都市ガイドシリーズ⑤
金融と文化が交差する都市フランクフルトの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」の第5回目は、ドイツの金融都市「フランクフルト」。年間約6400万人が利用するという国際空港を持つフランクフルトだが、市街地までは行ったことがないという人も多いかもしれない。金融だけでなく、文化も根付くこの街の魅力を探ってみよう。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)
目次
フランクフルトってどんな街?
ドイツ西部ヘッセン州に位置するフランクフルト。正式名称のフランクフルト・アム・マインという名の通り、マイン川の下流域に広がる人口約76万人の都市だ。ちなみにブランデンブルク州のフランクフルト・アン・デア・オーダーと混合されるが、一般的に「フランクフルト」と言う場合はヘッセン州の都市の方を指す。
欧州共通通貨「ユーロ」の総本山である欧州中央銀行をはじめ、ドイツ連邦銀行や国内大手銀行の本店、証券取引所、外資系金融機関が軒を連ね、欧州随一の金融都市である。メッセ(見本市)の開催地としても知られ、メッセ・フランクフルトの展示総面積は世界第3位を誇る。
商業・金融の都を象徴する超高層ビルがひしめき合う様子から、マンハッタンならぬ「マインハッタン」という愛称も。一方、文豪ゲーテを生み、数々の博物館や美術館があるほか、多様なイベントが開催されることから、文化の薫り高き街でもある。
アクセス
フランクフルト国際空港
Frankfurt (M) Flughafen
[ 空港→フランクフルト市内 ]
● 高速列車ICE、ICの場合
Fernbahnhofからフランクフルト中央駅まで約10分
● 快速列車RE、Sバーンの場合
Regionalbahnhofからフランクフルト中央駅まで約20分
● タクシー
フランクフルト市内まで約15分
フランクフルト中央駅
Frankfurt Hauptbahnhof
● ベルリン中央駅から
ICEで約4時間
● ミュンヘン中央駅から
ICEで約3時間15分
● デュッセルドルフ中央駅から
ICEで約2時間
お得なカード※全て2023年1月時点の価格
ツーリスト向けフランクフルト・カード
Frankfurt Card
市内の交通機関乗り放題、ミュージアムやそのほか施設の入場料割引などたくさんの特典が付いているフランクフルトカード。1日券は11.50ユーロ、2日間は17ユーロのほか、5人まで使えるグループチケット(1日券24ユーロ、2日券34ユーロ)もある。ツーリスト・インフォメーションのほか、オンラインでも購入可。
www.frankfurt-tourismus.de/Informieren-Planen/Frankfurt-Card
ツーリスト・居住者向けライン・マイン・カード
RheinMainCard
IC、ICEを除くフランクフルトを含むヘッセン州内のRMV(ライン・マイン交通局)ゾーンが2日間乗り放題になるチケット。フランクフルト・カードと同様に施設の入場割引などの特典が付いている。シングルは32ユーロ、グループ(最大5人まで)は52ユーロ。なお、チケットに日付と名前を記入する必要がある。
www.frankfurt-tourismus.de/Informieren-Planen/RheinMainCard
居住者向けムゼウムスウーファー・カード
MuseumsuferCard
博物館通り(p11⑦)にある39のミュージアムの年間パス。ナイトミュージアムや博物館通り祭りなどのイベントで使用できるほか、季刊のカルチャーマガジンを無料で届けてくれる。シングルカードは89ユーロ、ファミリー(大人2人+18歳未満の子どもまたは孫)は150ユーロ。
www.museumsufercard.de
フランクフルトのおすすめスポット
フランクフルトに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Alte Oper① アルテ・オーパー
1880年に完成したネオ・ルネッサンス様式の建築。第一次世界大戦ではほとんど被害がなかったものの、第二次世界大戦の空爆で徹底的に破壊された。その後、市民の寄付金によって1981年に元の美しい姿を取り戻した。元来は歌劇場だったが、コンサートホールやイベント会場、会議場として年間460以上の催し物があり、およそ49万人が訪れている。また、hr交響楽団(Frankfurt Radio Symphony)の本拠地でもある。
Opernpl. 1, 60313
www.alte-oper.de
Kaiserdom St. Bartholomäus② バルトロメウス大聖堂
フランクフルトの歴史的建造物として名高いバルトロメウス大聖堂は、13~15世紀にかけて建造されたゴシック様式の教会。1356年から10人の神聖ローマ皇帝の選挙と戴冠式が行われていたことから、「カイザードーム」とも呼ばれる。塔の高さは95メートルあり、328段の階段を上って、展望台からフランクフルトの街を眺めよう。また定期的にコンサートが開催され、立派なオルガンが織りなす重厚な音楽を楽しむことができる。
Domplatz 1, 60311
www.dom-frankfurt.de
