ロストックの大学広場の裏にあるRosen Gartenには、その名の通りバラのお庭と、青空によく映える黄色い外壁のクラシックな建物があります。平日にこの周りを歩いていると、ピアノやヴァイオリン、トランペットや打楽器を練習する音が聴こえてきます。
ラインスハーゲンわかなさん
19世紀に高等学校として建築されたこの場所は、現在では「Haus der Musik (音楽の家)」となり、子どもから大人まで音楽を習える二つの音楽学校が入っています。今回は、そのうちの一校であるロストック市立音楽学校(Konservatorium)と、以前本誌1117号でもご紹介したロストック音楽演劇大学(HMT)の両方でコレペティトゥアとして活躍する日本人をご紹介します。
「コレペティトゥア」という職業はなかなか聞き慣れないかもしれませんが、クラシック音楽界隈の方なら「コレペティ」や「コレ」でお馴染みでしょう。一般的には器楽や声楽の「ピアノ伴奏者」と説明されることが多いです。しかし、伴奏をしながら演奏者に音楽的なアドバイスをし、一緒により良い音楽を完成させていくという点では「指導者」と「共演者」の両方の側面を持った職業といえます。
Haus der Musikの外観
「競争率がものすごく高いピアニストの世界で、自分が好きなピアノを弾いていける仕事を模索していたらコレペティトゥアになっていた」と少しおどけた笑顔で話すのは、ロストックを中心にコレペティトゥアとして活躍される、ラインスハーゲンわかな (WakanaReinshagen)さん。わかなさんはもとも北海道札幌市のご出身で、同市内の大学でピアノを学んだ後にHMTに編入。ピアノソロと室内楽を専攻して卒業をされた後、ピアノを教えることと並行してコレペティトゥアの仕事を続けられています。ちなみに室内楽を学ぶことは、コレペティトゥアになるための強みになるそうですよ。
「伴奏を必要とする人があっての仕事なので、コレペティトゥアだけで生活していくのは正直厳しいです。また、急な依頼があった時は、初めて見る楽譜を短期間で仕上げなければなりません。でも、比較的早く譜読みができることと、伴奏相手の気持ちに寄り添って音楽を作り上げることが必要なこの仕事は、自分にとても合っていると感じます」と、わかなさん。
ピアノを演奏されているわかなさん
実際、ピアノの技術や音楽の基礎をしっかり学んでおり、調和を大切にする文化を持っていることから、多くの日本人がドイツ国内でコレペティトゥアとして活躍しているそうです。
「決してピアノが主役ではないけれど、自分の演奏で伴奏相手の調子が上がっていくのを感じられたとき、コレペティトゥアとしてやりがいを感じます」。そう誇らしげに語るわかなさんが、とても印象的でした。
ロストック在住。ドイツ北東地方の案内人、そしてシュヴェリーン城公認ガイド。ツイッターで観光、街、大好きなビールについて、ほぼ毎日つぶやいています。
Twitter: @rostock_jp
griffin-guides.com