ジャパンダイジェスト
独断時評


CO2削減にかけるドイツ人の執念

CO2 削減にかけるドイツ人の執念ドイツにお住まいの読者は、この国の人々が環境保護に熱心であることに、すでに気が付かれていることだろう。地球温暖化に歯止めをかけるための二酸化炭素(CO2)排出量削減は、いまや政治家、マスコミ、企業、市民が最も強く関心を持っているテーマの一つだ。

フランクフルトで1年おきに開かれるIAAは世界最大級のモーターショーの一つだが、今年は初めて環境保護がメーンテーマとなった。どのメーカーも燃費が良く、CO2の排出量が少ない車を前面に押し出したのである。だが国内自動車メーカーは、CO2削減をめぐって大きな悩みを抱えている。その理由は欧州連合(EU)が準備している新しい指針である。EUはヨーロッパで車を売るすべてのメーカーに対し、2012年までに新車が1キロ走る際に出すCO2の量を120グラム以下に抑えることを、法律によって強制しようとしているのだ。

現在、欧州自動車工業連合会に属するメーカーの車は、1キロ走るのに平均160グラムのCO2を出す。つまり、まだまだ大幅な改善が必要なのだ。大型で車体が重い車ほど、CO2排出量が多い。ということはベンツやポルシェ、BMWのように大型車の比率が多いドイツは、小型車が多いイタリアやフランスに比べて不利なのである。

国内自動車メーカーは「ディーゼルエンジンこそが、最も環境にやさしい技術」と考え、長い間ハイブリッド技術を軽視してきた。ところが、数年前になってようやく考え方を改め、他社と共同でハイブリッドエンジンの開発に乗り出した。だが、すでにハイブリッドカーを販売しているトヨタなどの日本のメーカーに、大きく水を開けられている。国内のメーカーが重い腰を上げたことは、CO2の大幅な削減を求める世論の圧力が、これまで以上に高まってきたことを示している。

メルケル首相は2020年までに、ドイツのCO2の排出量を1990年に比べて40%減らすことを目指している。政府が大きな期待をかけているのが、風力発電、太陽光発電、水力発電などCO2をまったく出さない再生可能エネルギーだ。現在、国内で消費される電力量のうち、再生可能エネルギーで作られているのは5%前後にすぎないが、政府のCO2削減目標を達成するには、2020年までにこの比率を約21%まで引き上げる必要がある。また、住宅の密閉性を良くし、暖房効率を大幅に高めることによって、エネルギーの消費量を減らそうともしている。

政府はこれらの気候保護プロジェクトの資金をひねり出すために、消費者が電力、ガス、暖房のための灯油を消費する際、「気候保護税(クリマ・セント)」を徴収することを検討している。経営者団体の試算によると、この税金が導入された場合、電力コストはいまと比べて5億4000万ユーロも高くなる見通しだ。企業からはこの計画に対し批判が出ているが、市民は「環境保護に費用がかかるのは仕方がない」と思っているのか、強い反対の声は聞かれない。

それにしても、再生可能エネルギーの比率を21%に拡大するというのは、野心的な計画だ。本当に実現するのだろうか。

28 September 2007 Nr. 682

最終更新 Donnerstag, 25 August 2011 10:21
 

間一髪で防がれた同時多発テロ

間一髪で防がれた同時多発テロ危ないところだった。ドイツの捜査当局は、ロンドンやマドリードのような同時爆弾テロがもう少しで発生するのを、未然に防ぐことに成功したのである。しかしこの事件は、ドイツ国内でも英国やフランスと同じように、過激思想を持ったイスラム教徒のテロリストが生まれつつあることをはっきり示すものであり、多くの政治家、捜査幹部を震撼させた。

9月初めに逮捕された3人のうち、二人はドイツ人で、いずれもイスラム教徒に改宗していた。彼らはもう一人のトルコ人とともに、爆弾の材料になる水素溶液を730キログラムも買い付け、ノルトライン=ヴェストファーレン州の人目につかない貸家で、起爆装置を使って爆弾の組み立てを始めていた。

