都市ガイドシリーズ④
激動の歴史が刻まれたドイツの首都ベルリンの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」の第4回目は、世界中のアーティストやクリエイターを魅了するドイツの首都「ベルリン」。二度の世界大戦や東西ドイツ分断など激動の歴史を経て、インターナショナルな都市へと変貌を遂げたこの街の自由な空気を謳歌しよう。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)
目次
ベルリンってどんな街?
ドイツ北東部に位置する人口約367万人の首都ベルリンは、世界中から人々が集まる国際都市。1871年にプロイセン国王がドイツ帝国を建国した際に、ベルリンは首都に定められた。同帝国が崩壊した第一次世界大戦後、ワイマール共和国の時代にはベルリンを中心に芸術文化が花開き、「黄金の20年代」を象徴する街として繁栄した。
ナチス政権の誕生や第二次世界大戦の戦場となったほか、東西冷戦の激化に伴って1961年にはベルリンの壁が建設されるなど数々の悲劇の舞台に。こうした負の歴史を未来に伝えるべく、ベルリン市内各所ではホロコースト記念碑やベルリンの壁、ベルリンの壁博物館など、記憶を継承するためのさまざまな施設を訪れることができる。
1990年の東西ドイツ統一後、ベルリンは再びドイツ連邦共和国の首都として復興。アートやクラブ音楽、ファッションの中心地としても飛躍的な発展を遂げた。今日では多種多様な人々が暮らしており、エネルギーに満ち溢れたアートシーンや、夜通し楽しめるクラブカルチャーの存在は、ベルリンの街に自由でクリエイティブな活気を与えている。
アクセス
ベルリン・ブランデンブルク国際空港 Flughafen Berlin Brandenburg
[ 空港→ベルリン市内 ]
● 空港直行列車(FEX)もしくは地域快速列車(RE/RB)
ベルリン中央駅まで約35分
● タクシー
ベルリン市内まで約40分
ベルリン中央駅 Berlin Hauptbahnhof
● ミュンヘン中央駅から
ICEで約4時間30分
● フランクフルト中央駅から
ICEで約4時間
● ハンブルク中央駅から
ICEで約2時間
お得なカード
ツーリスト向けベルリン・ウェルカムカード
Berlin WelcomeCard
ベルリンとポツダム市内の公共交通機関が乗り放題になるほか、市内観光バスの利用や美術館への入館などが最大50%割引になるクーポンが付いたカード。観光スポットの情報や市内地図が盛り込まれたガイドブックも付いている。ドイツ鉄道(DB)やS バーン、ベルリン公共交通機関(BVG)の切符券売機で購入可能。48時間券〜6日券まであるので、滞在期間やニーズに合わせて選ぼう。
www.berlin-welcomecard.de
ツーリスト向けミュージアムパス
Museum Pass Berlin
連続3日間、このパス1枚でベルリン市内にある30カ所以上の指定の美術館や博物館を訪れることができる。ベルリンの観光案内所などで、29ユーロ(割引価格14.50ユーロ)で購入可能。オンラインでの事前購入もおすすめ。
www.visitberlin.de/de/museumspass-berlin
ベルリンのおすすめスポット
ベルリンに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Brandenburger Tor① ブランデンブルク門
アテネ神殿の門をモデルに、プロイセン王国時代に建設された凱旋門。門上には四頭馬車(クアドリガ)と勝利の女神ヴィクトリアが厳かにたたずんでいる。ベルリンが東西に分断されていた時代はこの門を通行することができず、再統一後に再び自由に行き来できるようになったことから、ドイツ東西再統一の象徴でもある。すぐ近くには、第二次世界大戦でナチスの迫害を受けたユダヤ人のための記念碑も。
Pariser Platz, 10117
Reichstagsgebäude② ドイツ連邦議会議事堂
1884年から10年の歳月を経て建設された国会議事堂。1933年にはアドルフ・ヒトラーが首相に任命された翌月に不審火で炎上、1945年のベルリンの戦いでは議事堂頂上にソビエト連邦の国旗が掲げられるなど、激動の歴史が繰り広げられた。東西再統一後、8年かけて大改築が行われて現在の姿に。建物中央の巨大なガラス張りのドーム内へ訪れる見物客も多く、人気の観光スポットの一つ。
Platz der Republik 1, 11011
Museumsinsel③ 博物館島
世界文化遺産にも登録されている「博物館島」は、その名の通りシュプレー川の中洲に旧博物館や新博物館、旧国立美術館、ボーデ博物館、ペルガモン博物館が集まっている。巨大な遺跡が数多く展示されているペルガモン博物館では、現トルコのベルガモで建造された「ゼウスの大祭壇」や、古代バビロニアの「イシュタール門」などが観られる。通りを挟んで南側には、2020年にオープンした芸術、文化、学術、教育の複合施設「フンボルト・フォーラム」も。
