都市ガイドシリーズ⑨
緑と水が豊かな国際都市ハノーファーの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」の第9回目は、ニーダーザクセン州の州都であるハノーファー。ドイツ中央部における国内交通の要衝であり、またメッセ都市としても発展。緑豊かで美しい景観を誇り、多彩な芸術や文化を体験することができる。そんなハノーファーの知られざる魅力をたっぷりお届けする。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)
ハノーファーってどんな街?
ドイツ北部に位置するニーダーザクセン州の州都であるハノーファー。1241年に都市権を獲得し、13〜17世紀前半ごろまではハンザ都市の一つでもあった。1714年にはハノーファー選帝侯ゲオルク1世が、ジョージ1世として英国王に即位したことでも知られる。
ニーダーザクセン州の政治・経済的な中心地であるだけでなく、地理的特性を生かした道路・鉄道交通の要所でもある。産業としては自動車、航空機機、電気機器、化学製品等の製造が盛ん。世界最大級のメッセ会場を有し、多様な国際見本市も開催されている。また緑と水の都市としても有名。街全体の3%以上を人工湖を含む湖と川が占め、さらに中心部にあるアイレンリーデの森をはじめ、20%以上の面積が緑地である。
木組のかわいらしい家が連なる旧市街には、ゴシック様式の教会や旧市庁舎などの歴史的建造物が残り、さらにバロック風のヘレンハウゼ王宮庭園や、さまざまな博物館、劇場、ギャラリーなどの施設を有する。1983年からは広島市と姉妹都市提携を結び、どちらも大きな戦争被害を経験した都市として、平和のための交流を続けている
アクセス
ハノーファー空港
Flughafen Hannover / Hannover Airport
[ 空港→ハノーファー市内 ]
● Sバーンの場合
S5でハノーファー中央駅まで17分
ハノーファー中央駅
Hannover Hauptbahnhof
● フランクフルト中央駅から
ICEで約3時間
● デュッセルドルフ中央駅から
ICEで約2時間40分
● ベルリン中央駅から
ICEで約1時間40分
お得なカード※全て2024年1月時点の価格
ツーリスト向けハノーファーカード・ツーリスト
HannoverCard tourist
ハノーファー市内の公共交通機関が乗り放題になるほか、美術館や博物館、シティーツアー、劇場やレストラン・カフェなどで最大50%のさまざまな割引が受けられるお得なカード。1〜3日券(10〜19ユーロ)の中から選ぶことができ、5人までのグループ用チケット(21〜36ユーロ)もある。オンラインまたはツーリストインフォメーションで購入可能。
www.visit-hannover.com
居住者向けミュージアムカード
MuseumsCard
ヘレンハウゼン博物館やアウグスト・ケストナー美術館をはじめとする、市内の九つの美術館・博物館に無料で入場できる年間パス。価格は1人60ユーロで譲渡不可。8ユーロのファミリーオプションを付けると、大人1人に付き18歳以下の子ども3人が一緒に入場可能になる。対象となる美術館・博物館、またはツーリストインフォメーションで購入可能。
www.hannover.de
ハノーファーのおすすめスポット
ハノーファーに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Neues Rathaus① ハノーファー新市庁舎
ハノーファーを代表するランドマークである新市庁舎。1913年のヴィルヘルム2世の時代に建てられた、まるで宮殿のような石造の荘厳な建築で、ハノーファーの中でも特に人気の高い観光スポットとなっている。建物上部のドームは展望エリア(有料)となっており、約100メートルの高さからハノーファーの街を一望することができる。
Trammplatz 2, 30169
www.hannover.de
Marktkirche② マルクト教会
14世紀に建てられたハノーファー最古の教会で、旧市庁舎と並んで北ドイツ特有のレンガ造りのゴシック様式の傑作建築に数えられる。第二次世界大戦の大きな被害を受けたが、1952年に当時の様式で再建された。マルクト教会周辺は旧市街となっており、中世からの建物や木組の家の街並みを楽しむことができる。
