どうしてパパは刑務所に入らなければならないの?なんでお家に帰ってこられないの?パパと一緒にいられないのだったら、僕がここに残るよ──。ザクセン州ライプツィヒ刑務所の面会室。子どもは面会時間が終わっても、なかなか帰りたがらない。こんな時、親はなんて答えたら、どう対応したらいいのだろうか。そんな悩みを抱える受刑者7人が集まり、自分の息子、娘に送る絵本を描いた。塀の中にいるパパでも、愛して欲しいという願いを込めて。
絵本製作に参加したKさん(39)は、暴行罪で服役中。入所前は修理工として働いており「ここ20年、文字なんて書いたことがない」という男性だ。しかもKさんはトルコ出身。母国語ではないドイツ語で何かを書くという作業は普通ならお手上げといったところだが、それでも所内の掲示板を見て、すぐさまこの企画への応募を決意した。
物語の主人公は、アレッサちゃん。幼稚園から戻ると、パパとママの様子がなんだか変。パパは大きなかばんを背負い、ママは悲しそうに「パパは刑務所にいかなくちゃいけないの」と伝える、という筋書きになっている。
絵本製作を思い付いたのは、同刑務所で心理学者として働くボルヒャートさん(29)だった。親との面会のために、刑務所に来る子どもが多いことに気付いたのがきっかけになったという。ボルヒャートさん自身の5歳になる娘も、幼稚園で友達と一緒に描いた絵を提供、こうして絵本「夢で会おうね──刑務所にいるパパの物語(Wir treffen uns im Traum - Eine Geschichte über Papa im Gefängnis)」 が完成した。
この絵本の初版は300部で、ザクセン州にある刑務所10カ所の面会室に置かれている。今後はさらに増版し、ほかの州の刑務所や児童福祉局、そしていずれは本屋にも並べることができれば、とボルヒャートさん。また何よりも本の製作を通して、囚人たちの心に落ち着きが見られるようになったことが嬉しい、との言葉を寄せている。
受刑者が絵本を描くという独自の試みは、確実に実を結んでいるようだ。
「Der Spiegel」誌
"Dein Papa muss ins Gefängnis"