都市ガイドシリーズ⑩
大聖堂が見守るドイツ西部の古都ケルンの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」の第10回目は、ドイツ西部の古都ケルン。その起源はローマ時代にさかのぼり、街の中心にそびえ立つケルン大聖堂はあまりにも有名だ。一方で、ドイツで4番目に人口が多く、芸術文化や若者カルチャーが盛んでスタイリッシュな一面も。今号では、そんなケルンの魅力をご紹介する。
(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)
ケルンってどんな街?
ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州のケルンは、1世紀にローマ人の植民地として建設された商業都市が起源。そのため都市名の「ケルン」も植民市を意味する「colonia」(コロニア)に由来する。中世には、東西ヨーロッパを結ぶ重要な交易路の一つとして繁栄。フランスや英国による統治時代もへて、ライン川水運、鉄道道路の要衝として発展した。
ドイツではベルリン、ハンブルク、ミュンヘンに次いで4番目に人口が多い。世界遺産としても有名なケルン大聖堂を中心に街が形作られており、石畳の通りには新旧の建物が並んでいる。またラインラント地方の主要な芸術・文化の中心地でもあり、街には30以上の博物館と100以上の美術館がある。さらにデュッセルドルフ、マインツと並ぶカーニバル都市としても有名。
また、ケルンには独自の言語「ケルシュ」があり、現在も料理の名前やカーニバルの歌詞などでケルシュを見つけることができる。「Et kütt wie et kütt!」(Es kommt wie es kommt)は「なるようになるさ!」という意味で、ケルンっ子のモットーとしても愛されている。
アクセス
ケルン・ボン空港
Flughafen Köln-Bonn / Köln Bonn Airport
[ 空港→ケルン市内 ]
● Sバーンの場合
S19でケルン中央駅まで14分
ケルン中央駅
Köln Hauptbahnhof
● フランクフルト中央駅から
ICEで約1時間5分
● ミュンヘン中央駅から
ICEで約4時間30分
● ベルリン中央駅から
ICEで約4時間20分
お得なカード※全て2024年5月時点の価格
ツーリスト向けケルンカード
Köln Card
ケルン市内の公共交通機関が乗り放題になるほか、美術館や博物館、シティーツアー、ショッピングやレストラン・カフェなどで最大50%の割引が受けられる。24時間券(9ユーロ)または48時間券(18ユーロ)から選ぶことができ、5人までのお得なグループチケットも。オンラインまたはツーリストインフォメーションで購入可能。
www.koelntourismus.de/buchen/koelncard
居住者向けミュージアム年間カード
Jahreskarte der Kölner Museen
ルートヴィヒ美術館やローマ・ゲルマン美術館(現在休館中)をはじめ、ケルン市内の九つの美術館・博物館に無料で入場できる年間パス。価格は、常設展・特別展用の場合は90ユーロ(学割68ユーロ)、常設展のみ用だと45ユーロ(学割34ユーロ)。対象となる美術館・博物館、またはツーリストインフォメーションで購入可能。
www.stadt-koeln.de/artikel/04348/index.html
ケルンのおすすめスポット
ケルンに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Kölner Dom① ケルン大聖堂
ケルン中央駅に降り立ってすぐ目に入ってくるのが、街のランドマークであるケルン大聖堂。ゴシック様式の建築物として世界最大規模を誇り、世界遺産にも登録されている。大聖堂内部の美しく荘厳なステンドグラスや装飾は圧巻。大聖堂のタワーは、ケルンの風景を360度見渡すことができる展望回廊になっている。合わせてケルン大聖堂宝物館の見学もおすすめ。
Domkloster 4, 50667
Hohenzollernbrücke② ホーエンツォレルン橋
ケルン大聖堂の手前にある鉄道橋で、その脇を歩いて渡ることができる。恋人同士の名前を書いた南京錠をこの橋にかけると幸せが続くといわれ、全長409メートルの橋のフェンスは無数の南京錠で埋め尽くされている。ちなみに南京錠は近くのギフトショップでも購入可能なので、試してみたい方はぜひ。
Hohenzollern Bridge, 50679
Alter Markt③ アルターマルクト
街の中心部にある広場で、中世の街並みが残るかわいらしいエリア。カフェ文化が根付いたにぎやかな観光スポットで、マーケットが定期的に開催されている。毎年ここで開催されるクリスマスマーケットは、グリム童話に出てくる小人の妖精ハインツェルメンヒェンにちなんで「ハインツェル・マルクト」と呼ばれ、美しいイルミネーションや野外スケートリンクなどでも人気が高い。
Alter Markt, 50667
Belgisches Viertel④ ベルギー地区
ケルンの流行発信地と呼ばれるのがベルギー地区。19世紀後半のバブル期「グリュンダーツァイト」の建築が並び(写真)、中心街にはコンセプトショップやギャラリー、ライブハウス、おしゃれなカフェなどが集まる。スイーツの人気店も多いので、休憩スポットとして寄るのも◎。
Brüsseler Str.
