Nr.7 ドイツ人は早寝早起き?(2)
出勤や登校のギリギリまで寝ている私のような平均的日本人には、前回紹介したドイツ人の平均起床時間6時23分は驚くほど早起きに思えます。しかしこの印象は本当なのでしょうか。
そこで、少し古い数字ですが、日本で2005年に行われた「国民生活時間調査」(NHK放送文化研究所)を見てみました。15分刻みで、何パーセントの国民が起きているか、またすでに寝ているかを調べたものですが、それによると、6時30分には半数が起きていて、23時にはやはり半数が寝ています。平均的ドイツ人と比べ、起床時間、就寝時間ともに数分しか違いません。どうやら、日本の平均を知らずに、「日本ではこう」と思い込んでいたようです。
そうは言っても、こうした数字について考える際は、ちょっと気をつけたほうが良さそうです。平均的なドイツ人の起床時間は分かっても、どこに平均的な人がいるのでしょう。意地悪に言えば、半数が6時に起きて、残り全員が7時に起きたとすれば、6時半に起きる人はゼロでも平均起床時間は6時半になってしまいます。
私たちは、外国で暮らしていると、何事も無意識のうちに自分の属する社会と比較します。そうすることで、現地の習慣や考え方に自分を合わせ、同時に自分を守ろうとするのでしょう。よほど嫌なことでなければ、新たな発見をするのは楽しいものです。ただ、比較するもう一方の自分のことは意外に知らないと思っておいたほうが良さそうです。
起床時間の場合もそうですが、私たちは自分の家族など身近な人の習慣しか知りません。同じ日本でも、地方の田園地帯と大都市では時間の意識も生活感覚も違い、同じ地域であっても世代による違いもあります。それなのに、日本とドイツのような異なった社会を比較するとなると、自分の知っている範囲を無意識に「平均的な日本」と思ってしまい、それとドイツ体験とを比べがちです。初めてドイツに留学した時、親しくなったアメリカ人学生と夏休みにニューヨークを訪れたところ、アメリカ中部出身の我が友人は初めてニューヨークを見て、「ここはアメリカじゃない」と首を振っていたのを思い出します。
外国に暮らすと「視野が広がる」と言われます。確かに多くの発見がありますが、おそらくは視野が広がるというよりも、自分の属する社会を意識的に見るようになり、また意外にそれを知らないことに気づくのではないでしょうか。異文化の体験で得られる最大の収穫は、このように自分を「相対化」することだと思います。