Städel Museum③ シュテーデル美術館
当地の銀行家ヨハン・フリードリヒ・シュテーデルの「自宅と美術品の全てを街に寄贈する」という遺言により、死後翌年の1816年に創設された美術館。ボッティチェリ、レンブラント、フェルメール、ルーベンス、ベラスケス、モネ、セザンヌ、ゴッホ、ピカソなど、その所蔵コレクションは国内ではほかに類を見ないほどの充実ぶりを誇る。14の彫刻作品が設置された庭園は入場無料。ピクニックも許可されているので、散歩がてら出かけるのも◎。
Schaumainkai 63, 60596
www.staedelmuseum.de
Römer④ 市庁舎レーマー
三つの切妻屋根を持つゴシック様式の市庁舎は街のシンボル的存在で、真ん中がレーマーと呼ばれる建物。ドイツで最も古い市庁舎の一つで、1405年から今も現役で活躍中。神聖ローマ帝国皇帝の戴冠式後の祝宴が行われた場所で、歴代の皇帝52人の等身大の肖像画が飾られている。目の前のレーマー広場で1393年のクリスマスに市場が開催されていたことから、この広場のクリスマスマーケットがドイツ最古だといわれる。
Römerberg 23, 60311
https://frankfurt.de
Frankfurter Goethe-Haus⑤ ゲーテハウス
1749年8月28日12時にヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)が生まれた場所。元の家は第二次世界大戦中に破壊されたものの、その後元通りに再建された。台所からリビング、サロンの間、『ファウスト』や『若きウエルテルの悩み』を執筆した書斎まで、当時のゲーテの生活をありありと伝える。併設するドイツロマン派博物館はロマン派だけに焦点を当て、ゲーテが生きた時代の絵画や日用品などのコレクションが展示されている。
Großer Hirschgraben 21, 60311
https://frankfurter-goethe-haus.de
MAIN TOWER⑥ マインタワー
「マインハッタン」の一角をなす高さ200メートルのマインタワーは、コメルツ銀行本社、メッセタワー、DYバンク本社に続く、ドイツで4番目に高いビル。地下5階から地上56階までにはオフィスやオーストリア総領事館があり、展望台からはドイツ国内で珍しい高層ビルのパノラマを一望することができる。53階のレストランは、2022年にミシュランを獲得。夜景を眺めながらロマンチックなひと時を過ごして。
Neue Mainzer Straße 52-58, 60311
www.maintower.de
Museumsufer⑦ 博物館通り
「博物館通り」は、マイン川のほとりにあるミュージアムを中心に、周辺の施設も含めて39館からなる一帯の呼称。ギエルシュ博物館、リービークハウス(彫刻美術館)、シュテーデル美術館(⑤)、映画博物館、世界文化博物館、実用工芸博物館、現代美術館(MMK)など、名だたるミュージアムが立ち並んでいる。毎年8月の最後の週末には、ここをメイン会場とした一大イベント「博物館通り祭り」が開催される。
www.museumsufer.dePrimus-Linie⑧ プリムス・ライン
1880年から運行するマイン川とライン川の老舗クルーズ船。乗船場はフォトスポットとして人気の「Eisernen Steg」(鉄の橋)のすぐそばで、マイン川をめぐる50分コースと100分コース、マインツやヴィースバーデンに行くツアーがある。ほかにも「カジノ船」をはじめ、推理ゲームを楽しむ「犯罪船」、劇を鑑賞できる「おとぎ話のファミリー朝食」など、気になる催し物がいっぱい。
Mainkai 36, 60311
www.primus-linie.de
現地で味わいたいおすすめグルメスポット
Frankfurter Grüne Soßeフランクフルター・グリューネゾーセ
グリュネゾーセ(緑のソースの意味)は、フランクフルトの郷土料理で春に食べられる。数え切れないほどのレシピが存在するが、ボリジ、チャービル、クレソン、パセリ、サラダバーネット、スイバ 、チャイブの7種類のハーブは必須。サワークリームも入っているので、少し酸味がある。じゃがいもと食べるのがスタンダードで、茹で卵や牛肉と一緒に食べることも。文豪ゲーテも好んでよく食べていたそう。
Frankfurter Kranzフランクフルター・クランツ
その名が表す通り、フランクフルトの名物ケーキ。リング状の型で焼いたスポンジとバタークリームを何層にも重ね、表面には砕いたヘーゼルナッツやアーモンドを隙間なくまぶし、てっぺんに砂糖漬けのチェリーを飾るのがお決まり。1735年に誕生したといわれ、リング状の土台は王冠を、チェリーは宝石のルビーを表しているという。昔懐かしい素朴な味が地元っ子に愛されている。
Apfelweinアプフェルヴァイン
りんごを使って醸造したワイン。方言で「Ebbelwei」(エッベルヴァイ)と呼ばれ、土日祝日にはアプフェルヴァインを飲みながら観光を楽しめる「エッベルヴァイ・エクスプレス」が街中を走っている。専用の陶器「Bembel」(ベンベル)からグラスに注いでそのまま飲むのが通だが、初心者には水で割った「Gespritzen」(ゲシュプリッツェン)もおすすめ。フランクフルト土産にも!