Hanns-Lilje-Platz 2, 30159
www.marktkirche-hannover.de
Aegidienkirche③ エギディエン教会
もともと10世紀に建てられた教会だが、第二次世界大戦中の爆撃で大半が焼け落ちた。現在も屋根が抜け落ちたままの状態で保存されており、戦争の悲惨さを現代に語り継ぐための施設として公開されている。教会には、ハノーファーの姉妹都市である広島市から寄贈された平和の鐘がつるされており、毎年8月6日には原爆犠牲者の追悼式典も開かれている。
Aegidienkirchhof 1, 30159
Sprengel Museum Hannover④ シュプレンゲル美術館
マシュ湖畔にあるシュプレンゲル美術館は、ピカソやノルデ、クレー、カンディンスキーなど有名作家の作品を多数所蔵し、モダンアートと現代美術作品の豊富なコレクションで知られている。「ナナ」像で有名なフランスの芸術家であり、ハノーファー名誉市民となったニキ・ド・サン・ファルが、本人たっての希望で生前に400点の作品群を同館に寄贈したりと、ここでしか見られない作品も多い。毎週金曜日は入場無料。
Kurt-Schwitters-Platz, 30169
www.sprengel-museum.de
Landesmuseum Hannover⑤ ニーダーザクセン州立博物館
ハノーファーの芸術と化学の博物館として設立され、現在では五つのコレクションを三つの「世界」に分けたユニークな展示を行っている。「NaturWelten」(自然の世界)では、生きている動物と標本を組み合わせた自然歴史にまつわる展示、「MenschenWelten」(人間の世界)では、石器時代〜中世後期までの考古学・文化人類学コレクションが見られる。そして「KunstWelten」(芸術の世界)では、中世〜20世紀初頭までの芸術作品とコインのコレクションが紹介されている。
Willy-Brandt-Allee 5, 30169
www.landesmuseum-hannover.de
Herrenhäuser Gärten⑥ ヘレンハウゼン王宮庭園
1714年にハノーファー選帝侯妃ゾフィーが情熱を注いで造った、バロック様式の広大な庭園。総面積は135ヘクタールで、平面幾何学式(フランス式)庭園のグローサーガルテン、水族館と植物園を備えるベルクガルテンなど、計四つの庭園で構成されている。噴水や数々の彫刻が置かれているほか、手入れされた花壇には美しい花々が咲き誇り、欧州で最も美しい庭園の一つと呼ばれる。
Herrenhäuser Str. 4, 30419
www.hannover.de/Herrenhausen
Maschsee⑦ マシュ湖
南北に長く伸びた人工湖で、ハノーファー市民の憩いの場所。湖を取り囲むように計6キロの歩道が整備されており、散歩やサイクリング、ジョギングなどをする人たちの姿が見られる。夏にはヨットやカヌー、ペダルボート、冬には湖面をリンクにしたアイススケートを楽しむことができる。毎年夏にはマシュ湖フェスティバル(Maschseefest)が開催され、3週間にわたっておよそ200万人が訪れる。
Arthur-Menge-Ufer, 30169
Erlebnis-Zoo Hannover⑧ ハノーファー体験動物園
1865年創立のハノーファー動物園を再開発する形で、1996年にオープンしたハノーファー体験動物園。22ヘクタールの広さを誇るドイツでも人気の高い動物園の一つ。アフリカのザンベジ川や、霊長類が住むアフィマウンテン、カナダのホッキョクグマに会えるユーコン・ベイなど、テーマごとにエリアが分かれている。動物たちを間近で観察できる、ザンベジエリアを一周するボートツアーもおすすめ。
Adenauerallee 1, 30175
www.zoo-hannover.de
ハノーファーで遊び尽くす!おすすめのイベント
Schützenfest Hannoverハノーファー射撃祭り
かつて狩猟が盛んだった時代に射撃の腕を競ったお祭りで、600年以上の伝統がある。この地域の射撃クラブのメンバーによるパレードの規模は世界一といわれる。ほかにも移動遊園地や音楽ライブなど、楽しいイベントが盛りだくさん。2024年は6月28日(金)〜7月7日(日)に開催予定!
