アルトビールは、ドイツ西部の商業都市デュッセルドルフで19世紀中頃から造られている個性的なビール。アルトビールの「Alt」はドイツ語で「古い」という意味ですが、ビールが古いという意味ではありません。南ドイツから発信され、ヨーロッパ中に伝播した「新しい」ラガービール製法よりも醸造方法が「古い」ことに由来しています。むしろ新鮮さが何より重視されています。比較的高温な 15~20度で発酵させ、熟成は低温で行われます。色は赤銅色で、アルコール度数は日本の一般的なビールと同じ4.5%前後。濃厚な麦芽の風味と、後を引くホップの苦味、クリーンでみずみずしい味は日本人好みでしょう。
地元の人で賑わうユーリゲ。ヴァイツェン(左)も醸造しているが、
人気はやはりアルト
アルトビールが生まれたデュッセルドルフは、ライン川沿いに佇む美しい街。日本人が多く住む街としても知られています。美味しいアルトビールが飲めるのは、日系のお店が建ち並ぶインマーマン通りをさらに進んだライン川に接する旧市街です。そこに大小様々なブルーパブ(自家醸造酒場)やレストランが軒を連ねることから、「世界一長いバーカウンター」と呼ばれるエリアもあります。そんな旧市街の一角にあるユーリゲ(Uerige)は、自家醸造のアルトビールを飲ませることで特に人気が高く、週末ともなると路上にまで人が溢れ、賑わっています。アルトビールを最初に造ったシューマッハー(Brauerei Schumacher)やフルーティーな甘味が特徴のシュルッセル(Zum Schlüssel)、フレンドリーな雰囲気のフュックスヒェン(Brauerei im Füchschen)にも立ち寄らずにはいられないでしょう。
現地で飲むアルトビールの美味しさの秘密は、木樽熟成にあります。一次発酵を終えたビールは木樽に移され、未発酵の麦汁が加えられて密閉されます。すると、樽の中では未発酵の麦汁を栄養にして二次発酵が行われ、1カ月以上掛けて低温で熟成されます。その過程で、ビールに炭酸ガスがゆっくりと溶け込んでいくのです。完成した樽はすぐに店に運ばれ、グラスに注ぐ際は立てた樽の下方に蛇口を打ち込むと重力でビールが流れ出てくるという原始的な仕組みです。一般的なビールは炭酸ガスや窒素で金属の樽に圧力を掛けてビールを押し出しているのに対し、木樽熟成では発酵中に造られた炭酸ガスだけがビールに程よく溶け込み、口当たりがほわっとまろやかになります。グラスは200mlのストレートな筒状で、飲み干すとすぐにウエイターが次のグラスを持ってきます。コースターをグラスの上に乗せるのが、「もうお仕舞い」の合図。まるで岩手・盛岡の椀子蕎麦のようです。
瓶詰めされたビールも売られていますが、鮮度が落ちることから味の違いは明らかです。やはりアルトビールは家で瓶を開けるよりも、お店へ飲みに行くべし! ちなみに各パブでは年に数回、スティッケ(Sticke=地元の方言で秘密の意味)やラッツェン(Latzen=木板)と呼ばれる特別なビールが造られます。通常よりも多めのホップと麦芽が使用されており、喉が震えるほどの美味しさです。提供される日は各パブのウェブサイトに載っているので、探してみてください。