彼らは、パキスタンへ渡航して、過激組織「聖戦連合」のテロリスト養成所を訪れていた。さらに容疑者の一人は、ヘッセン州のハーナウにある米軍兵士の住宅を監視していたこともある。このため連邦検察庁と連邦刑事局は、このグループが9月に、ドイツにある米軍施設やフランクフルト空港などを標的として、同時爆弾テロを計画していたという疑いを強め、強制捜査に踏み切ったのである。捜査当局は爆弾の材料などを押収したものの、7人の容疑者を逮捕することができず、さらに行方を追っている。

捜査陣が無差別殺人を狙ったテロを未然に防いだことは、高く評価したい。捜査当局は米国政府の通報で、すでに昨年の秋には端緒をつかんでいたとされる。さらに、ノルトライン=ヴェストファーレン州のアジトに超小型ビデオやマイクを取り付けて、容疑者らの一挙一動をつかんでいただけでなく、爆弾が万一作られても、殺傷力を持たないようにするために、アジトに忍び込んで水素溶液を薄める工作まで行っていた。

今年に入って一部の捜査幹部たちが、「ドイツは、9・11事件直前の米国のような状況にある。いつテロがあっても不思議ではない」とインタビューで発言していたのは、このテロ計画のことを指していたのである。

だが、手ばなしで喜ぶことは禁物だ。ドイツ人がイスラム教徒になって、無差別テロをもくろんでいた事実は、やはり衝撃的である。ドイツでイスラム教徒に改宗したドイツ人の数は、2~10万人と推定される。昨年1年間で4000人がイスラム教徒になったという報道もある。彼らの中には、アラブ系のイスラム教徒に対して、自分の信仰が深いことを示すために欧米の価値を憎み、過激思想に染まる者もいるのだ。ドイツ人の教主(イマム)は、インターネットを通じて、ドイツ語で改宗を呼びかけている。格差が広がるドイツ社会で、キリスト教的な価値観に失望し、アルカイダの狂信主義に傾倒する若者が今 後増える可能性もある。

今後ドイツを初めとしたEU諸国は、ビン・ラディンの思想を引き継いだ目に見えないテロリストたちと、気が遠くなるほど長い戦いを強いられることになるだろう。

21 September 2007 Nr. 681

最終更新 Donnerstag, 25 August 2011 10:21
 

ドイツの公的銀行は大丈夫か?

ドイツの公的銀行は大丈夫か?この夏、ドイツの多くの金融関係者は、バカンス気分になれなかったかもしれません。8月にデュッセルドルフの公的銀行であるIKB産業銀行が、米国での不動産投資のせいで巨額の損失を被ったというニュースは、金融界に強い衝撃を与えました。

IKBは、われわれ市民になじみ深い銀行ではありません。主に中小企業に対して融資を行う、半官半民の銀行だからです。しかし金融関係者の間では、手堅い経営を行う銀行として知られてきました。それだけに、この銀行が米国のサブプライム・ローン(信用力の低い借り手向けの不動産ローン)市場への投資のせいで自力での再建が困難になり、公的機関や民間銀行から80億ユーロもの緊急融資を受けたことは、金融のプロたちにとっても驚きだったのです。

サブプライム危機でIKB以上に深い傷を負ったのは、ザクセン州立銀行です。同行を破綻から救うために他の銀行が注ぎ込んだ資金の額は、173億ユーロ、つまりIKBの2倍以上に達しました。連邦金融庁は、ザクセン州立銀行の損失が巨額であるために、現在の状態のまま存続させることは困難と考えました。このためバーデン=ヴュルテンベルク州立銀行が、連邦金融庁の指導の下でザクセン州立銀行を買収するという、異例の事態になったのです。同州は、さらに2億5000万ユーロの公的資金を注入することになっています。この救済措置がなかったら、ザクセン州立銀行は破綻していたでしょう。これらの二つの銀行ほどではありませんが、他の州立銀行や民間銀行も、多かれ少なかれサブプライム・ローンによる損失を抱えています。

