都市ガイドシリーズ②
自然と都市生活が共存する国際湾岸都市ハンブルクの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」の第2回目は、北海に面したドイツ第二の都市「ハンブルク」。湾岸都市として経済的に発展を遂げた歴史がありつつ、緑が多くゆったりとした街並みを堪能しよう。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)
目次
ハンブルクってどんな街?
ドイツ北部に位置するハンブルクは、中世から貿易拠点として栄えたドイツ最大の港街。ハンザ同盟の中心都市としての歴史ある風格に加え、ドイツの主要テレビ局や出版社が拠点を構えるなどメディアの中心地としての洗練された雰囲気が共存している。現在は貿易、IT、航空機などを主要産業とし、国際企業の拠点も多数置かれている。ハンブルクと北海をつなぐエルベ川や、街の中心部にあるアルスター湖をはじめ、街中には多くの緑地や公園が点在。
また世界遺産にも登録されている倉庫街をはじめ、2017年に新たなランドマークとして建設されたエルプフィルハーモニー、大型ミュージカルシアターや美術館・博物館など、芸術文化やエンターテイメント施設も充実している。日本との関係も深く、1960〜70年代初めには多くの日本企業が同地に進出。1959年に設立されたハンブルク日本人会は、毎年5月にアルスター湖で花火大会を主催するなど、長年ハンブルクでの日独交流を支える役割を担っている。
アクセス
ハンブルク空港 Flughafen / Hamburg Airport
[ 空港→ハンブルク市内 ]
● Sバーン(AB区間チケット)
ハンブルク中央駅まで約25分
※Hamburg Flughafen駅にはS1のみ発着
● タクシー
ハンブルク市内まで約25分
ハンブルク中央駅 Hamburg Hauptbahnhof
● ミュンヘン中央駅から
ICEで約5時間30分
● フランクフルト中央駅から
ICEで約4時間
● ベルリン中央駅から
ICEで約2時間
お得なカード
ツーリスト向けハンブルクカード
Hamburg Card
ハンブルク市内の公共交通機関が乗り放題のほか、美術館や博物館、娯楽施設など、指定された150以上の施設への入場が最大50%の割引に。1〜5日券から滞在期間に合わせて選べるのに加え、グループ割引もある。ハンブルクの観光案内所や公共交通機関の切符売り場をはじめ、市内各所のホテルやオンラインでも購入可能。
www.hamburg-tourism.de/buchen/hamburg-card
ツーリスト・居住者向けクンストマイレ・ハンブルク
Kunstmeile Hamburg
ハンブルクでアートを思いっきり楽しみたいという人には、こちらのカードがおすすめ。ハンブルク美術館やハンブルク美術工芸博物館をはじめとする合計五つの美術館に入場が可能で、古代から現代までのさまざまな芸術を堪能できる。旅行者の方には3日間有効のパス、ハンブルク在住の方には12カ月有効のパスがある。
ハンブルクのおすすめスポット
ハンブルクに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Rathaus① 市庁舎
街の中心地にあるネオ・ルネサンス建築の市庁舎は、ハンブルクが湾岸都市として発展を遂げていた19世紀末に建てられ、現在はハンブルク州議会の議事堂としても使用されている。建物は横幅111メートル、中央のタワーは112メートルの高さを誇り、美しい緑色の屋根と共に圧巻の風景を生み出している。建物内部の見学ツアーも。
Rathausmarkt 1, 20095
Speicherstadt und Kontorhausviertel② 倉庫街
2015年に世界文化遺産にも登録された倉庫街には、ドイツの伝統的な赤レンガ造りの建築が100以上も並ぶ。夜になると倉庫街はスポットライトに照らされて幻想的な雰囲気に。また1924年に建てられた「チリハウス」は表現主義の建築様式の代表作として有名で、480万個のレンガによって形づくられた表情豊かなファサードが見どころ。内部を見てみたい人、歴史について知りたい人には倉庫街博物館(Speicherstadtmuseum)がおすすめ。
Speicherstadt, 20457
Elbphilharmonie Hamburg③ エルプフィルハーモニー・ハンブルク
下は赤レンガの旧倉庫、上部は波型のガラスが目を引く、ハンブルクの新しいランドマーク。2017年に完成し、北ドイツエルプフィルハーモニー管弦楽団の本拠地でもある。ホールの音響設計は、東京のサントリーホールも手掛けた豊田泰久氏が担当したほか、360度のパノラマビューが楽しめる展望台も。
Platz d. Deutschen Einheit 4, 20457
www.elbphilharmonie.de
Alster④ アルスター湖