Museum Ludwig⑤ ルートヴィヒ美術館
アートコレクターのルートヴィヒ夫妻が寄贈した近現代の芸術作品をもとに、1976年に設立された近代美術館。シュールレアリスム、米国のウォーホルやリヒテンシュタインなどのポップアート作家の作品を多数擁する。同館に所蔵されているピカソのコレクションは欧州最大級。
Heinrich-Böll-Platz, 50667
www.museum-ludwig.de
Rautenstrauch-Joest-Museum⑥ ラウテンシュトラウフ・ヨースト博物館
ノルトライン=ヴェストファーレン州唯一の市立民族学博物館。コレクションの基盤となっているのは、ケルン生まれの地理学者・民族学者ヴィルヘルム・ヨースト(1852-1897)の遺産だ。現在のコレクションはオセアニア、アフリカ、アジア、アメリカの約6万点の品々と10万点の歴史的写真があり、展示物を通して異文化を間近に体感できる。
Cäcilienstraße 29-33, 50676
www.museenkoeln.de/rautenstrauch-joest-museum
Farina Duftmuseum⑦ ファリナ・ハウス香水博物館
オーデコロンの発祥の地であるケルン。1709年にイタリアからケルンに移住した香水職人ヨハン・マリア・ファリナが、「オーデコロン」(「ケルンの水」の意味)という意味の名前を付けて販売したことに始まる。こちらの博物館では、香水に関する歴史や製造方法、香りについて知ることができる。なお、博物館内はツアーでしか見学できないため、事前予約が必要。香水はお土産にもぴったり。
Obenmarspforten 21, 50667
https://farina.org
Schokoladenmuseum Köln⑧ チョコレート博物館
ライン川沿いに立つ、船のような形をした建物にあるチョコレート博物館。スイスのチョコレートメーカーであるリンツ社が運営する博物館で、カカオからチョコレートができる過程や、その歴史などを学ぶことができる。高さ3メートルのチョコレートファウンテンや、自分の好きなトッピングでチョコレートが作れる体験コーナーなど、チョコ好きにはたまらない。
Am Schokoladenmuseum 1A, 50678
www.schokoladenmuseum.de
ケルンの「今」を楽しむ!おすすめのイベント
Art Cologneアート・ケルン国際美術見本市
毎年開催される世界最古の現代美術見本市「アート・ケルン」。約200の国際的なギャラリーが参加し、近現代のアート作品を展示。メッセ会場が絵画や彫刻、写真、インスタレーションなどで埋め尽くされ、今日の現代美術の動向を知ることができる。一般の来場も可能。2024年は11月7(木)〜10日(日)に開催予定!
