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Sun, 24 November 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第12回 「ブラック・スワン」

5 May 2011 vol.1299

ブラック・スワン ナタリー・ポートマンの演技力が光った
「ブラック・スワン」

アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞など、数々の映画賞を獲得した主演のナタリー・ポートマンが話題の映画、「ブラック・スワン」。簡単に内容を説明すると、有名なバレエ「白鳥の湖」をモチーフにした作品です。  

主人公ニナは、白鳥にふさわしい可憐なバレリーナ。しかし主役の座を射止めるには、魔性に染まった「黒鳥」にもなりきらなければならない。バレリーナの試練と孤独、ライバルへの嫉妬や憧れを、極限レベルまで追求した心理劇となっています。  

私たちバレエ・ダンサーから言わせていただければ、バレエ映画というよりは、ホラーに近いスリラー映画とでも言いましょうか。鑑賞したダンサーたちの中には、「バレエに対して、間違ったメッセージを観客に与えている」と、怒っている人たちもいました。  

たしかにバレエの世界を大袈裟に描いた場面が数々(かなり……)ありますが、なかなかいい線をついていると思われる場面もあり、私個人としては、これがバレエにあまりなじみのない方々が想像されるバレエの世界だと思うと、興味深く観られました。  

この作品を映画館で鑑賞していた私は、映画の中に出てくるバレエ・シーンで、「これはナタリー・ポートマンが踊っているはずがない」と思われる箇所がいくつかあるのに気付きました。そこで映画の最後に出てくるキャスティングに目を凝らしていますと、何とアメリカン・バレエ・シアターに所属している、友人のサラの名前がナタリー・ポートマンのボディ・ダブル(何らかの事情で役者が演じられない部分を代わりに行う人物)で出ているではないですか!

ちょうどこの映画を鑑賞した翌週に、ロンドンへ公演に来た彼女に尋ねてみると、全身が映っているバレエ・シーンの多くは彼女で、顔だけコンピューターで付け替えたということが判明しました。  

現在、この問題がハリウッドではスキャンダルになっていますが、上半身は誤魔化せても、下半身はプロのダンサーが見れば、素人かプロかは一目瞭然です。実際、何パーセントの割合で彼女の踊りが使われているかは、私も一度観ただけでは分かりませんが、きちんとトウ・シューズで立って踊っている場面は、すべてサラのもののはずです。  

でもだからと言って、ナタリー・ポートマンのオスカー受賞が左右されることはなかったはずだと思います。なぜなら彼女が素晴らしい女優だということは、この映画で、踊り抜きでも証明されていますから。

私からすれば、友人のサラが気の毒で仕方ありません。自分が踊ったと主張したことで、嘘つきと呼ばれたり、自分が有名になりたかったからだと中傷されたり……。この件に関しては、映画の製作側がきちんと説明すべきだと思います。1年で女優からプロのバレリーナになることは当然無理。トウ・シューズを履いてきちんと踊れるようになるまでは何年も掛かるということを、サラは言いたかっただけなのに……。  

今はサラのキャリアに傷が付かないことを祈るだけです。がんばれサラ!

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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