13世紀初めに水車用としてアルスター川をせき止めて造られた人口湖。鉄道橋を隔てて大小二つの湖、外アルスター湖と内アルスター湖に分かれており、それぞれが四季折々の違った風景を楽しませてくれる。内アルスター湖は街の中心部に隣接し、買い物や観光の休憩がてら緑豊かな木立を散歩したり、ランニングやサイクリングしたりするのにもぴったり。冬には凍った湖がスケートリンクに変身する。
内アルスター湖:Binnealster, 20354
外アルスター湖:Außenalster, 20148
Miniatur Wunderland⑤ ミニチュアワンダーランド
倉庫街にあるミニチュアワンダーランドは、世界最大の鉄道模型テーマパーク。世界各地の鉄道をはじめ、各地域の建築物や人々の暮らしが驚くほど緻密に再現されている。風景の中に散りばめられたユーモア溢れる人々の姿や、ボタンを押すと教会の鐘が鳴ったり、サッカーの試合でゴールが決まったりと、遊び心たっぷりの仕掛けが楽しい。
Kehrwieder 2/Block D, 20457
www.miniatur-wunderland.de
Reeperbahn⑥ レーパーバーン
ザンクトパウリ地区に存在する巨大歓楽街。1キロほど続くこの大通りは、船旅帰りの船員たちが立ち寄る風俗産業へと発展し、「世界で最も罪深い1マイル」と呼ばれた。ビートルズ誕生の聖地でもあり、現在はライブハウスやバーなどが軒を連ねるハンブルクでも大人気の観光地。
Reeperbahn 1, 20359
St. Nikolai Kirche⑦ 聖ニコライ教会記念碑
聖ニコライ教会は、第二次世界大戦中の1943年に爆撃によって黒焦げになった。現在も戦争の悲惨さを伝えるため、破壊されたままの形を留めている。尖塔にある展望スペースからは、ハンブルク市中心部のさまざまな教会をはじめ、アルスター湖を背景とした市庁舎など、まるで絵はがきのような景色を一望できる。
Willy-Brandt-Str. 60, 20457
Landungsbrücken⑧ ハンブルク港
活気あふれる港街の雰囲気を味わうならハンブルク港へ。遊覧船や定期船などが行き来する様子は圧巻だ。エルベ川に沿って散歩したり、観光船に乗ってクルーズを楽しむのもおすすめ。そこから東に400メートルほど行ったポルトガル地区は、1970年代から港で働くポルトガル人移民が住み始めた地域で、今ではおいしいシーフードやタパスを楽しめるにぎやかなエリア。
Landungsbrücken, 20359
現地で味わいたいおすすめグルメスポット
Fischmarktフィッシュマルクト
ハンブルク港で毎週日曜日の朝5〜9時半まで開かれるマーケット。港街だけあって豊富な種類の新鮮なシーフードが手に入るほか、野菜や果物、スイーツやお土産なども売られている。おいしいフィッシュバーガーなど、ハンブルクならではの屋台グルメも豊富なので、ぜひ早起きして出かけてみよう。
スーパーマーケットではなかなか見かけない魚介類も!
Große Elbstr. 9, 22767、バス停「Fischauktionshalle」で下車すぐ
旅の思い出にしたいおすすめ土産
Labskausラプスカウスの缶詰
ハンブルクの郷土料理「ラプスカウス」は、牛の塩漬け肉にポテトピューレ、赤ビーツ、ピクルスなどを混ぜたもので、漁師や船乗りたちの好物だったそう。1795年創業の老舗レストラン、オールド・コマーシャル・ルームのラプスカウスが有名で、缶詰のラプスカウスも販売しているのでお土産にぴったり。ラプスカウスに目玉焼きを載せ、ニシンの酢漬けやピクルスを添えて食べるのがハンブルク流。
Fischerhemdフィッシャーマンシャツ
ハンブルクのお土産屋さんのT シャツコーナーに行くと、必ずぶら下がっているフィッシャーマンシャツ。もとは北ドイツの漁師や漁業組合で働く人たちが着用しており、ハンブルクではエルベ川対岸にあるフィンケンヴェルダー地区のものが伝統的。夏は日差しから肌を守り、冬は風を通しにくいため、アウトドアにも最適。サイズ展開も豊富で、子ども用も売られている。
ハンブルクの歴史が生み出した新しい街未来都市「ハーフェンシティー」とは
ハンブルクは、「埋め立て地でもないのに敷地面積が40%も増えた街」。そう言われると首をかしげるかもしれない。その答えは、使われなくなった港跡地を利用すること。かつての自由港が「ハーフェンシティー」と呼ばれる未来都市へと生まれ変わった軌跡を、歴史とともにひも解く。
参考:hamburg.de「HafenCity Hamburg」、Hafencity.com、Spiegel「Hamburg löst seinen Freihafen auf」、Hafen Hamburg「Geschichte des Hamburger Hafens」(2021年6月23日)、「Sehnsucht nach Japan? Dann ab nach Düsseldorf」(2021年9月21日)、Solinger Tageblatt「Warum es die Japaner nach Düsseldorf zog」(2020年3月12日)
