都市ガイドシリーズ⑦
自動車産業と文化、そして緑の街シュトゥットガルトの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」の第7回目は、バーデン=ヴュルテンベルク州の州都である「シュトゥットガルト」。ドイツを代表する自動車ブランドの本社が置かれているだけでなく、歴史的な宮殿の数々、そして小高い丘や渓谷が連なる美しい街である。そんなシュトゥットガルトのさまざまな魅力を覗いてみよう。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)
シュトゥットガルトってどんな街?
シュトゥットガルトは、ライン川支流のネッカー川沿いに位置するドイツ第6の都市。地理的にバーデン=ヴュルテンベルク州の中心にあり、同州の州都となっている。すり鉢状の盆地に立地するためブドウ栽培に理想的な温暖な気候で、ドイツ最大のワイン生産地域の一つでもある。
19世紀にはヴュルテンベルク王国の都となり、美しい宮殿の数々が建てられ、緑に囲まれた文化都市として発展を遂げてきた。さらにドイツ屈指の大企業が本社を構える工業都市としての地位も確立。なかでもメルセデス・ベンツやポルシェなど、ドイツを代表する自動車産業の中心地であることから、機械工学分野の革新的な企業が集まる。
ほかにもミュンヘンのオクトーバーフェストに次ぐビール祭りである「カンシュタッター・フォルクスフェスト」や、ドイツ三大クリスマスマーケットに数えられる「シュトゥットガルト・クリスマスマーケット」などの有名なお祭りが開催されている。
アクセス
シュトゥットガルト空港
Flughafen Stuttgart / Stuttgart Airport
[ 空港→シュトゥットガルト市内 ]
● Sバーンの場合
シュトゥットガルト中央駅まで27分(2区間分のチケット)
● 市営バス
65、122、812/813、828、N8番
(シュトゥットガルト市内まで約30分、2区間分のチケット)
● タクシー
シュトゥットガルト市内まで約25分
シュトゥットガルト中央駅
Stuttgart Hauptbahnhof
● ミュンヘン中央駅から
ICEで約2時間
● フランクフルト中央駅から
ICEで約1時間30分
● デュッセルドルフ中央駅から
ICEで約2時間40分
お得なカード※全て2023年7月時点の価格
ツーリスト向けシュトゥットカード
StuttCard
シュトゥットガルトの指定の美術館や博物館、レストラン、劇場、娯楽施設が無料または割引料金で入場可能になるデジタルカード。料金は24時間で18ユーロ、48時間で25ユーロ、72時間で30ユーロ。中央駅にある観光案内所「i-Punkt」や、空港観光案内所のほか、オンラインでの予約購入も可能。
www.stuttcard.com
居住者向けエアーレープニスカード・シュトゥットガルト
ErlebnisCard Region Stuttgart
シュトゥットガルトおよび近郊の美術館やプール、シティーツアー、娯楽施設など、約70の提携先で1回限りの無料チケットや優待などが受けられるカード。有効期限は1年間で、カードタイプのものは79ユーロ、デジタル版は69ユーロ。
シュトゥットガルトのおすすめスポット
シュトゥットガルトに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Altes Schloss① 旧宮殿
とんがり屋根が印象的な旧宮殿は、10世紀にシュヴァーベン公リウドルフによって最初の城が築かれ、1316年以降はヴュルテンベルクの居城に。さらに1553年以降にルネサンス様式に建て替えられた。現在、城内はヴュルテンベルク州立博物館となっており、古代ケルトやゲルマンの装飾品、ヴュルテンベルク家の宝物などを通してこの地方の歴史を学ぶことができる。
Schillerplatz 6, 70173
www.landesmuseum-stuttgart.de
Neues Schloss② 新宮殿
1744年にカール・オイゲン・フォン・ヴュルテンベルク公が16歳でシュトゥットガルトへ来た際に、旧宮殿では自身の権力を表すために不十分であるとして、新しい宮殿の設計をイタリア人建築家のレオポルド・レッティに依頼。大きな中庭を三棟の複合建築がコの字型に囲む新しい宮殿が誕生した。バロックからロココ、古典主義までさまざまな時代の建築様式が共存しているのが特徴。現在、内部は一般公開されていないが、宮殿前に広がる宮殿広場は市民の憩いの場所となっている。
Schloßplatz 4, 70173
www.neues-schloss-stuttgart.de
Staatstheater Stuttgart③ シュトゥットガルト州立劇場