Schloss Charlottenburg④ シャルロッテンブルク宮殿
初代プロイセン国王フリードリヒ1世が、ゾフィー・シャルロッテ妃のために建設した夏の離宮。第二次世界大戦によって大きな被害を受けたベルリンだったが、この宮殿は戦火を逃れたベルリンに唯一残るプロイセン時代の建築物でもある。宮殿には、バロック様式やロココ様式などのさまざまな建築様式が混在。宮殿本棟には当時国王と妃きさきが使用していた「歴史の間」や、東洋の陶磁器が飾られた「陶器の間」などがある。
Spandauer Damm 10-22, 14059
www.spsg.de
East Side Gallery⑤ イーストサイドギャラリー
かつて東西に分断され、その境界に建設された全長160キロメートルにおよぶ「ベルリンの壁」。現在ではそのほとんどが撤去されたが、一部は保存されており、こうした負の歴史を後世に伝えている。なかでもイーストサイドギャラリーは、全長1.3キロメートルに21カ国118人のアーティストたちによって絵が描かれたオープンギャラリー。東西冷戦の負の歴史を乗り越え、今やアーティストやクリエイターが集まる「世界で一番クールな街」となったベルリンの姿を象徴している。
Mühlenstr. 3-100, 10243
www.eastsidegallery-berlin.com
Siegessäule⑥ 戦勝記念塔ジーゲスゾイレ
1864年の対デンマーク戦争、1866年の普墺戦争、1870~71年の普仏戦争の勝利を記念して建てられた高さ67メートルの石造の記念塔。塔上にそびえ立つ金色に輝く勝利の女神ヴィクトリアは、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『ベルリン・天使の詩』(1987年)の冒頭シーンにも登場し、ベルリン市民たちの生活を空から見守っている。塔の内部から頂上へ上ると、ベルリンの街を見渡すことができる。
Großer Stern, 10557
Fernsehturm⑦ テレビ塔
ミッテ地区のアレクサンダー広場は、旧東ベルリンの中心だった場所。1969年に建設されたテレビ塔は、高さ368メートルと欧州でも有数の高層タワー。今日もベルリンのランドマークとして親しまれ、塔に登ればベルリン市街を360度一望することができる。すぐ近くにある「世界時計」は、ベルリン市民の待ち合わせ場所としてよく利用されている。
Panoramastr. 1A, 10178
www.tv-turm.de
Gendarmenmarkt⑧ ジャンダルメンマルクト
ベルリンで最も美しい広場といわれるジャンダルメンマルクトは、付近に高級ブティックやデパートが立ち並ぶおしゃれなエリアに位置する。建築家ヨハン・アルノルド・ネリングの設計で1688年に建設され、ルネッサンス様式のドイツ大聖堂や、フランス大聖堂、コンツェルトハウスなどの歴史的建築物が並ぶ。夏にはオープンテラスのカフェ、冬にはクリスマスマーケットが楽しめる。
Gendarmenmarkt, 10117
Berlin Zoologischer Garten⑨ ベルリン動物園
1844年に開園したドイツ最古の動物園。巨大な象の石像が門の脇に構える「エレファントゲート」をくぐると、33ヘクタールの広々とした敷地内で、約1100種2万7000匹の動物がのびのびと暮らす。園内は、動物の種類や生息している地域などでエリア分けされており、建築物も古代風のものや宮殿を模したものなどがあり、さまざまな雰囲気を味わえる。
Hardenbergpl. 8, 10787
www.zoo-berlin.de
ベルリンのおすすめグルメ&お土産
Currywurstカリーヴルスト
焼いたソーセージの上にケチャップとカレー粉を載せたカリーヴルストは、ドイツのインビス(軽食スタンド)メニューの代表格。シンプルかつ親しみやすいこのソーセージは、戦後ほどなくしてベルリンで普及し始めた。付け合わせの「フライドポテト」(Pommes Frites=ポメス)もしくは小さなパン「ブレートヒェン」(Brötchen)と一緒にどうぞ。
Berliner Weißetベルリナー・ヴァイセ
ベルリナー・ヴァイセは小麦を使用した白ビールで、複雑な香りとレモンのような酸味が特徴。赤いラズベリーのシロップか、ハーブの一種であるヴァルトマイスターの緑のシロップで香り付けし、ストローで飲むのが定番。アルコール度数は約3%と低く、ジュース感覚で飲めることからお酒が苦手な人にも◎。
アンペルマングッズ
ベルリン市内のアンペルマンショップのほか、オンラインショップも充実!