Cologne Prideケルン・プライド
ケルンで毎年7月に行われるプライド月間。プライドパレードでは、LGBTQ コミュニティーの団結と権利を求める人々が、色とりどりのコスチュームを身にまとってケルンの市街地を行進する。数万人が訪れる熱気のなか、パフォーマンスやライブ、スピーチなどが繰り広げられる。2024年の開催期間は7月6日(土)〜21日(日)で、パレードは最終日の予定。
ケルンで舌づつみ!おすすめのグルメ
Kölschケルシュ
ケルンの地ビールといえば、薄い黄金色と純白のきめ細かい泡が特徴の「ケルシュ」。伝統と品質を守る「ケルシュ協約」に調印しているケルン近郊の醸造所で造られているものを指す。お店ではシュタンゲと呼ばれる200ミリリットルの細いグラスに注がれ、グラスが空になると新しいビールが提供される「椀子ビール」方式。
Kölsche Kaviarケルンのキャビア
レストランのメニューに「ケルンのキャビア」という名前を見つけて注文してみても、世界三大珍味のキャビアが出てくるわけではなく……。プレートに載せられているのは、この地方でFlönzと呼ばれる血のソーセージ、小さなロールパン、生の玉ねぎにマスタード。これがなぜ「ケルンのキャビア」と呼ばれるようになったかは分かっていないが、とにかくケルシュとの相性は抜群。お試しあれ。
ケルンをもっと楽しむヒント
古都として歴史文化が根付いているだけでなく、さまざまなカルチャーに溢れるケルン。この街をもっと楽しむためのヒントを伝授する。
ケーブルカーでケルンの街を一望
Kölner Seilbahn(ケーブルカー)に乗れば、空からケルン大聖堂やケルンの街並み、ライン川の景色を一望することができる。乗り場は、Zoo / Flora駅、もしくは対岸のThermalbad(Claudius-Therme)駅。チケットは片道5ユーロ(子ども3ユーロ)で、4〜10月ごろまでの夏季限定で運行している。降りた先の川原でピクニックをしたり、のんびりお散歩したりするのもおすすめ。
知る人ぞ知るジャズの首都
戦後のケルンでは公共ラジオ局のためにジャズ・オーケストラが作られたことを機に、ケルン音楽舞踊大学とケルン音楽大学でもジャズが学べるように。今日では国際的なジャズ都市として知られ、州最大のジャズ会場シュタットガルテンでは年間約400ものイベントが開催される。またドイツ最古といわれるジャズバー「Papa Joe’s」は毎晩ジャズの生演奏が楽しめるのでチェック!
世界遺産のアウグストゥスブルク城へ
ケルン中央駅から近郊列車で15分、近郊の小さな街ブリュールを訪れてみよう。この街の目玉といえば、世界文化遺産のアウグストゥスブルク城だ。18世紀初頭にケルン大司教であったヴィッテルスバッハ家のクレメンス・アウグストによって建造されたロココ様式の宮殿であり、西ドイツ時代には迎賓館としても使われた。また、バロック様式の庭園では美しい季節の花々が楽しめる。
632年かけて建てられた美しきランドマーク 歴史から読み解くケルン大聖堂
ケルンのランドーマークであり、世界最大のゴシック様式建築物として名高いケルン大聖堂。その建設には実に632年の歳月を要し、完成後も第二次世界大戦の爆撃や世界遺産登録など、さまざまな歴史をへてきた。そんなケルン大聖堂の意外と知られていない歴史や逸話をご紹介しよう。
参考:Kölner Dom 「Sagen und Legenden」、Koeln.de「Geschichte des Kölner Dom」、G-Geschichte「Wie entstand der K;lner Dom?」、Der Köln-Lotse「Dar Richter-Fenster im Dom - ein Meisterwerk」
ケルン大聖堂内部の様子
悪魔と競った建築家