ヴュルテンベルク公によって宮廷が置かれたシュトゥットガルトでは、ほかの宮廷都市と同じく17世紀ごろに宮廷劇場が建設された。1912年にはこの劇場にて、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「ナクソス島のアリアドネ」が作者自身の指揮で初演されている。現在ではシュトゥットガルト歌劇場、シュトゥットガルト・バレエ、シュトゥットガルト劇場が拠点を置き、バレエやオペラ、演劇など、年間1000にもわたる多彩な公演が行われている。
Oberer Schloßgarten 6, 70173
www.staatstheater-stuttgart.de
Staatsgalerie Stuttgart④ シュトゥットガルト州立ギャラリー
古典主義的な建築の旧館と、ポストモダニズム建築の鮮やかな新館からなるシュトゥットガルト州立ギャラリー。合計1万2000平方メートルの展示スペースに14〜21世紀のさまざまな絵画や彫刻が展示されており、年間2〜3万人の観客が訪れる。特にシュヴァーベン地方の伝統的な美術作品をはじめとするクラシックな絵画と、オスカー・シュレンマーやアンリ・マティス、パブロ・ピカソやヨーゼフ・ボイスなどのモダンアートのコレクションで有名。毎週水曜日はコレクション展の観覧が無料。
Konrad-Adenauer-Str. 30 - 32, 70173
www.staatsgalerie.de
Mercedes-Benz Museum⑤ メルセデス・ベンツ博物館
2006年にメルセデス通りに設立されたメルセデス・ベンツ博物館。1万6500平方メートルの広大なスペースには、160台の車両と1500を越える展示品があり、伝説的なレーシングカーやコンセプトカーなど見どころ満載。1886年にカール・ベンツが開発した世界初のガソリン自動車や、自動車好きにとって憧れの名車300SLなど、130年以上にわたるメルセデス・ベンツの歴史に浸ることができる。
Mercedesstr. 100, 70372
www.mercedes-benz.com
Porsche Museum⑥ ポルシェ・ミュージアム
高級スポーツカーやレーシングカーの代表格であるポルシェ。2009年から本社のすぐそばに自動車博物館をオープンし、メルセデス・ベンツ博物館と並ぶ自動車ファンの聖地となっている。博物館前に立つ、3本のV字型の柱にポルシェ911を載せた彫刻が目印。館内にはポルシェ356、911、917のような世界的に有名なモデルをはじめとする80以上の車両や、創業者であるフェルディナンド・ポルシェが開発したフォルクスワーゲンの「ビートル」なども展示されている。
Porscheplatz 1, 70435
www.porsche.com
Weissenhofsiedlung⑦ ヴァイセンホーフ・ジードルング
シュトゥットガルト郊外のヴァイセンホーフにある、ル・コルビュジエが設計した「ヴァイセンホーフ・ジードルングの住宅」。1927年に開かれたシュトゥットガルトの住宅展のために建設された実験住宅群であり、東京・上野の「国立西洋美術館」などと合わせて「ル・コルビュジエの建築作品 - 近代建築運動への顕著な貢献」として世界文化遺産に登録されている。住宅内は見学可能で、コルビュジエの思想やモダニズム建築の精神を体感することができる。
Rathenaustr. 1, 70191
https://weissenhofmuseum.de
Die Wlhelma⑧ ヴィルヘルマ
動物園と植物園が一体となったドイツで唯一の施設。約1200種の動物と、約8500種類以上の植物を擁する。19世紀初頭にヴィルヘルム1世が浴場施設を建てたのが始まりで、王政の終わりとともに植物園として一般公開されるようになった。現在では年間200万人の来園者を迎える人気スポット。多様な動植物だけでなく、ムーア様式で建てられた美しい建築の数々もみどころの一つ。庭園にある650平方メートルの大きな池には、夏になると睡蓮が美しく咲き誇る。
Wilhelma 13, 70376
www.wilhelma.de
シュトゥットガルトを満喫!おすすめのイベント
Cannstatter Volksfestカンシュタッター・フォルクスフェスト
1818年にヴュルテンベルク王ヴィルヘルム1世が、長い飢饉 を乗り越えたことを祝って始めた民族祭。開催場所は、中心地から近郊電車で5分のところにある、ネッカー川沿いのカンシュタッター・ヴァーゼンという大きな芝地。そこに巨大なビールテントや移動遊園地が立てられ、毎年およそ400万人が集まる。今年の開催は、9月22日(金)〜10月8日(日)。
www.cannstatter-volksfest.de
Stuttgarter Weihnachtsmarktシュトゥットガルト・クリスマスマーケット
ドレスデン、ニュルンベルクと並んで「三大クリスマスマーケット」と呼ばれるシュトゥットガルトのクリスマスマーケット。300年以上の歴史を誇り、その規模は世界最大級といわれる。会場は、主にシュロス広場、マルクト広場、カールス広場、シラー広場の四つ。毎年、最も美しい屋台には賞が贈られるとあって、各屋台の屋根には非常に凝った装飾が施されている。夜の美しいイルミネーションもお見逃しなく!