帝国時代に完成した自由港
ハンブルクの自由港が完成したのは1888年。それから2012年末に廃止されるまで124年間続いたという長い歴史を持つ。自由港ができたのは、1871年にドイツ帝国時代が始まってから17年後のことだった。州に属さず独立していたハンブルクだったが、ドイツ帝国から関税同盟に加わるよう圧力がかかる。
1881年、時のドイツ帝国宰相ビスマルクの強い要請により、ハンブルクはドイツ帝国の関税地域に組み込まれることに。それまで市域全体に適用されていた免税特権を手放さなければならなくなったが、一部の港は引き続き自由港として認められた。そして港での居住禁止の法律が成立し、人々が住めなくなった場所には当時最先端の倉庫街が造られた。自由港に保管された物資には関税がかからなかったため、商港産業の発展に寄与することになる。
時代とともに姿を変える港
時代は流れ、20世紀後半になると欧州連合(EU)が発足。EU加盟国やシェンゲン協定加盟国が増加したことで、ハンブルクの自由港としての役割が徐々に小さくなっていく。1997年に住居禁止法が廃止されると、ハンザ同盟時代のように再び港にも人が住めるようになった。そして同年、市が100%出資するハーフェンシティー・ハンブルク有限責任会社が発足。港地区の再開発に乗り出したのだ。
「ハーフェンシティー」とは、港の跡地を多目的都市地区へと転換するプロジェクトで、その規模はなんと157ヘクタールにも及ぶ。欧州の中心として栄えたハンブルク港の再開発には、21世紀の欧州のあるべき姿を示すという期待が込められていた。
特に重視されたのが、サステナブルな社会のモデルとなること。もともとハンブルクは、欧州委員会環境局がサステナブルな都市に贈る「欧州グリーン首都賞」を2011年に受賞したように、環境に優しい先駆的な街づくりを行ってきた。これまで力を入れてきたこれらの取り組みを最大限生かし、あるべきハーフェンシティーの姿を作り上げるべく、多くのコンペティションを通して都市開発が行われていった。
未来のための都市計画
ハーフェンシティーの都市開発が画期的な点は、そのマスタープランが柔軟性を持っていること。一般的な都市計画では短期的な完成を目指すことが多いが、ハーフェンシティーは30年後に目を向けた。全体の完成を2030年として段階的に開発を進め、あえて一気に街づくりを行わないのだ。刻々と変化する社会状況に合わせ、すでに決めたプランが今の時代に合わなくなっていれば変更するという長期計画を実施している。
工事は2001年から始まり、2009年に最初のプランが完成。旧市街に面した北側に新しい街が出現した。この頃ちょうど欧州では景気が後退し、2008年のリーマンショック以降はさらに悪化。ドイツ各都市でも新たな開発事業は控えられていたが、ハンブルクではバブル真っ最中とも思える光景が続いた。
そして2017年には、ハンブルクの新しいシンボルとなるエルプフィルハーモニーが完成。2022年現在は南側を残してほとんどの工事が終わり、住居、オフィスビル、ショッピングモール、文化施設などを擁する新しい街が出来上がっている。
ハンブルクをもっと楽しむためのヒント
港街としての魅力から芸術文化まで、まだまだ魅力いっぱいのハンブルク。この街をもっと楽しむためのヒントを伝授する。
ビートルズ無名時代の聖地巡礼
ハンブルクのレーパーバーン(p11)は、デビュー前のビートルズが1960〜62年に下積み時代を過ごしていたことから、音楽ファンにとっても訪れたい場所。ビートルズのオブジェが立つ「ビートルズ広場」(Beatles Platz)をはじめ、彼らが演奏したクラブ「INDRA」や「Kaiserkeller」、ビートルズが通ったという「Gretel & Alfos」など、彼らの足跡をたどってみよう。
ハンブルクのコーヒー文化を巡る
ハンブルクは港街として栄えたこともあり、ドイツでのコーヒー普及の核となった。それだけあって、ハンブルクにはコーヒー好きもうなる自家焙煎のコーヒーを提供するカフェが数多く存在する。ハンブルクきってのカフェ密集地シャンツェン地区(Schanzenviertel)をはじめ、倉庫街には数多くのカフェや焙煎所が並ぶほか、コーヒーにまつわる歴史に触れることができるブルク・コーヒー博物館(https://kaffeemuseum-burg.de)も。
芸術家たちが集まるゲンゲ地区
毎年8月の週末に開催されているKunstpunkte(アートポイント)は、街中で一斉に行われるオープンアトリエ。絵画、彫刻、写真、ビデオアートなど、さまざまな分野の芸術家400名以上が参加し、これにはデュッセルドルフを拠点とする日本人アーティストも数多く含まれる。期間中はツアーも開催されるが、散歩しながらふらっと立ち寄ってみるのも面白い。
https://das-gaengeviertel.info