Hanacell

鉱山廃土の上に広がるビオトープ「ゾフィーの丘」を訪ねて

私が住むノルトライン=ヴェストファーレン州には、欧州最大級ともいわれる「人工の穴」があります。大手電力会社RWE社グループが運営する「ハンバッハ露天掘り鉱山」の採掘坑として掘られたこの穴は、掘削区域の最大深度は約411メートル、面積は約45平方キロメートル。想像しがたいですが、その深さは約157メートルのケルン大聖堂を2.5個積み重ねてもまだ到達しないほど。

インデン露天掘り鉱山の掘削機インデン露天掘り鉱山の掘削機

ハンバッハ鉱山を含むこの地域一帯はライニッシュ褐炭鉱山地域と呼ばれ、特に70年代以降は大型掘削機を用いて大規模に褐炭を採掘し、主に火力発電用の燃料として活用してきました。

私がこの炭鉱群の存在を知ったきっかけは、2023年1月に環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんがこの地域のガルツヴァイラー炭鉱にて、森林破壊や立ち退き村落の消滅などに抗議する活動へ参加し、警察に身柄を拘束されたという国際的ニュースでした。

「ゾフィーの丘」に広がる雑木林「ゾフィーの丘」に広がる雑木林

当時、遠くない距離にあるはずのこの炭鉱群の規模がまるで想像できずにいましたが、先日偶然にも鉱山近くの街に住む友人から誘われ、ハンバッハ鉱山に広がる「穴」……ではなく、穴を掘削した際の大量の廃土が積まれた「丘」を見学する機会を得ました。

ハンバッハ鉱山で大規模採掘が始まった1978年当初より、掘削で生じた土砂・泥・鉱物廃棄物などを積み上げた「ゾフィーの丘」の建設も開始されました。RWE社グループはこれまでも定期的に一帯の発電所や鉱山、そして鉱山北西部に広がるこの「丘」を紹介するツアーを主催。今回のツアーでは参加者40人ほどが1台のバスに乗り込み、緑が広がる地域一帯を3時間ほどかけて回ります。

野生の馬9頭が放牧される草原の向こうには火力発電所が稼働深夜に行われたパフォーマンス「Phase Transition

バス移動と聞いて最初は驚きましたが、それもそのはず。この人工の丘もまた標高約300メートル、広さ約13平方キロメートル(東京ドーム約280個分!)と、とても広大です。解説を聞きながら要所要所でバスを下車しますが、再森林化を目指してこれまで45年以上かけて手作業での植樹が続けられてきたとあり、目の前に広がる光景はまるで自然の森林そのものです。木々にはヤマネの住処となる巣箱が設置されたり、平原地帯には野生の馬が放牧されていたりと、生物多様性を生み出す取り組みも行われていました。

ドイツ政府は法定で2038年までの脱石炭火力発電撤廃を目指しており、ハンバッハ鉱山も2029年の閉山が予定されています。その後、この巨大な「人工の穴」はライン川から引いた水を使って数十年かけて埋め立て、ドイツ国内最深の広大な湖に生まれ変わる計画だそう。また、丘が広がる緑地帯はハイキングルートや観光地として再活用されるそうです。穏やかに広がるビオトープを眺めながらも、映画「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」で描かれる、底知れない自然への畏怖をどこか強く感じる貴重な経験となりました。

M.K.
1991年生まれ、ケルン在住3年目。映画とビールと音楽が大好き。最近はケルンの地ビールであるケルシュに合う和食レシピを研究中。
 
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