ベルリンを代表するマスコットキャラクターといえば、旧東ドイツ生まれの信号機「アンペルマン」。ベルリンの壁崩壊後にアンペルマンの信号機は撤去され、西ドイツと同じものに置き換えられていった。そんなアンペルマン消滅の危機は、撤去された信号機を再利用してランプを作るという若いデザイナーの機転によって救われ、今やアンペルマングッズはベルリンの名物土産に。キーホルダーをはじめ、ぬいぐるみや文房具、洋服などさまざまな商品を展開している。
www.ampelmann.de
EAT BERLIN
オリジナルドレッシングは、人気商品の一つ!
メイド・イン・ベルリンの食品を専門に扱うセレクトショップ。同社のオリジナル商品をはじめ、ベルリンを拠点を拠点とする60以上の食品ブランドの商品が並ぶ。ベルリン・ミッテ地区にあるおしゃれな複合施設「ハーケシェ・へーフェ」と、イーストサイドギャラリーからほど近いショッピングモール「EAST SIDE MALL」に実店舗があり、洗練されたパッケージデザインを眺めるだけでも楽しい。ベルリン市の紋章にも使われているクマが、これまたベルリンのランドマークであるテレビ塔をかじるユニークなロゴが目印!
www.eatberlinstore.de
差別や偏見のないユートピアベルリンのクラブカルチャーを守るために
ここまでベルリンの歴史を踏まえた見どころをご紹介してきたが、ベルリンの文化を語る上で欠かせないのが、テクノ音楽、そしてクラブカルチャーの存在だ。ベルリンの自由で開放的な雰囲気を生み出してきた一方で、コロナ禍の影響によって多くのクラブが危機に瀕している。そんなベルリンのクラブカルチャーを通して、この街の未来を見据えてみよう。(文:守屋健)
参考:Clubcommission Berlin e.V「Clubkultur Berlin」、ravetheplanet.com「TECHNO GOES UNESCO」、sky news「Berlin techno music scene should be protected by Unesco world heritage status, say campaigners」、The Guardian「Beat that: Berlin’s techno DJs seek Unesco world heritage status」
ベルリンのクラブでは現在もアナログレコードが主流
大きな経済効果をもたらすベルリンのクラブカルチャー
1980年半ばにデトロイトで生まれたテクノは、壁崩壊直後の混乱したベルリンのムードにぴったりとフィットした。西と東の人間が混ざり合い、家賃の安さと寛容さを求めて多くの外国人が移住。30年以上の歴史を持つ「トレゾア」や世界最高のテクノクラブと称される「ベルクハイン」など、さまざまなクラブが誕生した。その多くは、すでに使われなくなっていた工場や防空壕ごう、発電所などをリノベーションしたものだ。
代表的なクラブの一つ「ベルクハイン」前で入場を待つ人々
クラブカルチャーを通じて、「再統一後のベルリンの音楽」として市民の間に浸透したテクノ。ベルリン市が2019年に発表した統計によれば、ベルリンを訪れる観光客の2割以上がクラブ目当てであり、街にもたらす経済効果は年間14億800万ユーロにも上る。
しかし、こんな例を挙げるまでもなく、テクノは市民生活の一部になっている。カフェにランチを食べに行ったら、DJがテクノのレコードをプレイ……こうした光景は日常茶飯事だ。そこでプレイされるのが、歌、メロディー、和音すら存在せず、ベースがひずんでいてパワフルなバスドラムが延々と鳴り続けるような、ハードなミニマルテクノであることも珍しくない。
コロナ禍で危機に陥ったベルリンのクラブ
そんなベルリンのクラブカルチャーは、コロナのパンデミックによって壊滅状態に陥った。クラブは長期にわたり開店することを許されず、従業員10名以下の小規模なクラブは国の即時支援金を受け取れたものの、中規模以上のクラブは国や州の支援金・補助金では不十分で、存続の危機に瀕ひんしたのだった。
というのも、先述のような大きな経済効果を生んでいたにもかかわらず、ベルリンのクラブカルチャーは文化として認められていなかった。建築基準法上、クラブは売春施設や賭博場と同様の「娯楽場」に分類されている。法律で保護されるオペラ座やコンサートホールなどの「文化施設」とは異なり、近隣住民との騒音問題や、家賃の不当な引き上げ等で裁判になった場合、クラブ側の勝率はほぼゼロに近い。事実、ベルリンでは過去10年で約100のクラブが閉鎖している。
ユネスコ無形文化遺産への登録はクラブカルチャーの救世主となるか?