旅の思い出にしたいおすすめ土産
Der Struwwelpeterもじゃもじゃペーター
フランクフルトのマスコット!?
髪の毛はぼさぼさ、爪は伸び放題の『もじゃもじゃペーター』(ぼうぼうあたま)をご存知だろうか。フランクフルト出身の精神科医ハインリヒ・ホフマンが息子のために手作りした絵本だ。悪さをする子どもたちがどんな結末をたどるのか……いくつかのお話から成るこの作品は1845年に出版されて以来、世界中から愛されてきた。旧市街にはもじゃもじゃペーター博物館があり、オリジナル絵本やカップなどのグッズも売られているのでファンは必見。
超高層ビル群と旧市街が共存する街フランクフルトはなぜ「金融都市」になったのか?
教会の塔より高い建物の建設は禁止とされていたドイツで、1970年代からフランクフルトだけが超高層ビル群のスカイラインを描き始めた。なぜこの街が金融都市として成長したのだろうか。その裏にある歴史をひも解きつつ、未来都市としてのフランクフルトを展望する。
参考:Tourismus+Congress GmbH Frankfurt am Main、Das Institut für Stadtgeschichte Frankfurt am Main(ISG FFM)、DomRömer GmbH、Deutschlandfunk「Kann man Banken lieben?」(2017年7月30日)、山口博教「国際債券市場としてのフランクフルト証券取引所--生成・展開過程と歴史特性」(北星学園大学経済学部北星論集)、小倉欣一 、大沢武男『都市フランクフルトの歴史―カール大帝から1200年 』(中公新書)
第二次世界大戦中、爆撃によりほぼ完全に破壊された旧市街。戦後は交通計画を優先して建物も取り壊された
貿易業の発展から金融の中心地に
フランクフルトの街中を通るマイン川は、西へと流れてすぐにライン川と合流する。スイス、オーストリア、フランス、オランダを流れる大河ラインは、古くから欧州の交通における要衝だった。フランクフルトは中世以降、地理的に欧州主要都市の中心に位置することも重なって南北交易の中継点となる。
その重要性を加味し、神聖ローマ皇帝は1330年に見本市の開催を公認。さらに1356年には皇帝カール4世により神聖ローマ帝国の皇帝選出規定を定める金印勅書が発布され、会議はフランクフルトで開催することになる。フランクフルトには帝国造幣局が設置され、1562年以降は皇帝の戴冠式もフランクフルトで行われるようになった。
貿易が盛んだったフランクフルトではさまざまな通貨が流通し、固定相場がないため、詐欺や高利貸しがしばしば発生した。このため1585年、フランクフルトの商人たちは貨幣の交換価値比率などの諸ルールについて初めて合意し、為替取引所が設立された。
時を同じくしてスペインの反宗教改革が起こり、当時スペイン領だったオランダの裕福な商人や銀行家はフランクフルトに逃亡。ユダヤ教徒は差別されていたものの、長年の金融経験から、次第に社会的に影響力を持つ存在になっていった。こうしたユダヤ人をはじめとする外国人の知恵や手腕が、フランクフルトを金融都市としてますます発展させたのである。
1866年にプロイセンがフランクフルトを併合したことで、首都ベルリンが最も重要な株式市場になり、フランクフルトは勢いを失った。だが第二次世界大戦後、ポツダム協定により米国支配下となったフランクフルトは、ドイツを代表する金融都市として復活することに。そして1949年にドイツが東西に分断されたことにより、西ドイツの金融センターとなった。1950年代後半にはドイツ銀行の設立が決まり、空港も迅速に再開。多くの銀行、保険企業の拠点となり、20世紀の終わりには欧州中央銀行の本部も設立された。
過去の歴史も感じられる都市へ
金融都市フランクフルトには高層ビルが立ち並ぶ一方、街の中心部は第二次世界大戦で破壊されたため、歴史的建造物はほとんど残っていない。その失われた景観を取り戻すために、1980年代前半に旧市庁舎のあるレーマー広場がオリジナルに忠実に再建された。