現在ケルン大聖堂がある場所には、4世紀ごろにはすでにキリスト教の教会が建てられていた。その後、2代目の大聖堂が818年に完成したが、1248年に火災で消失。火災からわずか4カ月後、3代目となる現在のケルン大聖堂の建設がスタートした。指揮を取ったのは、フランスの大聖堂建築に精通した石工職人のゲルハルト・フォン・ライル。北フランスのアミアン大聖堂をモデルに選んだゲルハルトは、そこから独自のデザインを開発し、驚異的なスピードで建設を進めていった。1260年ごろには最初のステンドグラスが完成したが、その頃にゲルハルトは突如、建設現場で命を落としてしまう。
ゲルハルトの熱狂的な仕事ぶりと不可解な事故死は、後にある伝説を生んだ。彼は悪魔にそそのかされ、「ゲルハルトが大聖堂を完成させる前に、悪魔がトリーアからアイフェルを経てケルンまでの水道を建設することができれば、ゲルハルトの命は悪魔のものになる」という賭けをしてしまったというものだ。そして賭けに負けたゲルハルトは、悪魔に地獄へと連れて行かれたのだった。ちなみに、アイフェルからケルンへの水路は実在していたが、これは悪魔によってではなく、古代ローマ人によって造られたものである。
度重なる建設の遅れと第二次世界大戦の被害
その後、16世紀に入ると宗教改革を発端とした財政難に陥り、ケルン大聖堂の建築は約250年間も中断を余儀なくされる。19世紀に入ると、ナポレオン戦争の影響でドイツ国内のナショナリズムが高揚し、中世ドイツに自分たちの伝統を求める動きが強まった。そこで注目を集めたのが建設途中だったケルン大聖堂だ。1842年に建築が再開され、1880年、実に着工から632年の月日を経て完成したのだった。
第二次世界大戦中、ケルン大聖堂は英米軍の空襲で激しく破壊された。一方で全体は崩れなかったため、戦後には修復工事が開始された。修復は1956年に完了したが、北西の塔の一部は周囲の廃虚から再利用した粗悪なレンガが使われていたため、90年代に入ってからさらに空襲前の外観に戻す作業がスタート。2005年には目に見える最後の戦争被害が修復され、現在も軽微な損傷について修復作業が行われている。
また1996年、ケルン大聖堂はユネスコの世界文化遺産に登録された。2004年には大聖堂の近隣に高層ビルを建設する計画が立ち上がったため、景観破壊による危機遺産に指定されたが、周辺の建物に高さの規制を敷くなどして、2006年に解除された。
ケルン大聖堂の設計について説明するゲルハルト・フォン・ライル(左)
現代美術の巨匠によるステンドグラス
ケルン大聖堂の美しさを特徴付けるものの一つは、やはりステンドグラスの数々だろう。大聖堂の壁面のほとんどがこれらの巨大なガラスで構成されている。そんな大聖堂南側の窓には2007年から、ドイツを代表する現代アートの巨匠ゲルハルト・リヒターがデザインしたステンドグラスがはめ込まれている。戦争で消失したステンドグラスのデザインを依頼されたリヒターは、抽象的な模様と幾何学的な構成を結合させた、カラーチャートのようなステンドグラスを生み出した。72色のガラスから成る9.6センチ四方の正方形のステンドグラスが1万1263枚敷き詰められている。
ゲルハルト・リヒターによるステンドグラス
このステンドグラスは、特にケルンの聖職者たちの間で論争を巻き起こした。反対派の人々は、あまりに現代的・抽象的で大聖堂にはそぐわないとの意見だったが、実際、ケルン大聖堂にある43面のステンドグラスには具象的なモチーフだけでなく、抽象的・幾何学的なパターンを用いたものもある。このステンドグラスについては未だに賛否両論が分かれるところだが、72色の色ガラスを通過した光はこの上なく美しい表情を大聖堂の内部に映し出しており、その美しさに心をつかまれる人は少なくないだろう。
中世ドイツから二度の世界大戦をへて、現代までさまざまな歴史を経験してきたケルン大聖堂。これからも街の中心に立ち、人々の暮らしや歴史を見守っていくことだろう。