なぜ、このような危機が起きたのでしょうか。米国では2000年ごろから金融緩和のために資金がだぶつき、民間銀行は自己資本のない市民にも、家を購入するためのローンを積極的に貸し出しました。客の中には失業者や不法移民もいたというから驚きです。不動産価格がどんどん上がったために、1軒目の家を抵当に入れて、さらに広い家を買うためのローンを組むことも可能でした。

こうした返済能力の低い市民に対するサブプライム・ローンは、銀行にとって焦げ付く危険が大きいはずです。しかし、金融工学が発達した今日の金融界では、こうしたリスクの高いローンを束ねて証券化し、利益を上乗せして資本市場に提供すれば、投資家を見つけることができます。IKBやザクセン州立銀行は、子会社を通じてこの種の証券に投資したのです。しかしドイツの公的銀行は、米国のサブプライム・ローンの危険性を十分認識していなかったのでしょう。米国で不動産価格が下がり始め、バブルが崩壊するとともに、こうしたローンは巨額の損失を生んだのです。

ドイツでは、今年ようやく景気が回復の兆候を見せ始め、平均株価も上昇していました。ところが、IKBやザクセン州立銀行が破綻の瀬戸際に追い込まれたことで、銀行を中心に株価が下がり始め、せっかく上り坂にあった景気の動向にブレーキがかかるかもしれません。米国で起きた不動産バブル崩壊が、大西洋を隔てたドイツを揺さぶるのは、経済のグローバル化を象徴しています。金融機関、特に半官半民の公的銀行に対しては、今後、リスク管理にいっそうの注意を払ってもらいたいものです。

14 September 2007 Nr. 680

最終更新 Donnerstag, 25 August 2011 10:26
 

対テロ戦争に巻き込まれるドイツ

対テロ戦争に巻き込まれるドイツアフガニスタンでドイツ人が攻撃される例が、今年になって大幅に増えています。5月には、クンドゥスの市場で3人のドイツ連邦軍兵士が、自爆テロによって殺害されました。8月にも、ドイツ大使館員の警護任務のためにアフガニスタンに派遣されていた3人の警察官が、道路にしかけられた爆弾のために死亡しています。さらに、人道支援プロジェクトに参加しているドイツ人らが、誘拐される事件も増えています。

ドイツはアフガニスタンに、およそ3000人の兵士を送っています。しかしその主要な目的は、米国や英国のように、タリバン勢力やテロ組織・アルカイダと戦うためではありません。ドイツ軍は、戦闘任務ではなく、主に人道支援や民間人を守るための警護、そしてタリバンが再び村や町に帰ってくるのを防ぐことを目的としています。

特にドイツ政府は、ソ連との戦争や内戦で荒廃したアフガニスタンが、9・11事件を起こしたアルカイダの基地となったことを重く見ています。過激なイスラム原理組織であるタリバンが、再びアフガニスタンで権力についた場合、この国がテロリストの拠点として使われる危険があるのです。

ドイツ政府は、ブッシュ政権のイラク侵攻を厳しく批判し、戦争には加わりませんでした。それにもかかわらず、アフガニスタンに派兵した理由は、将来ニューヨークの同時多発テロのような事態が再び起こることを防ぐためです。

しかし、すべての外国勢力を敵視しているタリバンの目には、ドイツも「侵略者」としか映りません。しかも、ドイツはトルナード電子偵察機をアフガニスタンに投入し、米国や英国の部隊を援助するなどして、戦闘に関係のある任務も担当し始めています。

タリバンはインターネットにドイツ語で、「アフガニスタンから撤退しなければ、攻撃する」という警告文を公開しています。彼らはドイツの兵士や民間人に危害を加えることによって、国内で厭戦気分をあおることを目指しているのです。

アフガニスタンやイラク、レバノン、イランで起きていることを、個別の国の出来事としてとらえることはできません。1990年代初めの湾岸戦争以降、世界中でイスラム教徒の一部の過激分子が、欧米そしてイスラエルに対して、一斉に蜂起していると言うべきでしょう。過激なイスラム教徒は、「我々は欧米勢力によって、長い間頭を抑えつけられてきたが、市民に対する無差別テロという武器によって、対抗することができる」と考えているのです。

