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Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第21回 バレエ・ダンサー VS 指揮者!?

9 February 2012 vol.1338

バレエ・ダンサー 小林ひかる
ロイヤル・バレエ団のピアニストと
一緒に楽譜のチェック

バレエ公演の鑑賞で、目に入ってくるものがバレエ・ダンサー、耳に入ってくるのは音楽。その2つがうまく調和しているかどうかによって、舞台の出来も変わってきます。ロイヤル・オペラ・ハウスで行われる公演は、毎回、生のオーケストラを使っていますが、外部で行われるガラ公演に出演する際は、録音された音楽を使うことが度々あります。

録音された音楽を使う長所は、音のタイミング、またはどのようなテンポやアクセントが次にくるかが分かっている点。短所は、生演奏と比べ迫力に欠ける、感動が少ないといったところでしょうか。 録音された音楽を使うと言いましても、市販のCDを購入して使うため、それぞれの指揮者の方の表現方法に沿った形で録音されたものを利用することになります。バレエのDVDで聴く音楽と市販のCDを聴き比べていただくとお分かりになると思いますが、CDの場合、その多くが全く踊れるテンポではないのに驚きます。大半はテンポが速すぎるのですが、たまに遅すぎたり、音と音の間隔が長過ぎたりしますので、踊るためにCDを調整しなければなりません。

今は一つの曲の中で、遅くしたい何小節かだけを遅くすることができたり、音と音の間を伸ばしてみたりなどの複雑な調整も可能になってきましたが(現代のテクノロジーに感謝)、そこまで調整するのはかなり手間ひまが掛かるため、結局ダンサーの方が折れて、ステップを変えてみたり、削ったりしなければならなくなります。

例えば、バレエ音楽で有名なチャイコフスキーの3大バレエ 「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」——どれも今まで踊れるテンポで録音されたCDに出会ったことがありません。
バレエ音楽なのに踊ることが不可能?
振付家が音に合わせて作らなかったの?
昔のダンサーは超速に踊れたの?
と、色々な疑問が出てきます。

一方、生演奏の場合はそのような苦労はないように思われそうですが、そうでもないのです。問題は、指揮者の方とどれだけ表現したいことが分かり合えるか。意見が合わないとき程、つらいものはありません。

「ここの小節を髪一本ぐらいゆっくり指揮してほしい」とリクエストを出すとします。ある指揮者の方は「ここは遅くできない。楽譜にはそう書いていないし、音楽の迫力がなくなってしまう」と言われます。そうこられるとこちらは、「でもこのテンポだと音楽にステップが入りきらないし、音楽についていくのが精一杯で、踊れない」と主張しますが、「……」と答えが返ってこないときもあります。もちろん、快く承諾してくださる指揮者の方もいます。

ダンサーも気を付けなければならないのは、必要以上に音楽を遅くしないということ。踊りやすいからといって遅くしすぎると、本来の音楽の迫力が失われてしまい、つまらなくなってしまいます。難しいところです。

バレエの公演は料理の世界で言うと、ダンサーがシェフで指揮者の方がスー・シェフという関係ではないでしょうか。一つのレストランにシェフが2人いると困るのに似ています。お互いに分かり合って仕事ができるのに越したことはありませんが……。

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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