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Nr. 8 職人さんに修理を頼む

仲良く付き合うドイツの貸家に住んだことのある方なら、賃貸契約書にも書いてあるのでご存知のことと思いますが、「家の手入れ」はドイツ語圏では非常に重視されている事項です。

改修の手順や条件が微細に決められている分、家屋のメンテナンス状態がよいのはいいことですが、ちょっとしたことであっても必ず業者を呼ぶことになり、実際に修繕を頼んだ時に、カルチャーショックを受ける方も多いと思います。「誇り高きドイツ職人」は、グローバル化した近代的サービス社会とは別世界に身を置いていることが多く、彼らとの付き合い方は、普通のドイツ人でもコツをつかむまでは年季を要するようです。なので相手が無愛想だったり、サービスの感覚が違っても、異次元にワープしたつもりになって、あまり気にしないように。

ですが、あとで面倒なことにならないよう、知っていると便利な「コツ」はいくつかありますので、その中の何点かを取り上げてみます。もちろん、法律的なことではなく、一主婦としての体験に基づく話ですので、多少の主観や偏見はお許し下さい。

まずは業者の選び方ですが、当然ベストは口コミか知人の紹介。ですが、よほどささいな修繕でない限りは、必ず他にも1、2軒にあたってみて、相見積もりを出してもらう べきです。

電灯の取り付けなど、数分しかかからず、内容がはっきりしているなら、時給はいくらで総額はどの程度になるのかを口頭で確認するだけで、その場で発注することもできますが、それ以外の場合、最初に入れた電話では、大雑把に事情を説明し、出来るだけ早く誰かに見積もりに来てほしい、と頼みます。もちろん、お店に電話をかけたつもりが、電話番をしているおかみさんが登場し、背後で子どもの泣き声がしながら「本人が夕方帰ってから折り返します」など言われることもあります。得てして大きな会社の方が信頼できるような先入観があるかもしれませんが、このような30歳代の「駆け出しマイスター」がじきじきに奔走している小さな会社のほうが、お客を大事にしようという意欲があるケースも多く、家に呼んで意見を聞いてみる価値は十分あると思います。

見積もりにきてもらえば、相手がどの程度約束を守る会社なのか(時間にルーズな会社は全く珍しくありませんので、ポイントは自分の許容範囲内か否か)など、相手の信 頼性を判断する上でのヒントが得られます。

客は、頼みたい作業を具体的に説明し、口頭でおおよその算出ベースを教えてもらいます。ここで言葉を濁すような相手はもちろん要注意。材料費、実際の所要時間ベースで事後清算する作業量、一人当たりの時給、というように、その会社の具体的な清算基準を教えてもらいましょう。ものすごくお得な料金を提示してくれた場合は、紙に書いておいてもらえば、あとで証拠になります。もちろん、教えてくれた料金が、19%の付加価値税も含んだ金額であるのかどうか(Ist das Brutto?)と聞くこともお忘れなく。話を聞いたあとで、見積書(Kostenvoranschlag)を送って下さい、と頼むかどうかは依頼主の判断次第です。

この段階で初心者がよくやる失敗は、せっかく見積もりにきてもらったのに納得できるまで相手に質問をしないこと。細かく聞くのはケチなように思われて恥ずかしいとか、無知が露呈してなめられるのではないか、などと変に遠慮して疑問を残したまま発注すると、「金に糸目をつけないお客」との印象を与えてしまう危険性があります。取引先として職人さんと対等に渡り合おうと思ったら、彼らの世界では釘の一本までも見落とさず、無駄にせず、しっかりと勘定する人を重んじる気風があるということを知っておくべきでしょう。

発注先が決まれば、工事の日程を設定することになりますが、事前に大体の所要時間を聞いておき、工事中は誰かが家にいるようにするのがベスト。請求書には人件費が大きく反映されますから、不要な人員に気づいたら遠慮なく指摘しましょう(1人1時間あたり60ユーロを超えることも珍しくありません。もちろん、彼らの手取りはその3分の1程度だそうですが)。

一般的な労働パターンは、朝の8時前後に仕事を始め、午前中に小休憩が入り、約1時間昼休みが入って、午後の4時前後に終わる、というものです。ただし自営業者であるマイスター自身には労働時間制限はないので、遅くまで残って仕事をしてくれることもあります。作業が終わったら、いよいよ発注者が仕上がりを承認することになります。これがAbnahme(作業仕上がりの承認)と呼ばれる手続きです。

うまく仕事ができているかどうか、しっかりその場で確認し、疑問点があれば、その場で指摘します。作業終了後、たいていの場合は、何人で何時間、何をした、ということを明記させる確認書にサインを求められますので、そこでも書かれていることに間違いがないかどうか、チェックする必要があります。

何か不満があっても、サインやお金を払ってしまったあとでは、なかなか取り返しがつかないという点をお忘れなく。疑問や不満が残る場合は「Das (Diese Arbeit) kann ich so nicht abnehmen」(この仕事では認められない)といって支払いを拒絶し、マイスターを呼び出し、直接事情説明を求め、やり直させるか、割引交渉をする必要が出てきます。Abnahmeや事後交渉は当日でなくてもかまいません。発注者がカップルであるような場合は、下見や発注は、作業中家を空けることになる方が依頼主となって動き、あらかじめDie Abnahme kann ich erst am Abend(あるいはnaechsten morgen)machenと断っておいて、作業を行った日の夕方や翌日の早朝など、サラリーマンの都合に合わせた時間帯にマイスターに出直してきてもらうことも、ごく一般的に行われています。事前にこの点をはっきりさせておけば、「留守中に作業が終了し、仕上がりも承認された」といったことが一方的に主張され、文句がいえなくなる事態 が回避できるだけでなく、作業終了後、仕上がりを2人で 存分にチェックする時間も稼げるので、お勧めです。

  ひとことDiese Arbeit kann ich so nicht abnehmen.
このような仕上がりでは(納得いかないので)、完了したとはみなせません。
 
 
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古川まり 東京生まれ。1979年よりドイツ在住、翻訳者、ライター。主な訳書に、アネッテ・カーン著「赤ちゃんがすやすやネンネする魔法の習慣」など。ドイツ公営ラジオ放送局SWRにてエッセイを発表
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