「クラブカルチャーが存続するには、文化として認められることが不可欠。その一歩として、ベルリンのクラブカルチャーをユネスコ無形文化遺産に登録しよう」。そうした状況に声を上げたのは、非営利団体「レイヴ・ザ・プラネット」だ。メンバーには、かつて世界最大のテクノパーティー「ラヴ・パレード」を主催したドクター・モッテや、デトロイト出身のDJ アラン・オールダムなど、重鎮たちが名を連ねている。
彼らはパンデミック以前から、長い時間をかけて無形文化遺産登録の準備を進めており、2018年にジャマイカのレゲエ音楽が登録されたことも彼らを勇気づけた。2021年11月に満を持して申請書を提出し、現在は結果待ちの状態だ。無形文化遺産と認められれば、多くのクラブが「文化施設」として登録され、政府の補助金や融資、建築基準法上の保護が受けられるのではと期待されている。
LGBTQのシンボル「レインボーフラッグ」を振るラヴ・パレードの参加者
ベルリンのクラブは、人種差別を受けた人や、性的マイノリティーなど「疎外された人々」のシェルターとしての役割も担ってきた。テクノ音楽には歌詞が存在しないから、英語やドイツ語が話せなくても、ただ踊ることでコミュニケーションが成立する。ベルリンのクラブカルチャーが持つ「寛容さ」は、世界の分断が進む今こそ、重要な役割を果たすのではないだろうか。
ライター
守屋健 Takeshi Moriya
ドイツの自動車、ビール、そして音楽に魅せられて、2017年に渡独。エレクトリック・ベース奏者として主にジャズやファンクのフィールドで活動するが、クラシックやクラブミュージックにも造詣が深い。
ベルリンをもっと楽しむヒント
まだまだ語り尽くすことのできない、魅力いっぱいのベルリン。最後に、この街をもっと楽しむためのヒントを守屋さんにご紹介いただいた。
雰囲気と舌で味わう多国籍都市ベルリン
ベルリンで一風変わった料理を味わいたいときは、毎週金曜〜日曜に開催されている「タイパーク」がおすすめ。もともと数人のタイ人たちが公園に家庭料理を持ち寄ったところから始まり、今ではドイツ最大のタイフードのストリートマーケットに成長した。同じく週末開催の「ホルツマルクト」は劇場やカフェなどの複合施設で、アフリカ、アジア、中東各国の屋台が川沿いに並んでいる。
https://thaipark.de
www.holzmarkt.com
唯一の旧市街シュパンダウで古き良き街並みを散策
ベルリン内で唯一「アルトシュタット」(旧市街)の名を残すシュパンダウは、ベルリンで中世の雰囲気を感じられる希少な場所。マルクト広場や600年の歴史を持つ聖ニコライ教会を散策した後は、1926年創業の老舗カフェ「コンディトライ・フェスター」でケーキを。ビール党の方は「ブラウハウス・シュパンダウ」に行ってみよう。醸造したてのフレッシュなビールは絶品だ。
www.konditorei-fester.de
www.brauhaus-spandau.de
日本の四季を感じられる!?おすすめ自然スポット
ベルリンは緑が多い街だが、桜や紅葉など日本の四季を感じられるスポットとなるとそう多くはない。そんなニッチな願いをかなえる場所が「ゲルテン・デア・ヴェルト」。世界の庭園を集めた敷地には日本庭園も存在し、桜の名所として知られている。ベルリン近郊のポツダムにある「ヤパニッシャー・ボンサイガルテン」は規模こそ小さいが、隅々まで手入れの行き届いた庭園は一見の価値あり。
www.gaertenderwelt.de
www.bonsai-haus.de