つまり、イラク戦争に参加しない道を選んだドイツも、アフガン派兵によって、欧米諸国の対テロ戦争の中に、いやおうなしに組み込まれつつあるのです。過去の歴史をひもとくと、アフガニスタンをコントロールすることができた外国軍はなく、すべて目的を果たさないまま敗退しています。イラクでは、米軍が4000人の兵士を失った今も、治安の確保ができないまま、「一刻も早く撤退せよ」というイラク、そして米国内の声にさらされています。

ドイツ政府も、泥沼に足を踏み入れつつあるような気がしてなりません。

7 September 2007 Nr. 679

最終更新 Donnerstag, 25 August 2011 10:27
 

外国人に対する暴力に歯止めを!

外国人に対する暴力に歯止めを!旧東独で、またもや呆れるような事件が起きました。8月20日、ザクセン州のミューゲルンという小さな町で、ドイツ人の若者50人が、8人のインド人を追いかけ、けがを負わせたのです。

私に特にショックを与えたのは、ゴットハルト・ドイゼ・ミューゲルン市長の言葉です。「この町には、極右勢力のグループはいません。もしも犯人たちが、外国人排斥の思想を持っているとしたら、彼らは他の町から来たのでしょう」。被害者に対する謝罪や同情ではなく、まず自分の町に責任はないとする、自己中心的な主張です。

統一から17年近く経った今も、旧東独では外国人が襲われる事件が後を絶ちません。憲法擁護庁の調べによりますと、住民10万人あたりの極右による暴力事件の数は、旧西独よりも旧東独が圧倒的に多くなっています。

その理由の1つは、旧東独で多くの若者が失業しており、自分たちを「統一による負け組」と感じていることです。今年6月の旧東独の失業率は14.7%で、西側の2倍に達しています。

政府が毎年、国内総生産(GDP)の5%にあたるお金を旧東独支援のためにつぎ込んでいるのに、この地域の経済が自立する兆候は見られません。旧東独では、賃金は急速に引き上げられたのに、生産性は西側に比べて低いのです。このため、多くの西側企業は旧東独を素通りして、労働コストが安い東欧に工場を建ててしまうのです。西側市民の間では、「いつまで連帯税を旧東独のために払わなくてはならないのか」という 不満の声が出ており、東西間の心の壁は、高くなる一方です。

実は政府も、旧東独の状況については匙を投げているようです。経済専門家たちの間では、「旧東独は底のないバケツのようなものなので、資金援助はほどほどにしたほうが良い」という意見が強まっています。ケーラー大統領は、「東西間の経済格差は、当分縮まらない。自分の生活を変えたいと思う人は、西側に移住するべきだ」と言ったことがあります。

実際、やる気のある若者たちの間には、旧東独を捨てて西側へ移り住む人が増えています。東の州の人口は、今も減り続けており、市民の平均年齢は上昇する一方です。特に若い女性の間で移住者が目立っており、旧東独の若い男性たちにとっては、仕事もガールフレンドもなかなか見つからず、欲求不満がたまりつつあるのです。

旧東独の人口の中に外国人が占める比率は、2%前後にすぎません。それなのに、一部の若者は「外国人が我々の仕事を奪っている」という先入観を持っています。それが、アルコールに増幅されて、外国人に対する襲撃という形で暴発するのでしょう。つまり外国人差別の背景は、極右組織が町にあるかどうかではなく、人々の心の問題なのです。

政府は、優秀なコンピューター技術者が不足しているためにインドからの移民を奨励したいとしています。しかし、旧東独人たちの心の問題を放置し、インド人がドイツ人に襲撃されるのを防ぐことができないようでは、優秀なIT技術者はドイツを避けて米国に行くのではないでしょうか。

31 August 2007 Nr. 678

最終更新 Donnerstag, 25 August 2011 10:26
 

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