https://schuetzenfesthannover. de
Internationaler Feuerwerkswettbewerbハノーファー国際花火大会
毎年ヘレンハウゼン王宮庭園(地図❻)で開催される国際花火コンテストでは、世界中から集まった五つのチームがその技術と美しさを競い合う。2024年はマレーシア、エストニア、インド、リトアニア、スロヴァキアが出場。5〜9月にかけて開催され、毎月一つの出場国が美しい花火で庭園の空を染める。チケット情報もお見逃しなく。
地元の味を堪能おすすめのグルメ
Holländische Kakao-Stubeホレンディッシェ・カカオシュトゥーべ
バウムクーヘンの老舗として日本でも大人気の「ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ」。実はその本店がハノーファーにある。もともと1895年にオランダの老舗ココア「ヴァン・ホーテン」の試飲所として始まったことから、「オランダのココア店」を意味する店名が付いている。創業当時からの看板商品であるココアをはじめ、伝統的な焼き菓子やバウムクーヘン、ケーキなどでティータイムを楽しもう。
Ständehausstr. 2-3, 30159
https://hollaendische-kakao-stube.de
Lüttje Lageリュッチェ・ラーゲ
ハノーファー名物のシュナップスの飲み方。片手に黒ビールとシュナップスがそれぞれ入った二つの小さなグラスを持ったら準備完了。こぼすことを恐れずに、素早く二つのグラスを傾けて、天井を見つめながら飲み干そう。ハノーファー射撃祭やマシュ湖フェスティバルなどのお祭りや、地元のパブでも提供されている。グラスと合わせてお土産にもぴったり。
ハノーファーをもっと楽しむヒント
商工業やメッセの中心地でありながら、自然が豊かで芸術文化にあふれるハノーファー。この街をもっと楽しむためのヒントを伝授する。
赤い糸をたどって名所巡り
ハノーファーのユニークな観光ガイドの一つに、全長4.2キロの「赤い糸」がある。歩道に描かれている赤い線のことで、これをたどっていくと中心部の建築や歴史に関する36の重要な見どころを巡ることができる。スタート地点はエルンスト・アウグスト広場の観光案内所で、芸術家ニキ・ド・サン・ファルのナナ像(写真)などをへて、ゴールは中央駅前のエルンスト・アウグスト記念碑。観光案内所ではパンフレットも販売されている。日本語版もあり。
実は「音楽の街」でもあるハノーファー
ハノーファーは、ドイツで唯一ユネスコの「UNESCO City of Music」に認定されている都市。同市の音楽シーンの促進はもちろん、世界のユネスコ音楽都市との交流やコラボレーションなどに積極的に取り組んでいる。年間を通してさまざまな音楽イベントがあり、ドイツ最大の野外ジャズ・フェスティバル「enercity swinging hannover」や、クラシック音楽祭「Hannover Klassik Open Air」、ロック・ファンにはたまらない「Fährmannsfest」などが有名。
日帰り旅にぴったりのシュタインフーデ湖
ハノーファーからの小旅行に打って付けなのが、北西約30キロに位置するシュタインフーデ湖だ。420平方キロメートルに及ぶ同名の自然公園の中にあり、ニーダーザクセン州では最大の湖。ヨットやサーフィンなどのウォータースポーツをはじめ、美しい自然や歴史的建築、燻製ウナギやゼクトなどのグルメが楽しめる。さらに湖の中には、かつては難攻不落の要塞として機能していたヴィルヘルムシュタイン島という小さな人工島も。歴史的な小さな帆船に乗って訪れてみよう。
青少年交流から始まった平和を願う姉妹都市ハノーファーと広島