www.stuttgarter-weihnachtsmarkt.de
現地で味わいたいおすすめグルメ
Cannstatter Volksfestシュヴァーベン風マウルタッシェン
シュヴァーベン地方の郷土料理として知られるマウルタッシェン。パスタ生地の中にほうれん草やひき肉などの具を入れて包んだもので、ソースをかけたりスープ仕立てにしていただく。マウルブロン修道院の修道士たちが四句節の断食期間に、神様に見つからないように肉を食べようと、肉をパスタ生地で包んで隠したのが発祥といわれる。
Gaisburger Marschガイスブルガー・マルシュ
シュトゥットガルトのガイスブルク地区にちなんで名付けられた、シュヴァーベン地方の伝統的なスープ料理。牛肉ベースのクリアなスープに、ジャガイモやニンジンなどの野菜と、同じくこの地方の名物料理であるシュぺッツレ(パスタに似た卵麺)を入れて煮込み、バターで炒めた玉ねぎをトッピングしていただく。
難題だらけの30年中央駅大改修プロジェクト「Stuttgart 21」の現在
シュトゥットガルト中央駅および周辺の大改造プロジェクト「Stuttgart 21」。中央駅の建物や線路を全て地下に移動させるという壮大なプロジェクトで、完成すれば、ウルムやミュンヘンなどへの走行時間を大幅短縮させることができるという。しかし計画発表からもうすぐ30年になろうとする今も工事は継続中。そんな波乱万丈なこのプロジェクトを通して、シュトゥットガルトの未来を見据えてみよう。
参考文献:DB Projekt Stuttgart–Ulm、BW24.de「Stuttgart 21: Kosten, Fertigstellung, Protest: Alle Fakten zu dem umstrittenen Megaprojekt」、zdf.de「 Bahnprojekt Stuttgart 21:Meisterwerk oder Milliardengrab?」
「Stutttgart 21」におけるシュトゥットガルト中央駅の完成予想図
大論争の末、16年の歳月を経て工事開始
「Stuttgart 21」は、2009年に連邦政府、バーデン=ヴュルテンベルク州、シュトゥットガルト州都、シュトゥットガルト地域協会、シュトゥットガルト空港、ドイツ鉄道が協定を結び、2010年2月に正式に工事をスタートさせた。しかし、シュトゥットガルト中央駅の改築に関する具体的な計画が公式発表されたのは、それより16年も前の1994年のこと。1997年にはプロジェクトの設計コンペが行われ、サステナブルでエコロジカルな建物で有名な建築家のクリストフ・インゲンホーフェンの案が採用された。
駅のホームから空を見上げることができる、キノコのような形の柱と天井窓を建設中
ところが1999年、当時ドイツ鉄道の社長であったヨハネス・ルートヴィヒが、プロジェクトの中止を発表。あまりに巨額の費用がかかることをその理由に挙げたが、一方でバーデン=ヴュルテンベルク州とお隣のバイエルン州はプロジェクトの継続を支持。その後も財政支出や膨大な工事についての話し合いが何度も行われ、着工は何度も延期された。
2010年にようやく第一弾としてターミナル駅の北棟の解体が始まったが、このプロジェクトに反対する人々が抗議行動を実施。反対する主な理由としては、プロジェクトの正当性の欠如や膨大な建設費が挙げられたほか、環境保護問題なども指摘されていた。反対派の勢いに歯止めがかからず、同年9月30日にはデモ参加者数千人が警察と衝突し、400人以上が負傷する事態に陥る。抗議団体と建設チームとの間で調停協議が行われることになり、さらに2011年11月、このプロジェクトの賛否を問う住民投票を実施。賛成58.9%、反対41.1%という結果により、プロジェクトの継続が決まったのだった。
新しい中央駅はシュトゥットガルトに何をもたらすか?
