBは「格付けが高いから大丈夫だろう」と考えて、リスクが高いポートフォリオの中身を十分に審査せずにサブプライム債権が証券化された商品に投資したために、あわや倒産という事態になったのだ。中小企業の支援という公的な任務を持った金融機関にしては、リスク管理が余りにもずさんである。

政府は、すぐにでも公的金融機関のリスク管理体制を根本的に見直す必要があるのではないだろうか。

3 Oktober 2008 Nr. 734

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:03
 

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