そして2012年から広場の東側、レーマーから大聖堂に至る一帯の再開発計画「Dom-Römer-Projekt」が始まる。このプロジェクトの目的は、過去の建築物をただ模倣するのではなく、今日のニーズに合わせて一般住居を建設し、商業・文化施設もあるようなエリアとして再開発することだった。しかし予算が大幅にオーバーし、それに伴い土地の価格が上場。住居などは一般の人々の手が届きにくいものになってしまった。そんな批判を浴びるなか、2018年に修復工事は完成し、古い街並みが戻ってきた。現在、再建された地域全体では、コンペティションで選ばれたさまざまな建築家の設計による35棟の館が立ち並んでいる。現在は約60の住居、30以上の店舗、レストランやカフェ、ミュージアムなどがある。
Dom-Römer-Projektで再設計・建設された土地は約7000平方メートルにも及ぶ
当初の目標からは少しずれてしまったものの、この再開発計画は世界に認められ、2019年にはフランスで開催される世界最大の不動産見本市(MIPIM)で、都市再生プロジェクト最優秀賞を受賞。建築と職人技の品質や、体験できる公共空間ができたことなどが評価されたのだ。さらに同年、フランクフルト市は新たに「フランクフルト 2030」という統合都市開発プロジェクトを立ち上げた。この街がより住みやすく、経済的に豊かな都市であり続けるために、政治、行政、ビジネス、科学、文化、市民社会が密接に連携して、都市開発を進めていくという。
Dom-Römer-Projektでは、オリジナルのファサードの一部を現代的なファサードと融合させ、洗練された建築デザインにするなど工夫された
今日レーマー広場には世界中からの観光客が訪れている。ドイツで 5番目に大きな都市であり、人口は6年連続で増加。まだまだ都市として伸びしろがありそうだ。ビジネスマンの街フランクフルトが、観光の街として、そして未来都市の手本として、これからさらにさまざまな人々を惹きつける場所となるだろう。
フランクフルトをもっと楽しむヒント
ビジネスの街としても住みやすい街としても、さまざまな魅力あふれるフランクフルト。この街をもっと楽しむためのヒントを伝授する。
世界最大級の本の見本市フランクフルト・ブックフェア
毎年10月にメッセ・フランクフルトで開催されるフランクフルト・ブックフェア。小説や児童書、アートブック、専門書まであらゆる分野がそろい、100カ国以上から出版業界者や読書家が集う。毎年1カ国をゲストとして迎え、その国の文学にスポットを当てた展示やイベントも行われる。マンガやアニメのブースには、多くのコスプレイヤーが来場。ゆっくり見て回るには一日では足りないほどの広さで、本好きにとっては天国のようなイベントだ。
www.buchmesse.de日本映画の祭典ニッポン・コネクション
毎年初夏に6日間にわたって、市内の複数会場で開催される日本映画祭「ニッポン・コネクション」。100本以上の日本の長編・短編映画が上映され、日本映画の「今」を伝える場として、世界でも重要な日本映画祭の一つに数えられている。ほかにも日本文化が体験できるワークショップやパネルディスカッションなど50以上のプログラムがある。日本食の屋台が出るほか、食品や雑貨、工芸品などのブースも充実しており、多くの人でにぎわう。
https://nipponconnection.com春は郊外の桜名所シュヴェツィンゲン城へ
春には、フランクフルトから車で1時間ほどの距離にあるハイデルベルク近郊のシュヴェツィンゲン城へ行こう。この城の庭園の一角は知る人ぞ知る桜の名所。庭園全体がピンク色に包まれ、ピクニックを楽しむ人々でにぎわう。桜の庭園以外にも、プファルツ選帝侯カール・テオドールが夏の離宮として建設したサーモンピンクの宮殿や、威容な佇まいのモスクなども必見。また毎年4〜6月にかけてSWRシュヴェツィンゲン音楽祭が開催される。
www.schloss-schwetzingen.de