Stuttgart21が完成すれば、駅の利用者はどのような恩恵を受けられるのだろうか。まずは地上にあるホームを地下に移し、終着型の駅から通過型の駅へ変えることで、多くの列車がより速く、より柔軟に、より時間に正確に運行できるようになる。また、シュトゥットガルト中央駅〜ウルム駅間の線路を新しい高速路線にすることで、同区間の所要時間は現在のほぼ半分である30分程度になり、さらにシュトゥットガルト中央駅〜ミュンヘン中央駅までは、現在の140分から102分へと短縮される。また、空いた地上のエリアは新たな都市開発用地となり、最大3万戸の新たな住居やオフィスなどを創出できるとされている。
Stuttgart 21の建設費は、1995年時点では約25億ユーロとされていた。しかし、度重なる工事の延長や地下水の制御など新たな課題に見舞われ、最終的な費用は90億~100億ユーロになると想定されている。そして運用開始は2019年12月の予定だったが、現在の完成予定は2025年秋だという。
新たなシュトゥットガルト名物? Stuttgart 21の「建設現場ツアー」
そんな賛否両論あるStuttgart 21だが、実はシュトゥットガルト中央駅および七つの周辺エリアで建設現場のツアーが行われており、近年では市民の間で人気のアトラクションとなっている。ツアーは基本的に有料かつ事前予約が必要だが、専門家による解説とともに工事現場を見学することが可能。また無料の「建設現場オープンデー」(Tage der offenen Baustelle)も毎年開催され、今年は3日間で約5万9000人の来場者を迎えるなど、実は完成を楽しみに待っている人も多いのかもしれない。シュトゥットガルトの生まれ変わった中央駅に降り立つことができる日はいつになるか、引き続き注目が集まっている。
今年4月8日に行われた「建設現場オープンデー」の様子
Stuttgart 21の建設現場ツアー:https://shop.its-projekt.de/en/guides-overview/#gruppen23
シュトゥットガルトをもっと楽しむヒント
自動車産業にとどまらず、美しい自然や豊かな文化を併せ持つシュトゥットガルト。この街をもっと楽しむためのヒントを伝授する。
ラック式鉄道とケーブルカーに乗る
地元の人に愛されている、シュトゥットガルトのラック式鉄道とケーブルカー。2本のレールの間に歯型レールを敷くラック式鉄道は1884年に開業して以来、主に急勾配の区間で運行している。ケーブルカーは1929年から運行。ヘスラッハからシュトゥットガルト森林墓地までを結び、最近はハイキングをする目的で利用する人も増えている。ほぼオリジナルの状態を保っており、ノスタルジックな雰囲気が魅力だ。
www.ssb-ag.de
エスリンゲンで歴史的建築を堪能
シュトゥットガルトの南東に位置するエスリンゲンは、ドイツ最高の木骨造りの家並みを堪能できる街。幸いにも第二次世界大戦による大規模な爆撃を逃れたため、街中に1000年以上前の歴史ある建物が多く残っている。シュトゥットガルト市内から電車で約12〜15分、車で約20分とアクセスも◎。旧市街にある15世紀の旧市庁舎と18世紀の新市庁舎、ドイツ最古のドミニコ会修道院の聖パウロ大聖堂は必見。
www.esslingen-info.com
地元産ワインを思いっきり味わおう
ワインの名産地でもあるシュトゥットガルトでは、ワイン畑やワイン醸造所の見学、ワイン醸造博物館など、さまざまな形でワインを楽しむことができる。さらに毎年8月下旬〜9月上旬にはワインフェスティバル「StuttgarterWeindorf」が開催。街の中心部に30以上のワインスタンドやフードスタンドが立ち並び、500種類以上のバーデン=ヴュルテンベルク産のワインを堪能できる。今年の開催は8月30日(水)〜9月10日(日)。
www.stuttgarter-weindorf.de