ハノーファー市と広島市は1983年から姉妹都市となっている。姉妹都市提携は行政主体で結ばれることが多いが、両市の関係は市民レベルの交流から発展した点でユニークといえる。両市はそれぞれ負った過去の傷から「世界平和の実現」という大きな目標を掲げ、深い絆で結ばれている。
参考: Hannover Marketing and Tourismus GmbH、Norddeutscher Rundfunk「9. Oktober 1943: Bomber legen Hannover in Schutt und Asch」、広島市役所、公益財団法人 広島平和文化センター「ドイツ・ハノーファー市との青少年交流」、本誌956号「ハノーファーと広島の姉妹都市提携30周年」、原サチコ「ヒロシマ・サロン」ウェブサイト
戦争で屋根が焼け落ちたままの状態で保存されているエギディエン教会
第二次世界大戦で破壊された両都市
ハノーファー市は第二次世界大戦中に88回の爆撃を受けた。最も被害が大きかったのは1943年10月9日の空爆で、26万1000発の爆弾が市内に落とされ、1245人が亡くなった。この日気象観測所では、爆撃の影響で午前2~4時の間に気温が10度弱から34度に上昇したことが記録されている。同市は第二次世界大戦により、都市の60%が破壊された。
一方、広島市では1945年8月6日、人類史上初めて市街地に原子爆弾が投下された。火球の中心温度は100万度を超え、爆心地周辺の地表面の温度は3000~4000度に達したといわれている。当時の広島市内にあった建物の90%が壊滅的な被害を受けた。
空爆の被害にあったハノーファー。残されたのは、がれきの山だけだった(1946年5月9日撮影)
市民レベルの交流から姉妹都市に
第二次世界大戦の惨禍をそれぞれ経験したハノーファー市と広島市の交流が始まったのは、1968年のこと。日独政府間の文化協定の枠組みで、広島市国際青少年協会総主事が広島市の若者を連れてハノーファー市を訪れたのだった。当時、被爆者と握手をすると放射線が感染するなどの誤解があった。主事がその話をすると、ハノーファー市長から謝罪とともに「両市間の交流をもっと発展させるべきではないか」という提案を受ける。そこで1970年から毎年、広島市の青少年使節団がハノーファー市に派遣されることになった。1972年には広島市長も同市を訪れ、翌年にはハノーファー市の使節団が広島訪問を開始。こうして民間と行政の交流が実を結び、15周年を迎えた1983年に姉妹都市提携をすることになった。
公式に姉妹都市になった両市は、さらに交流を深めていく。1984年には世界平和の実現を目的とする「広島連合ハノーファー市」を結成。翌年、広島市は同市にある「平和の鐘」のレプリカをハノーファー市へ贈った。この鐘は大戦で破壊されたエギディエン教会に設置されている。
1987年にはハノーファー市が原爆の犠牲者11万人をしのんで「広島祈念の杜」を造り、110本の桜を植樹した。桜のそばには、花崗岩で造られた碑が立っている。この岩は広島の爆心地付近にあったもので、平和を願う気持ちから1992年に広島市から贈られたものだ。毎年8月6日にハノーファー市で開催される「ヒロシマの日」には、この場所で平和の集いが開かれる。
広島祈念の杜に設置されている手の形をしたオブジェ。これらは戦争反対の意味を込めて2000年に制作された
都市や国を超えた平和活動の出発点に
こうした広島市との強い絆によって、今日ハノーファー市は、都市や国を超えた平和運動や個人による幅広い活動の出発点にもなっている。例えばハンブルク・ドイツ劇場専属俳優として活躍する原サチコ氏は、広島の原爆投下の記憶を伝えるため継続的にヒロシマ・サロンを主催。1回目はハノーファー市で開催され、すでに10都市以上で合計40回以上に上る。
戦争やテロの脅威がはびこる今、人々の平和を願う気持ちはより一層強くなっている。ハノーファー市が平和活動のホットスポットとして、今後も広島市との交流を続けていくことを願う。